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夜警日誌あらすじ&日本語訳5話vol.1

   

チョン・ユンホ(東方神起ユノ/ユンホ)、チョン・イル主演、「夜警日誌」5話前半、ドラマのあらすじを掴みながら、なるべくたくさんの台詞を日本語に翻訳していきますね。

ではさっそく♪

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「大君媽媽!決して受けてはなりませぬぞ!!!」小舟に揺られるリンに向かって、川岸から大声で手を降っているのは、守護霊3人衆だ。

左相(霊)「昭格署の提調はご辞退なさるのです!」

声が聴こえているのか、いないのか。
リンは彼らにそっぽを向いたまま、ぼんやりと空を見上げている。
その目は実に物憂げだった。

101

#イルくんのお母様自ら織られた布地。何て素敵なんでしょ

ソン内官(霊)「媽媽!風邪でも引かれたらどうなさるんですか?」

女の子の霊、ランイは呆れ顔で二人を見比べた。

ランイ「死んでも忠臣ってわけね。私たちが嫌で川に浮かんでる人を、心配したって仕方ないでしょ」

「…。」リンは目を閉じると、重い溜息をついた。

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水の中から2体、女の霊が顔を出して、小舟の主を覗き込んだ。
退屈を持て余した彼女たちは、目の前にいる若い色男を水の中へ引きずり込もうと云うのだ。

「あ!水霊たちめ!」「その方をどなただと思ってるの!」それを見つけて川岸の3人衆も加わり、リンの周囲はさらに騒がしくなった。

リン「静かな場所もないとは…」

そう呟くと、リンは苛立って怒鳴り声を上げた。「静かにしろ!!!」
がばっと起き上がり、両手に櫂(かい)を取ると、猛烈な勢いで漕ぎ始めた。

リン「…。」

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宮廷の訓練場では、ムソクと一戦交えたキサン君が一息つこうと水を飲んでいた。
ムソクが神妙な表情でやってくると、王の後ろに跪く。

ムソク「命令をお取り下げください」

キサン君はチラリとムソクを振り返ると、ふっと笑った。

キサン君「そんなつもりはない」
ムソク「”忠臣不事二君”(※忠臣は一度仕える主君を決めたら、決して変えたりはしない)といいます。なぜ私に、他の主君に仕えよとおっしゃるのですか」
キサン君「”余を攻撃せよ” そんな命令が出来るのは、朝鮮じゅうにお前しかいない。なぜだか分かるか?」
ムソク「…。」
キサン君「お前の剣が余を傷つけることはないと信じているからだ」
ムソク「殿下!」

キサン君はムソクの前に腰をかがめる。「ムソク…」そう呼び掛ける声には情がこもっていた。

キサン君「価値があると皆が思うことをするのは容易い。だが、皆がつまらないことだと思うこと、それを価値あるものに変えることができれば、そのときこそお前は偉大になる」
ムソク「…。」
キサン君「余は自分の判断が間違っているとは思わない。だから、有閑の大君に仕えるのを価値の無いことだと思わず、価値のあることに変えてみてはどうだ?」

「余のために」キサン君はまっすぐにムソクを見つめた。

ムソク「…。」

091

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門を出てくると、友人のテホがやってきて、ムソクを捕まえた。「本当なのか?」

テホ「君が月光大君の護衛だって」

ムソクはテホの存在さえも無視するように、前を向いたまま歩き続ける。

テホ「護衛といえば聞こえはいいが、監視のためにつけたんじゃないか」
ムソク「…。」
テホ「まぁ、それはいいとして。辺境にも赴くと言っている人間に対して… 殿下は耄碌(もうろく)なさったんじゃないか?」

黙って歩いていたムソクが、いきなりテホの襟首を強く掴んだ。
その力に、テホは声も出せず咽る。

092

ムソク「殿下を侮辱すれば、たとえ君でも許しはせぬ」
テホ「わ、分かった。分かったよ」
ムソク「…。」
テホ「離してくれよ」

ムソクはようやく手を離すと、テホを黙って睨みつけ、彼を置いて足早に歩き去った。
親友とて許せぬほど、ムソクにとって主君は絶対的存在だったのだ。

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リンの寝室では、横になっているリンのそばで、団扇を片手に下男がコックリコックリと居眠りをしていた。
リンが不意に起き上がり、首を傾げる。「何にしようか?」

