夜警日誌あらすじ&日本語訳4話vol.1
チョン・ユンホ(東方神起ユノ/ユンホ)、チョン・イル主演、「夜警日誌」4話前半、ドラマのあらすじを掴みながら、なるべくたくさんの台詞を日本語に翻訳していきますね。
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※パク・スジョン、もう右相ではなく、領相(領議政)ですね。会議での座り位置が昔と変わっているのに今気づき、ここで大妃の台詞にもはっきり出てきました。ややこしいですが、ここから領相に変更しますね。前の記事も追々直します。
ちなみに、この領相(領議政)が大臣の最高位となります。
「大妃媽媽」領相パク・スジョンは、大妃が自ら注いだ茶の器を手に取ると、注意深く口を開いた。
領相「殿下の御体が気掛かりです。殿下がお元気でこそ、国も元気でいられますのに」
「美味しいお茶だこと」大妃はそれには答えず、茶器を見つめて微笑んだ。
大妃「領相のお陰でお茶に詳しくなるばかり。困りましたわ」
領相「ははは、大妃媽媽のお望みとあらば、これからもずっとお付き合いいたしましょう」
「私は領相だけが頼りです」大妃はまっすぐに領相を見つめる。
領相「光栄にございます、大妃媽媽」
「ところで」大妃は茶器を卓上に戻す。
大妃「領相宅の息女は今年おいくつです?」
領相「なぜ私の娘を?」
大妃「老い先の短い隠居の身です。そのせいか、伴侶を見つけられずにいる若い子どもたちを見ると、どうにも気掛かりで」
領相「(慌てて)媽媽、私の娘はもう行き遅れです。至らぬ娘ですので、他を探していただきたい」
「だから天の定めなのですよ」大妃が身を乗り出した。
領相「!」
大妃「月光大君、ご存知ではありませんか。領相の息女なら勿体ないほどですわ」
領相「…。」
領相は困惑し、身を縮めた。
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メヒャンにつきまとう男の霊は、リンのことがどうにも気になり、彼の家の前までやって来た。
張り切って中へ入ろうとすると、謎の力で行く手を塞がれる。
「駄目だよ!」そこへ、ソン内官たちの仲間である、女の子の霊が声を掛けた。
女の子(霊)「あれが見えないの?」
門をささえる大きな柱には、霊除けのまじないが張り巡らされていた。
女の子(霊)「この家に下手に入ったら怪我するよ。あちこちに細かい結界が張ってあるんだから」
男(霊)「そうか?それならどうしようかな?」
後ろから現れたソン内官(霊)たちに、男はぎょっとして振り返った。
男(霊)「君たちは何だ?」
左相(霊)「君たちは何だって?そりゃ私の台詞だ。ここは私らの縄張りだぞ。他人の縄張り荒らしちゃ駄目だって知らないのか?」
男「そりゃ知ってるけど、気になってな」
ソン内官(霊)「?」
左相「気になる?何が?」
男「ここに住んでる人、知ってるか?」
女の子「ここに住んでる人って、イ・リン?」
男「名前は知らん」
左相「それがどうした?」
男「あの男、どう見ても… 」
左相「どう見ても… 、何なんだ?もどかしくて死にそうだ!」
「もう死んでるのに、また死んでどうするのさ?」ソン内官がゲラゲラ笑って、左相を叩いた。
男「私が見えるようだ」
左相&ソン「!!!」
「ほらね?見えてるって言ったでしょ?」女の子は得意気に二人の仲間を見上げる。
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「そんなはずありませんよ!」ソン内官(霊が)が思わず声を上げる。
男と別れた3人衆は、大いに困惑していた。
ソン内官(霊)「私が見えたなら、見えないふりをするはずがないでしょう」
