韓国ドラマから美しい言葉を学ぼう

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プロデューサ2話あらすじ&日本語訳 vo.2

   

キム・スヒョン、IU、コン・ヒョジン、チャ・テヒョン、出演、KBS韓国ドラマ「プロデューサー」2話、後半に入ります。

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午後2時
一泊二日シーズン4 打ち上げ4時間前

「残りはユン・ヨジョン先生なんだが」ホワイトボードの担当表を見つめると、ジュンモは困って頭を掻きむしった。「あぁ!」

ジュンモ「ヨジョン先生に俺が話すってのは違うんじゃないか?口説いた当事者なのに、どうやって俺の口からやめろなんて」
ジヨン「私もちょっと。ファン・シネさんに取り入ってるって、嫌われてるんですから」
イリョン「俺もダメだ。カットしてくれって言われたところをそのまま流して、めちゃくちゃ怒られたんだから」
ヒョングン「僕はスケジュールを間違えて組んじゃって、二度と目の前に現れるなって」
ミンジョン「私、理由もなしに嫌われてるんです。もともと若くて綺麗だと思ったら嫌がる方で」
全員「…。」
ジュンモ「それじゃ一体誰が話すんだよ!」

「何を話すって?」突然扉が開き、まさにそのヨジョン大先生が顔を覗かせる。
皆、大慌てで椅子から立ち上がり、頭を下げた。

「おい!隠せ!」ジュンモの合図で、スンチャンが慌ててホワイトボードの前に立ち塞がる。

#この必死で「隠せ!」って言ってるジュンモにいさん最高♪

「こういうところで仕事してるのねぇ」ヨジョンは軽く会議室を見渡す。「思ったほどイイもんじゃないわね」

ジュンモ「先生、どうなさったんです?」
ヨジョン「今日は一周年記念パーティーでしょ。それでね、私が一番年長なんだから、何もしないわけにはいかないと思って」

「今晩は私が出そうかと」ヨジョンはバッグから封筒を取り出した。

全員「いえいえいえいえ!!!」
ヨジョン「私はこのくらい出したっていいんだから!私、一泊二日のお陰で人気が上がったのよ。何年ドラマをやっても気づかなかった人たちが、バラエティ1年やっただけで、すれ違う人たちみんな気づくようになったんだから。最近はどこへ行っても小学生までこうやって指差してね。その辺はご両親がちゃんと教育しなきゃいけないんだけど」
全員「(にこにこ)」
ヨジョン「とにかくラPD、正直言って私、今までバラエティをバカにしてたわ。でも、そうじゃなかった。私、やっと分かった気がするの」
ジュンモ「あはっ、えぇ、そうですね、先生」
ヨジョン「だからね、私これから一生懸命やろうと思って」
ジュンモ「…。」
ヨジョン「やらせたいことがあったら、何でも言ってくれていいわ。いいわね?」
全員「あははは^^;」
ヨジョン「あ、それからお食事はね、ここにいる人たちだけ、私が本当にいいお店で改めてご馳走するわ」

「また後でね」ヨジョンはバッグを手に取る。「予定があって」
皆に挨拶しながら出口へ向かおうとして、ふとホワイトボードを振り返る。

スンチャン「!!!」

突然目が合い、スンチャンはその場で固まった。

ヨジョン「あぁ、分かった、分かったわよ。見ないから。また私をおかしなところへ行かせようって、みんなで企んでたのね」
全員「あははは」

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1834

ユン・ヨジョン(インタビュー)「私が?私のどこが怖いの?本当にわからないから訊いてるのよ。だから、どこが?どこがどう怖いのよ?理解できないわ。ヨンリム姉さんみたいに怖いって?キム・ヨンリム姉さんは見るからに怖いけど、私はそういうんじゃないでしょ?ん?」

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休憩室。男性が一人、コーヒーを持って来てテホCPに差し出した。

キム・ホンスン 35歳
入社8年目 ”開かれた音楽会”PD

テホCP「今日な、一泊二日チームとピボンに行くんだ。だけど、新入社員の歓迎会も今日、2次ホップでやるらしい。お前ならピボンへ行ってコースを食うか、2次ホップでガーリックチキンを食うか、どっちだ?」
ホンスン「どっちも行けばいいだろ」
テホCP「いや、遅れて行ったらガーリックチキンはないんだ」

#ずっこけるわ

テホCP「一日にきっかり50匹しか揚げないらしい」
ホンスン「…。」
テホCP「よりによって同じ日とは。やっぱりピボンには行かなきゃダメだよな?コースの方が高いんだから」
ホンスン「ところでピボンのヤツって、打ち上げパーティーだって噂だけど」
テホCP「…。」
ホンスン「図星だろ。一泊二日、修羅場だって話じゃないか」
テホCP「一体どこで聞いたんだ?そういう話はうんざりだぞ」
ホンスン「先輩、俺を誰だと?空気を読む能力一つでここまで来たキム・ホンスンだぞ」

「PDもチェンジか?」ホンスンが身を乗り出す。

テホCP「何だ?やりたいのか?」
ホンスン「バカ言うなよ。あんな骨折り損な番組。”ビタミン”のイェ・ジェウォンはどうだ?あいつはイケるよ。KBSもそろそろ新しい顔を育てなきゃいけないだろ?」
テホCP「どうしたんだ?お前が他のヤツを推薦するなんて」
ホンスン「あいつを一泊二日へやって、俺がビタミンやっちゃダメかな?」
テホCP「…。」
ホンスン「もうすぐ梅雨なのに、いつまで地方ロケに回らなきゃならないんだよ?俺もHOTなところで収録させてくれ」
テホCP「おい、もう局長はお前のことなんて眼中にないのに、一体全体どうやってそんな楽なポジションに?!」
ホンスン「だから先輩がよく言ってくれよ。局長、兄貴の言うことなら聞くじゃないか」
テホCP「局長が俺の話をよく聞くのはな、お前の話をしないからだ」
ホンスン「ホントにそう思ってるのか?先輩、俺にそんな仕打ちはないだろ!」

