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韓国ドラマのあらすじや詳細日本語訳を紹介!プロデューサー/SPY/夜警日誌/トライアングル/主君の太陽など

SPY(スパイ:JYJジェジュン主演)3話あらすじ&日本語訳vol.1

      2015/01/18

キム・ジェジュン、ペ・ジョンオク出演。SPY3話前半。
情景や表情も捉えつつ、台詞を出来るだけたくさん拾って訳して行きますね。

「嘘言わないで」ソヌが国家情報院の所属だというキチョルの言葉を、ヘリムは撥ねつけた。

ヘリム(電話)「何が望みだろうが、そんな嘘には動じないわ」
キチョル(電話)「真実ってのは辛いもんだ。だからって目を背けていいのか?自分の信じたいように見ていないで、目の前に見えるものを信じろ」
ヘリム「…。」
キチョル「時間をやるからよく考えてみるんだ」

そう言って電話は切れた。
ヘリムはもう一度、爆破事件のニュースに見入るソヌの後ろ姿をそっと見つめる。

ヘリム「…。」

そのときソヌの携帯が鳴り、ソヌは携帯を手に窓際へ移った。
ヘリムの視線が鋭くなる。

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彼女は戸棚を開き、そこから一冊のクリアファイルを取り出した。
それはこれまでのソヌに関するもの… エコー写真や賞状(※1年3組キム・ソヌ君が読書賞を貰ってます^^)、公務員試験の合格証(※行政安全部とあります)などが収められている。
彼女が手を止めたのが、『ソヌの初めての名刺』とネームタグが貼られたページ。
そこに入っている名刺を、彼女は凝視した。

018

『企画財政部 対外経済局 国際開発政策チーム 事務官』

+-+-+-+

「地下鉄の防犯カメラ、確保してるよな?」ソヌは電話の相手にそう言った。

ソヌ(電話)「今から行ったらすぐ見られるんだろ?」

+-+-+-+

ヘリムは誰も居ない寝室へ移った。
「はい、国際開発政策チームです」電話の向こうで男性が答える。

ヘリム(電話)「キム・ソヌさんをお願いします」
職員(電話)「キム・ソヌさんですか?そんな人はいませんが。おかけ間違いでは?」
ヘリム「対外経済局、国際開発政策チームのキム・ソヌ事務官です。本当にいないんですか?」
職員「うちの部署にそんな人は… 」

キーボードを叩く音がして、電話の向こうの職員が「あっ」と声を上げる。

職員「確かにうちに所属していた人ですね。3年前、他の部署に異動していますが、どこに異動したか確認できません」
ヘリム「それなら、少し前に釜山であった国際財形販売会は?」
職員「あぁ、それなら今年は予算の問題で博覧会が中止になったんです」

「!」ヘリムは愕然と電話を持つ手を下ろした。
あまりの衝撃に胸を押さえ、呻き声をあげる。

その途端、不意にソヌがドアを開けた。「母さん」

ヘリム「!」
ソヌ「俺、事務所に行かなきゃ。用事が出来て」
ヘリム「…ソヌ。あなた、会社…」

「何?」ソヌの様子はいつもと少しも変わらない。

ヘリム「…運転に気をつけて、行って来なさい」
ソヌ「何か話でもあるのかと思ったじゃないか」

「行って来ます」ソヌはニッコリ微笑んでドアを閉めた。

+-+-+-+

019

ソヌは熱心に画面を見つめていた。
そこには現場付近の防犯カメラが捉えた、あらゆる角度からの爆破の瞬間が映し出されている。

「もうやめとけ」正面のガラスの向こうで仲間が声を掛けた。

仲間「そこらのチンピラがムシャクシャしてやったんだろ。たいした爆発でもないじゃないか。怪我人だっていないんだ」

ソヌは何も言わず、手で仲間を追い払う。
映像の中で現場を去っていく容疑者の後ろ姿を、彼はじっと見つめた。

+-+-+-+

キッチンの蛇口からぽつんぽつんと雫の落ちる音だけが響いている。
もうどれくらいここにいるだろうか。ヘリムは誰も居ないダイニングで、身じろぎもせずにじっと座っていた。
夜が更け、そして窓から朝日が差し込と、いつもと変わらぬ朝がやってきた。

