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夜警日誌あらすじ&日本語訳4話vol.2

   

チョン・ユンホ(東方神起ユノ/ユンホ)、チョン・イル主演、「夜警日誌」4話の後半です。 あらすじと共に、なるべくたくさんの台詞を翻訳してご紹介しますね。
さっそくどうぞ♪

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リンが呑気に梅蘭房で遊んでいる頃、宮廷では静かに、しかし大きな変化が起きようとしていた。
キサン君の宣言した昭格署の再建について、領相パク・スジョンが立場を明らかにしたのだ。

「領相!」大妃が思わず声を荒げる。

大妃「王になれなかった王族は身を潜めて生きるのが道理ではありませんか!」
領相「これまではそうでした。しかし、これからは違います!多くの目が大君に集まれば、王も下手なことは出来ぬはず」

「今こそ潜龍が目覚めるべき時です」領相は強調した。

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「殿下、昭格署などとんでもないことでございます」正殿では他の大臣たちがキサン君を説得していた。

大臣「昭格署は国の根幹を否定するものなのです!」
キサン君「…。」

「領相も一言おっしゃるべきでしょう」黙っているパク・スジョンに左相が意見を求めた。

キサン君「反対しないなら領相とは言えないよな。一言お聞かせ願おう」
領相「殿下、殿下のご意志の通り、昭格署を再建なさいませ」
キサン君「!」

場内がざわめいた。

大臣「領相大監!」
領相「殿下のご意志通り、昭格署を再建なさいませ」

「ただし!」領相は後を続ける。

領相「昭格署の提調(※責任者)には…月光大君を任命してください」
キサン君「!!!」

皆が静まり返り、顔を見合わせる。

キサン君「…。」

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スリョンをエスコートし、椅子に座らせると、リンも隣の椅子に腰を下ろした。
中央に次の品が運ばれてくる。
赤い布で覆われた、大きな箱だ。
リンはその箱に、先ほど手に触れた”幽霊だと思った何か”の感触を思い出し、眉をひそめた。

リン「伝説に登場する鳳凰だって?」
スリョン「楽しみですわね」
リン「…そうだな」

箱の前で女主人が扇子を振り上げると、一気に赤い布が取り払われた。

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突然暗がりを抜け、眩しい太陽の光が飛び込んでくると、トハは思わず目の前に手をかざした。
どこからともなく、周りから拍手の音が聞こえてくる。

075

トハ「?」

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”伝説の鳳凰”に注目した客たちは、一緒に檻の中に座り込んでいる思いがけない生物に、困惑の声を上げた。

リン「… 人か?」

人々のざわめきに、ようやく檻を振り返った女主人は、トハの姿に一瞬目を見開く。
「少々手違いがございました」彼女は客に向き直り、頭を下げて詫びた。

そこへ客の一人が立ち上がる。

客「房主、これは物珍しい!鳳凰以上ではないか」
客「まさに半獣だ!」

「そうだ」客たちが笑う。

客「女の姿で半人、鳳凰の姿で半獣、半人半獣に出会えるとは!」

女主人が困って俯くと、トハが立ち上がり、後ろから声を掛けた。「すみません」

トハ「扉を開けてください。扉を開けてください。お願いです!」
客「いやはや、半人半獣が人間の言葉を話しているぞ!」

檻の中で出してくれと訴えるトハの姿に、客たちがさらに沸いた。
「開けて!開けてよ!」トハはムキになって檻の柵を揺らす。

閉じ込められて焦っているトハに、それを笑う人々…。
その光景に、リンは顔を曇らせた。
両親を失い、宮廷を出て街へやって来たばかりの頃を思い出したのだ。

076

「大君様でいらっしゃるぞ!」通りを歩く幼い自分のそばで、お付きの者が声を上げる。
頭を下げた人々は、ヒソヒソと囁き合った。

「幸の薄い顔だねぇ」「だからあんな痛ましいことが起きたんですよ」「あの目をみてご覧なさいよ」

好奇の目にさらされ、それでも幼いリンは何も言えず、ただ黙って耐えるしかなかった。

リン「…。」

笑うばかりで誰も助けてくれず、トハが檻の中でガックリと座り込むと、たまりかねて立ち上がったのはムソクだ。
同じくリンも一歩遅れて立ち上がり、二人はトハのいる檻へと向かった。

