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夜警日誌あらすじ&日本語訳6話vol.1

   

チョン・ユンホ(東方神起ユノ/ユンホ)、チョン・イル主演、「夜警日誌」6話前半、ドラマのあらすじを掴みながら、なるべくたくさんの台詞を日本語に翻訳していきますね。

では、さっそく♪

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朝議を終え、正殿を出てくると、サダムは涼しい顔で領相に頭を下げた。

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領相「いつかその残忍な舌を抜いてやろう」
サダム「神に仕える人間に、なぜそのように凶悪なことをおっしゃいますか」
領相「お前ごときの仕える神を私が畏れると思うか?」

領相が憤るのを楽しんでいるかのように、サダムは余裕の笑みを見せ、悠々と立ち去った。

「領相大監、どうすればいいのでしょうな」領相派の大臣が背後から声をかける。

大臣「月光大君が失脚すれば、我々とて同じです」
領相「まだ権力はこちらにあるのです。主上もむやみに軽率な行動には出られないでしょう」

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領相が足を運んだのは、リンのいる離宮だ。
入り口の前を、ムソクが守っていた。

領相「大君はご無事か?」
ムソク「ご無事です」
領相「昨日、お前も一緒にいたそうだな」

「はい」ムソクは静かに目を伏せる。

領相「道を開けろ」
ムソク「お帰りください」
領相「開けろと言っておろう」
ムソク「誰も入れるなとの殿下のご命令です」

領相は厳しい目で甥に詰め寄る。

領相「お前の能力は高く買っているがな、つねづね疑問に思うのだ。果たしてお前は大きな仕事に使えるだけの人材だろうかと」
ムソク「…。」
領相「そのたびに、いつも気に掛かることがある。まさにお前のその真っ直ぐな性格だ」
ムソク「…。」
領相「時には折れることを覚えてこそ長続きするもの。だが、お前はひたすら真っ直ぐすぎる」
ムソク「…。」
領相「そのうち、いつか一太刀で砕けてしまうぞ。肝に銘じておけ」

領相はリンに会うのを諦め、背を向けた。

ムソク「決して折れたりはいたしません」
領相「!」
ムソク「武官の使命を全うして砕け散るときがくれば、痕跡さえ残すことなく、壮烈に砕け散るつもりです」
領相「そのような性格で仕える相手が、よりによって主上とは…」

116

頑固な甥を前に、領相は苦々しい表情で舌を鳴らした。

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部屋の中へ入ってきたムソクは、思わず言葉を失った。
目の前にあったのは、もりもりと食事を頬張るリンの姿だ。

ムソク「こんな状況で食事が喉を通るのですか」
リン「…。毒でも入っているかもしれぬから、気をつけろと?」
ムソク「そうではなく…」
リン「こういうときこそしっかり食べねば。それに、皆の目が私に集中しているのに、誰が毒殺など考える?馬鹿じゃあるまいし」
ムソク「それでも案ずる素振りくらい…」
リン「案じる素振りをしたところで、何も変わりはしない」
ムソク「…。」
リン「宮廷の食事を食べるのは久しぶりだが、実に旨い!君も…」
ムソク「?」
リン「… 食事でもして来るといい」

「…。」どうも調子の狂う相手だ。

ムソク「宮廷がどう回っているか、ご存じですか?」
リン「宮廷が… 回るのか?回ってるようには見えないが?」

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守護霊3人衆はリンの屋敷前にいた。

ソン内官(霊)「大君様は昨夜お帰りにならなかったみたいですよ」
左相(霊)「つまり、外泊なさったってことだな?」
ランイ(霊)「夜は家で寝なきゃダメよ。外泊するなんて!」
ソン内官「この子ったら。毎日家で寝なきゃいけないなんて誰が決めたの?」
ランイ「?」
ソン内官「うちの若様もすっかり大人なんだから、よそに泊まって、女人とも出会って、そうしないと婚礼もあげられないでし。ょ。私は外泊とかそういうの、賛成♪」
左相「私も」

