韓国ドラマから美しい言葉を学ぼう

韓国ドラマのあらすじや詳細日本語訳を紹介!セリフを題材にした文法解説も

夜警日誌あらすじ&日本語訳9話vol.1

   

チョン・イル、チョン・ユンホ(東方神起ユノ/ユンホ)出演、「夜警日誌」9話前半、ドラマのあらすじを掴みながら、台詞を丁寧に日本語に翻訳していきますね。

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柱の陰から出てきたサンホンは、いきなりリンの肩を掴んだ。

サンホン「!」
リン「!」

「おじさん?」サンホンの只ならぬ様子に、トハが戸惑って声を掛けた。

※適当な言葉がなくて「おじさん」にしましたが、トハがサンホンを呼ぶ「어르신」は尊敬の意味を含んでいます。現代でもかなり年上の男性に対して普通に使われます。ちなみに、女将オンメがサンホンを呼ぶ「나리」は堂下官(従三品以下の官吏)に対する呼称。

リン「どうかなさったか?」
サンホン「…すまない」
リン「?」
サンホン「人違いです」

怪訝な表情のまま、リンはサンホンの前を後にする。
トハもペコリとお辞儀をすると、リンに続いた。

「…。」二人の後ろ姿が遠ざかると、サンホンは柱に寄り掛かる。
急に全身の力が抜け落ちたようだった。

一部始終をそっと窺っていたムソクは、サンホンの様子が気になり、じっと彼を見つめた。

ムソク「…。」

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宿はひっそりとしており、サンホンとサゴン、そして番頭のチャン氏がのんびりと酒を飲み交わしていた。

チャン氏「世間があんまり恐々としてるもんだから、お客もいない。お客もいないよ!」

チャン氏が笑い、二人に酒を勧める。

「なぁ、君」チャン氏はサンホンを指さした。

サンホン「?」
チャン氏「何でそう無口なんだ?」
サンホン「…。」
チャン氏「初めて会った時も、あんまり無口なもんだから、口がきけないのかと思ったぞ」
サゴン「その通りですよ。話しかけたって一日中何も言わないんですから」

サンホンが俯いたまま楽しそうに微笑む。

チャン氏「本当に慎み深い男だ」
サンホン「?」
チャン氏「そんな大きな傷を負っても、悲鳴一つ上げないんだから」
サンホン「…。」

~~~~

気の触れた先代王が引き起こした惨劇は、パク・スジョンの指示により直ちに闇に葬られた。
秘蔵庫を始め、先王の痕跡を徹底的に消すため、多くの人手が駆り出される。

その多くの人々の中に、チャン氏がいた。
大きな石の隙間を覗いた彼は、その下に人が倒れているのに腰を抜かしそうになる。

サンホンだ。

チャン氏「すいません!こ、ここに!」

指揮官を呼ぼうとしたチャン氏を、誰かが止める。
それがサゴンだった。

サゴン「どうか助けてください!」
チャン氏「?」
サゴン「一度きりですから!」

二人は周りに気付かれぬよう、サンホンの体を荷車に乗せると、その上にムシロを敷いて隠し、足早にそこを抜けだした。