リン「試験のお題は何にすべきだろう?」

「はぁ、頭が痛い」リンは慣れない悩みに頭を抱える。
隣で団扇を持ったまま居眠りしている下男に、彼は俄に苛立ちを募らせた。

リン「暑いなぁ… 暑い。暑いぞ!!!」

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スリョンは屋敷の塀に大きな梯子を掛けると、動かないように侍女にしっかり支えさせた。
上までのぼると、気をつけて上がってくるようにと、下の侍女に声を掛ける。
顔をのぞかせた侍女は、その高さに目を丸くした。

侍女「お嬢様、私の手をしっかり握っていてくださいね」

侍女の手を握ると、スリョンは迷わず下へ飛び降りる。
軽く泥を払い、何事もなかったように歩き出したスリョンは、ぎくりとして立ち止まった。
父である領相パク・スジョンが正面からやって来るではないか。

スリョン「お、お父様!」
領相「…。」
スリョン「今日は恵民署で奉仕がある日なので」

※民間人のための医療施設。「チャングムの誓い」で、医女になって間もないチャングムも、この恵民署で働いていました。

「それでは、これで」スリョンは誤魔化すように笑い、頭を下げた。

領相「媒婆(※仲人をする女性)に会ってみたか?」

まさに避けたかった部分を突かれ、スリョンはひそかに顔を歪めると、顔を上げて微笑んでみせる。

スリョン「もちろんです。数日のうちに良い知らせをくれるそうですから、お楽しみに」

「待ちなさい」そそくさと逃げようとしたスリョンを、領相が静かに引き止める。

スリョン「私ははっきり申し上げましたよね」
領相「私もはっきり言ったぞ。月光大君は駄目だとな」
スリョン「お父様!」
領相「なぜそう父親の気持ちが分からぬのだ!」
スリョン「それなら、あの時はどうしてそうなさったのです?」
領相「?」
スリョン「キサン君媽媽が王になられた時、なぜ私を中殿にしようとなさったのですか?」
領相「それは!」
スリョン「…。」
領相「状況はいつも同じというわけではない。そのときと今では違うのだ」
スリョン「だけど、お父様、私はいつだって同じです。10数年胸に抱いてきた大君への気持ち、簡単には他の人に移りません」
領相「…。」

スリョンは澄ました顔で頭を下げると、まだ何か言いたげな父の前を早々に立ち去った。

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恵民署では、怪我や体の不調で訪れた人々に、医員や医女たちがテキパキと処置にあたっていた。
彼らに混じり、スリョンも怪我をした男性の腕に丁寧に包帯を巻く。

スリョン「数日経てば良くなられますよ」

「えぇ」男性は頭を下げた。

スリョン「しばらくお休みになってくださいね」

093

向こうの布団に横たわっていた男性が、苦しそうな呻き声を上げると、スリョンは驚いて立ち上がった。
男性は頭を両手で押さえている。

スリョン「大丈夫ですか?」
男性「頭が割れそうだ!」

「キム医員!キム医員!」スリョンは医員を呼んだ。「少しだけ我慢なさってください」

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医員の処置により、どうにか男性の容態が落ち着くと、男性の汗を拭うスリョンの顔にも安堵の色が浮かんだ。
そこへそっと扉が開き、リンが入ってくる。
彼はスリョンの姿を見ると、表情を和らげた。

リン「スリョン嬢」

「大君!」スリョンは顔を輝かせ、立ち上がる。

スリョン「どうしてこちらへ?」
リン「夜通し悩んでいたら、頭が痛くてね」

そう言って、リンは悩ましげにこめかみに手を触れた。

リン「薬をくれないか」

#恵民署、建具の色が明るいし、照明もやわらかくて、とてもいいね♪

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奥の部屋でしばらく腰掛けて待っていると、スリョンが薬のお膳を手に入ってくる。