左相(霊)「私もそう思うが…」
女の子(霊)「確かめなきゃ」
「確かめるって、どうやって?」左相たちが女の子に顔を寄せた。
女の子「私に妙案があるの」
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「いい天気だし、梅蘭房でもひやかしに行こうか?」いつものように門を出てきたリンは、そこでぎょっとして立ち止まる。
門の前の階段に、3人衆が呑気に腰掛けているではないか。
リンは顔をしかめると、知らぬ顔をして彼らの間をすり抜けた。
女の子(霊)「天女を見たことある?」
「!」リンは思わず立ち止まる。
左相(霊)「(ぎこちなく)て、天女などいるものか」
ソン内官「あらま♪ 天女なら私がよく知ってる!(長い髪を撫で)こうやって沐浴してる場所が… どこだっけなぁ」
#ところでソン内官はいつからおネエになったん?内官だからそれも仕方ないけど
「!」そそられる天女の沐浴話に、リンは耳をそばだてる。
女の子「仁王山、水聲洞の溪谷!きっと今日いらっしゃるよ。天女が下りていらっしゃる時間は…」
そわそわと足早に歩き出すリンの様子に、左相とソン内官は顔を見合わせ、頷いた。
間違いない。リンには自分たちの話が聞こえているのだ。
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「何かいいことがあったようだね」トハたちが滞在する宿で、ある男が女将を見て番頭に囁いた。
番頭「鈍感だな」
男「ん?」
番頭「昨夜、例の鍛冶屋が来たんだよ」
男「鍛冶… なんだ!やっぱりそうか」
男はすっかり気を落とし、早々と退散する。
入れ替わりに、トハが2階から下りてきた。
番頭「もう出るのかい?」
トハ「はい。ぜひ会いたい人がいるんです」
「ちょっと待った!」呼び止められ、トハは不思議そうに振り返った。
トハ「そうか。そりゃ会いに行かなきゃな。それでだ、君は白頭山で育ったから知らないようだが、漢陽ってのはね、とにかく目を開けるだけで鼻を切られるほど危ないところだ」
「まさにそれが漢陽なんだ!」番頭は力説し、ここぞとばかりに、草で編んだ持ち手つきの笊を取り出した。
番頭「これはそれを防止してくれる品だよ」
彼は面をくるりとひっくり返すと、自分の鼻と口を塞いで見せた。「こうやって塞いで歩くんだ」
番頭「”私は鼻なんてないよ”ってね。あははは」
トハ「…。」
番頭「どうだ?役に立ちそうだろう?五分でいいよ」
トハ「白頭山でもご飯を炊いてしてるんですよ。私だって笊くらい持ってます」
こうして番頭は小遣い稼ぎの機会をあっけなく失い、トハは宿を後にした。
※このシーンの諺や習わしについては、@mam_dramaさんに教えていただきました。<ブログ記事>夜警日誌 4話 解説
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3人衆の噂話だけで、リンは本当にたったひとり、山道を歩いていた。
ニヤニヤとひとりでに笑みがこぼれる。
リン「幽霊たちだけが知ってる情報だ。きっと本当だろう」
草を掻き分け、上を見上げると、リンは思わずほくそ笑む。
そこには小さな滝が落ち、綺麗な水が流れ込む絶好の水浴び場があった。
滝壺の小さなくぼみに、女の後ろ姿が見える。
リン「天女が下りてきたんだな」
彼はゆっくりと近づいた。
小さく咳払いをすると、低い声で呼び掛ける。「そこの御方」
反応がなく、リンはもう一度少し大きな声で呼びかけた。
人影「?」
#↑ この時点で、さっきと肩幅がまるで違う(笑)ずっこけるねー
裸の人影がゆっくりと振り返った。
ソン内官だ!!!
