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夜警日誌あらすじ&日本語訳7話vol.1

   

チョン・ユンホ(東方神起ユノ/ユンホ)、チョン・イル主演、「夜警日誌」7話前半、ドラマのあらすじを掴みながら、台詞を丁寧に日本語に翻訳していきますね。

では、さっそく♪

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「どうした?」部屋の前で怒りに悶えていたトハに、サンホンは尋ねた。

トハ「!」

慌てたトハは、咄嗟に部屋の扉を押さえた。

トハ「いいえ!何でもありません!」
サンホン「…。」
トハ「あははっ♪ 」

サンホンはトハの足元に視線を移す。
そこには履物が二つ。

「あっ!」トハはリンの履物の上にドスンと尻もちをつくと、わざとらしく床を触った。

トハ「床に埃が…。ふふっ」
サンホン「…。」

全く誤魔化せていないトハが可笑しくて、サンホンは思わず笑う。
咳払いを一つすると、彼はトハの部屋の前を立ち去った。

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静かな部屋で一人になったリンは、ズシンと重い気分に陥っていた。

誰かが自分の命を確かに狙っている。
あの刺客は一体誰が送り込んだのだろうか。
自分は何もしていないのに、なぜ突然ここまで追い込まれてしまったのか…。

どうにももどかしくなり、リンは部屋の外へ出た。
皆が寝静まった真夜中の宿は、物音一つしない。

ふと下を見上げると、階下の食卓に突っ伏してすやすや眠っている人間が一人。

トハだ。

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「…。」無垢な寝顔を、リンはしばらく黙って眺める。
部屋から掛け布団を持ってくると、上から彼女めがけてフワリと落とした。

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街の中の掲示板には、大々的にリンの手配書が貼られた。

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#身長六尺三分=182cm^^

武官「月光大君の潜伏先を通報した者には、大いに報酬を与える」

また、街の関門や店、あらゆる場所で、手配書を元に厳しい検問が行われた。

公に捜索をしている武官たちの他に、一般人を装い、隠密にリンを探している男たちが街中に散らばっていた。
領相パク・スジョンの私兵たちだ。

領相(声)「殿下よりも先に、お前が大君を見つけるのだ。都じゅうをくまなく探してでも、必ず見つけ出せ!」

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キサン君の方でも、領相の動きに神経を尖らせていた。

キサン君「領相が月光大君を匿っているに違いない」
右相「領相の陣営に人を送り込んであります。じきに知らせが入るでしょう」

「殿下!」ちょうどそこへ別の大臣が走ってきた。

大臣「領相が軍を動かしました。軍を都から十里先に集結させているようです」
キサン君「何と!」

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朝議に臨んだキサン君の表情は実に厳しかった。

キサン君「領相!なぜ軍を動かしているのだ?」
領相「なぜと申しますと?定期的な訓練をさせようとしただけでございます、殿下」

「そうでしょう?兵判」領相の問いに、兵判は「その通り」と頷いた。

「領相!!!」キサン君が机を思い切り叩くと、正殿の空気が一気に緊張に包まれる。

キサン君「大胆にも余を脅すのか?」
領相「殿下、なぜそのような聞くに忍びないことを。殿下を脅そうなどと考えるわけがございません」
キサン「余は必ずや月光を捕らえる!月光を捕らえて!私を呪うよう唆した黒幕が誰なのか、必ずや明らかにする!」
領相「ならば、月光大君に刺客を送ったものが誰なのか、それも明らかになさいませ」

二人の視線が鋭くぶつかった。

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ムソクの放った矢は美しい弧を描き、的の中央に突き刺さった。
「命中!」判定係が向こうから大声で叫ぶ。

表情一つ変えず、的を見つめるムソクの隣で、今度は友人のテホが矢を放つ。
ヒュルンと音を立てると、彼の矢は的の横を静かに通り過ぎる。「不通!」

「こう思い通りにならないものは一番性に合わん」テホはさほど悔しい表情も見せず、弓を放り出した。

テホ「何でこんなものに力を費やさなきゃならないんだ?」

ムソク:
뜻대로 안되는 것에 마음을 모아
이루고 났을 때의 성취감.
바로 그것 때문에 하는 것이야.
思い通りにならないものに心を集中させ、
成し遂げた時の達成感。
まさしくそのためにやるんだ。