ムソクが檻の前へやって来ると、トハは彼をまっすぐ見上げる。

ムソク「待つんだ。すぐ助けてやる」

そのとき、反対側からやってきたリンは、ちょうどそこにあった剣を手に取ると、躊躇いもなく檻に向かって振り下ろした。
トハの背後で柵が崩れ、大きな穴が空く。

トハ「!」
ムソク「!」

リンは刀を乱暴に投げ捨てると、檻の中へ手を差し伸べた。

077

トハ「…。」

しばらく驚いて見つめていたトハは、リンの手を取り、外へ脱出する。

ムソク「…。」

一瞬の出来事であった。

079

#今後の4人の関係の縮図ですかね、このシーン。ムソクが先に動いたのに、派手に助けだしたのはリン。
印象的ですね^^

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リンの手によって助けだされたトハの目は、彼の顔を見ると俄に鋭くなった。
突然身を翻すと、鮮やかにリンを背負投げにしたのだ。

リン「!!!」

床に叩きつけられたリンは、呻き声を上げる。
皆が驚いて目を丸くする中、ムソクだけは密かに顔をほころばせた。

「悪いやつ!」ようやく立ち上がったリンに、トハが言葉で追撃した。

リン「私が誰だか知らないようだがな、お前が投げ飛ばしていいような人間ではないぞ」
トハ「それじゃ何?あんたは誰かを投げ飛ばしていいわけ?」
リン「!」
トハ「あぁ、あんたはそういう考え方よね。自分より下の人間が気に食わなきゃ、踏みつけたり投げ飛ばしたりするんでしょ」

月光大君に向かって暴言を吐く娘に、周りの客からも避難の声が上がる。

客「賤しい分際で、何も知らないんだな」
客「その女を捕まえて、さっさと品物を見せなさい」

開催者が動こうとしたそのとき、ずっと黙っていたムソクが口を開いた。

無惻隱之心(무측은지심)이면 비인야라
慈しみの心なきは人に非ざる

※孟子「公孫丑章句上・六」より

078

ムソク:
불쌍히 여기는 마음이 없는 것은 사람이 아니라 했네.
남을 가엾게 여기고 이해하는 마음,
그것이 없으면 금수의 마음과 뭐가 다르겠나.
여기 금수는 이 우리가 아닌 우리 밖에 있는 스스로가 아닌지
모두 생각해 봐야 할 것이야.
哀れに思う心がなければ人ではない。
他人を憐れみ、理解する心、
それがなければ禽獣とどこが違うのか。
禽獣は檻の中ではなく、檻の外にいる自分たちではないかと
皆考えてみるべきであろう。

ムソクの言葉に、トハは嬉しそうに微笑んだ。

080

リン「よくもまぁそこまで面白くない言葉ばかり選んだものだ」
ムソク「…。」
リン「書物の言葉ばかり誦しているから、君は女性たちに人気がないんだよ」
ムソク「!」
リン「君がせいぜい考えるといい。そう、易地思之だ!檻の中に入って考えてみろよ」

※易地思之=立場を変えて考えること。

「では」リンがぷいと踵を返すと、ムソクも黙って戻っていく。
トハはぼんやりとムソクの後ろ姿を見送ったが、ハッと我に返りリンを追うと、外へ出ようとした彼を捕まえた。

