韓国ドラマから美しい言葉を学ぼう

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プロデューサー11話あらすじ&日本語訳 vo.2

   

キム・スヒョン、IU、コン・ヒョジン、チャ・テヒョン、出演、KBS韓国ドラマ「プロデューサー」11話、中盤です。

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シンディは不機嫌そうにクローゼットを眺めた。「もうちょっと華やかで高級な感じがいいって言ったはずだけど」

シンディ「あれこれ噂が立ってるのに、服まで安っぽかったら、余計みすぼらしく見えるわよ」

「はい」後ろでコーディネーターが言った。「頑張ってはいるんですけど、ピョン代表が…」

シンディ「ピョン代表が何?」
コーディ「協賛を全部ジニに移されたんです」
シンディ「…。」
コーディ「こんなことお話ししていいかわかりませんけど… 代表がおっしゃってました。”シンディの協賛で出る損害は責任取れない”って」
シンディ「…。」
コーディ「もうじきトラブルになるって」
シンディ「協賛が無理ならお金出して買いなさいよ。それならいいでしょ。私が今守らなきゃいけないのは、お金じゃなくて高級なイメージなんだから」

そこへマネージャーが飛び込んできた。「シンディ!」

シンディ「どうしたの」
マネ「今検索ワード1位が…!」
シンディ「何?」

「乞食シンディ」マネージャーが言う。

シンディ「何ですって?!」
マネ「3位は… 門付けシンディ」
シンディ「!」

※門付け=市場などで歌を歌い、物乞いをする人。

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「けどな、シンディ」車の中でマネージャーが言った。

マネ「誤解しないで聞いてほしいんだけど、雰囲気は悪くないぞ。君をネタにしたパロディーであちこち大賑わいだ」
シンディ「喜んでるの?」
マネ「いや、悪口言われてるわけじゃないから」
シンディ「ホント?」
マネ「あぁ。みんな面白いって。お前にピッタリだって」

シンディは大きな溜息をついた。「あのさ」

シンディ「それを悪口っていうのよ」
マネ「…。」

シンディはじっと目を閉じる。「…。」

マネ「正直、これも全部傘PDのせいなんじゃないか?変なことやらせやがって。だから俺はやめようって言ったのに」

「そうだわ!」シンディが突然勢いづく。「言うこと聞けば良かったのよ」

マネ「?!」
シンディ「あぁ、言うとおりにすれば良かった!」
マネ「(嬉)だろ?」
シンディ「ダメよ。考えれば考えるほど腹が立つわ!」
マネ「そうだよ!」

シンディは時計を見た。「時間あるでしょ?どうにも腹が立って仕方ないのよ」
携帯を開き、「傘」にメッセージを打つ。「時間があったら少し会いましょう」

傘(メッセージ)「はい、今大丈夫です。どこでお目にかかりましょうか?」

思わずシンディが顔を輝かせる。

#このときの ↑ のスンチャンの声がソフトでとてもいい♪

シンディ「すぐ出発して!汝矣島よ、汝矣島!」
マネ「おう!」
シンディ「私が直接会って文句言うんだから!」
マネ「(大喜び)」
シンディ「人にあんなことさせておいて、全く!あぁ、ホント腹が立つ!」

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イェジンの新居には、順調に荷物が運び込まれていた。
「姉さん」弟のイェジュンが声をかける。「教授に呼ばれたから学校行かなきゃ」

イェジン「うん、行って。あとはコンテナの荷物だけ来ればいいんだから」
弟「一人で大丈夫か?」
イェジン「そんなに荷物もないしね。行っておいで」

「何か違う気がするよ」イェジュンが家をチラリと見渡す。

イェジン「?」
弟「置いていくのは姉さんなのに、兄さんみたいに頼もしいんだから」
イェジン「行きなさいってば。お勉強なさってくださいな」

弟が出かけると、イェジンは電話を取り出す。「さっき電話した者ですけど」

イェジン(電話)「まだコンテナの荷物が届かなくて。え?まだ?だってさっき出発したって言ってたのに。早くお願いしますね」

イェジンは髪を後ろで束ねると、段ボールの荷物を解き始めた。

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「シンディ、俺が隣で事細かく言ってやろうか?」マネージャーはやる気満々だ。