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再びムソクの矢が的のど真ん中を貫いた。

テホ「確かに… 君は心中穏やかじゃないだろう」
ムソク「…。」
テホ「君の叔父殿はなぜ君の翼を冷淡に奪ってしまったんだ?なぜ君を切り捨てる?」

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「…。」ムソクは次の矢を弓にこめる。

ムソク:
책임을 다하지 못하면 마땅히 옷을 벗어야지.
責務を全う出来なければ、辞めるのは当然のことだ。

ムソクの微かな動揺を敏感に感じ取ったのだろうか。
矢は狙いを外れ、的の外に刺さった。「不通!」

ムソク「…。」

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宿の階段を下りるリンを、トハは慌てて追いかけた。

トハ「ちょっと!具合も悪いのにどこ行くのよ?」
リン「…。」
トハ「どこ行くの?ねぇ」

階下でリンたちを待ち受けていたのは、女将オンメの包丁だ。

オンメ「こりゃ呆れた!」
リン&トハ「!」
オンメ「あんた、男まで連れ込んだのかい?」
トハ「誤解ですよ!誤解」

「どこ行くのよ?」黙っているリンにトハが尋ねる。

リン「いちいち報告しなきゃならないのか?」

「また誤解だって言うの?」オンメが畳み掛ける。

オンメ「あんた、食事代も出せないくせに!純情な顔しちゃって、裏ではとんでもない尻軽ってわけ?」
トハ「尻が軽いって?」

※ 뒷구멍으로 호박씨 깐다(陰でかぼちゃの種を割る)
表面では何も知らないふりをしながら、裏では腹黒いことをする、そんな人や行為を指す表現です。
もともとは儒学生であった夫の代わりに生計を担っていた嫁が、空腹に耐えられず、夫に隠れてかぼちゃの種をかじった、という話から来ているようですね。
文脈上「尻が軽いって?」と訳したトハの台詞は、実際には「かぼちゃに種があるんですか?」と言っています。

そこへサゴンがやって来て、呑気にオンメに話しかけると、同時に入り口から義禁府の武官たちが入ってくる。

サゴン「その包丁、気に入ったようだね。鋭くてよ~く切れるのを作っておいたんだ」

「!」サゴンが喋っているのに紛れ、トハとリンはさっと宿の奥へと退避した。

オンメは黙って包丁を机の隅に突き立てる。

オンメ「何よ?これ作ったのはお宅だったの?!」

「ここの主人はいないか?」背後で武官が声を上げると、ようやく気づいたオンメが振り返った。

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宿の番頭、チャン氏は謎の部屋にいた。
表では決して見せない真剣な顔で物品を確認し、記録をつける。

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用事を済ませ、部屋を出て鍵をかけると、そこへトハとリンがやって来た。

トハ「あの、少しだけその部屋に…」
チャン氏「駄目だ!」
トハ「…。」
チャン氏「俺以外は誰も入れない」

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「何事です?」宿へ戻ってきたチャン氏は、キョトンとして武官に尋ねた。

武官「お客の中に怪しい者はおらぬか?」
チャン氏「怪しい者?」

「ははは」チャン氏は笑い飛ばした。

チャン氏「ここへ来る人たちは、みんな怪しく見えますよ。預ける物は本物なのか、それまでどこに住んでいたのか、金はちゃんと払うのか、何もかも疑わしい。却って怪しくない人が怪しくみえるくらいでね」

「あの人も怪しいですよ」チャン氏はちょうど戻ってきたサンホンを指さした。

武官が急いで手配書を広げ、サンホンの頭巾を取ろうと手を伸ばすと、サンホンはすかさずその腕を掴み、自分で頭巾を外した。
武官はチャン氏を振り返り、「違う」と首を横に振る。

「あの人」次に指をさされたのはサゴンだ。
そばで上衣を被って眠っていたチョヒも、顔を確かめられる。
ただ事ではない空気に、サンホンは緊張を高めた。

オンメ「旦那さん、ちょっとお話が」
サンホン「…。」
サゴン「話って何だ?同じ包丁なのに、何で私が作っちゃ駄目なんだよ?」

騒ぐオンメとサゴンを気に留めることもなく、武官たちは宿を後にした。

サンホン「…。」

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柵一枚隔てた狭い空間で、トハとリンは折り重なるように息を潜めていた。
武官たちが出て行くと、トハはホッとして大きく息をつく。