「ありがとう」リンはすぐに薬の器を手に取った。

スリョン「頭が痛いのに薬を飲んでも効かなくて、医師も原因が分からないなんて…」

リンがハッとしたように眉間に皺を寄せた。

スリョン「そうだわ。大君のお悩みって何ですか?」

リンは器を優雅に膳の上に戻す。

リン「薬を飲んだせいかな。頭が軽くなったようだ」

スリョンは思わず笑った。

リン「なぜ笑うんだ?」
スリョン「それ、梅茶なんです。薬じゃなくて」
リン「あぁ!そうだったのか?」

リンは愉しげに机をポンと叩く。

リン「私はそういうところがあるんだ。芍薬が腹痛に効くと聞けば、見ただけで腹痛が飛んでしまうし、咳が出る時は当帰を見るだけですっかり良くなる」
スリョン「(微笑)」
リン「精力に効く鰻さえ見れば、力がぐっと湧いて来るんだ」
スリョン「(ドギマギ)」

戸惑うスリョンにふと目を留めると、リンはゆっくりと身を乗り出した。「どうした?」
スリョンは赤らんだ頬を手でおさえ、困ったように俯く。

二人の静かな時間に… 突然騒々しい声が聞こえてきた。「失礼極まりなくってね、傲慢で切干大根みたいな顔したヤツですよ!」
「!」リンの目がジロリと声の主を探す。

声「切り干し大根はもう食べないわ!」

立ち上がり、扉を開けると、リンは一般の人々が集まっている隣の部屋へと入って行った。

女性患者「ありがとうね。こうやって連れて来てくれなかったら…」

「お礼なんて」声の主、トハが女性の足を熱心に揉みほぐしていた。

リン「お前、何だ?」
トハ「あっ!」

トハはリンを指さし、女性患者を振り返る。「お婆さん、ほら、切干大根ですよ!」

「あんた、いいところで会ったわ」トハは立ち上がり、手のひらを突き出した。

トハ「返してよ、私の腕輪!」
リン「お前、綱常罪(※人守まもるべき道理に背いた罪)って知ってるか?」
トハ「こ、こうじょう?それ何?」
リン「お前のように身分の区別も出来ず、両班(※特権階級を持つ身分)相手に楯突くことだ」
トハ「私の物を持っていった人に、返してくれって言うのが罪って?」

「そうだ!!!」キョトンとするトハに、リンは思わず声を荒らげた。

095

トハ「…。」
リン「返せというのも罪、私の前で顔を伏せないのも罪、全て罪だ。お前は罪の塊だ!」
トハ「そんなの有り得ない!そんなのどうでもいいから、とにかく指輪返して。それさえくれたら黙って帰ってあげる」
リン「証拠は?持って来いよ」
トハ「そんな暇ないってば!今、昭格署の試験だけでめっちゃくちゃ忙しいの。だから、優しく言ってる間に頂戴よ。怒る前にね!」
リン「あぁ、そうか?お前、よく考えねば駄目だぞ。神気もないくせに嘘をついたのがばれたら、その時には…!」

「こうだ」リンは指先で首を斬る動作をしてみせる。
そのとき、不意に静かな声が割って入った。「大君になぜお分かりになるのです?」

「?」リンとトハは揃って振り返った。
いつの間にか、そこにムソクが立っていたのだ。
「あれ?」見覚えのある顔に、トハは驚いてムソクの顔を覗き込んだ。

ムソク「鬼神の見えない大君には、この娘に神気があるのかないのかなど、お分かりにならないでしょう」
リン「…。」

「うん、そうよ!」突然の頼もしい味方登場に、トハは張り切ってリンを指さす。
答えに窮し、リンはぐるりと目を動かした。

スリョン「お兄様、どうしてこちらへ?」

スリョンの問いに、ムソクはリンに視線を戻す。
「任務を与えられ、参りました」そう言って、ムソクはリンに頭を下げた。

リン「任務?」
ムソク「今後、月光大君を護衛することになった、扶護軍カン・ムソクにございます」
リン「護衛?私を?何で?」

#「にんむ?」「ごえい?」「わたしを?」「なんで?」って、どこまでもおとぼけ過ぎる♪
ストーリーがシリアスになっても、このおとぼけ具合は残してほしいよね。

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トハの滞在する宿では、食事に来た客がいちゃつくのを見て、女将が神経をピリピリさせていた。
姪っ子のチョヒが恥も知らずに客をたぶらかそうとするのは、おそらくいつものことだ。
女将がチョヒを叱り飛ばしたところへ、ちょうどトハが帰ってくる。