~~~~

チャン氏「そのときはもう心臓も止まっていたし、息もしていなかった。だから俺は死んじまったものとばかり思ってたんだ」

サゴンが頷く。
「…。」サンホンは視線を泳がせると、動揺を隠すように一気に酒を流し込んだ。

~~~~

サンホンはこの12年、ある場面に囚われていた。

小さな舟で川を渡っている自分を、黒い装束の男が見下ろしている。

男「もう少し先へ進めば、この世との縁が切れることになります」

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男はサンホンの顔に手を伸ばす。
その手は彼の顔に触れることなく、空を切った。

「?」男は不思議そうに自分の手を見つめる。

男「心残りや後悔、不安… なぜいかなる感情も貴殿から滲み出ないのです?」
サンホン「…。」
男「人間ではない、鬼神という別の存在になるというのに、怖くないのですか?」

虚ろな目でじっと黙っていたサンホンが口を開く。

サンホン「これまで鬼神を追い、彼らを弔って生きて来た。鬼神と共にした月日が長いからか、自分が人間だったという実感が湧かない… それだけです」

黙って見つめる男の前で、サンホンは微かな笑みまで浮かべた。

男「貴殿はこのままあの世へ行くことは出来ません」
サンホン「?」
男「もう一度機会を与えましょう。今後は人間として、人間らしく生きるのです」
サンホン「?!」
男「鬼神に気を奪われることなく、ひたすら人間のことに関心を向けねばなりません」

「お分かりですね?」男は問うた。

男「万が一、また鬼神を追うようなことになれば、そのときは…」

男はサンホンの前に手をかざす。
その瞬間、サンホンは突然の激痛に胸を押さえた。「!!!」

男「そのときは死を避けられないでしょう」

男… あの世への案内人はサンホンに背を向け、舟の向かう先を眺めた。

男「魂さえ散り散りとなる… 絶対的な死です」

~~~~

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リンは悪夢にうなされていた。
「殺してやる!!!」優しかった父が刀を振り上げ、鬼の形相で襲い掛かってくる。
振り下ろした父の刀を、突然割って入った誰かが止めた。

リン「!」

不意にリンは布団の上で目を開ける。
「…。」彼は起き上がると、夢の中に蘇った場面をもう一度辿った。

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リン「何だったんだ?」

リンがそっと部屋を出て行くと、隣にいたムソクが目を開け、起き上がった。

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男たちが妙に憤慨した様子で夜道を急いでいた。

男「今夜こそあいつをコテンパンにしてやる!行くぞ!」

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2階から外階段へつながる扉を開けると、リンはそこで夜風に当たった。
深いため息をつき、何気なく階下の風景を見渡すと、彼はふと視線を止める。

リン「?」

夜警師の服装をした霊が、向こうにじっと立っていたのだ。
霊の視線の先を辿ると、裏庭の縁台に座っているサンホンの後ろ姿が見える。

リン「…。」

「見つけたぞ!」そこへ突然駆け込んできた男たちは、木刀を手に、サンホンの背中めがけて突進した。

#思い出した。チョヒにちょっかいを出してサンホンにやられた客ですね。

リン「危ない!!!」

男の一撃を食らう寸前で立ち上がったサンホンは、次々と襲いかかる5人の男たちに応戦する。
思わず階段を下りてきたリンの前で、男たちはあっという間にバタバタと倒れた。
最後に立ち上がった男を、リンが後ろから捕まえ、一発見舞う。

男「これで終わったと思うなよ!」

男たちはあっさり退散した。

サンホン「…。」
リン「(笑)礼には及びませんよ」
サンホン「今後は人のことにむやみに首を突っ込まないでください」
リン「!」

サンホンは何事もなかったように歩き出した。
「勝手に体が動いただけだ!」弁明するリンの前で、容赦なく扉が閉じる。「ちょ、ちょっと!」

物陰にいたムソクは、宿へ戻っていくサンホンの姿を目で追った。
「…。」男5人をあっさり片付けたあの男… 一体何者だろうか。

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宿の1階の入り口から戻ってきたリンは、さっき男を殴った腕の痛みに顔を歪ませた。

「?」ふと見ると、そこにいたのはトハだ。
彼女は卓に突っ伏して眠っていた。
無邪気な寝顔に、リンは思わず顔をほころばせると、彼女の向かいの席に腰を下ろす。

リン「…。」

トハを見つめるリンの表情は、どこまでも穏やかだった。
手を伸ばす、顔を覆っている前髪をそっとかき分ける。
まるで子どものような寝顔を、リンは覗き込んだ。

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「何をなさっているのですか?」不意に聞こえてきた声に、リンはハッと身を起こす。「!」
振り返ると、いつの間にかそこにいたムソクが、怖い顔で見下ろしていた。