「女流詩人のイチェの詩にこういうフレーズがある」テホCPは唐突に切り出した。

テホCP「”誰かの目に入るのは難しいけれど、視界から外れるのは一瞬だ”」
ホンスン「俺が局長の眼中から外れたのは先輩のせいでもあるんだぞ」
テホCP「お前の人生はお前のものだ。人のせいにするな」

そのとき、誰かが目の前の廊下を横切るのが見えた。
局長だ。
飛び上がるように局長に駆け寄ると、テホCPはホンスンが持って来たコーヒーを手渡した。「局長」

局長「はぁ、今日はまた予算オーバーしたって社長に絞られるんじゃなかろうか」
テホCP「…。」
局長「予算はくれないくせに、競争力は高めろだなんて。筋道が通ってないと仕事も出来ん」
テホCP「いらっしゃらない方がいいですよ」
局長「?」
テホCP「電話が掛かってきたら、外でミーティング中だと言うんです。僕が思うに、今日直接ぶつかりさえしなければ、今回の一件はこのまま乗りきれると思うんです」
局長「…。」

そのとき、エレベーターのドアが閉まり掛けたのを、ホンスンが駆けて行って無理やり止めた。
笑顔で誘導するホンスンの前を通り抜け、中へ入った局長は… そこで凍りつく。

局長「!」

乗っていたのは… KBS社長パク・チュンボンだ。
エレベーターのドアが閉まると、テホCPはぼんやりと口を開いた。「誰かの目に入るのは難しいが、眼中から消えるのは一瞬だってな」

ホンスン「…。」
テホCP「さてと、ジュンモはしっかり打ち上げパーティーの準備をやってるのかねぇ。俺は歩いて上がるから」

一人残されたホンスンは、ガックリと肩を落とした。

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午後3時
一泊二日シーズン4 打ち上げ3時間前

「いよいよ本当に決めなきゃならない」ジュンモの言葉に、皆が頷く。

ジュンモ「俺たちの中で、ユン・ヨジョン先生の気分を一番損ねずに降板通告が出来るのは誰だ?」
全員「…。」
ジュンモ「この番組をやろうと口説いていなくて、ファン・シネさんと親しくなくて、怒られたこともなくて、二度と目の前に現れちゃいけないわけでもなくて、先生のお嫌いな若くて可愛い…そんな女性と一番遠い人物は?」

皆の視線がゆ~っくりとスンチャンへと向かった。

スンチャン「?!」
ジュンモ「いるなぁ♪お前、うちのチームに入ってどれだけ経ったっけ?」
スンチャン「…5時間ほど」
ジュンモ「資格は十分だ!」

「そうだろ?」ジュンモの言葉に、いくらなんでも即座に同調することは出来ず、皆は顔を歪めた。

ジュンモ「お前、さっきから見てると勘もいいし、イケそうだ。こういうのは全部PDがやるんだからな。覚えないと」

「…はい」スンチャンは偉大なる先輩の言葉に素直に頷いた。

ジュンモ「先生、打ち上げパーティーの前にどこへ寄るっておっしゃってた?」

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午後4時30分
三淸洞 映画撮影現場

スンチャンは朝鮮時代の名残ある建築の前を進み、おずおずと黒いバンに近づいた。
ノックすると、中からドアが開く。

「誰?」中へ乗り込むと、ユン・ヨジョンが彼を覗き込んだ。

スンチャン「はい。一泊二日の新人AD、ペク・スンチャンといいます」
ヨジョン「あぁ、さっき事務所にいたでしょ?近くで見るとハンサムね」
スンチャン「…。」
ヨジョン「だけど、こんな大変なチームに入るなんて。今は暖かいからマシだけど、冬は…あんな苦労はないわ。今度冬が来たらどうしようかしら。やめちゃおうかしらね」
スンチャン「あっ… 本当ですか?」
ヨジョン「冗談よ。何をそう驚いてるのよ?芸能PDなのに冗談も通じないの?」

「すみません」スンチャンは不器用に頭を下げる。

ヨジョン「それで、話は何?」
スンチャン「あ、その…お伝えすることがあって」
ヨジョン「(頷く)だから、それは何なの?」
スンチャン「やっぱり先生はバラエティよりもドラマや映画で見せてくださるお姿の方が素敵で… そんな感じがして」

「OK」ヨジョンが軽く話を遮る。

ヨジョン「何が言いたいか分かったわ。だからそこまでで結構よ」
スンチャン「…え?」
ヨジョン「私の出番が少ないって怒った話、ラPDがどこかから聞いたのね。でもね、私の立場からすれば仕方ないわよ。これでも女優の肩書き持ってるのに、1時間の番組中ワンショットもまともに映ってなかったら怒って当然でしょ?」
スンチャン「…いやいや、その… 出番の量の話じゃなくて」
ヨジョン「違うの?」
スンチャン「はい。そうじゃなくて、えっと… 先生は今後、一泊二日で今みたいには…その…」
ヨジョン「あぁ!やっと分かったわ、何が言いたいのか」
スンチャン「え?」
ヨジョン「いくら申し訳ないからって、こんなこと後輩PDに言いに来させるなんて」

「分かったわ」ヨジョンは前を向いたまま、ハッキリと言った。

スンチャン「大丈夫ですか?」
ヨジョン「大丈夫に決まってるわよ。戻って伝えなさい。私、今後はもっと一生懸命やるってね」
スンチャン「…え?」
ヨジョン「私の頑張りが足りないってことでしょ?」
スンチャン「あ… そうじゃなくて、えっと、先生が一生懸命なさってないって話じゃなくて、むしろその反対です。先生はすごく一生懸命なさっていて良いんですけど、僕たちは今回、全体的にある種の”変化”が…」