トハを見ると、チョヒは目を輝かせた。

チョヒ「あら!この綺麗な”お兄さん”はどなた?」
女将「この子ったら!誰彼かまわずみんな”お兄さん”かい?!」

女将がチョヒを奥へ追いやると、するりと妓生の霊が舞い降り、女将とチョヒの後ろをすっとついていった。

トハ「!」

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トハはずいぶん疲れた様子で宿の部屋へ戻った。
部屋の真ん中に座り込むと、怒りに任せて荷物の袋を拳で叩く。

トハ「悪い奴!!!」

袋の中身が全部飛び出すと、トハはすぐに思い直して片付ける。

トハ「駄目よ。あんなヤツのために神気を捨てるわけにいかないわ」

散らばった荷物を拾ううちに、彼女は不意に手を止めた。
「!」幼い頃、里へやって来た先代王が遺していった椿の腕輪が目に入ったのだ。

「中殿がくれたものだ」王の腕にはめたそれを見つけたトハに、王は静かにそう言った。
「私の帰りを待ちわびていることだろう」と…。

先王「リンも、中殿も…」
トハ「王子様はきっとよくなられますよ。王様がこんなに勇敢に守っていらっしゃるんだもの」
先王「…。」
トハ「私にもそんなお父さんがいたらなぁ」

トハの言葉に王は穏やかに微笑み、彼女の頭を優しく撫でたのだった。

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「私を護衛するって?」自室へ帰って来たリンは、よくわからない展開に笑みさえ浮かべていた。
布団の上に上がると、何かを踏んだ痛みに、彼は飛び上がる。

拾ってみると、彼は踏んだのは鈴でできた腕輪だった。
「これだったのか」彼は納得したように笑うと、鈴を鳴らして見る。

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サンホンや今夜も、赤く熱した鉄をひたすら打っていた。
「うちの兄貴は何をしておいでかなぁ」やって来たのはサゴンだ。

サゴン「やれやれ、またやってる。もうそれくらいにして、いい酒があるから、一緒に一杯やりましょう」

「ねぇ」何も答えないサンホンの背中に、サゴンは椅子に腰掛けながら再び声を掛けた。

サゴン「全く… 使いもしない物作ってどうするんだか。来てください。一杯やりましょうって」
サンホン「…。」

まるで耳を失ったように、サンホンはひたすら作業に没頭していた。
サゴンは諦め、酒瓶を咥えて酒を流し込む。

「昭格署を再建するって聞くと…」サゴンが呟くと、サンホンはハッとして手を止めた。

サゴン「…昔のことを思い出しますね」
サンホン「…。」

096

「ちょうど今頃の時分ですよ」サゴンは明るい月を見上げる。

追い詰められた夜警師たちは官軍に囲まれる。
彼らが全滅するまで、あっという間の出来事だった。

「…。」サンホンは、胸の中にいつまでも消えない、物言わぬ部下たちの死体の山を思い浮かべる。
目の淵に涙が光ると、彼は再び鉄を打ち始めた。

「やめようって言ってるんです!」たまりかねたサゴンが立ち上がる。

サゴン「みんながあんなふうに逝ったのは俺たちのせいですか?」
サンホン「…。」
サゴン「自分で自分の命を守れなかっただけだ。だから… 師兄ももういい加減全部忘れて、自分を許しなさいよ、自分を!」