驚いて目を丸くするリンに、ソン内官はお色気たっぷりに手を振ってみせた。
慌てて逃げ出したリンを、ソン内官が追いかける。「媽媽!!!」
山の中で、奇妙な追いかけっこが始まった。
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あっという間に町へ駆け戻ったリンは、買い物客でごった返す市場を走る。
人混みをすり抜け、飛び越え…
リンはちょうど向こうから歩いてきたトハとぶつかり、まるで舞うようにもつれ合って倒れた。
くるりと回った拍子に、リンの手首から鈴の腕輪が落ちる。
リン「!」
トハ「!」
リンはすぐに我に返り、トハを押しのけて起き上がった。
起き上がろうとした拍子に鈴の腕輪を掴むと、ちょうどそこへソン内官が追いつき、リンは鈴を持ったまま、慌てて逃げ出す。
「あれ?私の腕輪!」腕輪を探そうとしたトハの体を、リンを追ってきた霊がすり抜ける。
トハは驚いて振り返った。
トハ「何?」
彼女の回りに鈴はなく、代わりにそばに落ちていたのは、小さな木の札だ。
招待牌と書かれた札は、梅蘭房の店主が発行したもので、梅蘭房への出入りを許可する内容が記されている。
彼女は木札を手に、男の後を追った。
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ひとしきり彷徨うと、トハは途方に暮れて立ち止まった。
もう一度木札を凝視してみるも、彼女は文字が読めないのだ。
トハ「はぁ、読めなきゃ仕方ないのに!」
ふと見上げると、大きな赤い看板が目に入る。『梅蘭房』
彼女はハッとして、手元の札と見比べる。「あ!」彼女は固く閉ざされた梅蘭房の前で、中の様子を窺った。
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「王の命令です。こうしている時間はありません」女はそう訴えた。
朝鮮へ戻ってきたサダムを出迎えた女だ。
女の向かい側で、サダムは静かに目を閉じ、思案に耽る。
サダム「より欲する者が動くべきでしょう」
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キサン君はまだ来ぬサダムを待ちわびていた。
扉が開き、内官が入ってくると、御簾の向こうにひれ伏した。
キサン君「道流(サダム)は?道流はどうした?」※道流とは昭格署で祭祀を行う役職名です。
内官「殿下、恐れ多くも殿下の命に従えないと申しております」
キサン君「何と?あの男、気でも狂ったのか。今すぐ捕らえよ!殺してやる!」
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女はそれでもサダムを説得しようとした。
女「殿下の命令なのです。気が進まずとも宮廷に向かうべきでした」
サダム「人というものは、望むものをすんなり与えれば感謝を忘れます。苦労してようやく手に入れてこそ、どれほど大切なものか気づくのです」
女「…。」
サダム「私は殿下の忠実な臣下です。私をそばに置く殿下の喜びを倍増させて差し上げよう、ただそれだけのこと」
「道流様!」そこへ召使いが駆け込んできた。
サダム「お越しになったようですな」
続いて、男たちがぞろぞろと入ってくる気配がした。
サダムの前に現れたのは、キサン君本人だ。
彼は刀を抜き、サダムに突きつけた。
キサン君「たかが道流の分際で、王の命令を拒むつもりか?」
サダム「この賤しい道流ごとき、殿下の命令を拒むはずがございません!」
キサン君「黙れ!誰をからかっているつもりだ?」
「私は…」サダムは顔を上げ、訴えるようにキサン君を見つめた。
サダム「殿下のためなのです」
キサン君「お前という男は!余を侮辱するのか!!!」
サダムは今度こそ刀を振り上げる。
サダム「私は一介の道流に過ぎません。士林派たちの反対で、昭格署が廃止されたのは最近のこと」
キサン君「!」
サダム「不実な者たちが殿下を攻撃しようと、目に炎を燃やしております!それなのにどうして!!!」
キサン君「…。」
サダム「…どうして私が殿下のおそばに近づけましょうか」
キサン君「…。」
キサン君はサダムの真意を探るように、再び刀の先を慎重に向けた。
キサン君「まことに余を案じてのことか?」
サダム「私は殿下の忠実な臣下にございます」
キサン君は力が抜けたように刀を下ろした。
サダム「…。」
キサン君「余にはお前が必要だ。余はどうすればいいのだ?」
サダム「私をお捨てください」
キサン君「!」
サダム「私が施す術に心を奪われてはなりません。今はその方法しかないのです」
キサン君「捨てなければ?」