シンディ「結構よ。知ってるでしょ、私が怒ったらどうなるか」
マネ「そうとう怖いさ」
シンディ「(頭を指し)私、ここまで血が昇ってて自制できないのよね」

「ここが待機室でしょ?」シンディがある部屋の前で止まった。

シンディ「私は中にいるから、ペク・スンチャンPDが来たら入れって言って」
マネ「(うんうん)」
シンディ「私が何やるかホントにわからないから、絶対誰も中に入れないでよね」
マネ「心配するなよ。誰も入れないように見張っててやるから」

シンディが中へ入ると、すぐにスンチャンが廊下の向こうから現れた。
マネージャーは腕を組み、意味深な笑みを浮かべてみせる。

マネ「PDさん、うちのシンディがどえらく怒ってましてね」
スンチャン「あぁ… そうなんですか」
マネ「機嫌をとっておかないとダメだと思いますよ」
スンチャン「…。」
マネ「人って言葉で殺せるんだなぁ、こういうのを真の毒舌って言うんだなぁ、そうお感じになることでしょうね」

「…。」スンチャンは神妙な面持ちでドアを見つめた。

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「これ、どうなさるおつもりですか」シンディは携帯画面をスンチャンに突き出した。
ネットに出回っている、「門付けシンディ」の合成アニメーションだ。

スンチャン「…。」
シンディ「乞食シンディ、物乞いシンディって大騒ぎじゃないですか」
スンチャン「はい、僕もさっき見てホントにビックリしました。全然予想できなかったことで…」
シンディ「予想できなかったからって、それで済むんですか?初めて私に交渉しに来たとき、何て言ってました?空に輝く星が神秘性を脱ぎ捨ててどうのこうの言ってたくせに」
スンチャン「だけど、僕は…」

スンチャンは携帯画面のアニメーションを見つめる。「…可愛いと思うけど」

シンディ「…。」

意外な言葉に、シンディは咄嗟に何も言えず、ハッと固まった。

スンチャン「すごくお怒りなのはわかるんですけど、大衆から遠く感じられるよりも、親しみやすくて近いイメージに生まれ変わるのも…」
シンディ「ふぅん」
スンチャン「?」
シンディ「それが”乞食シンディ”?」
スンチャン「…。」
シンディ「”門付けシンディ”?!」
スンチャン「人にそう言われるのは、シンディさんの立場からみれば当惑するだろうし、気分が悪いかもしれませんけど、それは本当に”お前は乞食みたいだ、小汚い” そういうのじゃなくて」
シンディ「そういうのじゃなくて?」
スンチャン「一種のキャラクターとして受け入れてはいかがですか?その結果生まれるイメージは”可愛い”」
シンディ「…まぁ、いいわ。それから?」

「えっと」スンチャンが一生懸命考えを巡らせるのを、シンディはじっと見つめた。「…。」

スンチャン「そばに置きたくなって…」
シンディ「(ドキリ)…そばに置きたくなって?」
スンチャン「それで、毎日会いたくなる…」
シンディ「毎日… 会いたくなる?」
スンチャン「何ていうか、愛らしさの結晶体みたいな」
シンディ「乞食シンディが?」
スンチャン「…。」
シンディ「ほらね、答えられないじゃないですか。どう責任とってくださるんですか?」
スンチャン「え?」
シンディ「何ビックリしてるんです?私、最初にハッキリ言ったでしょ?この番組、PDさんだけ見てやるからって」
スンチャン「…。」
シンディ「それなのに、私のことメチャクチャにしておいて、責任はないって?」

「これ、ホントにダメになったわけじゃないのに」スンチャンは、悔しそうに携帯のアニメーションを見つめる。

シンディ「あのね、1つキャラクターが付いたら、それがずっと続くんです。一度おバカキャラになったら、ちゃんと覚えてる九九だって間違えなきゃいけないし、生意気キャラになったら、いい気分のときでもテレビに出るたびにイチイチ文句つけなきゃならないの。おデブキャラになったら、お腹が張り裂けそうなときでも、食べ物さえみたら目の色変えなきゃ」
スンチャン「そ、そういう面はあります」
シンディ「だから!最初につくキャラがすごく大事なのに、私はそれが乞食になっちゃったのよ。私、これからどこに出ても卑屈に振る舞わなきゃいけないの?」
スンチャン「…。」