「この傷が」サンホンは胸元に手をやると、襟を合わせ、刀傷を隠した。

サンホン「…完全に消えたら、そのとき… そのときまた考えてみるさ」

サゴンはあまりのもどかしさに地団駄を踏んだ。「何て憐れな人なんだ!」

サンホンが鍛冶場を出ようとすると、ちょうどそこへ女将がやって来る。
「お酒が足りないと思いまして」淑やかに微笑み、俯く女将を前に、サンホンは無言で立ち去った。

後に残ったのは、悔しそうに酒を煽るサゴンだけだ。

+-+-+-+

庭へやって来ると、サンホンは悲しみを振り払うように、刀を振るった。

その様子を、木の陰でそっと見守っているのはサゴンだ。
彼の後ろに、ぬうっと女が顔を覗かせると、サゴンは驚いて腰を抜かした。

「私ですよ、トハ!」サゴンが幽霊だと思ったのは、トハだったのだ。

098

トハ「ビックリなさいました?」
サゴン「ト、トハ?」

サゴンはようやく立ち上がり、振り返って彼女の顔をじっと見つめた。
トハは風呂あがりで、まるで幽霊のように髪が濡れていたのだ。

サゴン「こんな夜中に髪をおろして歩き回るなんて!狂女みたいじゃないか」

「ちびりそうだった」胸を撫で下ろすサゴンに、トハは手に持った手ぬぐいを頭に乗せ、おどけてみせる。

トハ「明日は試験だし、久しぶりにお風呂に入って清めないとね」
サゴン「試験の前日なら、お風呂に入ってないで試験勉強しなきゃ駄目だろう!そんなことじゃ落ちるぞ!」
トハ「ほ、本当に?それじゃ、おじさんはお風呂に入って毎回落ちたんですか?」
サゴン「?!ど、どどどどうして知ってるんだ?!女将に聞いたのか?」

「いっぱい聞きましたよ」トハはサゴンと話しながら宿へと戻っていった。

トハ「落ちたら、おじさんのせいですからね!」

+-+-+-+

サンホンは、自分で作った刀を地面に思い切り突き立てた。

097
渾身の力を込めるも、それは長く続かず、顔を歪ませると、手で胸を押さえる。

それは… 鬼気に取り憑かれた王が、彼の胸を突いたその傷だ。
あのときの痛みが鮮やかに蘇った。

傷口を押さえた指先に… 血が滲んでいた。

+-+-+-+

梅欄房の女主人ヨンウォルは、空に明るく輝く満月を見上げ、ため息をついた。

ヨンウォル「ずいぶん違っていますわ」

サダムがやって来ると、彼女の言葉に耳を傾ける。

ヨンウォル「同じ空なのに、大国と朝鮮ではなぜこう空が違って見えるのでしょう。どこか見慣れた感じがするのです」

100

サダムは彼女の横顔をじっと見つめた。

ヨンウォル「?」
サダム「時が来たようです」

ヨンウォルの目が鋭くなる。

+-+-+-+

朝がやってきた。
出仕の準備を入念に整えると、リンは硬い表情で家を出た。
家の前にはすでにムソクが待っており、主の登場に黙って頭を下げる。

「…。」何も言わずリンが駕籠に乗り込むと、ムソクが先頭に立ち、彼らは出発した。

+-+-+-+

試験場の入り口の前でトハは緊張して立ち止まった。
そこへ、後ろからやってきた男が彼女にぶつかる。

トハ「あっ」

サダムだ。

サダム「…。」
トハ「あ、すみません」

#サダムがぶつかった相手ではなく、おもむろに自分の肩を見る不思議♪

詫びる自分をじっと見つめるサダムの目に戸惑ったものの、トハは気丈に微笑み、試験場へと向かった。
サダムの視線は執拗に彼女の背中へと注がれる。

サダム「…。」

+-+-+-+

「本日の試験を担当なさる昭格署の提調大監様だ」紹介とともに、ムソクを伴ったリンが姿をあらわす。

担当官「一同、礼」

庭に整列した志願者は一斉に頭を下げた。
「あっ!」顔を上げたトハは、壇上のリンに驚いて思わず指をさし、すぐに慌てて手を引っ込めた。
リンもまた、彼女の姿を認め、小さく口角を上げる。

トハを見たムソクは、その隣のサダムに気づき、そこで視線を止めた。
その鋭い目に、彼は確かに見憶えがあったのだ。

リン「殿下が昭格署を再建なさるからには、朝鮮を三淸(※道教で神が住むと言われる場所)のようにし、どの民も飢えることなく、不幸な者のないようにせねばなりません。そのような御心を汲み、最善を尽くしなさい」