+-+-+-+

「お兄ちゃん、昨日帰って来なかったんでしょ」学校へ行こうと玄関に向かいながら、ヨンソが振り返る。

ヘリム「仕事があったみたい」
ヨンソ「何が仕事よ。彼女の家から出勤してるんでしょ。新婚同然だったもん」

部屋から出て来たウソクが娘の頭を小突く。

ウソク「こいつ、兄さんにそんな言い方があるか」
ヨンソ「ホントのこと言っただけなのに!」

膨れっ面の娘に、ウソクは笑った。

ウソク「(ヘリムに)君、とうとうDデイ、決定の日が来たよ。何ヶ月も悩んできた勝負の日だ」
ヘリム「きっと上手く行くわ」
ウソク「そうだな。それでこそ私たちの老後の計画も着々と… いいところで暮らさなきゃな」

「引っ越すの?」玄関でヨンソが振り返った。「いつ?」
「秘密だ」ウソクがおどけてみせる。

ヨンソ「受験生がいるのに引っ越しなんて。ホントに引っ越すわけじゃないよね?」
ウソク「秘密♪」
ヨンソ「何が引っ越しよぉ」
ウソク「あぁ、言おうか、やめようか」

二人は連れ立って出掛けて行った。

ヘリム「…。」

+-+-+-+

地下鉄のホームから「アジト」へ続く業務用扉を開けると、ソヌはそこで不思議そうに立ち止まった。
アタッシュケースを両手に持った男たちが、黙々と階段を上がってきたのだ。「?」
アジトへ入ると、そこには荷物を運び出そうとしている男の他に、退屈そうにゲームをしている同僚が一人。
モニターには、変わらず小さな取調室にいるスヨンの様子が映っている。

ソヌ「どうなってるんです?なぜ片付けを?」
同僚「主任の指示ですよ。機材を全部撤収して、あの女性は夜のうちに事務所へ連れて来いって」
ソヌ「それじゃ尋問は?」
同僚「もうやるなと。明日の午前中に記者会見するそうですよ」
ソヌ「!」
同僚「今日は出勤なさらなくても良かったのに、無駄足でしたね。メール来なかったんですか?」

ソヌは壁に張り巡らせた新聞紙の向こうに透けて見えるスヨンの影を、じっと見つめた。

+-+-+-+

「時間が経てば余計辛くなるだけだぞ」キチョルが言った。

ダイニングテーブルの上には、夫がプレゼントしてくれた野草の綿毛が落ちたまま、放置されている。

ヘリム(電話)「ソヌに何をさせるつもりなのよ?」
キチョル(電話)「お前はソヌをその気にさせるだけでいい。他のことはこっちでやるから」
ヘリム「あなた、ソヌのことは何も知らないじゃない」
キチョル「知らないのはお前だって同じだろ。俺がいなけりゃ、キム・ソヌは今頃中国の路地裏で危険な真似してただろうよ」
ヘリム「…。」
キチョル「よく考えるんだ。何が本当に息子のためになるのか」

電話を切ると、ヘリムは洗面所に飛び込んで泣き崩れた。
天井からぶら下がっている電気シェードの上で、盗聴器のランプが赤く点滅している。
ヘッドフォンから聴こえてくる泣き声に、キチョルは小さくほくそ笑んだ。

ひとしきり泣き声を上げた後、ヘリムはシャワーのコックを捻り、勢い良く水を流しておくと、目の前の棚の扉を開いた。
タオルの奥から通帳と現金を取り出す。
トートバッグに適当に服を詰め込み、彼女は出掛けた。

+-+-+-+

ヘリムがやって来たのはスーパーマーケットだ。
買い物をする姿にはいつもと違った様子もない。

「今からタイムセールを行います」というアナウンスで、客が一斉に駈け出した。
その人混みに流されるように売り場へ向かうヘリムを、尾行していたキチョルの手下が慌てて追いかける。
手下がタイムセール売り場へ向かったのを棚の陰から確かめると、ヘリムは何事もなかったように反対側へ歩き出した。