トハ「どこ行くのよ!」

「腕輪は?私の腕輪はどこ?!」トハは彼の両腕を掴み、思い切り揺する。

リン「腕輪って何だ?」
トハ「市場で拾ったでしょ?!早く返してよ」
リン「腕輪?あぁ、腕輪か」
トハ「…。」
リン「私が腕輪を拾ったって?」
トハ「ふざけないでよ。すっごく大事な物なの。早く出して。早く!!!」
リン「腕輪がお前のものだって証拠もないのに渡せないな」
トハ「!」
リン「お前のだって証拠は?持って来いよ。そうすりゃ返してやる」

唖然とするトハを残し、リンは足早に去って行った。

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梅蘭房を後にし、ようやく災難から逃れたリンの元へ、下男が走ってくる。

下男「大監様!」
リン「うるさいぞ!」
下男「…。」
リン「私は静かなのが好きだと知らないのか?」
下男「た、大変なことが起きたんですからぁ」
リン「(うんざり)」
下男「大監様を昭格署の提調になさるって云うんですよ!」
リン「!!!」

+-+-+-+

急いで入宮の支度を整えたリンは、領相を尋ねる。
領相の執務室へやって来ると、彼はそっけなく背を向けて座った。

リン「領相がそう眼識がないようでは困りますね」
領相「…。」
リン「私のような有閑族、一体何のために推薦なさったのです?この未熟者への未練はもうお捨てください」
領相「大君媽媽、なぜそのように惨憺たることをおっしゃいますか。誰が何と言おうと、先王の嫡流は大君なのです」

「!」リンは立ち上がり、領相を睨みつけた。

リン「嫡流嫡流と繰り返すのはいい加減になさい!」
領相「…。」
リン「まだお分かりないのですか。私は大監が望むような人間ではないのです」
領相「大君、ずっと今のように過ごされては、大君の安危は保証できません」
リン「はっきり仰ってください。私の安危などではなく、大監の盾が必要なのでは?殿下と敵対するため、私を盾にするおつもりでしょう」
領相「…。」

リンは黙っている領相に一歩近づき、声を低くした。

リン「とにかく私のことは、そっとして置いてください」

背を向けたリンに、領相が口を開く。

領相「私が昭格署を廃止した張本人にもかかわらず、なぜ彼らの要求を受け入れたかお分かりですか?」
リン「…。」
領相「彼らの信じる邪道にさえ頼りたいからです。国と王室の安寧を、邪道の力を借りてでも守りたい。私のそんな忠誠心を、どうかお察しくださいませ」
リン「…。取り下げていただくよう、殿下に席藁待罪するつもりです」

081

※席藁待罪=藁のむしろの上に正座し、飲まず食わずで処罰を待つこと。また、そのくらいの覚悟で訴えたいことがあるときに行われます。座り込みってところですね。

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建物の外へ出てきたリンは、向こうから走ってくる内官の霊に遭遇する。

リン「…。」

「殿下!殿下!」と叫びながら、ずいぶん慌てた様子で走って行くその霊が気になり、リンは導かれるように後を追った。
すると、他の霊たちも続々とある部屋へ入っていくではないか。
リンはその部屋の前まで来ると、扉を開け、中に足を踏み入れた。

そこは書庫だ。

リンは一番奥へとまっすぐ進む。
突き当りでは、多くの霊たちが扉に張り付き、聞き耳を立てていた。
不思議に思いながらリンが近づいてみると、向こう側から男の声が聴こえる。

リン「?」

082

「昨夜は夢にキム・サチュンが出てきた!斬り落とされた首を持って近づいてきたのだ」扉の隙間から覗いてみると、声の主はキサン君だ。

キサン君「あいつ、余を同じ目に遭わせてやる、いや、もっと泣かせてやると言ったのだ。なぜこれ以上良くならないのだ?なぜまた夢にうなされるようになった?なぜだ!!!」

彼の前で黙って俯いているのはサダムだ。

サダム「殿下、これまでの処方は応急処置でした。昭格署が再建されれば、根本から治療できます。ですから、もう少しだけ堪えてくださいませ」
キサン君「堪えよと?そんな言葉を聞くためにお前をそばに置いているのではないわ!!!」