「変化ねぇ」ヨジョンが声を漏らす。「センスのイイ言い方するのね」

ヨジョン「あなた、将来有望だわ」
スンチャン「あ、ありがとうございます」
ヨジョン「OK、理解したわ」
スンチャン「(安堵)」
ヨジョン「今後私をメインにするって話でしょ」
スンチャン「(絶句)」
ヨジョン「だから他の人がいないところでわざわざ話したのね」
スンチャン「…。」
ヨジョン「戻って伝えて。私、今後手を抜かずに頑張るってね。分かった?」
スンチャン「その…」

そのとき、ヨジョンの電話が鳴り始めた。「ちょっと待って」

ヨジョン(電話)「あぁ、ミニ。私、今夜は約束があるんだけど。そう?じゃ、ちょっと寄るわ」

ヨジョンは手短に電話を切った。

ヨジョン「私、夕飯の前にちょっと後輩に会いに行かなきゃいけないんだけど」
スンチャン「あ、はい。それで、先生」
ヨジョン「何?この車で一緒に行く?」
スンチャン「…いえ」
ヨジョン「じゃ、降りて」
スンチャン「…。」
ヨジョン「降りてってば」
スンチャン「…。」
ヨジョン「何?私がまだ分かってないように見える?実は私、あなたが何を言おうとしてるのか、ちゃんと分かってたわ」
スンチャン「?」
ヨジョン「その程度の話なら、さっき放送局へ行ったときに言えばよかったのよ」
スンチャン「…本当ですか?」
ヨジョン「私、この業界で40年やってるのよ。表情みただけで分かるわ。分かったってば」
スンチャン「…。」

「降りないの?」ヨジョンは絶句する若者を、温かい目で覗きこむ。

スンチャンを下ろすと、ヨジョンの乗った車が走り始めた。
車の中で、ヨジョンは妙にゴキゲンだ。「あの子たち、私が降板するって言い出すんじゃないかって、引き止めるのに必死ね♪」

走り去る車をスンチャンは茫然と見送った。

スンチャン(インタビュー)「一応、分かったとおっしゃったんだし。けど… 分かってないみたいですよね?」

彼は携帯を取り出した。「…。」

スンチャン「(インタビュアーに)あの、うちのチームの人たちの電話番号、ご存じないですか?」

「…。」彼は困って電話番号案内にダイヤルした。「あの…KBSって何番ですか?」

しばらくすると誰もいないデスクで、電話が鳴った。

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ジュンモが神妙な顔で向き合っていたのは、ファン・シネだ。
カフェのテーブルで、彼女はハンカチで目を押さえていた。

ジュンモ「どっちにしても先輩はドラマの日程もありますから」

本格的に泣きだしたシネに、ジュンモは狼狽した。「せ、先輩…」

シネ「違うの。私はね、残念で泣いてるんじゃないのよ。こっ恥ずかしいとかムッとしたとか、降ろされるのが屈辱だとか、絶対にそんなんじゃないの。だから誤解しないで」
ジュンモ「…。」
シネ「私はホントに大丈夫だけど、ヨジョン先生は?先生の気性は分かってるでしょ?あんたたち命はないかもよ。何て話すつもり?」
ジュンモ「…。」
シネ「先生は…ご存知なの?」
ジュンモ「えぇ、今、話に行ってるところです」
シネ「え?…ってことはメインPDはそっちに行かずに、先に私に話しに来たってこと?」
ジュンモ「(苦笑)」

シネはニヤリと微笑んだ。「ラPD、やっぱりマナーが分かってるわね」

シネ「それじゃ後で食事はするのよね?」
ジュンモ「えぇ、もちろん」
シネ「分かったわ。もう行きなさいよ。忙しいんでしょ」

「はい。それではまた後でお目にかかります」ジュンモはさっと立ち上がり、店を出た。
シネはすぐさま携帯を取り出す。「あぁ、私だけど」

シネ(電話)「私がドラマのために一泊二日を降りるって記事を出して。自分から降りるって強調するのよ。明日の朝出るように。いいわね?」

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夕方 5時50分
一泊二日シーズン4 打ち上げ会場

スタッフたちが会場でまだ来ない面々を待っていた。

「ちゃんと伝えたよね?」
「連絡がないってことは、きっとうまく行ってるんだ」

ジュンモがやって来て顔を覗かせる。
皆の顔を見ると、無言でOKのサインを出した。
皆から安堵の声が漏れる。

ジュンモ「おい、新入りは?あいつはどうだって?」
ヒョングン「まだ連絡ないんですよ」
ジヨン「皆さんいらっしゃるでしょうかね?雰囲気良くなかったらどうしよう」
ジュンモ「韓国の女優たちを甘く見るな。千の顔を持ってんだぞ、みんな」

そこへ入ってきたのはファン・シネだ。
「悪いことしちゃったわね」入るなり、シネはそう言った。

シネ「私のドラマのスケジュールのために、みんなまとめて降板させちゃって」
スタッフたち「いえいえ!」
シネ「で、私の席は?」

「こちらです」全員が一斉に奥を指す。

ジュンモ「部長の隣に」
シネ「ここ?OK♪」

続いてクム・ボラが姿を現した。

ボラ「席はどこ?」

皆はクム・ボラをファン・シネの向かい側に案内した。

シネ「ごめんなさいね。私のせいでみんな降板になっちゃって」
ボラ「いいのよ。私も今度、映画まで3ついっぺんに入って、何て言おうか悩んでたんだから。私のせいよ。申し訳ないわ」

「あらまぁ」続いてやって来たヒョニョンは、2人の話に笑い声を上げた。「私こそ申し訳なくて」

ヒョニョン「私がドラマのために中国ロケまで行かなきゃ、ここまでにはならなかったのに。こればかりは一日二日調整すれば済むわけじゃないから」
シネ「ちょっと、あんたが中国でドラマ撮るって?」
ヒョニョン「(ビクッ)」
シネ「タイトルは?」
ヒョニョン「ふふっ♪ まぁいいでしょ。中国語だから言っても分からないですよ」