+-+-+-+

「この近くに間違いないんだけどな」ソヌは運転しながら周囲をキョロキョロと見渡した。
彼はある建物に入ると、627号室のチャイムを鳴らす。
「うるせーなぁ」そう言って顔を覗かせたのはヒョンテだった。

ヒョンテ「お前、何だよ?」

「先輩、朝ごはんまだでしょ?」屈託のない笑顔でそう言うと、ソヌは無理やり中へ入っていく。

ヒョンテ「おい!出てけって」

ソヌはヒョンテのことなどお構いなしに、部屋の中を見回した。「はぁ、臭いな」
「胃がムカムカする」ヒョンテは酒やけする胃をさすり、ソファに腰を下ろした。
「合唱団に入っていらっしゃるんですよね」ソヌは床に落ちている楽譜を拾い上げる。

ソヌ「飲み過ぎたら歌えないんじゃないんですか?」

それをサイドボードの上に起き、隣で倒れていた写真立てを起こす。
そこには嫁と娘と思しき人物と一緒にヒョンテが写っていた。「…。」

ヒョンテ「歌は歌うもんじゃなくてな、(胸を指し)ここの振動を伝えるものだ」

ソヌは写真立てをそっと戻す。

ヒョンテ「あー、胃がムカムカする。怒る前にさっさと帰れ」

「酒を飲んだんなら酔い覚まししないと」ソヌは上着を脱ぎ、冷蔵庫の扉を開けた。

ヒョンテ「おいおいおい!お前ん家かよ?!閉めろって!」

程なく、ヒョンテはソヌお手製の解毒ラーメンにありついていた。

#本が鍋敷きになってるあたりが、とてもそれっぽい(笑

「おい」ゴミを拾い集めるソヌに、ヒョンテが呼びかける。

ヒョンテ「お前、仕事辞めてラーメン屋にでもなれ」
ソヌ「あの…先輩」
ヒョンテ「駄目だ」
ソヌ「?」
ヒョンテ「言うな。黙ってじっとしてろ」
ソヌ「まだ何も言ってませんけど」
ヒョンテ「なぁ、こうやって家まで押しかけてきたってことは、面倒起こしに来たんだろ」

「あの」ソヌは改めてヒョンテに向き直る。「今日、尋問所を片付けてるってご存知ですよね?」

ソヌ「明日チョ・スヨンの記者会見もやるって」
ヒョンテ「だから今、家で遊んでんだろ。お前もさっさと家に帰って遊べ」
ソヌ「まだやることはたくさんありますよ。新たに来たヤツの目的が何なのか、なぜ工作員たちを粛清してるのか、突き止めないと」
ヒョンテ「何が”突き止める”だ。単に金のためだろ。工作金をくすねたから殺したって、お前も一緒に聞いたくせに」
ソヌ「…。」
ヒョンテ「それにな、あいつら少しでも勘付いたら、すぐ中国へ飛びやがる。飛行機に船、中国を行き来する人口が一日にどれだけあると思う?マスコミに公開して、”我々はこんなに一生懸命やってます”って、上のヤツらに可愛がってもらうのが一番だ」
ソヌ「チョ・スヨンの家族は?」
ヒョンテ「…。」
ソヌ「チョ・スヨンの自首が公開されたら、ただで済むと思いますか?」
ヒョンテ「そりゃ不憫さ。悲しいことだ。けどな、だからって気を遣う理由にはならない。上のヤツらが末端の工作員の家族のことなんて気にすると思うか?家族どころかトラック一台分死んだって、トラックが勿体ないとか言うヤツらだぞ」
ソヌ「それなら僕たちが阻止すべきでしょう」
ヒョンテ「僕たち?」