嬉しそうに家を眺める二人の間で、ランイは何かに気づき、声を上げる。
騒々しい足音が近づいてきたかと思うと、義禁府の武官たちが家の前で止まった。

義禁府上官「疑わしいものはひとつ残らず探し出すのだ!」

武官たちは一斉にリンの屋敷へ入って行った。

ランイ「何なの?!」
ソン内官「大君様に何かあったんじゃ?」
左相「不吉だな。悪い予感がする」

そこへふいにトハがやって来ると、彼らのすぐ隣に立ち、屋敷の様子を眺めた。

トハ「まだ出て来てないの?」
左相「?!」
トハ「はぁ、それじゃ困るのに」

「君、何か知ってるのか?」自分の隣でいきなり喋りだした娘に、左相は思わず声を掛けた。

左相「知ってるなら教えてくれ」

「しっかりしてくださいよ!」ソン内官が呆れて左相をたしなめる。

ソン内官「人間に訊いたって答えるわけないでしょ」
左相「そうだな。どうも気が焦って」

「今、捕まってるの、宮廷で」トハが独り言のように呟く。

「ほらね!答えてるじゃないですか!」そう言って、ハッとした彼らは1箇所にかたまり、トハを珍しげに見つめた。

左相「君、私たちに向かって話したのか?私たちが見えるのか?」

トハが振り返り、ハッキリと彼らを見る。

トハ「あんたたちじゃなきゃ誰?」
3人衆「!!!」

「はぁ、どうしよう」トハはリンの家に向き直り、またぶつぶつ言い始める。

トハ「入ろうかな?でも、勝手に持って出るわけにもいかないし」
ランイ「何よ?一体どうしたの?」
ソン内官「言ってみなさいよ、早く!」
ランイ「リンが何で捕まってるのさ?」
トハ「もう!私だって知らないわ!… だから心配なの」

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リンの部屋へと捜査の手を伸ばした武官は、机の上にあった鈴の腕輪を拾い上げた。

それだけではない。
家の中から呪いのこもった藁人形が見つかったのだ。

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「どうしよう?どうすればいいのかな」中の様子がわからないソン内官は、ただただ気を揉んだ。

ソン内官「いや、きっと大丈夫。はぁ、本当に大丈夫かな」
左相「そうだ。呪いなんてかけるわけがない。大丈夫だ」

そこへ数人の武官が出てくる。「呪いの品が出た!殿下に知らせるのだ!」

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手から盆が滑り落ち、器が激しい音を立てて割れた。

スリョン「何?何ですって?!今、何て言ったの?」

スリョンは恵民署でようやく知らせを耳にしたのだ。

下女「月光大君が呪いを。大変なことになりました!お嬢様!」

スリョンは居ても立ってもいられず、恵民署を飛び出した。

「お嬢様、行ってはいけません!」下女が彼女の前に立ちはだかる。

下女「旦那様に知れたら大変です」
スリョン「退きなさい!」
下女「お嬢様!」
スリョン「早く!自分の目で確かめなきゃいけないの」

スリョンは構わず走りだした。

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武官たちがリンの屋敷の前で、固く門を守っている。
3人衆とトハはどうすることも出来ずに、ぼんやりとそれを眺めた。