リン「あ、いや、まぁ…」

「?」人の声に目を覚ましたトハが、顔を上げて二人を見比べる。「何?どうしたの?」

リン「女がこんなところで寝てどうする?」
トハ「ふふっ。お姉さん(女将)の寝言がうるさくて」

「ここの方が楽」トハは再び幸せそうに卓に突っ伏す。

リン「ついて来い!」
トハ「?」
ムソク「…。」

部屋へ上がって行くリンに、トハも仕方なく続いた。

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部屋の扉を開けると、リンはトハを中へ押し込める。

トハ「何?」
リン「ここで寝ろ」
トハ「あんたは?」
リン「寝場所はある。心配せずにぐっすり寝るんだ」
トハ「…。」
リン「いいな?」

トハはポカンと口を開けたまま、うんうんと頷く。
リンは満足気に微笑むと、部屋を後にした。

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リンが部屋の外へ出てくると、扉の前で聞き耳を立てていたムソクが飛び退く。

ムソク「!」
リン「心配することはない。寝場所がなくなったと思ったのか?」
ムソク「…。」
リン「怖い顔するなよ」

「行こう」リンは自信たっぷりに階段を下りる。

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いきなり扉を開けて部屋を覗き込むと、リンは品定めするように頷いた。「ふ~む」

サンホン「?」

後ろにいるムソクに手招きをすると、彼は部屋にいたサンホンに構うことなく、中へ入る。

そこはサンホンの部屋だ。

部屋の中にはわずかな荷物と畳んだ布団、そして奥の台の上には彼が作った刃物などの道具がずらりと並んでいた。

サンホン「何の用です?」

遠慮なく布団にもたれて寛ぐリンに、サンホンが目を丸くして尋ねた。

リン「さっき助けたのは、これでチャラにしよう」
サンホン「(キョトーン)」

「何してる?横になれよ」リンはそう言って、入り口で突っ立っているムソクにも勧める。「楽に休むといい」

ムソク「人の世話になるのに、楽に出来るわけがないでしょう」
リン「そんなに神経質だったのか?」
ムソク「…。」

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サンホンは廊下側の壁に移動していた。

サンホン「…。」

部屋の奥で眠っているのはムソクだ。
無事眠った様子のムソクに小さく微笑むと、リンは向かい側にいるサンホンに口を開いた。

リン「武官の出身ですか?素晴らしい戦いぶりでしたが…」
サンホン「ただの賤しい鍛冶屋です」
リン「…。」

リンは『夜警軍日誌』のことを思い浮かべた。
「それなら…」リンはそっと身を起こし、慎重に切り出す。

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リン「四寅斬邪剣の作り方も?」
サンホン「!」

背を向けていたムソクが、ひそかに目を開ける。
サンホンの目が鋭くなった。

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サンホン「なぜ四寅斬邪剣のことを訊くんです?」

リンは再び壁にもたれかかると、思い巡らせるように腕を組む。

リン「その剣さえあれば、どんな災いも邪悪な気も全て封じることが出来る… そう聞いたんです」

サンホンは思わず笑った。「そんな剣はどこにもありません」
「そうだろうな」リンは静かに頷く。

リン「でも… そんな剣があればいいのに」
サンホン「?」
リン「これ以上、不運も災いも起きないように… その剣で全て封じられればいいものを」
サンホン「なぜそんなことを?」
リン「別に…。守ってやりたい人が出来ただけです」

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「…。」じっと耳を傾けていたムソクの視線が動いた。

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部屋の明かりは消え、窓から月明かりが差し込んでいた。
ムソクと兄弟のように肩を並べて眠るリンを、サンホンはまだそこに座ったまま、じっと見つめていた。

彼は脇に畳んであった掛け布団を手に取ると、二人を覆うように掛けてやる。

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サンホン「…。」

サンホンはそっと部屋を出た。

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庭に出てきたサンホンは、気配を感じ、振り返る。
そこには自分を悲しげに見つめている夜警師の霊がいた。