「私だったらめちゃくちゃ申し訳ないことしたと思うだろうけどな」シンディがポツリと言う。

スンチャン「申し訳ないです」
シンディ「でしょ?申し訳ないでしょ?」

「はい」スンチャンの声はもはや消え入りそうだ。

シンディ「それじゃ、私考えてみるわ。PDさんが罪滅ぼしにどうするべきか」
スンチャン「あ…だけど、このキャラクターが可愛いのは本当に事実です」
シンディ「お待ちになってて。思いついたらお話ししますから」
スンチャン「…はい」

シンディは彼から顔をそむけ、勝利の喜びを押し隠した。

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ドアの外でマネージャーはじっと耳を澄ましていた。「そろそろ大声が聴こえてもいい頃なのに」「もうタイミング過ぎてるぞ」「ビックリして気絶したんじゃないか?」

そこへいきなりドアが開き、マネージャーは思わずひっくり返った。
中からスンチャンとシンディが出てくる。

シンディ「撮影でお会いしましょ」

「はい、それでは」スンチャンが浮かない表情で背を向けた。

マネ「あれ?シンディ?」
シンディ「何?」
マネ「…。」
シンディ「何よ?呼んだんなら何とか言いなさいよね」
マネ「…何でもない」

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ヤンミは若いスタッフたちを連れてカフェにいた。

ヤンミ「私がスペインにいるときはね、皆、紙をずっと大事に使っていたわ。裏も使って、その後は消しゴムで消すのよ」
皆「へぇ~!」

そっと店の外で彼女の様子を窺うと、ホンスンは電話を掛けた。
すぐにヤンミの携帯が鳴り始める。
彼女は拒否をタップし、携帯を裏返した。

ホンスン「!」

彼は次にメッセージを打つ。「コ・ヤンミさん、お話ししたいことがあるんです。連絡ください。待っていますから」

着信音が鳴ると、ヤンミは一瞬チラリと携帯に目をやっただけで、同僚たちと話を続けた。

ホンスン「!」

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すっかり暗くなっていた。
「あいつ、全然電話に出ないんだから」鳴り続ける呼び出し音を聞きながら、ジュンモは車を走らせる。

ジュンモ「引っ越しは無事済んだのか?」

呼び出し音が、留守番電話サービスに切り替わった。

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マンションの前で、イェジンは業者と揉めていた。

業者「僕は運転だけなんだ。ここから荷物を運ぶなら、もっと人を頼んどかないと!」
イェジン「最初と全然話が違うじゃないですか!荷物も運んでくださるって、ハッキリおいっしゃいましたよ」

「知らん。事務所と話してくれ」業者の男性は突き放す。「僕は帰らないと」

イェジン「事務所は電話に出ないんですから。朝着くはずの荷物だって、夜になったんだし」
業者「荷物を運ぶなら、最初からもっと人を頼まないとダメですよ!」
イェジン「あ、つまり追加金を要求なさってるんですか?」

業者の男性は、答えにくそうに咳払いをした。
「私、気が利かなくてすみません、いくらくらいなら…」イェジンが財布を出した時、誰かがそれを乱暴に掴んだ。「!!!」

「先輩」スンチャンだ!

スンチャン「これは残りの支払いに充てますから」

二人はニッコリ笑い合う。

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「来るなって言ったのに、この子ったら」家に戻ってくると、イェジンが言った。「だけど、来てくれて助かったよ」

イェジン「あんたがいなきゃどうなってたことか」
スンチャン「(笑)僕、下りて残りのソファとマットを持って来ますね」
イェジン「ううん、一緒に行こう。重いから」

「行こう」再び玄関へ向かったとき、チャイムが鳴った。「あれ?誰かな?」

スンチャン「あ、蒸し餅を頼んだんです」
イェジン「え?♪」
スンチャン「お隣り、上の階、下の階、全部配ろうと思って」
イェジン「わぁ、あんたってホント!」
スンチャン「エヘッ♪♪♪」