「ヨジョン先生はなんでいらっしゃらないんだ?」ジュンモが小声で言う。

ジュンモ「新入りに電話してみろ」
ヒョングン「あいつの番号知らないんですけど。誰か知ってる?」
ミンジョン「私も知りません」

そこへユン・ヨジョンが現れた。「ちょっと人に呼ばれて遅くなったわ」

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女優陣が全員席につくと、ジュンモは携帯を取り出した。
鳴ったのは外でブラブラしているテホCPの電話だ。「あぁ、ジュンモ。うまく行ったか?」

テホCP(電話)「おぉ、そうか。すぐ行くから。そうだ、松の実粥はまだ出てないよな?」

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ファン・シネが向かいのクム・ボラにそっと囁いた。「いつ知ったの?」

ボラ「今日よ」
シネ「!」
ボラ「それもADが電話で言ってきたわ」
シネ「(呆れる)全くどうしようもないヤツらね」
ボラ「この業界はみんなそんなものよ」

「あなた中国に行くの?」ユン・ヨジョンがヒョニョンに尋ねる。

ヒョニョン「えぇ」

「先生、一杯どうぞ」ジュンモがヨジョンの元へやって来た。
「そりゃいただかなきゃ」ヨジョンがグラスを持ち上げて応えた。

ヨジョン「この番組、ラPDのためにやったのよ。わかってるわよね?」
ジュンモ「もちろんですよ!」
ヨジョン「やれない、出来ないってあんなに断ったのに、毎晩メールしてくるんだもの。いつも最後にハートをつけてね。それで私、押し切られちゃったんだから」

そこへヨジョンの前にケーキが差し出された。

ヨジョン「あらま!盆唐まで買いに行ったの?」
ミンジョン「はい。先生はここのケーキがお好きだって、ラPDが」
ヨジョン「この番組やろうって説得しに来るときだって、毎日ここのを買ってきたのよ。このお店のケーキはね、ランチタイムだけで売り切れちゃうでしょ?」

「ホント、ラPDには参ったわ」ヨジョンがジュンモの頬を撫でる。

ジュンモ「先生、これまで本当にお疲れ様でした」
ヨジョン「何よ?二度と会わない人みたいに。もう会ってくれないの?」
ジュンモ「いや、違いますよ~!お会いしますって。これまで僕がホント変なことばかりさせて不愉快だったでしょうに、一生懸命やってくださってありがとうございます」
ヨジョン「何言ってるの!これからも心配しないで。さっきも言ったじゃない。もっと頑張るって」

「…?」会場を沈黙が包んだ。

ヨジョン「?」

「新人は?電話してみたか?」ジュンモはスタッフを振り返った。

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そのころ、当の新人は渋滞のタクシーの中だ。

彼は携帯電話を取り出すと、連絡帳を開いた。
リストの中から彼がタップしたのは、『ドアをゴン』だ。
「あぁ、ペク・スンチャン!」電話の向こうの声がやけに明るく聴こえる。「どうした?見積りに変更でもあった?」

スンチャン(電話)「あ、そうじゃなくて、一泊二日の一番下の作家さんの電話番号、お分かりですか?急用なんです」

何の返事もなく、スンチャンは不安に襲われる。「もしもし、先輩?」

イェジン(電話)「あぁ、何でもないわ。誰の番号?」

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「ううん、8831よ。331じゃなくて」イェジンは電話番号を調べ、彼に伝えた。

イェジン「うん。他に訊きたいことがあったら、いつでも電話して」

1827

電話を切ると彼女は唸り声を上げる。「83万ウォンめ!ぶっ殺してやる!」

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そっと中を窺い、テホCPが打ち上げ会場に姿を現した。
「姉さん~!」わざとらしく奥へ走ると、ファン・シネの隣に滑りこむ。

テホCP「局長とやり合ってて遅れたんだ!」

皆が気まずそうに黙りこむ。

テホCP「ケーキのろうそくに火をつけろよ」

スタッフの一人がライターを伸ばした。

ヨジョン「局長とやり合うってどうして?」
テホCP「どうしてって!局長が先生たちにこんな仕打ちをしちゃダメでしょ!」
ヨジョン「何のこと?あ、そうだ!局長さんはどうしていらっしゃらないの?これからもっと頑張りましょうっていう集まりなのに、局長さんがいらっしゃらなきゃ」

「…。」テホCPの視線がギロリとジュンモに移る。

シネ「何?ヨジョン先生は続けるの?」
ヨジョン「続けるって何を?」
シネ「だって私たち全員降板なんでしょ?」
全員「…。」
シネ「どうなってるの?」

「どういうこと?」ヨジョンがスタッフの方を振り返る。
沈黙を破ったのは… ヒョニョンだ。「ちょっと待って」

ヒョニョン「これ、隠しカメラでしょ!」

彼女はニヤリとしてキョロキョロ皆を見渡す。

ボラ「そうなの?」
シネ「隠しカメラ?!」
ヒョニョン「きゃー恥ずかしい!」

「ラPD、どうなってるの?」ヨジョンの冷ややかな声がジュンモに飛ぶ。
「申し訳ありません、先生」ジュンモが頭を下げた。

ジュンモ「先日のロケが最後だったんです。先生方と今後もご一緒することが出来ずに、メンバーチェンジすることになりました」

「そうでしょ?そう聞いたわ」ボラが先に口を開いた。「それなのに、どうしてヨジョン先生はご存じないの?」

ヨジョン「みんなは知ってたの?」
シネ「私たちはさっき聞いたんです、先生。ラPDが話をしに、美容室の前まで会いに来たんですよ」
ヨジョン「…。」
シネ「本当に聞いていらっしゃらなかったんですか?」
ヒョニョン「あら… 本当に?」
ボラ「何てこと!(ジュンモに)お話ししてなかったの?」
ヨジョン「…。」