サンホン「…。」
霊「…。」
サンホン「そんなに見つめて… 私にどうしろと言うのだ?…どうしろと?」

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軍器寺の別提がひそかに領相を訪ねていた。

別提「月光大君が私の正体を突き止め、軍器寺までやって来ました」
領相「何と!面倒を起こしおって」
別提「申し訳ありません」
領相「今すぐ都を脱出するのだ。私が呼び寄せるまで、都に近づくでないぞ。よいな?」

「はい」頷いた男は、躊躇した様子で口を開く。「ですが、隠れているには…」
領相は渋い表情で収納箱に手をいれると、一握りの金を出す。「さっさと行くのだ」
別提は金を掴むと、領相の前を後にした。

領相「…。」

別提が出て行くと、また違う男が部屋へ入ってくる。

領相「始末せよ」

男は黙って頷いた。

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屋敷を出て、別提は夜道を急いでいた。
妙な気配に気づいたときにはすでに遅し。
叫ぶまもなく男に刺されると、別提はあっさり命を落とした。

別提の体から魂がふわりと抜け出す。
霊は倒れている自分の死体を振り返り、絶望に叫んだ。

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サダムは陰鬱とした夜の粛清門を眺めた。
両手を広げ、呪文を唱えると、邪悪な気を放つ。

# ひばやふー!

増大した黒い気は、勢い良く門を飛び出すと、手当たりしだいに人に乗り移った。

貧しいながらも妻思いの男に乗り移ると、いきなり豹変して妻を刺す。
借金苦の男に乗り移ると、貸主を後ろから襲わせる。

死んだ人間たちの魂を、ホジョが粛々と瓢箪の中へ吸い込んで回っていた。

その様子をそっと窺っていたのは、ソン内官たち3人衆だ。

ソン内官「何てこと…」
左相「都はどうなってんだ?」
ソン内官「そうですよね。あの人に捕まったら、散々な目に遭いそう。気をつけなきゃ」
ランイ「…。」
ソン内官「下手に大君様に会いに出掛けたら、私たちが死んでしまうところだった」
ランイ「そうだね、何だか嫌な予感。不吉だよ!」

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ホジョは昭格署の祠堂へ戻ってくると、殺された人間の魂をたっぷり吸い込んだ瓢箪を祭壇に捧げ、棚へ移す。
棚にはすでに多くの瓢箪が並んでいた。

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もともといたトハの部屋へもどると、リンは探しものをしていた。
布団の下を覗き込み、首を傾げる。「ここに置いたんじゃなかったか?」

そこへ朝の洗顔を済ませたトハが戻ってくると、二人の間に気まずい空気が流れた。

トハ「よく…寝られた?」
リン「…。」
トハ「お陰で私、よく寝たわ」

「ありがとう」トハはリンに笑い掛ける。

リン「ここに置いてあった本はどこへやった?」
トハ「本?どんな本… 春画集のこと?」
リン「春…、そうだ、春画集はどこへやった?」
トハ「見せてもくれなかったくせに。知らないわよ!」
リン「一人で見るつもりで隠してるんじゃ?」
トハ「!」

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「昨夜、殺人があったらしいよ」食卓を囲んでいると、チャン氏が口を開いた。

サンホン「…。」
チャン氏「殺したり殺されたり、何で最近そう物騒なんだか」
サゴン「決まってるでしょ。みんな生きていくのが苦しいんですよ」

男性陣の話そっちのけで、オンメは黙っているサンホンの横顔を堪能する。

オンメ「私は今ほど生きがいが持てるのは初めてよ♥」
サンホン「…。」

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サゴン「人の心ってやつは妙なもんですね」

「同感」チョヒが後に続いた。

チョヒ「薬一つで感動しちゃうお姉さんみたいに生きたいわ」

そこへトハとリンが2階から降りてくる。

リン「本当に見てないのか?」
トハ「見てないってば」

トハは皆のそばへやって来ると、丁寧に挨拶をする。
「トハも食べなさい」オンメが声を掛けると、トハは厨房へと向かった。

リン「…。」

サンホンは視線を感じ、顔を上げる。
リンはサンホンの後ろをぐるりと回りこむと、隣に腰を下ろし、サンホンの顔をまじまじと見つめた。

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サンホンは呆れたように小さくため息をつくと、席を立ち、鍛冶場へと消えた。