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トハ「はぁ、行ったわ」
リン「… 退け」
トハ「え?」
リン「退けよ」

しばらく目をパチクリさせると、トハはハッとしてリンから離れた。「ご、ごめん」

リン「…。」

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大胆にも街の中へ出てきたリンの後ろで、トハは周りをキョロキョロと見回した。
今だって、リンの人相書が貼られた掲示板のすぐ前を通ってきたのだ。

トハ「あんたを捕まえようと街中張ってるのよ」

「だから!」トハはリンの手を掴んだ。

トハ「つべこべ言わずにじっとしてなよ」
リン「…。」
トハ「ね?」

手首を掴んでいるトハの手を、リンは黙って外す。

リン「私だって… 生きるために今まで息を潜めていた。それなのに…」
トハ「?」
リン「どうしたって一緒なら、じっとしていることもないだろう?」
トハ「…。」

背を向け、リンは再び静かに歩き出す。
トハは黙って彼に続いた。

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静かな書庫で、大妃は領相と会っていた。

大妃「まだ居処は分からないのですか?」
領相「全力で探しております」

外へ出てくると、二人は庭にサダムの姿を見かける。
二人が足を止めると、サダムは恭しく頭を下げた。

領相「賤しい道吏ごときが蔵書閣に何用だ?」
サダム「宮中の気運を調べておりました。蔵書閣に尋常でない気運を感じましたので、祭祀を行い…」

「戯言を申すでない!」領相の厳しい声が遮る。
大妃がサダムの前に進み出た。

大妃「この者ですか?主上のそばにいる道吏とは」
サダム「昭格署の尚道(※役職名)、サダム。大妃媽媽にご挨拶申し上げます」

頭を下げたサダムの頬に、大妃は出し抜けに平手打ちを食らわした。

サダム「!」
大妃「もう一度主上と大君を仲違いさせたら、お前を戮屍に処してやるわ」

※戮屍=死刑にした上、さらに死体を辱めること。

サダム「…。」
大妃「覚えておきなさい」

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大妃はサダムを睨みつけたまま、冷たく立ち去る。
領相が続き、お付きの女官たちがぞろぞろと続いた。

彼らが去っていく後ろ姿を、サダムはじっと見据えると、両手を開き、渾身の力で気を溜めた。
瞬く間に目が真っ赤に染まり、彼の顔は獣のように豹変する。

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ハッと集中が途切れると、彼の顔はまた一瞬で元通りになった。

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祠堂へと戻ってくると、そこでサダムは怒りを爆発させる。

サダム「なぜ未だ不完全なのだ?!なぜ望む相手に限って力が及ばない?100年も生きられぬ人間ごときに… なぜ思い通りに出来ないのだ?!」

サダムは怒りに震えていた。

サダム「恐れ多くも私を怒らせるとは。許しはせぬ、決して…!」

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辺りはすっかり暗くなっていた。
高台へやって来たリンは、そこから街を望んだ。
「準備出来たよ」トハが後ろから声を掛ける。
リンが振り返ると、彼女は力強く頷き、微笑んだ。

凧の下に火をつけると、リンはそれを空高く上げた。
夜空に火の玉がゆらゆらと揺れ、それはどんど高く上がっていく。

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部屋の外で尚宮たちが妙に騒がしい。
「何を騒いでいる?」気になった大妃が声を掛けると、やって来た尚宮は「何でもありません」ととぼけた。

大妃「それならなぜ騒いでいるのだ?言ってみなさい」
尚宮「鬼火が上がっていると言うのです」
大妃「鬼火?!誰がそのようなこと口にするのだ!」
尚宮「すぐ止めさせます」

下がろうとした尚宮を、大妃は呼び止めた。

大妃「鬼火はどこから上がっているのだ?」
尚宮「仁王山の方だそうです」

大妃の表情が変わった。「仁王山に鬼火が?」

尚宮「媽媽、どうかなさいましたか?」
大妃「…。」

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大妃は真新しい紙の上に筆を走らせた。

『燐(りん)』(※燐は鬼火の元となる成分だと考えられた)