一番年下のスタッフ、ミンジョンが突然泣きだした。「ヨジョン先生が可哀想すぎるわ!」
隣のジヨンが慌てて口を塞ぐ。

+-+-+-+

ユン・ヨジョンとジュンモを除き、皆個室の外に出ていた。

ジヨン「新入りは今どこだって?」
ミンジョン「タクシーに乗ってるって。もう着くそうです」
ジヨン「何て子なの?!」

テホCPが隣のファン・シネに声を掛ける。「ここは私が何とかしますから、今日はこのままお帰りください」

シネ「バッグが中にあるのよ」
ボラ「何言ってるの、先生が気を悪くなさるわ」
ヒョニョン「そうですよ」

そこへ通りかかった配膳係の女性を、テホCPが呼び止める。

テホCP「うちの料理、いくつか残ってるでしょう?ストップしてないで運んでください」
配膳係「?」
テホCP「お怒りになる度に流れを止めなきゃいけないから。つまりね、外で聞いていて、”怒ってる!”と思ったら、そのときパッと入って」
配膳係「…はい」

そこへ廊下の向こうに誰かが駆け込んできた。
スンチャンだ。

#もーーー 怖いよーーーー 訳さなくて良かったらきっとこの前後飛ばしてるわ、私

「来たぞ!」テホCPが指さすや否や、皆が一斉に彼を責め立てる。
「シッ!」スタッフの中で一番年上のイリョンが皆を止めた。

イリョン「お前、何て話したんだ?」
スンチャン「これからは… バラエティよりドラマや映画で拝見したいって…。すみません」

「…。」皆が顔を見合わせる。

テホCP「やんわり上手く言ってるじゃないか。先生は何でお分かりにならなかったんだ?」

+-+-+-+

ビールをすするユン・ヨジョンの向かいで、ジュンモは正座をし、小さくなっていた。

ヨジョン「つまり、私たちが降板だっていうのを、さっき新人に言いに来させたの?」
ジュンモ「お返しする言葉もありません。なるべく先生が気分を悪くなさらないように、処理しようと…」
ヨジョン「処理?!」

ヨジョンが鋭い目で彼を睨む。

ジュンモ「!」
ヨジョン「処理するって?」
ジュンモ「…。」
ヨジョン「私は物なの?ゴミ?!」
ジュンモ「申し訳ありません」

そのとき、入り口の簾が上がり、テホCPがとスンチャンが入ってくる。

テホCP「先生、彼が戻ってきました」

テホCPはヨジョンの前でスンチャンを叱る。「ハッキリ申し上げなきゃダメじゃないか!」

テホCP「そんな言い方で先生がお分かりになるわけないだろ!」

スンチャンの腕を引っ張り、2人でジュンモの隣に並ぶ。

テホCP「ジュンモ、お前もだ!お前が自分で言わなきゃダメだろ。昨日入ったばかりのヤツにやらせてどうする?!自分で言えないなら、俺にでも相談すれば良かったんだ!」

「…。」ジュンモがやり切れずに目を閉じる。

テホ「俺は局長とやり合ってて、ここの状況をちっとも知らなかったんだから!」

「あんたは黙ってなさい」調子よくまくし立てるテホCPを、ヨジョンがバッサリ切った。「あんたの方が悪いわ」

テホCP「…はい」

+-+-+-+

彼らは全員並び、深々と頭を下げた。
女優陣が見向きもせずに店を出て行く。
最後にヨジョンが通り過ぎると、思わず皆から溜息が漏れた。

「すみませんでした」スンチャンがポツリと言った。

イリョン「(ジュンモに)先輩、こいつは俺がしめとくから。こんなヤツが入ってくるとはな」
ジュンモ「お前、先生に一体何てお話ししたんだ?」
スンチャン「…バラエティよりもドラマや映画で拝見したいって。チームに変化が必要だって」
ジュンモ「それで?」
スンチャン「…それだけです」
ジュンモ「おい、俺たちゃイルカか?超音波で意思疎通出来んのかよ?そんな言い方でどうやって分かる?」

その瞬間、ジュンモの頭にイェジンの声が降って来た。
「あんたみたいなヤツが一番タチ悪いの!自分の口からは言いたくないから、嫌な話は他人に押し付けるのよ」

ジュンモは思わず口を固く結んだ。「…。」

テホCP「それくらいにして。新入社員の歓迎会で酒でも飲もう。(時計をチラリ)こっちが思ったより早く終わったから、今行けばガーリックチキンもあるだろうし」

#お前にはやらん!

ジュンモ「何の歓迎会だって?新人社員歓迎会?!俺が行きたいと思うか?そんなわけないだろ。なぜって?俺はこいつを歓迎してないから!」

「俺はこいつのこと歓迎しない!」ジュンモがスンチャンを睨みつけた。
「…。」固まったまま、スンチャンは頭を下げようとした。

ジュンモ「謝るなよ!俺に何も話し掛けるな!いや、俺の前に顔を見せるな!!!」
スンチャン「…。」

+-+-+-+

スンチャンは人影のない夜道をふらふらと歩いた。
彼はひとりぼっちだった。

+-+-+-+

ジュンモが2次ホップの前へ辿り着いたところへ、ヘジュが出てきた。「ちょうど電話しようと思って出て来たの」

ヘジュ「中はいっぱいなのよ。2人で出ましょ」

「…。」ジュンモは彼女の顔をまっすぐに見つめる。「ヘジュ、お前に話があるんだ」

ヘジュ「え?どんな…?」
ジュンモ「…。」

彼は脳裏でイェジンの言葉を噛みしめる。「ダメだと思ったら、ハッキリ言って線引きするべきよ!別れにも礼儀ってものがあるのよ」

ジュンモ「お前は好きだし可愛いと思ってるけど、俺たちお前の望んでるような関係にはなれそうにない」
ヘジュ「…え?」
ジュンモ「付き合うのは…よそう。ごめん」

1828

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もう人がまばらになった芸能局に、スンチャンはトボトボと戻ってきた。
自分のデスクに辿り着くと、キャスターの一つ外れた椅子を引き、腰を下ろそうとしてまた引っくり返る。「!」
「…。」机にぶつけた腕を黙って押さえ、今度は慎重に座り直した。