サダム「殿下!」
キサン君「捨てなければどうなるのだ?」
サダム「お苦しみになるでしょう」
キサン君はサダムをまっすぐに見据え、詰め寄った。
キサン君「余は王だ!」
サダム「…。」
キサン君「道流の一人くらい、好きなようにそばに置けぬと思うか?」
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「置けないに決まってるだろ?」またしても大殿へあらわれたキサン君の幻は、玉座に座るキサン君に囁いた。
偽キサン君「お前は名前だけの王だからな」
キサン君は怒りを抑え、書類を睨んだ。
領相「殿下、礼曹判書の職に相応しい者の名簿にございます。ご検討の上、ご決定くださいませ」
黙っているキサン君を、幻が振り返る。
偽キサン君「何してる?こやつらの望む通り決定してやらなきゃ」
苛立ちを募らせたキサン君は、名簿を丸め、床に投げ捨てた。
領相「殿下!」
キサン君「よく聞くのだ。余は… 余は、王室の安寧と繁栄を祈るため、昭格署を再建する!」
大臣たち「…。」
キサン君「ゆえに、皆、余の意志に従うよう望む!」
キサン君が立ち上がると、大臣たちは一斉にひれ伏した。
大臣たち「殿下!昭格署はなりませぬ!お取り下げくださいませ!」
キサン君「!!!」
※実際に存在した昭格署(道教の祭祀を行なう部署)は、中宗の時代、1517年(中宗12年)に廃止されています。
韓国ドラマでお馴染みの、チャングムやファン・ジニの王様の時代ですね。
廃止を行った士林派の代表、趙光祖(チョ・グァンジョ)は、チャングムのドラマの中でも名前が出ていました。
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「昭格署など話になりません!」顔を揃えた大臣たちは、口々に王の宣言に異を唱えた。
大臣1「多くの血を流して廃止したばかりなのに、また昭格署を?!」
大臣2「昭格署を足がかりに、殿下は勢力を伸ばすおつもりでしょう。押されてはいけませんよ!」
「…。」憤る大臣たちを前に、領相パク・スジョンは頭を抱える。
大臣1「領相大監、一体どうすれば… なんとか仰ってください!」
領相「…。」
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陽の角度がずいぶん変わった。
梅蘭房の門が開くと、鮮やかなノボリが掲げられる。
色とりどりの駕籠が、梅蘭房へと行列を作った。
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ムソクの心は、そのような喧騒とは常に別のところにあった。
静かな家の庭で、彼は精神を集中させ刀を抜くと、練習用の藁の的に狙いを定め、構える。
「はっ!」短い掛け声を発すると、彼は舞うように身を翻し、的へ刀を向けた。
軽く刀を空中へ放り上げると、鮮やかにそれを受け取り、振り下ろす。
的は真っ二つに裂け、彼の足元に落ちた。
ムソク「…。」
そこへ、呑気な拍手が響き、彼は振り返った。
「こんなことだろうと思った」友人が笑いながら入ってくるのが見える。
友人「こうしてる場合じゃないぞ」
ムソク「何のことだ?」
友人「本当に知らないんだな」
ムソク「焦らすな」
友人「梅蘭房って知ってるか?」
ムソク「梅蘭房?」
友人「この国だけじゃない、海の向こうから渡ってきたあらゆる宝物が、尽く梅蘭房に集まると云うじゃないか」
ムソク「…。」
友人「それにな、今日は鳳凰画まで公開されるらしいぞ。そんな梅蘭房にも行かずに、藁の的を相手に修行とは。だから君は眼識がないんだ」
ムソク「眼識のない人間が、そんなところへ行って楽しいものか」
「私は結構だ」ムソクは気のない返事をし、友人の前を離れた。
友人「それなら君、長剣って聞いたことあるか?」
「!」ムソクは驚いて振り返る。
友人「きっと明国皇帝の剣だぞ。どんな刀と戦っても負けたことがないらしい」
ムソク「…。」
友人「その剣が、今、梅蘭房にあるっていうのに、君は気にならないのか?」
ムソクは頷いた。「すぐに支度をする。ほんの少し待っていてくれ」
ムソクは友の視線を気にしながらも、部屋へ駆け戻った。
#こういう、剣が見たくて思わず走ってしまうところ。
クールなムソクは、こういう小さなところでキュンと萌えさせてくれるといいな。
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さて、どうしたものか…
家の前に陣取って動かない幽霊3人衆を、リンは門の内側からそっと疑い、途方に暮れた。
リン「はぁ、あいつら何で帰らないんだ?こうしてるうちにいい見世物を逃しそうだ」