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リンが鍛冶場へ入ってくるのに気づきながらも、サンホンはそのまま手を動かし続けた。
咳払いをすると、リンは口を開く。

リン「私にも良い剣を一つお願いしたい」

「初めから良い剣というのはありません」顔も上げずに、サンホンはそう言った。

リン「?」
サンホン「持つ人間によって、良い剣にもなり、悪い剣にもなるんです」
リン「私が持てば…どのような剣になると?」

サンホンが顔を上げ、リンを振り返った。

サンホン「生かしも殺しも出来ず…」
リン「!」
サンホン「そのせいで多くの人を苦しめる… そんな剣になるでしょう」

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サンホンは淡々と作業に戻る。

リン「言葉が過ぎるな」
サンホン「最初から剣を持たぬことです」
リン「私には剣を持つ資格もないと?」
サンホン「…。」
リン「私のことを何一つ知らないくせに、なぜそんな無礼なことを?!」

語気を強めるリンに、サンホンは再び静かに振り返った。

サンホン「剣の後ろに隠れようとする有閑人…。そのようにしか見えませんが」
リン「!」

リンはそれ以上何も言えず、愕然と後ずさると、そのままサンホンの前を立ち去った。

サンホン「…。」

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リンを半ば追い返した形になり、サンホンは妙に苛立つと、手に持っていた道具を放り出した。
その瞬間、胸に激しい痛みが走り、彼は苦痛に顔を歪める。

サンホン「!!!」

そこへ入れ替わりにオンメが入ってきた。「旦那さん!」

オンメ「どこか痛いんですか?!」

オンメが差し伸べた手を、サンホンは制する。「いや、大丈夫だ」

サンホン「どうしたんです?」
オンメ「あ、そうだわ。旅芸人の一団が来てるらしいんです。一緒に見物に行きましょうよ」
サンホン「… 煩わしいので」
オンメ「…ですよね!煩わしいですよね!私もそうなんですよ。旦那さんはそういうのお好きかもしれないから、ひょっとしたら…って、ひょっとしたらと思って訊いてみたんです。お気になさらずに」

オンメが背を向けると、また入れ替わりに戻ってきたのはリンだ。
彼は妙に憤慨した様子でサンホンに詰め寄る。

リン「どう考えても私のことを誤解しているようだ。私は」

「今ですか?」サンホンは急に顔を上げると、オンメの背中に声を掛けた。

リン「?」

オンメ「何です?」
サンホン「旅芸人の一団が来てるのは」

オンマはチラリとリンの様子を窺い、サンホンに向き直る。「いらっしゃるんですか?」

サンホン「行きましょう」

サンホンは立ち上がると、逃げるようにその場を去った。

リン「…。」

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賑わう市場を歩くオンメは幸せの絶頂だ。
「まぁ素敵!」色とりどりの布に目を輝かせるオンメの後ろを、サンホンはぶらりとついて回り、ひそかにため息をつく。

「わぁ!」美しい布を手に、オンメがサンホンを振り返った。「早くいらしてくださいな」
彼女に近づいたサンホンは、そのまま彼女の前を通り過ぎた。

オンメ「???」

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ムソクはキサン君の元を訪れていた。

キサン君「一つも漏らさず話してみよ」
ムソク「武芸に秀でている者のようです」
キサン君「…。」
ムソク「どう見ても武官出身である可能性が高いかと」
キサン君「ふむ。他に動きはなかったのか?領相に会ったとか」
ムソク「まだそのような動きはありません」
キサン君「そうか…。分かった。もう行ってよいぞ」