しばらくぼんやりすると、彼は何気なく辺りを見回した。
後ろの机の上に、「ラ・ジュンモ」と名前の書かれた携帯プレイヤーが見える。
あそこがラPDの席か…。
こっそり椅子を入れ替えようとしたそのとき… 通りかかった先輩スタッフと目が合い、彼らは凍りついた。「!」

先輩スタッフ、イリョンは手にいっぱい赤ちゃん用品を抱え、気まずそうにスンチャンを見る。

イリョン「あぁ、これ?”スーパーマン”のチームが使わないって言うから。うちの子はまだ小さくてな。お前が歓迎会に来てないって、みんなが言ってたぞ。何で行かなかったんだ?」
スンチャン「あ… 僕が行くのはどうかと思って…」
イリョン「どうした?やらかしたからか?」

「…。」俯いていたスンチャンが、顔を上げて先輩を見る。

イリョン「何言ってんだよ、それでも行かないと。俺は子どもが待ってるから帰るぞ。お前は早く行けよな。場所は知ってるだろ?」
スンチャン「…。」

スンチャンの暗い表情に、イリョンはふっと息をつく。「お前も初日から大変だな」

スンチャン「先輩… 僕、これからどうすればいいですか?」
イリョン「…。PDに一番大事なのは何だと思う?」
スンチャン「…何ですか?」
イリョン「時間外勤務手当の申請だ。残るのはそれしかない。その都度入力するんだ。5日経ったら消えちまう」
スンチャン「…。」

「とにかく、俺はお前のこと歓迎するぞ」一番おっかなく見えた彼は、そう言って笑った。

スンチャン「…。」
イリョン「俺はな、手伝ってくれる人なら犯罪者だって歓迎だから」

「絶対やめんなよ」イリョンは茶目っ気たっぷりに言い、荷物を抱えて背を向けた。

スンチャン「…。」

再びぼんやりしたところへ、電話が鳴り出した。「?」
ラPDのデスクだ。「もしもし?」

「私、ユン・ヨジョンですけど」電話の向こうから聴こえてきたのは、ユン・ヨジョンの声だ。

スンチャン(電話)「あ!はい、先生!」
ヨジョン(電話)「そこ、ラ・ジュンモPDの席でしょう?」
スンチャン「はい、そうです」
ヨジョン「そこに何か届いてるはずだけど。うちのマネージャーが持って行ったのよ。あるでしょ?」

キョロキョロした彼は、机の上にあるピンクの包みに気づいた。「あ、はい。何かあります」

ヨジョン「ラPDにあげようと思った梅茶なの。こんなことになるんだったら、あんな高い梅、梅干しにして食べればよかったわ。まぁせっかく作ったものだから」
スンチャン「…。」
ヨジョン「徹夜するときにでも飲もうが飲むまいが好きになさい。毎日体に良くないコーヒーばかり飲んでるから元気がないのよ」
スンチャン「すみません」
ヨジョン「ラPDに必ず伝えてくださいな。あの子、気合を入れ直さないと。それから…」
スンチャン「はい」
ヨジョン「お陰で楽しかったと伝えて」
スンチャン「…。」
ヨジョン「もしもし?」
スンチャン「はい、必ず伝えます!」
ヨジョン「えぇ。ところで電話を受けてるのはどなた?」
スンチャン「あ、はい。さっき車でご挨拶した…」
ヨジョン「あぁ… あなたね。あなたのこと訴えるわ」
スンチャン「えっ?!」
ヨジョン「冗談よ」

#ちょ、ちょっとその誰得なお戯れ…

ヨジョン「芸能PDなのにまた冗談が通じないのね」
スンチャン「…。」
ヨジョン「名前は何?教えてくれないと。同じ番組をやったんだから」
スンチャン「ペク・スンチャンです」
ヨジョン「いいわ、ペク・スンチャンPD。難しい名前ね」

「今日はお疲れ様」そう言って、プツリと電話は切れた。

「…。」スンチャンは半ば放心状態で、梅茶の包みを抱え、デスクを離れた。

+-+-+-+

外は雨が降り出していた。
右手に梅茶、左手に傘を持ち、スンチャンは入り口でぼんやりと雨を眺める。

スンチャン「…。」

1830

虚ろだった彼の目は、どことなくスッキリとして、力が戻ったように見える。

後ろから出て来た人影が、恨めしそうに雨を見上げた。
シンディとマネージャーだ。

シンディ「マネージャーのくせに傘も持ってないなんて」
マネージャー「雨が降るなんて知らなかったんだ。車取ってこようか」
シンディ「ここに一人でいろって?」
マネージャー「じゃ一緒に走るか?」
シンディ「何考えてんの?濡れて行けって?」
マネージャー「…。じゃ、どーすりゃいいんだよ?」
シンディ「早く車取って来なさいよ!」

マネージャーが一人駆け出した。

シンディ「…。」

そこへ、後ろからそっと誰かが傘を差し出した。「使ってください」
スンチャンだ。

シンディ「…ありがとうございます」
スンチャン「あ、でも… この傘、僕のじゃなくて、さっき受付で借りたんです」
シンディ「…え?」
スンチャン「職員にしか貸さないものなんです。広げてみたらKBSって書いてあって」
シンディ「(キョトン)」
スンチャン「会社の物だから、返却しなかったら僕の給料から引かれるんです。あっちの受付に必ず返却を…」

「えぇ。持って行きます」シンディは苦笑した。
シンディが前に向き直ると、スンチャンが再び声を掛けた。「あの…」

スンチャン「もちろん返却してくれるでしょうけど、人はいつも思ったとおりに出来るわけでもないから、電話番号をいただけませんか?」

#ええー スンちゃん大胆ーーっ

「番号?」シンディが微かに呆れた表情を浮かべる。

スンチャン「はい」
シンディ「私が誰かご存知じゃないですか」
スンチャン「でも、番号は知りませんから」

シンディは溜息をついた。「分かったわ」

シンディ「それならあなたの番号をください」
スンチャン「あ、傘が返却されなかったときに、僕がそちらへ掛けるためですから」
シンディ「…分かったわ」

シンディはスンチャンの携帯を受け取ると、番号を打ち込み、スンチャンに返した。
彼はすぐさまその番号に掛けてみる。

#突然どうしたスンチャン?!