大妃「鬼火… 燐。仁王山には大君の私邸がある。鬼火は六回燦めいたと…。六は北方を指す… それなら肅靖門? 」

「いやいや」大妃はさらに考えを巡らせる。

大妃「人が大勢行き来する場所ではないはず。六は北… 北…。水?そう、水だ!仁王山で水といえば…! 水聲洞渓谷!」

※水聲洞渓谷=今でもソウルにある渓谷。韓国人旅行者の方の紹介記事

「出かける準備をしなさい」大妃は尚宮に命じた。

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サダムは今宵も酒と女に興じている王の元を訪れていた。

キサン君「秘蔵庫?秘蔵庫なら蔵書閣の場所にあった。領相が秘蔵庫を退けて、蔵書閣を建てたのだ。それがどうした?」
サダム「秘蔵庫には代々王室の宝が保管されているとか。殿下がご覧になっても珍しい品に溢れておりましたか?」
キサン君「噂だけだ。行ってみれば大したことはなかった」

「そんなはずは」サダムが呟くと、キサン君の目が鋭くなった。

キサン君「…。」
サダム「殿下はいらっしゃったことがないのですね」
キサン君「何と?!」
サダム「本物の秘蔵庫は誰彼構わず入れる場所ではないそうですが」

キサン君は手に持っていた器を卓上に叩きつける。
中に入っていた酒が衝撃で飛び散った。

キサン君「余を”誰彼”の一人だと申すか?」
サダム「…。」
キサン君「秘蔵庫は余の物だ!余はこの目でハッキリ見た!」

キサン君の焦りをすっかり見透かしたように、サダムは一瞬考えを巡らせると、目を見開いた。

サダム「大妃媽媽です。大妃媽媽が隠されたのです!」
キサン君「?」
サダム「王室の宝を…なぜお隠しになったのでしょう?まさか… 月光大君に渡ったのではありますまい」
キサン君「!」

動揺したキサン君の目が激しく動いた。

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急いで支度を整え、部屋を出た大妃は驚いて足を止めた。
彼女が出てくるのを知っていたかのように、そこにキサン君が立っていたのだ。
「主上!」大妃は思わずたじろいだ。

大妃「夜中に何事です?」
キサン君「御祖母媽媽こそ、こんな夜更けにどちらへ?」
大妃「…。」
キサン君「月光にでも会いにいらっしゃるので?」
大妃「主上、酔っていらっしゃるのですね」

キサン君は声を上げて笑った。

キサン君「えぇ、酔っていますよ。媽媽もご存知でしょう?こんな息の詰まるところ、酒でも飲まなきゃ耐えられない」
大妃「主上、体面をお守りください!」
キサン君「どこなんです?どこに匿っているのですか?」
大妃「何のことです?」
キサン君「私の物を… 全て月光にお与えになったのですか?!」

キサン君は大妃に詰め寄ると、両手で肩を強く掴んだ。

キサン君「なぜ私に辛く当たるのです?いつだって私より月光… 一体私が何をしたというのですか!!!」
大妃「!」

「大妃媽媽です」「ひょっとして月光大君の手に渡ったのでは?」サダムの言葉がキサン君の頭の中をぐるぐると巡った。

大妃「主上!お放しなさい、主上!」
キサン君「御祖母媽媽のせいです。全て御祖母媽媽のせいなのです!!!」

憤慨したキサン君の腕力に押され、大妃は地面に倒れ込んだ。「主上!」
驚いて見上げる大妃の顔を見ると、キサン君はそばにいた護衛官の剣を抜き、大妃に向けた。

キサン君「自分で立ち上がってください」

大妃を取り囲んだ尚宮たちが、彼女を抱え起こす。

キサン君「自分で立ち上がれと言ったのです!!!」

キサン君は剣を振り上げると、思い切り振り下ろす。
手前にいた尚宮が、刃を受けその場に崩れ落ちた。

大妃「!!!」
キサン君「なぜだ?なぜ言うことを聞かぬ?宮女ごときがなぜ!!!」

「主上!!!」大妃の低い叫び声に、キサン君はハッとして彼女を見た。
自分が大妃に突きつけている剣、剣を染めている血、目の前に倒れている尚宮…
キサン君は我に返り、驚愕した。