「殿下」ムソクが言葉を続けた。

キサン君「?」

ためらったムソクは、落ち着かずに視線を泳がせる。

キサン君「言ってみよ」
ムソク「…。」
キサン君「早く」

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ムソク「昭格署の道流をどうなさるおつもりですか?」
キサン君「…。」
ムソク「殿下のそばに置くのはどう考えても…」
キサン君「私が道流をどうしようと、それをお前に話す義務はない」

「分かったか!」厳しい口調に、ムソクは口をつぐんだ。「はい、殿下」

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大殿を出てきたムソクは、向こうからやって来る人物に気付き、足を止める。
昭格署の道流… サダムだ。

サダムはいつもと変わらず落ち着いた様子で、ムソクに頭を下げた。
通りすぎようとした瞬間、ムソクはサダムを手で制する。

サダム「…。」

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ムソク「殿下に馬鹿げた真似をしたら、私が許さぬ」
サダム「私も副護軍(※ムソクを指す。役職名)と同じ、殿下の忠臣です」
ムソク「…。」
サダム「そんな私が殿下を害するわけがございましょうか」
ムソク「!」

ムソクを厳しく睨み返すと、サダムは先にその場を後にした。

ムソク「…。」

大殿の前へやって来ると、サダムは足を止め、早足で去っていくムソクを振り返った。

サダム「…。」

+-+-+-+

宿の裏庭で、オンメは一人、寂しそうに昼間から酒をすすっていた。
そこへやって来たのはトハだ。

トハ「おじさんと順調だって言ってたのに、どうしてお酒なんか?」
オンメ「順調だけどさ、本当に順調なのかなぁって」

「どういう意味ですか?」トハは酒を注ぎ足してやる。

オンメ「不安でね。顔さえ見ればただただ嬉しいけど、これは夢なんじゃないかって」
トハ「そんな気持ち、私も分かるような気がします」

トハは穏やかに微笑んだ。

トハ「姉がいなくなってから、ずっとそうだったんです」
オンメ「…。」
トハ「そばで笑っていた人も、お喋りしていた相手も、目をぎゅっと瞑って開いたら消えるんじゃないかって、ずっと不安でした」

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「…。」オンメは手に持っていた酒の椀をそっと置いた。

トハ「あの日、火の中でも、あぁ、また私一人残っちゃった… そう思って諦めたのに、目を開けてみたら私の前にいたんです。消えたりせずに… いたんですよ」
オンメ「…。」
トハ「私は一人ぼっちじゃないって、あの日、漢陽へ来て初めて感じました。今この場で、私の目の前に誰かがいる… それだけで、心が安まったんです」

「そうね」オンメはため息混じりにそう言った。「今、私の前にいてくれて最高よ」

オンメ「そうでしょ?」

二人は静かに笑い合った。

+-+-+-+

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壁の内側でトハの話を聞き、すっかり和んでいたムソクは、突然入ってきたトハに狼狽えた。

ムソク「あの…」
トハ「?」

「…。」ムソクは自分の言葉を待つトハの純粋な目に、つい言いよどむ。

ムソク「大君はどちらに?」
トハ「部屋にいるはずです」

トハはニッコリ笑って頭を下げると、あっという間にいなくなった。

ムソク「…。」

+-+-+-+

宿の部屋へ入ってみると、そこには誰もいない。
ふと一枚の紙に目を留めたムソクは、それを拾い上げた。

ムソク「水克火。水は火を克する…?」

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※陰陽五行説にて、水は火に勝るという意味。
五行とは、火、木、水、金、土。それぞれに力関係があり、「木は火を生む」といった良い関係と、「土は水に勝つ」といった相手を制する関係があります。水が火に勝つというのは、その力関係の一つですね。