サダムはその場にひれ伏した。

サダム「殿下、心苦しいのですが、私が殿下にしてさし上げられることはこれ以上ございません。どうか殺してくださいませ」
キサン君「…。」

キサン君は思わず力の入った指で手元の書を握りしめる。
頁が手繰り寄せられ、くしゃくしゃと皺が寄った。

キサン君「本当に… 昭格署さえ出来ればいいのか?」

ひれ伏していたサダムの目が鋭く見開かれた。

サダム「魂の澄んだ巫女を集めます。殿下が持っておられる火の気をおさめる、水の気をもつ清らかな巫女。その巫女が殿下を癒やすでしょう」
キサン君「賤しい巫女ごときに何が出来る?」
サダム「殿下の周りを渦巻く邪気を、その巫女に被せるのです」
キサン君「…。」

扉の隙間の向こうで、リンはごくりと唾を飲み込んだ。
そのままそっと後ずさりし、立ち去ろうとしたそのとき、机の端に置いてあった書物に袖が触れ、床に落ちた。
その音に、リンはハッとして振り返る。

キサン君は扉の向こうの物音に、血相を変えて飛び出した。
しかし、そこには誰の姿もなく、ただ床に書物が落ちているだけだ。
後ろからサダムが出てきて、書物を拾い上げると、じっと前を睨む。

083

サダム「…。」

+-+-+-+

梅蘭房を出たトハは、賑わう街の中、リンを探していた。
せっかく見つけた彼を見失い、リンの焦りは募っていた。

トハ「あー!本当に!!!あのこそ泥!どこ行ったのよ!!!捕まえたらタダじゃ置かないんだから!」

きょろきょろしていたトハは、ある掲示物の前に人だかりが出来ているのに気づき、人々の後ろで飛び跳ねた。

男「昭格署の登用試験だって?」
男「朝鮮は占術国家になりそうだな」

トハは人を掻き分け、一番前に躍り出る。

男「朝鮮じゅうの巫女が集まったら、鬼神なんて足も踏み入れられないんじゃ?」
男「鬼神なんて信じてるのか?」

「本当に朝鮮じゅうの巫女が集まるんですか?」トハが唐突に男に尋ねた。

男「?」
トハ「本当ですか?本当に?!」

「お姉さん…」トハは読めない掲示物を見つめ、希望に顔を輝かせた。

+-+-+-+

正殿前の広場では、リンが藁のむしろを敷き、昭格署提調任命の撤回を求め、席藁待罪を行っていた。

何時間経過したことか… あたりはすっかり夜になり、痛む足にじっとしていられなくなった頃、近づいてきた女性の声に、リンは顔をあげ、姿勢を正した。
大王大妃が現れたのだ。

「祖母媽媽!」久しぶりの祖母の姿に、嬉しそうに顔をほころばせたリンだったが、大妃の視線は冷たかった。

086

大妃「昭格署の提調とは…。一体どのような品行ならば、大君をそのような座に推薦する者が現れるのだ?ひょっとして、領相をそそのかしたのか?」
リン「そうではありません。領相に心を許すようなことは一度もしていないのです。信じてくださいませ」
大妃「王は全ての民を案じて生きているのだ。大君の懸念まで付け加えることはない。分かるか?」

純粋な目で祖母を見上げていたリンは、悲しそうに目を伏せた。

リン「それでは私は… どうすべきなのでしょうか」
大妃「…。」
リン「私の存在そのものが殿下の懸念になるのに、それなら私は… どうするべきなのですか?」
大妃「死んだように… 悲鳴さえも飲み込み… そうやって生きなさい」

厳しい表情を緩めることなく、大妃は足早にリンの前を立ち去った。
後の残ったのは… 孤独と絶望だ。

リン「…。」

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トハが滞在する宿は、食事をする客でおおいに賑わっていた。