ソン内官「呪いがバレたら、誰だって命の保証はありません」

そこへ走ってきたスリョンは、屋敷の中へ駆け込もうとして義禁府に制止される。

スリョン「退きなさい!早く道を開けるのよ!」
上官「この家の持ち主とどういうご関係で?」
スリョン「それを話す必要はないわ。早く道を開けなさい!」

「こりゃ参ったな」左相(霊)が呟く。「大君と関係のある人は皆捕まるのに」

上官「月光大君と関係のある人間は全て投獄しろと、殿下の命令だ。命令に従うしかないな」

「捕らえよ」上官の指示で、義禁府の武官たちが直ちにスリョンを取り囲んだ。

「お嬢様!!!」たまらず声を上げ、駆け寄ったのはトハだ。
彼女はスリョンを捕らえようとしていた武官を勢い良く突き飛ばすと、苦笑いを浮かべた。

トハ「お嬢様ったら!(リンの屋敷を指さし)この家じゃなくて、(遠くを指差す)あっち!あの家ですよ!」
スリョン「???」
トハ「早く行きましょ」

「では」義禁府上官にペコリと頭を下げると、トハはスリョンの腕を引っ張り、逃げるようにその場を離れた。

+-+-+-+

「それじゃ、どうなるんですか?」トハは心配するスリョンの顔を覗き込んだ。

118

トハ「呪いをかけたのがバレたら、どうなるんです?」
スリョン「…。」
トハ「あの切干大根ったら!いくら性格が悪くても、誰かを呪ったりしちゃダメよ」
スリョン「そうね…。ところであなた、大君と何かあったの?」
トハ「あ、私は受け取るものが…。私の腕輪をね」

「生死が掛かっているの!」スリョンはカッとなって思わず声を上げた。

トハ「…。」
スリョン「大君は今、生死の境に立っていらっしゃるのよ。それなのに、たかが腕輪一つ受け取るために訪ねて来たの?」

「たかが腕輪一つじゃありません!」トハは首を横に振る。

トハ「今こんなことを言うのは、私だって辛いんです。だから、力になれるなら助けたいって気持ちもあって」
スリョン「あなたにどんな力があって、大君を助けると言うの?」
トハ「…。」

スリョンは指輪を一つ、トハの手に握らせた。

スリョン「これなら、たかが腕輪10個買っても余るはず」
トハ「!」
スリョン「だから、今後は大君の前に現れないで」

立ち去ろうとしたスリョンを、トハは引き止めた。「お言葉が過ぎます!」

スリョン「さっき助けてくれたから、キツくするのは言葉だけよ」
トハ「…。」
スリョン「退きなさい」

「待ってください!」背を向けたスリョンを、トハは呼び止めた。
ちょうどやって来たスリョンの下女が代わりに食って掛かる。

下女「誰を引き止めてるわけ?あっち行きなさいよ」
トハ「…。」

トハの腕輪がいかに大事な物か… そんなことを誰が分かってくれるはずもない。
トハはいよいよ途方に暮れた。

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目の前に呪いの品が並べられると、キサン君は身を乗り出した。

キサン君「これらがそうか」
義禁府武官「はい。大君の自宅から出た品々です」

卓上に並べられたのは、藁人形、そしてトハの腕輪、その二つだけだ。
キサン君は腕輪を手に取って眺めると、よく分からぬといった表情で放り出した。

藁人形を調べていたサダムは、その中に小さく畳まれた紙が隠されているのを見つける。

『辛亥年六月七日寅時生』

サダムは何も言わず、その紙をキサン君に手渡す。
キサン君は途端に目を丸くした。

キサン君「余の生年月日ではないか!」
サダム「呪いの品に間違いございません」
キサン君「あやつ、ただでは済まさぬぞ!」

「誰かおらぬか!」キサン君は大声を上げた。

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離宮。
リンはムソクがじっと守っている建物の表へぶらりと出てきた。
どこかへ行こうとすると、ムソクは何も言わず後に続く。
リンは立ち止まり、反対側へ歩き出す。
またしても、ムソクは黙ったまま彼の後に続いた。

うんざりしたように足を止め、リンは恨めしそうにムソクを睨んだ。

リン「君は私がそんなに好きなのか?」
ムソク「?」
リン「なぜそう後をちょろちょろついて回るのだ?」

「命令ですので」ムソクは表情を変えず、短く答えた。
一瞬苛立ちを見せたリンは、思い直し、柔らかく微笑んでみせる。

リン「一人でいさせてもらえないかな?考え事ってやつが出来るように」
ムソク「”よからぬ考え事が出来ぬよう、ほんの少しでもそばを離れるな” それが王の命令です」
リン「!… 君は今、自分がどう見えていると思う?」
ムソク「…。」
リン「まるで池に浮かぶアヒルの子だ。大層な刀を手に、母親にちょろちょろついて回るとは」
ムソク「…。」
リン「それならまぁ、ついて来るがいい」