さっそくドアを開けると、スンチャンの笑顔が消えた。「!」
そこに立っていたのは、大きなマットを抱えたジュンモだ。「おい、さっさと開けろよ」

ジュンモ「重くてたまんねーな」

スンチャンがマットを受け取る。「先輩」

ジュンモ「お前、資料探せって言ったのに、ここで何してんだよ?」
スンチャン「探します!これをお手伝いしたら、徹夜して全部やりますから」

ジュンモはそれ以上何も言わず、家の中へ入った。

スンチャン「そういう先輩こそ、さっきマネージャーたちに会いに江南まで行くって」
ジュンモ「会いに行くって。ここで晩メシ食ってからな」

「二人とも来ないでって言ってんのに」イェジンが呆れて言う。「ホント言うこと聞かないのね」

イェジン「あんたたち二人とも、今日ここに来たの心底後悔させてあげるから!」

イェジンがえらくはしゃいだ様子で言った。「早く荷物解こう。お腹空いちゃった。さっさと終わらせて、ご飯食べようよ」

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ジュンモとスンチャンはせっせと荷解きに精を出した。
テープが上手く剥がれず、ジュンモがスンチャンに言う。「おい、ハサミくれ」
スンチャンはそれを完全に無視し、持っていたハサミをテーブルに置いて背を向けた。

ジュンモ「!」

イェジンが黄色い布巾を広げる。「スンチャン、これは掃き出し窓用だよね?」

スンチャン「はい!ピンポン!」
ジュンモ「何がピンポン!だよ」

「新聞紙に勝るものはないぞ」荷造りに使っていたクシャクシャの新聞紙を広げ、ジュンモはそれで窓を吹き始めた。

#私もこうやって拭いてる!

イェジン「おぉ~♪」
スンチャン「…。」

スンチャンは自分がプレゼントした白い花を青い綺麗なガラス瓶に挿し、嬉しそうに笑った。「ふふっ♪」
入れ替わりにやって来たジュンモは、白い花を見て顔を歪め、花の代わりにヘアブラシを突っ込んだ。

幼いころの自分たちの写真フレームを、ジュンモは綺麗に磨き、机の上に飾る。
入れ替わりにやって来たスンチャンが、その上から自分とイェジンの写真を重ねた。「ふふっ♪」

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二人はチェストをヨロヨロと運び入れる。息が合わず、家具が柱にぶつかった。「おい、新築なんだぞ!」

ジュンモ「お前がこっちに回らないと入れないって!」

狭い入り口を入ろうとして、ジュンモは足をぶつける。「あ!」

ジュンモ「痛え!」

「大丈夫ですか?」スンチャンが思わず笑いを噛み殺した。

ジュンモ「お前、わざとだろ!」
スンチャン「(首をブルン)違います」

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新聞紙を広げ、3人はようやく夕食にありついていた。

スンチャン「そう言えば、来る途中で何か買おうと思ったんですけど、この辺スーパーがありませんね」
イェジン「うん。入居者が少ないから、テナントもガラガラなんだって。何か買おうと思ったら、他の団地まで10分くらい歩いていかなきゃ」
スンチャン「夜は危ないんじゃないですか?」
イェジン「…。」
ジュンモ「何が危ないんだよ。イェジンお前な、顔だけは明るいところに出して、しっかり見せながら歩け。そうすりゃ危ないことなんかないぞ」
イェジン「全く…。街灯の明かりが当たらないのよ。だから顔を見せられないかも」

「そりゃちょっと危険だな」ジュンモがふざけて笑った。

スンチャン「街灯がないのは、役場に要望を出したほうがいいんじゃないですか?」

「そうね」イェジンが頷く。

ジュンモ「すぐ要望出せよ。顔を見せないと危険だからな、お前は」

「あんた!」イェジンがジュンモに怒る。
じゃれあう二人を、スンチャンは今度も寂しそうに見つめた。

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ジュンモとスンチャンが揃って玄関へやって来る。

イェジン「遅くなっちゃって」
ジュンモ「大丈夫だって。道が空いてるからすぐだ」
イェジン「ねぇ、ジュンモ、スンチャンこの子、車じゃないんだって。乗せてやってよ」
ジュンモ「俺は江南に行かなきゃならないんだ!」
スンチャン「僕だって大丈夫です!バスに乗ればすぐですから」