番頭「昭格署の登用試験が、うちの商売を助けてくれるとはなぁ」

周りを見渡すと、いたるところに巫女らしき姿がある。
地方から来た巫女に声を掛けると、彼は例の『鼻と口を隠す笊』を取り出し、売りつけようとした。
その瞬間!巫女は霊に取り憑かれ、番頭を睨みつけた。

巫女(憑依中)「こやつめ!!!将軍様がお怒りだ!将軍様を騙した罰、阿鼻地獄で受けるがいい!!!」

慌てた番頭は、有り金を全て握らせ、巫女を落ち着かせた。

少し離れた奥の席にトハがいた。
宿に滞在し、トハと顔見知りになっていた男サゴンが、彼女の前で何かを書いている。

そこには、こう書かれてあった。

084

『 桃夏(トハ)
辛亥年 庚亥月 壬亥生
本籍地 麻姑(マゴ)』

サゴン「受付は今日までだって?」
トハ「はい。名前に生年月日、本籍地を書かなきゃいけないのに、私、字がわからなくて」

「そんなもの知らなくてもいいんだ」サゴンは書き上げた紙をトハの方へ向けてやり、笑った。

サゴン「こういうのを名筆っていうんだよ、名筆」
トハ「ふ~ん」

その様子を見ていた女将が皮肉を言った。

女将「そりゃそうよ!もう何年も科挙に落ちてばかりいるんだから、それくらいは書けなきゃね」
サゴン「人の痛いところばかり突くんじゃないよ」
女将「もはや痛くもなさそうですけどね」
サゴン「あんなに関心があるとは、私が好きなんだな(笑)」
女将「この旦那、気でも狂ったのかね?」