「もしもし?」男性が応えたので、スンチャンは慌てて電話を切った。

スンチャン「すみません… ご本人の番号じゃないみたいですけど」
シンディ「…。」
スンチャン「あ、ひょっとして誤解なさったかもしれませんけど、絶対にそんなつもりじゃなくて、万一の場合に僕の給料から…」

そのとき、上の方から若い女の子たちの下りてくる声が聞こえた。
番組観覧の客だろうか。「わかったわ」シンディがスンチャンの言葉を遮る。
「あなたの番号入れて」シンディが自分の携帯を差し出した。

彼女はその場でスンチャンの携帯を鳴らす。「これでいいでしょ?」

スンチャン「僕、一泊二日のペク・スンチャンです。僕の名前で返却してください」
シンディ「…一泊二日?」

シンディの脳裏によみがえったのは、昨日、突然誰かが買ってくれた夕食だ。
マネージャーは「一泊二日のPDだ」と、そう言っていた。

スンチャン「必ず3日以内にお願いします。一日遅れるごとに延滞料が僕の給料から…」

「分かりましたから」女の子たちの声がすぐ後ろまで迫ってきて、シンディは眉をひそめる。

黒いパーカーのフードを被り、スンチャンは雨の中を駆け出した。
彼の後ろ姿を静かに見送ると、シンディは傘を広げ、歩き出す。
彼女と入れ替わりに戻ってきたマネージャーが、慌てて辺りを見渡した。

+-+-+-+

夜8時
新入社員歓迎会 会場

「局長は俺に会いたがらないよな?」ホンスンが話し掛ける。
彼はさっき局長にいいところを見せようとして、見事に失敗したばかりだ。

「みんな、俺が言った本は買ってみたか?」テホCPは新人たちの前でニコニコと本を取り出した。
新人たちは困って顔を見合わせる。

テホCP「…。ところで、一泊二日の新人はどうしていないんだ?もうやめちまったのか?」
ジュンモ「知りませんよ」
テホCP「お前が来るなって言ったからじゃないのか?」
ジュンモ「…。」
テホCP「そりゃダメだろ。実際、ありゃあいつのミスか?一泊二日チーム全員のミスだろ」
ジュンモ「…。」

「あいつの番号は?」ジュンモが向かいのスタッフに声を掛けたとき、誰かがドタバタと入ってくるのが見えた。
スンチャンだ。
彼はピンクの包みを抱え、店の中を見渡した。

ジュンモ「…。」

そこへちょうど通りかかったイェジンがスンチャンを見つける。「あ、スンチャン!」

イェジン「こっちおいでよ、こっち!何でこんな遅かったのよ~!」

スンチャンは彼女に引っ張られるまま席についた。

イェジン「あんた、今日やらかしたんだって?」
スンチャン「…。」
イェジン「大丈夫だってば!ADのうちはね、失敗したって構やしないのよ。そのうち自分で番組を演出するようになったときにしっかりやれば、全部帳消しになるんだから。ね?」

イェジンは彼の肩を叩き、ニッコリ笑い掛けた。「ところで、お父さんから連絡あった?」

スンチャン「あ… はい」
イェジン「何て?ん?交渉出来たって?」
スンチャン「先輩がぼったくられた形になるのはマナーに反するから…」
イェジン「うんうん♪」
スンチャン「どうしても必要な分だけ貰うって」
イェジン「…。」
スンチャン「もともと87万ウォンって言われたんだけど、現金払いで4万ウォンまけてもらったんだって…」
イェジン「あぁ… そう」
スンチャン「…はい」

彼の肩に掛けていた腕を、イェジンが外す。「あんた、見習いよね」

スンチャン「はい。3ヶ月間」
イェジン「見習い期間にヘマしたら、クビになることもあるって知ってる?」
スンチャン「…え、え?」
イェジン「3回やらかしたらクビにしてもいいって書類に書いてあるわ。あんた、すでに1回やったわよね」
スンチャン「…。」
イェジン「あと2回ね。気をつけなさい」

「1回でクビにすりゃいいのに」イェジンはそう呟き、ビールを飲み干した。

スンチャン「…。」
イェジン「あんた、何でそこに座ってんの?自分のチームんとこ行きなさいよ」

「…はい」立ち上がったその時、後ろをジュンモが通り過ぎ、外へ出て行くのが見えた。

スンチャン「…。」

+-+-+-+

店を出たジュンモは、歩きながら深い溜息をついた。

ずっと後ろに、ゆっくりついて歩くスンチャンの姿が見える。
梅茶の包みを大切に抱え、それでも彼はジュンモに声を掛けられずにいた。

ジュンモは公園のベンチに腰を下ろすと、携帯を取り出す。
また溜息を一つつくと、彼はメールを打ち始めた。「先生、今日はお疲れ様でした」

「この一言を自分の口で言えなくて… 本当にすみません」

「…。」そして、彼は文章の最後にありったけのハートをつける。
送信ボタンを押すと、彼は雨上がりの春の空を見上げ、もう一度大きな溜息をついた。

1831

そこへ、ベンチの隣にそっとピンクの包みが置かれる。
「俺の目の前に現れるなって言ったろ」空を見上げたまま、ジュンモが言った。
黙って頭を下げ、スンチャンはクルリと背を向ける。