ヒョンテが箸を置いた。「何で”僕たち”なんだ?」
彼は立ち上がり、ソヌが拾い集めたゴミを再び床にぶちまける。「免疫力も上げるのも兼ねて…」

ヒョンテ「汚ねぇのが好きなんだ」
ソヌ「…。」
ヒョンテ「なぁ、お前昇進したいだろ。主任の家へ行って美味しいラーメン作ってやれ。その方が遥かに確率がいい。傷つく人もいなくなるしな」

「チョ・スヨンの言った、火傷キズのある男」ソヌの目が悲しく光る。「同僚を殺したんです」

022

ヒョンテ「…。」
ソヌ「そいつがここにいるのに、先輩なら放っておきますか?」

「…。」ヒョンテが無理に笑顔を作り、床に座っているソヌの前に腰を下ろす。

ヒョンテ「俺なら忘れる」
ソヌ「…。」
ヒョンテ「お前にとっちゃ今この瞬間はとてつもない悲劇だろう。少しだけ時間が流りゃ、ただのお笑いだ。ギャグライブよりも笑えるコメディーになるんだ、何もかもがな」
ソヌ「…。」
ヒョンテ「だから、ただテキトーに生きてりゃいい」

「ラーメンご馳走さん」皮肉に満ちた目でソヌを見ると、ヒョンテは立ち上がった。

+-+-+-+

尾行をまいたヘリムが訪れたのは銀行だ。
ソファで待ちながら、彼女はスマートフォンで飛行機の便を探す。
「118番のお客様」番号が呼ばれると、彼女は窓口に通帳を差し出した。「全額おろしたいんです」

「今、払い戻せる残高がないんですが」通帳を確認し、窓口の女性がすぐに困った顔で答える。

ヘリム「え?」
窓口「2日前に全額払い出していらっしゃいます」

ヘリムが慌てて通帳を開いた。
そこには新たな取引が記帳されている。
『インターネット出金』で全額が引き落とされ、残高はゼロになっていた。

ヘリム「!」

+-+-+-+

銀行を出て来たヘリムはコンビニへ飛び込んだ。
目にとまった商品を鷲掴みにすると、カードをレジに出す。
店員がカードをレジに通すと、エラー音が鳴った。

店員「これ、使えないんですが、他のカードはお持ちじゃないですか?」

他のカードを通しても、ことごとくエラー音が響く。

店員「全部磁気が駄目になってるみたいですね。他の決済方法はないですか?」
ヘリム「…。」

そのとき、「一緒に会計を」隣にやってきた男性が、レジに品物を置いた。

ヘリム「?」

ゆっくり振り返った彼女の目が、キチョルの鋭い視線にぶつかった。

ヘリム「…。」

+-+-+-+

コンビニから出ると、ヘリムは待っていたキチョルの横に静かに並んだ。
「ソンエ」キチョルが白い息を吐く。

キチョル「いくら差し迫ってもだ、家族を捨てて逃げ出してどうする?お前がいなくなったら、息子は無事だと思うか?」
ヘリム「無事じゃないなら?家族皆殺しにでもするつもり?」

キチョルが笑う。

020

ヘリム「私がいなきゃソヌには手出し出来ないわ。抱き込むなんて到底ムリよ」
キチョル「お前が映ってる地下鉄の映像、ソヌに見せてもいいんだ」
ヘリム「!」
キチョル「今、お前に出来ることは二つ。家族の人生まで全部台無しにするか、それとも、息子に涙で訴えるか」
ヘリム「…。」
キチョル「俺の思うに、答えは決まってるようだが。そうじゃないのか?」

ヘリムの大きな目がじっと前を見据える。

キチョル「決心がついたら、晩の7時までにここへ来い」

そう言って、キチョルは手帳のページを破って渡す。

キチョル「来なかったら、俺がソヌに会おう」

ヘリムがそれを受け取ると、キチョルは姿を消す。
「…。」ヘリムの頭の中で、街の喧騒が鳴り響いた。

+-+-+-+

ウソクは悲壮な顔でPCを睨んでいた。
「理事、もう出発なさりませんと」秘書が声を掛ける。「遅れます」

ウソク「ご破算になったら、もっと恥だ」

まばたきもせずに睨むPCの画面で、プログレスバーが進んでいく。
80%、81%…
100%まで進むと、『暗号解読完了』の文字が表示された。
「はぁ」ホッとして息をつくウソクの後ろで、一緒に見守っていたスタッフが手を握り合った。
「よし」ウソクは立ち上がり、デスクの上の資料を集める。
そこへ電話が鳴った。ヘリムからだ。「どうしたんだ?」