再びリンが歩き出すと、門を義禁府の集団が入ってくるのが見えた。

リン「何事だ?」
ムソク「大君が殿下を呪った証拠が見つかったのです」
リン「… 酷い冗談だな」
ムソク「今、大君の去就問題で、朝廷は騒ぎになっています」

「呪いなんて…」リンは悲しげに呟く。

リン「君もあの場にいたではないか。私はただ母を懐かしんで祭祀をおこなっていただけだ」
ムソク「そこから呪いの品が出たのです」
リン「違う、違う!」

「そうだ」リンが考えを巡らせる。

ムソク「?」
リン「陰謀だ。誰かが私を陥れたのだ」
ムソク「大君の自宅からも呪いの品が見つかりました」
リン「…何?」

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「大君の家から出た物です」ムソクは発見された呪いの品を受け取って来ると、リンの前に差し出した。

リン「君も邪道を信じているようだな」
ムソク「…。」
リン「私が呪いをかけたと信じ、証拠の品を持ってくるところを見ると」
ムソク「呪いをかけたところで、決して殿下を害することは出来ません。仰るとおり、ただの邪道ですから」
リン「…。」
ムソク「私が許せないのは、そのような心を抱いたことです」
リン「…。」
ムソク「邪道を使ってでも殿下を害しようとする心。必ずや代償を受けるべきでしょう」

黙って聞いていたリンは、証拠の品の並んだ台をひっくり返す。
「…。」二人の視線が冷たくぶつかった。

リン「君は何事にもそう確信があるのか?」
ムソク「!」
リン「自分に見えているものが全てではないかもしれない、そう思ったことはないのか?」
ムソク「…。」
リン「目に見えないもの… それが真実かもしれないのに」
ムソク「私は見えるものだけを信じます」
リン「…。」
ムソク「そして、私の見た大君は、目に見えるものが全てでした」

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#うーん、それこそ「君は何事もそう確信があるのか?」な部分なのに、ムソクは全く気づかないね…。

リンはそれ以上何も語らず、横を向いた。「もう行ってくれ」

リン「見張っている者は大勢いるから、君はもうここにいる必要がない」

「…。」ムソクは小さく頭を下げ、立ち上がろうとする。

リン「いつか…」
ムソク「?」
リン「その冷たい性格のために苦労する日が来るだろう」
ムソク「…。」

#叔父にも言われ、リンにも言われ… この念の入れようじゃ、よっぽどのことが起きるよ。

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そっと庭へ出てきた宿の女将オンメは、一大決心に胸を膨らませた。

オンメ(心の声)「今日こそは成功させるわ!このオンメに靡かなきゃ男じゃないもの」

鍛冶場では、今日も鉄を打つ音が響いていた。
「旦那さん」オンメはそっとサンホンに声をかける。
「?」サンホンは手を止め、黙ってオンメを見つめた。

オンメ「お、お話があって来ました。すごく大事な話なんです」

「…。」サンホンは黙って手元の作業に視線を戻す。

オンメ「つまり、私が言いたいのは…」
サンホン「?」

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#そ、そんなふうに真っ直ぐ見られちゃ話せませんってば♥

オンメ「だから、えっと、私は… つまり… えっとだからぁ」
サンホン「…。」

オンメは心を決め、大きく深呼吸した。「旦那様を…」

そこへ、不意に誰かの声が飛ぶ。「だからぁ」

オンメ「?!」

釜の向こうから現れたのはサゴンだ。

サゴン「だからぁ何なんだよ?ん?」
オンメ「もう!ビックリした!」
サゴン「せっかちな人間には耐えられないな」
オンメ「何でそんなところにいるんです?」
サゴン「俺のことはいいさ。それで、さっきの話って?俺もえらく気になるんだが、何だ?」