「私のことが好きに違いない」にやけるサゴンの前で、トハは書いてもらった出願書を熱心に見つめた。

+-+-+-+

書いてもらった出願書を手に、トハはさっそく受付所へ向かった。
「白頭山 マゴ族出身で間違いないか?」確認する官吏に、トハは笑顔で頷く。

トハ「はい、その通りです」
吏「試験は九日後だ。忘れぬようにな」

何人か後ろに並んでいた男が、顔を覗かせてトハを見る。
サダムだ!
トハが出願を済ませ、列を離れると、サダムは彼女の姿をそっと盗み見た。

#それより、サダムが他の人に混じって真面目に並んでるのが面白いよね。

トハ「お姉さん、お姉さんが来ないなら、私から行くよ。私が必ず見つけるから、逃げないでそこにいてね」

085

そのとき、トハは姉ヨナに似た女性の後姿を見かけ、夢中で追いかける。
女性が入った門を急いでくぐるものの、すでに女性の姿はなかった。

トハ「お姉さん…!」

後をついて来たサダムは、ショックを受けて立ち尽くすトハの後ろ姿を見つめ、次第に目を輝かせた。
求めていた巫女を、彼は見つけたのだ。

+-+-+-+

キサン君は今宵も悪夢にうなされていた。
あまりの苦しみに体をばたばたさせ、ついには飛び起きる。

キサン君「!!!」

彼はもう限界だった。

++-+-+

二日が経過しても、リンは正殿の前に座ったまま、動かなかった。
さすがに眠気に耐えられず、彼はうとうとしてはハッと目を開け、それを繰り返していた。

虚ろに開いた目の前に、真っ赤な装束と履物が見える。
ゆっくりと視線を上げると、そこにはキサン君が静かに自分を見つめていた。

「殿下!」リンは驚いてひれ伏す。

キサン君「兄弟の仲なんだ。もうよい」

「…。」リンはひれ伏した上体をゆっくり起こした。

キサン君「今でも… 奇妙なものが見えるのか?」
リン「…。」

リンは顔を上げ、視線を左右に動かした。
キサン君の周りに、死んだ宮中の人々の霊が浮かび上がる。
リンは到底何も言えず、固く口を閉ざした。

キサン君「今でも見えるのかと聞いておろう」

それは、王となったばかりの若き日のキサン君が、宮廷を尋ねたリンに詰め寄った言葉だ。

若キサン君「本当に見えるのか?本当に?!」
若リン「… 見えます。嘘ではございません」

リンはそう言って辺りを見回す。

若キサン君「どうしたのだ?」
若リン「殿下、キム尚宮がいます」
若キサン君「キム尚宮?」

二人のそばで、キサン君をじっと見守っている尚宮の姿がある。
リンにだけ、彼女の姿が見えていたのだ。

若キサン君「キム尚宮とは… 中宮殿の尚宮のことか?」

キサン君は小さなリンの胸ぐらを掴んだ。

若キサン君「黙らぬか!キム尚宮は死んだ。死んだのだ!!!」

「私の目には… 見えるのです」リンは涙声で訴える。

若リン「キム尚宮は… 父上の亡くなった日… 言いたいことがあるって…」

「!!!」キサン君は驚いて、リンを掴んでいた手を離すと、大きな草を持ってきてリンの周りを払った。
「殿下!」リンはどうしようもなく悲しくなり、泣き声を上げる。

若リン「見えるものは仕方ないのです!」

「今でも奇妙なものが見えるのか?」キサン君は引き下がらなかった。

リン「… 見えません」

キサン君は無表情で視線を外す。

キサン君「そなたに多くは望まぬ。無能でも構わぬし、書を読まなければさらに良い。不正を犯したとしても、三、四度なら許してやる」
リン「…。」
キサン君「だがな、嘘は決してつくな」
リン「…。」
キサン君「余の前では塵ほどの嘘も許さぬ!」

「!」二人の間に緊張が走った。

リン「殿下の前でどのような嘘も口にいたしません。私はただ真実だけをお話しする所存にございます」

「あぁ、信じよう」キサン君は頷く。

キサン君「ならば、昭格署の提調は…」
リン「お取り下げくださいませ!昭格署の提調などとんでもない話にございます」
キサン君「…。」
リン「この私、国政に関わるような度量も能力もございません。ですから、どうかお取り下げくださいませ」

「やってみろ」リンの訴えに、キサン君は実に短く、淡々と答えた。
リンはゆっくり頭を上げ、キサン君を見つめる。

キサン君「遊び人だと馬鹿にした者共を見返してやるといい」
リン「…。」

087

+-+-+-+

訓練場の中央では、キサン君がいつになく熱心に木刀を振るっていた。
彼の相手をしているのはムソクだ。
どんどん責めてくるキサン君を、ムソクはひたすら受け流した。

キサン君「攻めてみよ。防御ばかりしてないで、攻めるのだ!」

088

「早く攻めて来い!」キサン君は再び激しく刀を振るう。
ムソクがまた彼の剣を受け止めた。

キサン君「王の命令だ!」

二人が激しく身を翻すと、再び二つの剣が、彼らの間でぶつかる。

キサン君「余を攻撃せよ!余を抑えられないなら、朝鮮一の剣豪の名など捨てるがいい!」

089

まっすぐ王を見据えるムソクの目が鋭くなる。
彼は気合の叫び声を上げると、一瞬で王の腕を組み伏せた。
王がそれを払いのけ、刀を思い切り振り回すと、ムソクは高く飛び上がってそれをかわし、反撃に出る。
あっという間に後ろへ追い込まれた王は、さらに闘志を燃やし、雄叫びを上げた。

+-+-+-+

大きな川の流れに、一艘の小舟が漂っていた。

その上に、一人の男が仰向けに寝転んでいる。
男はふいに目を開けると、ぼんやりと空を見つめた。

リンだ。

運命という大きな大きな流れに、リンは一人、飲み込まれようとしていた。

090

+-+-+-+

ここでエンディングです。

サダムはトハを『キサン君の邪気を代わりに引き受ける巫女』にするつもりなんでしょうか。
何だかさらに「太陽を抱く月」に似てきましたよねぇ。

リンのお気楽遊び人暮らしは終わりを迎えるようで、少し残念ですが、サダムや領相が何を考えているのか、とても気になるところです。

今週も長文に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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