そこへ入ってきたのはリンだ。

リン「?」
ムソク「大君がお考えになる策は、せいぜいこの程度ですか?」

ムソクはたった今目にした「水克火」の書をリンの目の前に突きつける。

リン「…。」
ムソク「大君がやられた方法と同じ邪教を使い、サダムを攻撃しようと?」

「…。」リンは彼が突き出した紙を乱暴に奪い取る。

リン「君は信じないだろうがな。とにかく、サダムのことを殿下に知らせねばならない」
ムソク「…。」
リン「それが殿下のためであり、民のためでもある」
ムソク「…。」

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「見え透いたことを」ムソクは不意に目をそらす。

リン「何だって?」
ムソク「民を口実になさらないでください」
リン「!」
ムソク「殿下を不安に追い込み、そのお蔭で身分が回復するのを狙っているだけでしょう」
リン「民のためを思ったことはないが、だからと言って口実にしたこともない!」
ムソク「…。」

リンは一歩ムソクに詰め寄る。

リン「もう一度そんなことを言おうものなら…」

「私も」ムソクも引かずに詰め寄った。

ムソク「大君が殿下を脅かす存在になれば、決して許しません」

「もうやめてください!」睨み合う二人に、入ってきたトハの声が飛ぶ。
トハが二人の間に入ると、リンは彼女の視線を避け、黙って顔をそむけた。

トハはムソクへと視線を移す。「都に怨霊が集まっています」

トハ「もっと大きな災いが起きる前に、王様を説得するなりして阻止しなきゃ」
ムソク「やめてください!これ以上邪教のことを口にしないでいただきたい」
トハ「しゃにむに従うより、本当に正しいのかどうか、一度くらい考えてみるべきなんじゃないですか?」
ムソク「私だって!… 殿下がいつも正しいと思っているわけではありません」

視線を逸らすムソクを、リンが静かに見つめた。

ムソク「そばで説得し、正しい方向へと導くのが私の本分。…それに忠実なだけです」

+-+-+-+

庭へ出てきたムソクは苛立ちを隠せずにいた。
見えないもの、信じられないものを相手にする無力感、自分の助言を聞き入れない王へのもどかしさ。
悶々としたものが胸の中でくすぶっていた。

「あぁ、君の言うとおりだ」後ろから現れたリンがそう呟く。

ムソク「…。」
リン「私はこれまで努力などというものはしないで来た。気に入らなければやらないし、辛ければ逃げ出す」
ムソク「…。」
リン「何かを変えようと君のように全力を尽くすこともなければ、そんな必要を感じたこともない」

「だが…」リンの目が鋭くなる。

リン「これからは君のようにやりたい」
ムソク「!」
リン「だから… 力になってくれ」

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リンは柔らかい目でムソクを見た。

ムソク「…。」

229

リンの真摯な表情に、ムソクもまた目を和らげる。
小さく息をつくと、ムソクは了解の返事の代わりに質問した。「どうなさるおつもりですか?」

リン「まずは書簡を殿下に送らなければ」
ムソク「どうやって?大君は朝鮮じゅうに手配書が回っているんです」

リンは頷いた。「それでもなんとかして…」
そのとき、後ろから声が飛んだ。

サンホン「全力で努力し、説得して…」
二人「?」
サンホン「そうしたところで何一つ変わりません」

道具を担ぎ鍛冶場を出てきたサンホンは、二人の後ろで立ち止まった。

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ムソク「盗み聞きしたんですか?」
サンホン「ただ聞こえただけです」

ムソクにそう言うと、サンホンはリンに向き直る。

サンホン「出しゃばらないで、じっとしていることです」

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と、ひたすらイケメンパラダイスなところで一旦区切ります。

リンっていつの間にサダムのこと知ってたっけ?!って、自分の記憶喪失に混乱しましたが、
トハからいろいろ説明されて知ってるんですよね?トハが宮廷で操られたことや、火鬼の一件で。

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