リンはふと思いつくと、ニヤリと笑った。
ほどなく、駕籠を担いた男たちが門を出てくる。
女の子(霊)「そうだよね。天下の遊び人が家に閉じこもってるわけないもん」
ゆらりと浮かび、駕籠のそばへ近づいた3人衆は、思いがけず中から漂ってくる煙に、大きく咳き込んだ。
もっとひどい目に遭っていたのは、当のリンだ。
駕籠の中で唐辛子の種を焚き、彼こそ煙に辟易していた。
リン「幽霊を避けたいばかりに、私が幽霊になってしまいそうだ…」
「止めろ!」我慢できず、リンは駕籠を止めさせると、外へ飛び出した。
「あそこ!」そこを目ざとく女の子の霊に見つかり、指を差されると、彼は驚いて振り返る。
飛び上がる3人衆を前に、リンは一目散に逃げ出した。
飛び上がって追いかけるものの、3人衆は再び煙にむせ、揃って地面に落ちてしまう。
左相「何だこりゃ!」
ソン内官「唐辛子だ!唐辛子の種のせいかも!」
女の子&左相「唐辛子の種!」
ソン内官「どうしよう~!」
左相「走ろう」
3人衆はぞろぞろと走りだした。
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梅蘭房の前に、続々と駕籠が到着した。
降り立ったスリョンの美貌に、見物にやってきた街の人々から溜息が漏れる。
その中に、トハの姿があった。
トハはスリョンが門番に木札を渡し、中へ入ったのを確かめると、自分の手元にある木札をじっと見つめた。
トハ「これかな?」
彼女は早速、木札を握りしめ、門の前に進み出た。
門番たちはトハの木札を受け取ると、不思議そうに顔を見合わせる。
「ちょっとこっちへ」体格のいい門番は、トハの腕を掴み、脇へと連れて行った。
トハ「離してください!」
門番「優しくしているうちに言うことを聞いたほうがいいぞ。そうじゃなきゃ、お前みたいなもの、捕盜庁へ引き渡すことだって出来るんだからな」
トハ「!」
門番はトハに木札を掲げて見せた。
門番「お前、字も読めないだろ?」
トハ「?」
門番「これは男用だ。お前みたいな女が使うものじゃない!」
「離して!」トハは門番の手を振り払う。
トハ「私、探してる人さえ見つかればいいんです!」
門番「お前みたいなヤツ、これまで一人や二人じゃないぞ。これ以上面倒を起こさずに、札を置いて帰れ」
トハ「少しだけでいいんですよ。この木札の持ち主さえ見つかったら…」
門番「お前に高貴な品を見せたところで何の儲けにもならん」
トハ「…。」
門番「どんなに働いたって手に入らないものなら、最初から見ないほうがいい。黙って帰れ」
「帰れ!」門番は乱暴にトハを突き飛ばした。
悲鳴を上げて尻もちをついたトハに、見物人たちがざわめく。
ちょうどそこへやって来たムソクもまた、騒ぎに足を止めた。
トハは気丈に立ち上がり、門番に食い下がる。
トハ「えぇ、見ないわよ!あそこにある物がどんなに貴重なのか知らないけど、私はただ… お姉さんの腕輪さえ見つかればいいの」
門番「…。」
トハ「腕輪を探したいから、ちょっとだけ…」
無理やり中に入ろうとしたトハを、門番は両手で掴んで押し戻すと、腕を振り上げた。「このアマ!」
殴られる!トハはぎゅっと目を閉じた。
そこへ… 何者かの腕が伸び、門番の肉厚な腕を掴む。
トハ「?」
ムソクだった。
ムソク「やめるんだ」
「だ、旦那様」門番は驚いて頭を下げ、小さくなった。
「…。」戸惑ったようにムソクをチラチラと見たトハは、あっという間に走り去る。
風のようにいなくなった彼女に、怪訝な表情を見せると、ムソクは何事もなかったように歩を進めた。
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トハがやってきたのは、どうやら梅蘭房の裏口のようだった。
大きな荷物を運び入れようとする男たちが、忙しそうに行き来する。
彼女はその一つに素早く駆け寄ると、掛け布の中へ潜り込んだ。
トハ「?」
思いつきで潜り込んだものの、トハは大いに戸惑った。
そこはガランとした檻になっており、彼女はその中に入ってしまったのだ。
+-+-+-+
3人衆から逃げてきたリンもまた、梅蘭房の裏口へたどり着いた。
彼も目の前にあった荷箱の中へ飛び込む。
トハが潜む、その檻の中へ…。
すぐに3人衆がとことこと走ってきた。
女の子「どこ?どこ行ったの?」
ソン内官「本当にここへ逃げこむのを見たのか?」
女の子「うん!」
ソン内官「この子は全く!」
「媽媽!」彼らは来た道を再び戻っていった。
+-+-+-+
散々走ってきたリンは、檻の中でまだ息が乱れていた。
向かい側に腰を下ろしたリンに、トハが「シッ」と人差し指を立てる。