ジュンモ「おい、こりゃ何だ?」
スンチャン「?」
ジュンモ「聞こえないのか?何なのか聞いてんだろ」
スンチャン「さっき… 話し掛けるなって」
ジュンモ「これが何なのか言わなきゃダメだろ」
スンチャン「ユン・ヨジョン先生が先輩に渡すようにって」
ジュンモ「!」
スンチャン「その… 今まで楽しかったって、その言葉も一緒に」
ジュンモ「何だって?!お前、今頃言ってどーすんだよ!!!」
スンチャン「… 話し掛けるなって言われたから」
ジュンモ「それは言わなきゃダメだろーが!!!」

「全く何てヤツだ!」ジュンモが包みを開けるのを、スンチャンは静かに見守る。
中から出て来たのは、真っ赤な梅茶の瓶だった。

ジュンモ「…。」

+-+-+-+

ユン・ヨジョンは帰りの車の中でメールを見つめていた。
そこに並んでいるありったけのハートに、思わずふっと笑みをこぼす。

ヨジョン「…。」

携帯を置いた彼女は、静かに窓の外へ視線を移した。

+-+-+-+

新人歓迎会は穏やかに進んでいた。
楽しく飲む面々を眺めながら、テホCPはテーブルの上に開いた自著に視線を落とす。

『02 降板通告の理解
結局は人がやらなければならない』

+-+-+-+

帰りのタクシーの中で、イェジンは銀行のオンラインサービスを開いた。

イェジン「…。」

赤ちゃん用品とおみやげを抱え、イリョンは妻と双子の待つ家へ帰り着く。

シンディの後輩の練習生たちは、カメラに移らない練習室の陰で、こっそりチキンを頬張っていた。「超オイシイよね♪」

深く傘をさしたまま屋台のおでんを頬張る客に、周りの人は首を傾げた。
シンディだ。

+-+-+-+

ジュンモがアパートの前へ帰り着いたとき、ちょうど滑りこんできたタクシーからイェジンが降りて来た。

ジュンモ「なんだよ?もっと飲む雰囲気だったのに。何でこんな早いんだ?」
イェジン「みんな帰るって言うからさ」

後ろから歩いてきたスンチャンが、2人の後ろ姿に気づいて立ち止まった。「?」

イェジン「ねぇ、あんたのチームの新人さぁ、ぶっ殺しちまいな」

「!!!」聴こえてきた言葉に、スンチャンは凍りつく。

ジュンモ「言われなくてもそのつもりだ」
イェジン「あんたに出来なかったら私がぶっ殺すわ。スンチャンだか何だか、頭おかしいわよ」
ジュンモ「知ってる」
イェジン「今日やらかしたのだって、損害賠償要求しなさいよ。精神的苦痛への補償だとか、そういうので… 83万ウォンくらいにはなるんじゃないの?」

イェジンがアパートのエントランスを入って行くと、ジュンモが黙って後に続く。

スンチャン「…。」

スンチャンは一人、いよいよ深い溜息をついた。
ふと見上げると、上の廊下を二つの人影が歩いて行くのが見える。
イェジンとジュンモだ。

2人は廊下を慣れた足取りで一番奥まで進むと、端のドアの向こうへと揃って消えていった。

スンチャン「!」

1832

+-+-+-+

【エピローグ】

2ヶ月前
2次ホップ

ジュンモ「それで、どうするつもりなんだ?」
イェジン「どうするも何も。荷物はコンテナに預けて、考試院かモーテルに長期宿泊でもしなきゃ。あぁ、もうヤダ、飲みましょ」

その後しばらくして…。

ジュンモはイェジンの見守る前で覚書に拇印を押した。

イェジン「あんたさ、後で知らないなんて言うのナシだからね」
ジュンモ「言わないって!あのなぁ、男がうじゃうじゃいる考試院だのモーテルだのに行かせられるかってんだ!」

イェジンが微かに嬉しそうに目を伏せる。

イェジン「酔ってたからとか後で言わないでよ」
ジュンモ「今、拇印押したろ!これじゃまだ足りないか?」
イェジン「…。」
ジュンモ「OK! 俺がな、もっと確実なハンコを押してやる!」

そう言って立ち上がると、彼は両手で彼女の顔を引き寄せ、思い切り口づけた。

1833

+-+-+-+

ここでエンディングです。

もうピュアすぎるスンちゃんが危なっかしくて、途中から直視出来なかった私ですが、
シンディ相手に空気も読まずグイグイ行っちゃうところとか、ホント面白いキャラですよねぇ。
一つ一つ言葉を置くような話し方とか、上手くキャラ作ってると思います。

私はイェジン✕スンチャンの組み合わせが見てて楽しかったです。
姉御肌万歳♪
まぁ、彼女が優しくしてたのは、83万ウォンのためですが、それが変わっていってくれると嬉しいですね。

長い長い翻訳にお付き合いいただき、ありがとうございました。
Twitterのリプ、コメント、そしてコンタクトフォームからいただくメール、すべてありがたく拝見しています。
翻訳に精一杯でなかなか全てにお返事が出来ずにいますが、心から感謝しています。ありがとうございます。

 - プロデューサー

Comment

  1. migu より:

    はじめまして。大阪に住む50代のおばちゃんです。この歳になるまで韓国はどちらかと言えば嫌いで、ヨン様ブームも冷ややかに見ていましたが、突然キムスヒョンさんのトリコとなり、世界が一変しました。
    まったく韓国語がわからないので少しずつ勉強しています。
    貴女のおかげでプロデューサーの内容が手に取るようにわかり、本当に感謝しています。
    翻訳は大変な作業だと思いますが、なにとぞこんな初心者ファンの為にも最後までお願いします。切なる願いを伝えたくメッセージいたしました。よろしくお願いします(*^^*)

  2. ami より:

    こんにちは
    私は東京に住む50代のおばちゃんです。(笑)
    miguさん同様にこの一年でキムスヒョン君にはまってしまいました。
    翻訳ありがとうございます♪
    嬉しい限りです。

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