「…。」サンホンの視線も、じっとオンメへと注がれた。

オンメ「(ドギマギ)」

とうとうオンメは破れかぶれになって叫んだ。「包丁をもらいに来たんです!これでいい?!」

サゴン「包丁?!(笑)そりゃそうだろう。一目見て完璧なその化粧、朝鮮じゅうの誰が見ても包丁が欲しくて来た顔だよ!その顔は」
オンメ「この旦那ったら!気でも触れたのかい?」

「ほっといてよ!!!」オンメは叫び、自暴自棄になってサンホンに向き直る。

オンメ「(サンホンに)鋭くて、よく切れるのをお願いします、旦那さん(サゴンに)役立たずなんだから!」

オンメは背を向けると逃げるように走り去った。

サゴン「包丁なら俺だって上手く作るぞ!」

+-+-+-+

宿に帰ったトハは、スリョンの指輪を見つめ、さらに悔しさを募らせた。

トハ「こんなもの欲しくもないのに!」

そこへ戻って来たオンメは、トハが飲もうとした水を取り上げ、一気に飲み干した。
「トハ!」彼女は非常に虫の居所が悪かったのだ。

トハ「はい」
オンメ「ずっと我慢してきたけどね」
トハ「が、我慢しないでください。病気になりますよ」
オンメ「そうね、だから言うんだけど、ご飯を食べたらご飯代、泊まったなら宿泊代を払うのが漢陽の決まりよ」

「だから、出しなさい」オンメは手のひらをトハに突き出す。

トハ「何を?」
オンメ「あんた、本当に知らないの?」
トハ「(うんうん)」
オンメ「それじゃこれは何?この指輪よ」
トハ「これは私のじゃなくて、さっき…。話せば長いし、そのせいで頭が痛いんです」

オンメは呆れて腕組みをした。

トハ「こんなもの貰っても困るし、何の役にも立たないのに」
オンメ「あんたに何の役にも立たないこの指輪!これさえあれば三ヶ月と十日は暮らせるわよ!」
トハ「本当に?これが?」
オンメ「…。」
トハ「これがあれば本当に三ヶ月と十日は暮らせるんですか?」
オンメ「そうだってば!」

トハは改めて指輪を見つめた。

オンメ「どうする?それで手を打つ?」
トハ「…。悩んじゃうな」

トハは指輪をオンメに渡そうとして、やはり思いとどまった。「駄目です!」

トハ「これ、返さなきゃ。私のじゃないんです」

「ちょっと!!!」オンメの苛立ちは限界に達した。

オンメ「それなら外で稼いできな!稼いで飯代を出しなさい!!!」
トハ「そんなに怒らなくても…」
オンメ「私がいつ?怒ってないってば!!!」

+-+-+-+

外へ出てきたトハは、賑わう市場の様子を眺め、考えた。

トハ「お金を稼ぐにはご飯を食べなきゃいけないし、ご飯を食べるにはお金がいるし…。お金?稼がなきゃ」

「お姉さんを探しに来たのに、お金の心配ばかり」トハはため息をついた。
そこへ向こう側から歩いてきた男と、トハは軽くぶつかる。
小さな音がし、地面にお金が落ちた。

トハ「お金?お金だ!私、お金を稼いだんだ!わぁ!」

トハがお金を拾い上げると、そこへぶつかった男が戻って来る。
「俺の金!」男はトハの肩を掴むと、いきなり彼女の頬をぶった。

トハ「!」
男「泥棒女め!」
トハ「泥棒?」

ぶたれた拍子にトハが落とした金を、男はすかさず拾い上げる。

男「おい!俺が腰にぶらさげていた金を、どうしてお前が持ってるんだ?」

#確かに今、男が金を拾い上げたのに、次の瞬間トハが持ってる不思議…。

トハ「!」

男は金の重みを軽く確かめた。「何枚か無くなってる」

男「金をどこに隠した?」
トハ「何も盗ってなんかないわ!」
男「金を出せ」

「そうじゃなきゃ指輪を渡せ」男は指輪をはめたトハの手を掴んだ。
男が振り上げた腕を掴むと、トハはそのまま男を投げ飛ばす。
男は鮮やかにくるりと回ると、地面に仰向けに倒れた。