「はっ!」キサン君は思わず手から剣を落とし、ふらふらと後ずさりすると、慌てて逃げ出した。

尚宮「媽媽、お怪我はありませんか?」

尚宮に両脇を抱えられ、大妃はようやく立ち上がる。

大妃「よく聞きなさい。このことは、断じて大妃殿の外へ漏らしてはならぬ。よいな?」

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王の部屋で、サダムは上機嫌で香をくゆらせていた。
そこへ酷く狼狽したキサン君が飛び込んでくる。

キサン君「大妃殿をしっかり見張れ!大妃媽媽が大逆罪の月光を匿っているぞ!」
サダム「殿下、お気を確かに」

キサン君はサダムの胸ぐらを掴んだ。

キサン君「お前は何をしておる?余の病一つ治せないとは!」
サダム「…。」
キサン君「早う治せ!巫女を連れて来てさっさと治すのだ!!!」
サダム「…。」
キサン君「さもなくばお前も殺してやる。お前も殺してやる!」

「殺してやる…」うなされるようにキサン君は繰り返した。
サダムは王を抱きかかえるように、両手を肩に回す。

サダム「殿下の病を治せなければ、私とてこれ以上生きる理由がありません。私はいつも殿下と共にあるのです」

キサン君は顔を上げ、まっすぐにサダムを見つめる。

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#ラブラブやな 君ら

キサン君「余は… 余は誰も信じられぬのだ」

キサン君はガックリと頭を落とすと、子どものようにサダムに寄り掛かる。
サダムは王の頭を優しく撫でた。

+-+-+-+

山の中でうとうとしていたトハがハッと目を覚ました。

トハ「もう朝だね」

振り返った彼女は、リンがその場にずっと立っていることに驚き、目を丸くする。
彼女の視線を感じると、リンは悲しそうに目を伏せた。

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トハ「ずっと起きてたの?」

「…。」リンはそれに答えず、力なく歩き出した。

+-++-+-+

「何か事情があったんだよ」村へ下りてくると、トハはリンを励まそうと声を掛けた。

トハ「だから、あまり傷つかないで」
リン「だれが傷ついたって?お前の好きに判断するな」

「…。」心を閉ざすリンを、トハは悲しげに見つめる。
リンの歩いて行く方向に、彼女はふと目をとめた。「あれ?」

サダムの手下の男が一人で立っているのが見える。

トハ「道吏の人の使いだ…」
リン「?…道吏?昭格署の道吏?」
トハ「うん。今日こそお姉さんのことを突き止めるわ」

男の元へ駆け寄ろうとしたトハの腕を、リンが咄嗟に掴んだ。

トハ「あっ!」

黙って男とトハの顔を見比べると、リンは彼女の手を引き、急いでその場を立ち去る。
「離してよ」トハの訴えを無視してしばらく歩くと、彼はようやく手を離し、彼女を静かに見つめた。

トハ「あんた、良心もないの?」
リン「…。」
トハ「どうしてこんなことするの?どうして私のすることをいちいち邪魔するのよ!」
リン「…。」
トハ「あんたに分かる?私が白頭山からどんな気持ちでここまで来たか。ここへ来てから耐え難い毎日だったわ。人扱いもされないのに笑ってるから、平気に見えるの?」
リン「…。」
トハ「私、ここが本当に嫌。一日でも早くお姉さんを見つけて、ここを離れたいわ!」
リン「私は馬鹿じゃない。なぜいちいち反対するのか、考えてみないのか?」
トハ「理由があるって言うの?」
リン「お前が危ない目にあうんじゃないかって!!!」
トハ「…。」
リン「あいつと関わったら危険だと… それで、お前に酷いやつだと思われながらも阻止した」

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「あぁ、いいさ」リンは呟くと、袖口から鈴の腕輪を取り出し、トハに握らせる。