ウソク(電話)「今ちょっと…。ここに来てるって?」

+-+-+-+

ウソクが急いでやって来ると、妻はカフェの一席で静かに待っていた。

ウソク「どうしたんだ?」
ヘリム「…あなた」
ウソク「ん?」
ヘリム「私たちが初めて出会った時のこと、覚えてる?」

「…その話をしに来たのかい?」急に奇妙なことを言い出した妻に、ウソクはあくまで優しく言った。

ウソク「何かあったのかと思ったよ。君は昔の話をするのを嫌がってたじゃないか」

ウソクは鳴り始めた懐の携帯電話に手を伸ばす。「分かった。すぐ行くから」
すぐに電話を切ると、ウソクはまた妻に向き直る。

ウソク「最近、子どもたちのことで気苦労が多いのは分かってる。だけどね、どうってことはないよ。のんびり構えていればいい」
ヘリム「あなた」

ヘリムの背後で、腕時計を指して訴える秘書の姿が見えた。

ウソク「すまない、もう行かないと」
ヘリム「!」

「終わったらすぐ電話するよ」ウソクは立ち上がり、慌ただしく出掛けて行った。
何も言えないまま、またヘリムは一人残される。

+-+-+-+

「他は皆もう出発しました。私たちも遅れないように急がなければ」足早に歩きながら秘書が言う。
「すまんな」ウソクは秘書の肩をポンと叩き、エレベーターの前で足を止める。
ちょうどそこへメールが届いた。
妻からだ。

ヘリム(メール)「ソヌとヨンソをお願いします。あなたにありがとうと言いたかったの」

「…。」ウソクの頭の中に、近頃様子がおかしかった妻の姿が甦る。
頼まれたケーキを買ってきたら、すでにケーキは買ってあり、それを彼女は「食べられないものだから」と捨ててしまった。
寝室で仕事をしていたときに「話がある」と言い出したこともあった。
さっき会った妻も、随分深刻な目をして、初めて出会ったときのことを急に言い出したのだ。

ウソク「!!!」

たった今乗り込んだエレベーターが、目の前で閉まろうとしている。
「先に行ってろ」彼は思わず飛び出した。

カフェに戻ってみると、もうそこに妻の姿はない。
息を切らし、ウソクは妻を探して周囲を走り回った。

電話を掛けてみると、妻が出る。

ウソク(電話)「どこにいるんだ?どうして突然あんなこと言うんだよ?ビックリするじゃないか。何かあったのか?」

「ファン・ギチョルが…」思いがけない妻の言葉に、ウソクの足が止まる。「!」

ヘリム(電話)「あの男が家にやって来たの」
ウソク「!… 君、今どこにいるんだ?会って話そう」

「ごめんなさい。あなたにもう一度会ったら、きっと決心が鈍るわ」ヘリムの車が、立っているウソクの脇を通りかかる。
彼女はそっと夫を目で追った。「私のせいで起きたことだから、自分で解決するわ」
通りすぎようとした瞬間、ウソクと視線がぶつかる。

「君!」ウソクは妻の車を追い、夢中で駆け出した。「君!!!」
遠ざかる夫の姿をバックミラー越しに見つめながら、ヘリムはアクセルをさらに踏み込んだ。「本当にごめんなさい」