二人とも意地だ。

イェジン「そう?じゃあ、いいけど。気をつけてね、二人ともありがとう」

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「…。」スンチャンは一人バス停に佇んでいた。

そこへ一台の車が通りかかると、彼の目の前へバックで戻ってくる。
運転席でジュンモが渋い顔を向けた。「乗れよ」

スンチャン「いいんです。江南へいらっしゃるって」
ジュンモ「行かないことにしたから。乗れって」
スンチャン「僕のために?」
ジュンモ「バカか?疲れたから行くのやめたんだ。乗るのか乗らないのか、どっちだ?乗らないなら行くぞ」

ジュンモがゆっくりアクセルを踏んだのを、スンチャンは追いかけた。

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車の中は静まり返っていた。
ジュンモの携帯の音が妙に響く。ジュンモがイヤホンをつけた。「おう、イェバル」
「…。」スンチャンがチラリと彼を見る。

ジュンモ(電話)「爪切り?あれは1つしかないんだ。自分で買えよ。俺だって切らなきゃいけないんだから。あぁ、1つ買えって」

「あはは」ジュンモが何やら楽しそうに笑う。「あぁ、そうだな。それはお前が持ってろよ」
「はぁ、全く」ジュンモはポツリといい、ニコニコしながらイヤホンを外した。

スンチャン「…。」

2053

「僕にとっては…」スンチャンが静かに口を開く。

ジュンモ「?」
スンチャン「先輩が”40%”のように思えます」
ジュンモ「何?」
スンチャン「全シーズンの視聴率を合わせても届かない… いくら努力しても手に入らない、夢の視聴率です。先輩は」

じっと前を向いているスンチャンの横顔を、ジュンモはそっと窺う。「…。」

スンチャン「心から… 羨ましいです」
ジュンモ「…。」

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シンディは車の中で自分のSNSに投稿した。

「門付けシンディです。私が出てる一泊二日、一度だけ見てください~」

自ら”門付けシンディ”と名乗り、アニメーションをつけて投稿ボタンを押す。
踊っているアニメーションを見つめ、彼女はニッコリ笑った。

2054

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一週間後。

ヤンミが新しい視聴率表を掲示板に貼った。

【一泊二日 6.2%】

ジュンモ「!」

#心底ガッカリだ…。実際どんな放送だったのかさっぱりわからないことも含めて。

ジュンモが深い溜息をつき、ガックリと掲示板に倒れこむ。
そこへやって来たのがイェジンだ。
彼女はうなだれるジュンモの肩を黙って叩いた。

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呆然と局内を歩くジュンモの後ろで、スターウォーズのPDの元へ人が集まっているのが見える。
「よろしく頼むよ」「こちらこそ」いつも人が集まるのは、勢いのある人間の元だ。

ジュンモ「…。」

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ジュンモが来る前に、皆が揃っている一泊二日チームの元へ、テホCPと局長が来ていた。

テホCP「イリョンもヒョングンもスンチャンも、みんな行こう」

皆がぎゅっと唇を噛みしめる。

テホCP「局長がおごってくれるなんて、なかなかないんだぞ」

そこへジュンモが来て、頭を下げた。

テホCP「ジュンモ、お前も行くか?」
ジュンモ「何だ?」
イリョン「局長がおごってくださるって」

「あぁ、ジュンモも行こう」局長が穏やかに言う。

ジュンモ「…。」
テホCP「(局長に)ジュンモは小麦粉が好きじゃないんですよ。(ジュンモに)弘大の手作りバーガーの店に行くんだ」

そこへスターウォーズのPDがやって来た。「局長、これから出るんですか?」

局長「あぁ、行こう」

「…。」テホCPとジュンモが黙って顔を見合わせる。気まずい空気が流れ、スンチャンが二人の様子を素早く窺った。

~~~~

ジュンモ(インタビュー)「手順ってヤツですよ。新しい番組を立ち上げるには、人出が必要だから。あいつらを奪っていくつもりなんだ。新しいメインPDと予め仲良くなっておかなきゃいけないし。ちょっと非情だけど、必要なプロセスだから。あいつらにとっちゃいいことでもある」