トハ「!」
リン「お前のことはお前が自分でやれ。私のことは自分でどうにかする」

リンは立ち尽くすトハを残し、歩き出した。
不意に手のひらに戻ってきた腕輪… 彼女はそれをじっと見つめる。

155

そこへ、サダムの手下がそっと近づいた。

トハ「!」

+-+-+-+

スリョンを乗せた駕籠が目の前を通り過ぎる。
リンは身を潜め、彼女が恵民署に入っていくのを確かめると、中へ忍び込んだ。

156

恵民署の奥の部屋に、スリョンは一人でいた。
そこへ入ってきたのはリンだ。

スリョン「大君!」

「大君!」大声を出して駆け寄った彼女に、リンはシッと人差し指を立てた。

スリョン「ご無事だったのですね。お怪我は?夜はどこで?」

手を伸ばすスリョンを、リンはそっと制する。

リン「…。」
スリョン「本当に… よく来てくださいました」

+-++-+-+

「今日は荷物があるから重くなるわ」駕籠に乗り込むと、スリョンは駕籠担ぎの男たちにそう告げた。
召使には、宝石商が来ているか見に行くようにと指示し、そばを離れさせる。

駕籠が屋敷の中へ戻ってくると、スリョンは中に乗ったまま駕籠担ぎを全員帰らせ、誰もいなくなったところで顔を覗かせた。

「誰もいません」外に出て慎重に確かめると、彼女はようやく笑顔になって駕籠の中を覗く。

157

スリョン「大君に会ったら、父もお喜びになるはずですわ」

そっと姿を見せたリンは、すっかり衣服を着替えていた。

スリョン「ここにしばらくいらしてくださいね」
リン「有難い」

+-+-+-+

スリョンの父、領相パク・スジョンの元を、男が一人訪れていた。
首筋に傷のあるその男…

その傷は、夜襲のとき、リンに扇子で叩かれた傷。
あろうことか、刺客を送り込んだのは領相その人だったのだ。

領相「まだ見つからぬか?」
男「はい、大監」
領相「一体どこへ逃げられたのか… その場に留まれば、刺客を口実に殿下に圧力を掛けられたものを」

領相は渋い表情で唸り声を上げる。

ちょうどそこへ、父の部屋の前へやって来たスリョンは、中から聞こえる声にふと足を止めた。「?」

領相(声)「とにかく、今は月光大君ほど格好の盾はない。主上が月光大君を追い詰めれば追い詰めるほど、強い盾になるのだ。だから、一刻も早く月光を捕らえよ」

「!」扉に掛けていたスリョンの手が、そっと離れた。

158

+-+-++-+

自分が呼びに来るのをじっと待っているリンの姿を、スリョンは悲しげに見つめた。
振り返り、スリョンに気づくと、リンは小さく笑みを見せる。
その笑顔が、彼女の心を一層締めつけた。

リン「どうなった?領相は何と?」
スリョン「…。」
リン「…スリョン嬢?」
スリョン「…。」

そこへ、舎廊棟の方から領相の声が聞こえる。「スリョンはまだ戻らぬか?」

スリョンはリンの手を引くと、急いで屋敷を出た。

+-+-+-+

「一体どうしたんだ?」橋の上までやって来たところで、リンはたまらず立ち止まった。

スリョン「あ…。父は外出なさっているんです」
リン「今のは領相大監の声だった」
スリョン「…。」
リン「一刻も早く領相大監に会わなければ。領相大監に会って、私がどうすべきか、どうすれば朝鮮で生き延びられるのか…!」
スリョン「麻浦の船着場へいらしてください」
リン「?!… スリョン嬢?」
スリョン「そこへ行けば大国に向かう船があります。だから、今は朝鮮を離れて…」
リン「どこへ行くにしても、今、領相大監に会わなければ」

戻ろうとしたリンの前に、スリョンは両手を広げて立ち塞がった。

スリョン「私、何も知らずにいたのです!」
リン「?」
スリョン「私の家は殿下に監視されています」
リン「…。」
スリョン「父に… 家門に危険が及ぶかもしれません。大君が私と一緒にいらっしゃれば、私たちが危険なのです!」
リン「…。」
スリョン「だから… どうか… どうか行ってください。早く行ってください!」

159

「行ってください、お願いです…」呆然とするリンの前で、スリョンは頑なに繰り返した。
「…。」リンは何も言えず、力なく彼女に背を向ける。

「大君…」離れていく彼を見送り、スリョンはただその場に泣き崩れるしかなかった。

160

#このロケーション、ものすごく綺麗。
気持よく晴れてるから、逆に悲しみが募るね。

+-+-+-+

ここで一旦区切ります。

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