周囲を囲んだ人々がどよめくと、そこへふらりとムソクが現れた。

男「この泥棒女!」
トハ「泥棒じゃないわ!違うのに何で泥棒呼ばわりするのよ!」

カッとなったトハは胸ぐらを掴み、男に食って掛かる。
彼女のその手を、不意に伸びてきた別の手が掴んだ。

ムソクだ。

トハ「離して!どうして止めるの?」

ムソクは黙ってトハを見つめる。
殴られた彼女の頬は、真っ赤になっていた。

男「旦那様、よくぞ止めてくださいました!この泥棒女が…」
トハ「泥棒じゃないわ!!!」
男「旦那様、こいつ、いますぐ捕盗丁へ突き出さないと!」

「俺の金をくすねやがた上に…」男がまくし立てるそばで、ムソクはふと足元へ視線を移し、地面に落ちた金を拾うと、手のひらの上で何度か放り上げ、重みを確かめる。

男「投げ飛ばしやがって!薬代まで貰わないと、怒りが収まらない」

ずっと無表情だったムソクは、そこで小さく笑みを浮かべた。

男「お前、捕盗丁で百叩きに合わなきゃ分からないようだな」

「捕盗丁に引き渡すのは… お前の方だ」ムソクは男を冷たく見据えると、静かに言い放った。

男「どういうことです?」

ムソクは金を持った手を開いて見せる。「偽造銭だ」

男「ち、違います!偽造銭なんて!」
ムソク「…。」

「違いますって!」追い詰められた男は慌てて逃げ出そうとしたところを、トハに足を引っ掛けられ、豪快にひっくり返る。

#このときのトハの足の出し方がプロだ。

ムソクは再び、愉しげに小さく微笑んだ。

122

+-+-+-+

橋を渡ろうとしたムソクは、ふと足を止め、橋の下をみた。
川の水で、トハが顔を洗っていたのだ。

一心に顔を洗う彼女の様子がどこか気になり、彼は下へ下りる。

ムソク「大丈夫?」

「すぐ治まるはずです」トハは微笑んでみせる。

ムソク「これからは気をつけたほうがいい」
トハ「…。」

ムソクは手に持った小さな瓶を、彼女に差し出した。

123

トハ「これ、何ですか?」
ムソク「傷に塗ってご覧なさい」

トハは嬉しそうに受け取ろうとし、ハッとして思いとどまる。

トハ「いいんです。大丈夫ですって!」

慌てる彼女が可笑しくて、ムソクは思わずふっと笑った。
「あげますから」ムソクはもう一度小瓶を差し出す。
トハは戸惑いながらも、彼の手から小瓶を受け取り、微笑んだ。

「それでは」そのまま川を石づたいに渡って立ち去ろうしたムソクを、トハは追いかけると、そっと衣を掴んで引き止める。

トハ「待ってください」
ムソク「…。」

トハはいきなりムソクの手を掴むと、手の甲を覆っていた白い袖をめくった。
手の甲に怪我をしていたのだ。
突然のことに驚き、ムソクはさっと顔を背けた。

トハ「人の傷には気づく方が、自分の傷を気になさらないなんて」
ムソク「怪我は…いつものことなので」

トハは小瓶の蓋を開けると、彼の手の傷に丁寧に薬を塗った。

ムソク「…。」

125

#ムソク目線で撮るとか、憎いよねー

自分の手を取り、熱心に手当をする娘。
ムソクはどうしていいか分からぬまま、彼女から目が離せなくなっていた。
ふと彼女が目線を上げると、我に返り、慌てて目をそらす。
そして、手をぶっきらぼうに引っ込め、そっぽを向いた。

ムソク「もう… いい」
トハ「…。」

ムソク「では」
トハ「あ!ところで、あの切干大根は…」
ムソク「?」
トハ「じゃなくて、月光大君ですけど、どうなるんですか?」
ムソク「罪を犯したなら、代償を負うことになるでしょう」