道路の真ん中で天を仰ぐウソクの隣に、もう一台の車が滑り込んだ。

秘書「理事、何をなさってるんですか!遅れますよ!」

ウソクは咄嗟に運転席のドアを開け、叫ぶ。「降りろ!」
唖然とする秘書を引きずり出し、彼は車を急発進させた。

+-+-+-+

混雑する車の列を縫うように、ヘリムの車が進む。

ヘリム「今までたった一度も、心穏やかには暮らせませんでした。私はこれ以上家族を欺いて生きる自信がなく、自首しに来ました。私は… 私は… スパイです」

自首するための言葉を、車の中で口にしてみる。
ウソクからの電話が鳴った。

ウソク(電話)「どこへ行くんだ?おかしなことを考えてるわけじゃないよね?とにかく車を停めてごらん。会って話そう。一緒に考えれば、解決策が見つかるはずだ」
ヘリム(電話)「私一人でいいの。私のせいで家族が駄目になるなんて嫌よ。私が!私が自首すれば…皆安全だわ」
ウソク「今まで何のためにガムシャラにやって来たか…。幸せな君の姿が見たかったからだ!君がいなきゃ何もかもつまらない!車を停めてくれ、話をしよう!お願いだ、頼むから!」

「ごめんなさい」ヘリムはその一言で電話を切った。
さらに速度を早めたヘリムの車を、ウソクがピッタリと追いかける。
ぐんぐんスピードを増した末に、ウソクの車が捨て身で前を塞いだ。「!!!」
鋭いタイヤの音に、道行く人々が驚いて振り返る。
クラクションが鳴り響く中、車を降りてきた二人が、もう一度向き合った。

ウソク「君を… こんなふうに行かせられるもんか!」
ヘリム「…。」
ウソク「あいつの望みは何だい?金か?情報か?」
ヘリム「…ソヌよ」
ウソク「…? 何だって?」
ヘリム「ソヌは… 公務員じゃない。国家情報院に勤めているそうよ」
ウソク「!!!」

「ソヌを抱き込めって」ヘリムの目から涙が溢れる。「ソヌを私みたいにするつもりだって!」

愕然としつつ、それでもウソクは妻に優しく声を掛ける。「落ち着くんだ」

ウソク「絶対に助かる道はある。家族が無事でいられる方法が、きっとあるはずだ」

ヘリムは首を横に振った。「いいえ」

ヘリム「この方法しかないわ」

そう言って、彼女は夫の横を通り過ぎようとした。

ウソク「君!!!」
ヘリム「…。」
ウソク「君がこんなふうに行ってしまったら… 私一人でどうしろと?!」

通報を受けてやって来たパトカーのサイレンが聞こえる。
対向車線に停まったパトカーから警官が降りてきた。

ヘリム「…。」
ウソク「私だって… 君と同じくらい家族を愛してるんだ。これは間違ってる。今まで上手くやって来たじゃないか。今度だって…一緒にいくらでも乗り越えられる」

「夫婦じゃないか」ウソクはありったけの言葉で妻に訴える。「家族じゃないか」
溢れるほどの夫の気持ちに、ヘリムは言葉を失った。

021

「道を塞いで何をなさっているんです?」やって来た警官が声を上げる。「早く車を退けてください」

「すみません」ウソクが警官に詫びる。「夫婦喧嘩しているうちに…」

警察官「そういうことなら、お二人で静かに解決なさらないと。こんなふうに迷惑を掛けてどうするんですか」
ウソク「本当に申し訳ありません。すぐ車を退けますので」

ウソクが背を向けると、警察官の視線がヘリムに向かった。「奥さん」
呆然と立っていたヘリムが、ようやく我に返る。
「君」ウソクも彼女に呼びかけた。「続きは家で話そう」

ヘリム「…。」
ウソク「お願いだから」

ヘリムは待っている警察官をもう一度見ると、何も言わず車へ戻って行った。

警察官「今日はこのまま不問に付しますから。今度から気をつけてくださいよ。早く車を退けてください」

二人がそれぞれの車に乗り込むと、警察官の誘導でゆっくりと車の列が動き出した。

+-+-+-+

ここで一旦区切ります。

ウソクがどれだけ妻を愛しているか、とにかくそれが痛いほど伝わってきて、こんなに切迫した展開でも心は暖かかったです。

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