トハ「聞こえるから、静かに」
「!」リンは言われるまま、慌てて手で口を塞ぐ。
トハ「あなたも、あのカバみたいな男に追われたんですか?」
リン「(キョトーン)」
トハ「ねぇ、私の話、聞こえないの?」
「やれやれ」リンはわざとらしくひとりごとを始める。
トハを幽霊だと思ったのだ。
リン「ここは静かで気に入ったな。なかなかいい」
トハ「あんた、私のこと無視してるんでしょ。馬鹿にしてるのね!覚悟しなさいよ、乞食みたいなヤツ!」
リン「乞食?!」
思わずトハの挑発に乗り、リンは言葉を飲み込んだ。
リン「(ぶつぶつ)そうだ、この子も幽霊だ、この子も幽霊なんだ」
トハ「幽霊って(呆れ笑い)あのね!私、幽霊じゃないってば!人間よ」
「触ってみて」トハが頭を突き出すと、リンは恐る恐る手を伸ばし、そっと頭に触れてみる。
リン「はっ!こりゃ何だ?」
トハ「触ってみてって!」
もう一度手を伸ばしたリンの手に、トハの頭のお団子が触れた。
その瞬間、低い唸り声がどこからか響く。
「うわぁ!」リンは飛び上がって檻から飛び出すと、扉に外から錠をかけた。
「全く、男って意気地なしなんだから」トハは檻の柵づたいに歩くと、扉を揺すった。
「?!」扉に鍵がかかっていて、開かないのだ。彼女は焦った。「ちょっと!何で閉めて行っちゃうのよ!」
そのとき、男たちが戻ってくると、トハのいる檻に縄をかけ、梅蘭房の中へと運び始めた。
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「落札!」梅蘭房の庭では、檻に入った美しいホワイトタイガーが拍手を浴びていた。
その檻が脇へ撤収されると、ムソクは見物の場所を離れる。
気のない表情で歩きながら、ムソクはつぶやいた。
北風は木の枝を揺らし 明月は雪を冷たく照らす
万里の長城に長剣をついて立ち
口笛の一吹きを遮るものはなし
後に続く友人たちは、黙って聞き入り、拍手で讃えた。
※これは実在する武臣、金宗瑞(キム・ジョンソ)の詩。
右相・左相を務め、王を支えましたが、1453年に起きたクーデター癸酉靖難により、対立していた首陽大君(のちの世祖)に殺されました。
「王女の男」や「根深い木」でお馴染みですね。でも、ちょっと唐突な感じが否めません^^;
廊下を歩いて行くムソクの姿を、庭の橋の上で眺めている視線があった。
梅蘭房の女主人だ。
彼女は、サダムと懇意にしている謎の女性、その人であった。
女主人「誰なの?」
下女「あの御方は、領議政パク・スジョン大監の姻戚だと存じます」
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「君なら都の武官として楽も出来るだろうに、なぜわざわざ苦労するんだ?」ムソクに尋ねる友人に、スリョンが代わりに答える。
スリョン「お兄様は都の武官は武官でないとお思いなのです」(※二人は従兄弟の関係です)
彼らは食堂の一席に腰を下ろす。
ムソク「真の武官ならば、キム・ジョンソ将軍のように辺境に立つべきだ」
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リンが梅蘭房の中へ駆け込んでくると、周りの人々が一斉に頭を下げ、歓迎の声を上げた。
ムソクの友人がリンに気づき、口を開く。
友人「ようやくお越しか。月光大君がいらっしゃらなければ、梅蘭房とは言えぬからな」
「私はこれで」スリョンはいそいそと立ち上がり、リンの元へ向かう。
友人「やれやれ、あれじゃ駄目だ」
ムソク「?」
友人「女性からあんな風に先に近づけば、男は後ろへ引くだけなのに」
ムソク「…。」
向こう側の建物の階上から、リンをじっと見ている目があった。
サダムだ。
何気なく視線を移したムソクは、異色の雰囲気を放っているサダムに、一目で気づく。
ムソク「?!」
リンを見ているらしいサダムの視線は、実に鋭かった。
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「ご覧になりました?」部屋へ戻ったサダムに、女主人が声を掛けた。
サダム「先王によく似ていますな」
女主人「…。」
サダム「誰が先にあの世へ逝くことになるか、実に興味深い」
サダムは不敵に笑った。
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ここで一旦区切ります。
呼称など、ちゃんと定まらなくて読みぐるしいかと思いますが、すみません。
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