トハは思わず眉間に皺を寄せる。

トハ「ご飯代、罪代、代ばかり…」

※罪の”代償”には、ご飯”代”と同じ값という単語が使われています。

ムソク「…。」
トハ「はぁ、頭痛いわ!」

126

苛々するトハに、ムソクはまた笑った。
彼の笑顔に、トハも釣られて笑う。

トハ「ありがとうございます!」

二人は穏やかに笑いあった。

127

#ちっとも表情を変えない堅物がちょっと微笑むだけで、こんなにキュンとするなんて。
ズルいよねー。けしからん♪

+-+-+-+

夜の宮廷では、領相派の閣僚たちが顔を揃えていた。
「このままでは殿下に押しやられてしまいます」彼らは不安を露わにする。
言動の掴めないキサン君を、まるで鬼神に操られているようだ、妙な音を聞いた者もいるとこぼす閣僚たちを、領相はジロリと睨んだ。

領相「話にもならん!鬼神ですと?!朝鮮じゅうどこを探そうと鬼神などいるものか!」

+-+-+-+

その頃…

祠堂に一人篭ったサダムは、熱心に呪文を唱えていた。

128

+-+-+-+

布団に静かに横になっていたリンは、妙な気配に気づき、起き上がる。

リン「?」

足音を忍ばせ、廊下を歩いてくる人影が、背後に近づいていた。

リン「…。」

129

人影はリンの部屋の正面で足を止める。刀を抜く金属音が耳を擦った。

リン「…。」

+-+-+-+

表を守っていた武官がハッとして振り返ると、開いた扉からリンが逃げてくる。
その後を、黒装束に身を包んだ刺客が追って出てきた。

リンは手にした扇子一つで攻撃をかわしつつ、狭い廊下をずりずりと後退する。
そこへ割って入った武官たちがあっという間に排除されると、リンはそれでも怯むことなく立ち向かった。

#つ、強ぇええーーー!(半笑い

むしろ優勢に攻めていたものの、武器もなしは長く続かない。
刺客の刀先がリンの腕を掠め、リンはその場に倒れこんだ。

万事休す。

ゆっくりとリンに近づくと、刺客は刀をリンの顔の前に突き出した。

リン「…。」

刺客を見上げたリンに、ある記憶が一気に蘇る。
優しかった父が邪気に狂い、自分を見下ろして刀を向けた、あの姿だった。

刺客がトドメを刺そうと刀を振り上げたその時、騒ぎを聞きつけた義禁府の武官たちが大勢駆けつけ、声を上げる。

義禁府上官「刺客だ!捕らえよ!!!」

刺客はそのままリンの前を離れると、ひょいと屋根に飛び上がり、姿を消した。

+-+-+-+

落ち着かず、部屋の中を行ったり来たりしていたキサン君の元へやって来たのは、領相だ。
「なぜこうも無謀なのですか?」御簾の向こうで、領相は冷ややかにそう言った。

領相「月光大君に濡れ衣を着せるだけでは飽き足らず、刺客をお送りになるとは!!!」
キサン君「黙られよ!!!」
領相「…。」
キサン君「余ではない!知らぬことだ!」
領相「知らぬで済む問題ではありません、殿下!」
キサン君「余ではない!違うと言っておろう!」

そこへ内官がひどく慌てた様子で駆け込んでくる。

キサン君「何事だ?」
内官「月光大君の行方がわからなくなりました」
領相「もう一度申してみよ」
内官「月光大君が跡形もなく姿を消してしまわれたのです!」

領相が天を仰ぐと、キサン君は皮肉に満ちた笑い声を上げた。

キサン君「領相、ご存じなかったか?月光の仕業です。人々の視線を逸らしておいて、逃げ出したんですよ」
領相「…。」
キサン君「身に覚えがあるから、生き長らえるのは難しいと判断したんでしょう。だから逃げたんです!」

「…。」領相は何も言わず、じっと考えを巡らせた。

+-+-+-+

ここで一旦区切ります。

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