「最善を尽くします」全員が声を揃え、再び頭を下げた。

リン「それでは、課題を発表する」

+-+-+-+

昭格署の志願者たちが連れて来られたのは、恵民署だった。
恵民署の庭に設置された簡易な寝台に、患者が横たわっている。

リン「10年もの間、原因の分からぬ頭痛に悩まされているのだ」

志願者たちの視線が、頭をおさえて苦しむ患者に注がれた。

患者「死にそうです。お助け下さいまし!」
リン「心配するな。今日、そなたの病を治療してやるから」

「具合の悪い人をからかってるの?」リンの背中に、トハの声が飛んだ。
リンは厳しい顔で振り返った。

リン「からかっていると思う者は、ここにいる必要もなかろう」
トハ「…。」
リン「今日の課題はまさに、この患者を治療すること」

志願者たちがざわめくと、リンは構わず続けた。

リン「病の原因を明らかにし、治療した者が、昭格署の道吏の資格を得るのだ」

「大監」志願者の一人が声を上げた。

志願者「私共は内医院ではなく、昭格署の試験を受けに来たんですが…」
リン「良い指摘だ。あらゆる薬で治療を図っても、快方に向かう兆しはない。体ではなく、他に問題があるということだ。それを明らかにした者を、道吏の長とする」

「はぁ、全く」トハはそばにいる志願者相手にぼやく。

トハ「いつもとんでもないことばっかり言ってるの。何回か見たけど、頭がおかしいのよ」
志願者「本当かい?」

振り返ったトハはギョッとして立ち止まった。
目の前でリンが彼女を睨んでいたのだ。

リン「とんでもないと思うなら、ここらで諦めるんだな」

愛想笑いを浮かべ、首を横に振るトハに、リンは冷たくそっぽを向いた。

リン「さぁ、始めなさい」

+-+-+-+

正殿では、集まった大臣たちを前に、キサン君が豪快に笑い声をあげていた。

キサン君「昭格署の試験を恵民署でやっていると?月光大君は全くもって素晴らしい忠心の持ち主だ。余をこれほど笑わせる者は他にいない」

渋い顔で黙りこむ領相を、右相が笑う。

右相「昭格署と恵民署の区別も出来ない大君を、領相はなぜ推薦なさったのです?」
領相「他に理由がおありなのでしょう!」
右相「…。」
キサン君「理由があると?それは何だ?」
領相「…。」
キサン君「鷹が爪を隠しているとでも?それとも、そう信じたいのか?領相」

+-+-+-+

朝議を終え、外へ出てきた領相は、屈辱と不安をどうにか抑えた。

領相「…。」

+-+-+-+

恵民署の奥の部屋で、スリョンはリンに茶菓子を出し、お茶を淹れた。

スリョン「ご立派です」
リン「?」
スリョン「私はお父様と考えが違います。今はまだ、大君に注目が集まるべき時ではありません。もう少し力をつけてから頭角を現しても遅くはありませんわ」
リン「スリョン嬢、私のことをずいぶん誤解しているようだが」
スリョン「?」
リン「私はそなたが思っているような人間ではない。今現在、まさにこの姿が私。お分かりか?」

102

「…。」スリョンは何も言えず、悲しそうに目を伏せた。

+-++-+-+

試験場では、担当官が志願者を順番に呼び、試験が行われていた。
サダムとトハは並んで出生を確認される。

担当官「癸戊生まれ、サダム。間違いないか?」

サダムは黙って頭を下げた。

担当者「己亥生まれ、トハ」
トハ「はい!己亥日、乙亥時、トハに間違いありません」

サダムがトハの横顔をじっと見つめる。

担当官「中に患者が一人でいるから、入って看てご覧なさい」
トハ「…。」

+-+-+-+

恵民署の診察室で、患者はまだしきりに頭を押えていた。

入ってきたサダムとトハは、何も言わずに彼を見つめる。

後ろで針のような物を持ち、患者を狙っている女が一人…。
サダムを見ると、ハッと驚いた顔に変わり、煙のように後ろへ飛び退いた。
霊だ。

※サダムとトハは彼女を知りませんが、この霊はリンのよく知っているキム尚宮ですね。

患者「頭が… なぜこうも針で刺すように痛むのか」

顔を上げた患者は、自分の背後をじっと睨んでいるサダムを不思議に思い、後ろを振り帰った。

患者「???今、何を見ているんだい?」

患者の後ろで、女の霊は訴えるような目でサダムたちをみた。

103

トハ「!」

+-+-+-+

ここで一旦区切ります。

シリアスになったり、やっぱりお気楽者だったり。
掴みどころのないリン王子から目が離せません^^

そして、昨夜はサンホン兄のセクシーダイナマイトっぷりに精魂尽き果て(爆)、途中でギブアップして朝から出直しました^^;

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