~~~~

「あ、俺は小麦粉食べたら胃もたれするから」黙りこむ部下たちの前で、ジュンモは努めて明るく断った。「どうぞ行って来てください」
ジュンモを残し、皆ぞろぞろと局長についていく。
最後に歩き出したスンチャンが、立ち止まった。「あ、僕もあまり小麦粉が好きじゃなくて。皆さんで行ってください」

ジュンモ「…。」

+-+-+-+

静かな局内のベンチで、ジュンモとスンチャンは二人肩を並べていた。

ジュンモ「なぁ、お前、高級手作りバーガー断って、こんなもの食っててどーすんだよ」
スンチャン「いいんです」

二人が頬張っているのは、高級ではないハンバーガーのようだ。

ジュンモ「何で… みんな観ないんだろうな」
スンチャン「ですよね。観ていた人まで…どうして去ってしまったんでしょう」
ジュンモ「マジでわからん。誰かが冷静に説明してくれたらいいのに。何で俺じゃないのか、何で他のヤツは上手く行って俺はダメなのか」
スンチャン「もしかして、僕の作った予告が今ひとつで、この間先輩がおっしゃったように、予告のせいでダメになったんじゃないかって…」
ジュンモ「こいつ!生意気だな」
スンチャン「?」
ジュンモ「お前と俺は格が違うんだ。メインだけが背負える視聴率の重みを分け合おうとすんな!」
スンチャン「それでも僕だってこの番組のPDですから」
ジュンモ「PDってのは”血ヘド”なんだ」

※핏덩이(ピットンイ)=血の塊、血ヘド。ピットンイという文字の頭文字を取ると、”PD”になります。

スンチャン「もちろんそうですけど、僕は入社以来、もうあらゆることを経験したと…」
ジュンモ「おい!これはメインだけの特権だぞ!良かった時の喜びも、悪かった時の恥も屈辱も、メインだけが背負えるものだ。俺の屈辱を持って行くな!」
スンチャン「…。」

意地が変な方向に向かい、ジュンモはふと我に返った。
フライドポテトを一本つまみ、スンチャンに差し出す。「ポテト食うか?」
「…。」スンチャンは黙ってポテトをパクっと咥えた。

ジュンモ「マジでわからん!」

+-+-+-+

スンチャンが小さな紙袋を抱え、嬉しそうにやって来たのは、ミューバン班のエリアだ。
そこはガランとしていて、唯一いたタジョンがチラリと彼を見た。「そこに置いてってください」

スンチャン「え?」
タジョン「私に渡しにいらっしゃったんじゃないんですか?そのプレゼント」

スンチャンが手に抱えた紙袋を見る。
「ち、違いますけど!」スンチャンは慌ててそれを背後に隠した。

タジョン「…。それなら?」
スンチャン「イェジン先輩にお渡ししようと思って」
タジョン「…。」
スンチャン「どこかにお出かけですか?」
タジョン「えぇ、ステージセットを見に」

「…。」スンチャンはひどく警戒しながらタジョンの後ろを通り過ぎ、奥にあるイェジンの席へ向かった。
紙袋に小さな封筒を入れ、机の上に置く。
そして、再び細心の警戒を怠らず、またタジョンの後ろを通り過ぎ、ミューバン班のエリアを出た。

#何なの 笑

と、その瞬間、タジョンがイェジンの席へ向かう。

スンチャン「あ、ちょっと!イェジン先輩が戻られたら、必ず伝えてください!それ、イェジン先輩だって」
タジョン「わかりました」

+-+-+-+

戻ってきたイェジンはさっそくスンチャンの置き土産を開けてみた。
中から出て来たのは、先にライトがついたペンだ。
カチッとスイッチを入れると、周囲が明るくなった。

イェジン「ペク・スンチャン、ホントきめ細かい子だわ」

封筒を開けると、小さなカードが出て来た。

【先輩、残りの返済分、今晩まとめて返してもらっちゃいけませんか?】

イェジン「…。」

そこへタジョンがやって来て、目の前に書類を置いた。
彼女は背を向けざまにポツリと言う。「三角関係ですか?」

イェジン「えっ?!」
タジョン「目の下のクマが濃くなってますけど」
イェジン「…。」
タジョン「そういう悩みじゃないかと思って」
イェジン「あ、そうだ。タジョン、あんた恋愛が得意なんだよね?」
タジョン「はい」
イェジン「(笑)躊躇いもせずにすぐ認めるのね。何人とつき合ったの?」
タジョン「数えたことないからわかりませんけど」
イェジン「わぁ、お金持ちが自分の通帳にいくら入ってるのか知らないのと一緒ね」

イェジンはケラケラと笑う。「私とコーヒーでも飲まない?」

+-+-+-+

イェジンはタジョンを連れ、カフェに来ていた。

タジョン「つまり、PDさんには20年を超える男がいて」
イェジン「ちょっと、私の友だちによ、私じゃなくて」
タジョン「相変わらずですね。本題だけおっしゃってください」
イェジン「そうね。えーと、つまり」
タジョン「20年以上つき合いのあるボーイフレンドのことが好きなんだけど、ニューフェイスが現れたってことじゃないですか」
イェジン「…。」

「魅力的な」タジョンが付け加える。

イェジン「要約するなら、まぁそうね」

タジョンが指を2つ前に出した。「解答は2つ」

イェジン「やっぱり明確ね、あんた」
タジョン「一つ目は、二人ともつき合う。二股です」
イェジン「…。」
タジョン「結婚したら出来ないでしょ」

「…。」イェジンは敢えて突っ込むのを避けた。「それで、二つ目は?」

タジョン「申し訳ないと思う方を… 捨てるんです」
イェジン「…?」
タジョン「申し訳ないと思ってたら、つき合えません」

2055

どこか悲しげなタジョンの言葉に、イェジンはじっと思い巡らせた。

+-+-+-+

「はい、わかりました」電話を済ませると、シンディのマネージャーは首を傾げながら車に戻った。

マネ「シンディ、家に代表がいらっしゃってるって」

シンディが静かに目を開ける。「私もいない家にどうして?」

マネ「マスターキー持ってるだろ」
シンディ「何で来てるの?」
マネ「記者と一緒だって言ってたけど」

「…。」シンディの不安が高まった。

+-+-+-+

マネージャーの言葉通り、シンディが帰ってみると、ピョン代表が記者とカメラマンに囲まれていた。

シンディ「何のつもりですか?」
ピョン代表「ミン記者、ごめんなさいね。私が甘やかして育てたせいで、礼儀がなってなくて」

「シンディ、まずは記者の方に挨拶なさい」ピョン代表が余裕たっぷりに微笑む。

シンディ「ミン記者、代表と親しいから私の記事を単独でお書きになるのはわかりますけど、私のいない家に先に入って待っていられるのと困ります」

ミン記者は黙って微笑む。

シンディ「何の御用です?」
ミン記者「シンディさんの近況インタビューですよ」

シンディが冷ややかに笑う。「こんな夜に突然?」

ピョン代表「あなたもアルバム活動が終わるでしょう?あれこれ全部やることも出来ないし、一番良く書いてくださるミン記者に、グッバイインタビューを頼んだのよ。場所は外より家のほうが落ち着くだろうと思って、ここにしたのよ」
シンディ「…。」
ピョン代表「怒ってないで、お掛けなさい」

+-+-+-+

「シンディさん」インタビューが始まった。

記者「活動をしばらく休まれる間、休暇に出掛けられるんですか?」」
シンディ「どうでしょうね。時間があったらそうしたいです」
記者「休暇に出られるとき、普段はどこにいらっしゃるんです?あぁ、ご両親のいらっしゃるアメリカに?」
シンディ「…。」

~~~~

「シンディ、スターって何だと思う?」何年も前、まだ幼かったシンディにピョン代表が言った。。

ピョン代表「星よ。人々が憧れる存在なの。だけど、あなたがご両親を二人とも亡くして、一人ぼっちなのが知れたら、人はあなたに憧れるんじゃなくて、同情するわ。それはスターに似つかわしくないの」
シンディ「…。」
ピョン代表「シンディのご両親はアメリカに住んでいらっしゃる。シンディはそんなご両親にたっぷりの支援と愛情を受けて、ステージで輝く星よ」
シンディ「…。」
ピョン代表「いいわね?」

~~~~

ずっと昔ピョン代表に言われたことを思い出し、シンディは身をぎゅっと固めた。

記者「前にインタビューしたとき、ご両親はビバリーヒルズでプールつきの大豪邸に住んでいらっしゃるってことでしたよね?」
シンディ「待…ってください」
記者「ひょっとして、今度の休暇にご両親のお宅へいらっしゃるのなら、我々取材陣にお宅を公開するご意向は?一度も公開なさっていませんが」

「…。」シンディの頭は完全に混乱していた。

記者「話が出たついでに、もう少しだけ伺います。お父様は有名なアイビー・リーグの大学で教授をなさっていて、お母様は音楽をなさっていると知られていますが、私どもの方で取材をしてみたところ、該当する大学にそういった教授はいらっしゃらないようで」
シンディ「…。」
記者「それに、音楽をなさっているお母様もやはり、在住韓国人の中にそんな名前は全く知られていないようですね。どういうことなのか、説明していただけますか?」

~~~~

かつて、ピョン代表は記者を事務所に集め、幼いシンディを従え、こう発表した。

ピョン代表「私どももシンディから聞いてわかった話なんですが、シンディのご両親はとてもご立派な方々なんです。お父様はアメリカのアイビー・リーグの大学の1つで生命工学分野の教授として名高い方であり、お母様はクラシック音楽を専攻なさっていて、今は後進の育成にご尽力なさっているそうですわ。シンディはお母様の方に似たんでしょうね」

~~~~

「何かの間違いでしょう」黙りこんでいるシンディの代わりに、ピョン代表が言う。「もう一度取材してみてくださいな」

ピョン代表「もちろん私たちもアメリカの家に行ったことはないですけど、シンディが14歳のときから話していたことですから、まさか事実じゃないわけがないでしょう?」

平然と自分を売るピョン代表を、シンディは愕然と見つめた。

ピョン代表「ご両親の話だけ取り上げたってそうですわ。シンディがどれだけご両親を自慢に思っているか」
記者「それなら、シンディさんのご両親にお会いになったことはあるんですか?」

「え?」ピョン代表が大げさに驚いてみせる。

ピョン代表「あぁ、私も会ったことはありませんよ。いつもシンディを通して聞いていただけですから」

「ピョン代表!」シンディがたまらず遮る。

ピョン代表「何?」
シンディ「一体どういうつもりですか?」
ピョン代表「シンディ、驚くことはないわ。記者の方に正直に真実をお話しすればいいの。やましいことがないなら構わないでしょう?」

「シンディさん、どうなさったんです?」ただならぬシンディの様子に、記者が尋ねた。

記者「この件について、何かおっしゃることがあるなら、どうぞ」

「カメラを止めてください」消え入りそうな声で、シンディが言う。
彼女の目から涙が流れ落ちた。

2056

カメラマンが記者を見上げると、記者は「そのまま」と手で合図した。

シンディ「カメラ、止めてください」
ピョン代表「何?カメラの前じゃ言えないことなの?」
シンディ「…。」

「私の両親は…」ピョン代表を見据えたまま、シンディは震える声で切り出した。

シンディ「…アメリカにはいません」
記者「え?」
シンディ「どこにもいません。幼い頃亡くなったんです。私の家はビバリーヒルズにあるプール付きの大邸宅でもないし、亡くなった両親は著名な教授でも音楽家でもありません。私の家は春川にあって、とても小さくて温かくて…。両親はお金持ちじゃなかったけど、愛情たっぷりで正直な方たちでした」

2057

シンディ「だけど、そんな嘘をついたのは、私が14歳のとき、事務所の代表が…!」

「やめましょう」ピョン代表が素早く話を遮る。

シンディ「!」
ピョン代表「ずいぶん興奮しているわ」

「あぁ、はい」記者はピョン代表の言葉には即座に従った。「カメラ止めてくれ」

シンディ「!」
ピョン代表「これはとてもデリケートな部分だし、事務所でも把握していなかったことだから、まずは事実の把握が大事ね」

じっと見守っていたキム室長が物憂げに溜息をつき、その後ろでシンディのマネージャーが愕然と立ち尽くす。

ピョン代表「ミン記者もお手柔らかにしてくださいな。アーティストが自分の背景について、こんなとんでもない嘘をついたなんて、大衆は絶対受け入れない部分よ。今さら嘘でしたと言って済むことじゃないわ」

呆然とするシンディを、ピョン代表は満足気に見つめた。

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