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SPY(スパイ:JYJジェジュン主演)6話あらすじ&日本語訳vol.1

   

キム・ジェジュン、ペ・ジョンオク出演。SPY6話前半。
あらすじの中で情景や表情も捉えつつ、台詞を丁寧に拾って翻訳していきます。

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玄関を入ってきたユンジンは、妙な気配に部屋を素早く見渡した。「ソヌさん、来てるの?」
何も返事はない。「ねぇ」
彼女が奥へと入っていくと、右側の洗面所で、窓が外からそっと閉まった。

誰もいない…?
まだ警戒を解かぬまま、もう一度部屋を振り返った時、ユンジンの電話が鳴った。「はい」

ユンジン(電話)「私が電話したんです。会って話したいことがあって」

電話で話しながら、ユンジンは洗面所へ向かい、中を確かめる。

ユンジン「大事な話なんです。お忙しいと思いますが、どうかお願いします」

「はい、待ってます」電話を切ると、ユンジンはカーテンを開け、外を覗いた。
外壁にピッタリ張り付いて息を潜めているヘリムの姿は、彼女からは見えない。
ユンジンが窓に背を向けると、ヘリムはすみやかにその場を離れた。

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「いいんだ、座ってて」取調室に入ってきたジュンヒョクは、立ち上がろうとしたソヌを手で制した。
「大変だったろう?」ソヌの向かいに腰を下ろすと、ジュンヒョクは軽い口調で言う。

ソヌ「…いいえ」
ジュンヒョク「監察の方には俺がよく言っておいたから、あまり心配するな。何てことないはずだから」
ソヌ「…。」
ジュンヒョク「早く分析班に合流して、仕事を手伝ってくれ。ヤツらを捕まえれば、ソヌさんの気持ちも楽になるじゃないか」

ジュンヒョクが左手を上げ、モニターブースに合図を送る。
すると、待機していた男がPCのキーボードを叩き、録画を打ち切った。

ジュンヒョク「それから、チョ・スヨンさんの家族の件だが、考えてみればソヌさんの言い分にも一理ある。情報員の家族の面倒も見てやってこそ、今後その人たちも我々に協力してくれるんじゃないか… そんな気がしてな。だから、とりあえずはソヌさんが個人的に進めて、難しい部分があれば俺が助けるっていうのはどうだ?俺はそう思うんだが」

ソヌが鋭い目でじっとジュンヒョクを見る。「…。」
ジュンヒョクが先に目を逸らすと、ソヌはふっと表情を和らげた。

ソヌ「そこまでしてくださるなら、それ以上望むことはありません。ありがとうございます」
ジュンヒョク「礼なんていいんだ。仲間同士じゃないか」

「大変な事があれば、俺に話してくれ」ジュンヒョクがソヌに念を押した。
ソヌが頷いたのを確かめ、立ち上がると、「あぁ、そうだ」とジュンヒョクは立ち止まる。

ジュンヒョク「ソヌさんのお父さんは国防部で働いていたんじゃなかったか?」
ソヌ「あぁ… そこはもう辞めて、今はヘッチテクニックというITセキュリティ会社で働いています」
ジュンヒョク「そうか?ちょうど良かった。実は他でもない、ハードディスクを一つ手に入れてね。セキュリティ関係で簡単なアドバイスをもらえるところを探してたんだが… お父さんはお忙しいかな?」
ソヌ「忙しいのは確かなんですが、その程度のことならきっと大丈夫です」
ジュンヒョク「そうか、それなら一度お電話してもいいかな…。ソヌさんの紹介でお電話したと申し上げてもいいよな?」
ソヌ「えぇ、そうなさってください」

「了解」ジュンヒョクが出て行く。
ソヌは何となく釈然とせず、閉まったドアを振り返った。

ソヌ「…。」

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「はぁ、頭おかしくなりそう」PCモニターを見つめ、ウナが溜息をついた。
彼女が見ているのは、失敗に終わった作戦現場付近の録画映像だ。
さまざまなアングルからの映像が同時に表示されていた。

ウナ「全部怪しく見えちゃう」

後ろで分析に付き合っていたヒョンテも、ひどく疲れた様子で目をこすった。

ウナ「先輩、ここからは何も出そうにないですよ。時間帯をもう少し広げたほうがいいんじゃないですか?」
ヒョンテ「もう少しだけ見てみよう」
ウナ「(溜息)これじゃまた遅くなるし、家に帰れなくなっちゃうし。ソヌには誰が仕事教えるんだか」

「先輩、キム・ソヌを連れて来て、見させましょうよ」ウナがふと思いついてヒョンテを振り返る。

ウナ「あの子なら他のことにも気づくかも。現場要員だから、動きっていうか、そういうやつ?」
ヒョンテ「おい、お前の後ろにいる男も現場要員だったんだ」
ウナ「(笑)私が生まれる前の話じゃないんですか?」

「…。」軽くあしらうウナに小さく溜息をつき、ヒョンテはウナの見ている画面に目を細めた。

ヒョンテ「ちょっと待て。そこで止めてくれ」
ウナ「ここですか?」

いくつも並んだ映像のうち、ウナが一つを拡大する。
ヒョンテが身を乗り出した。

ウナ「これがどうしたんですか?ただの通りがかりの人ですけど」

ビルの谷間の路地を通り抜けてきた黒い服装の男が、ちょうどそこへ左からやって来たバンに乗り込む。

ウナ「待て。ゆっくりだ」

ウナが再生速度を半分に落とし、もう一度巻き戻す。
ヒョンテが注目したのは、男がバンに乗り込んだところだ。

ヒョンテ「タイミングが良すぎないか?車がちょうど目の前で止まって乗り込んだ。この人が来るのを待ってたってことじゃないか」
ウナ「確かに待ってたみたい」
ヒョンテ「ほら、見ろ!車に乗る前に何か捨てたぞ」

路地を出る手前で、男がゴミ箱の付近を通り過ぎるのを拡大する。

ヒョンテ「何を捨てたんだろう?」
ウナ「拡大してもそこまでは見えませんよ」
ヒョンテ「…。」
ウナ「これだから公共機関の防犯カメラは。42万画素って何なの?いつの時代よ?」
ヒョンテ「時間は?」
ウナ「8時22分です」

ピンと来たヒョンテが机を叩いた。

ヒョンテ「チョ・スヨンが倒れたのは8時20分。位置的にもピッタリだ」

ヒョンテが上着を掴み、ブースを出たところでソヌがやって来る。「先輩、出掛けるんですか?」

ヒョンテ「凶器を探してくる」

駆け出したヒョンテの後を、ソヌはとにかく追いかけた。

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目的の路地裏にやってくると、ちょうど清掃係がゴミを集めようとしているところだった。
「ちょっとすみませんよ」ヒョンテは清掃係の女性とゴミ箱の間に割って入り、壁を作る。
ソヌがゴミ箱を覗いた。

ヒョンテ「(清掃係に)1分でいいですから。冬なのに、大変でしょう?」

「…。」ゴミ箱を探っていたソヌの顔が険しくなる。
彼は何かを手に顔を上げた。

それは…

銀色に光り、一見ペンにしか見えない物だ。
ヒョンテはそれを見ると、清掃係に礼を言い、電話を取り出した。

ヒョンテ(電話)「見つけたぞ。あいつだ」

捜査対象が絞られた。

ウナ(電話)「はい。車両の行方を追ってみます」

ウナが忙しくキーボードを叩き、対象車両の捜索にかかった。

ヒョンテが電話で話すのを待つ間、ソヌは路地を抜けた先をじっと見つめる。「…。」
この路地を通り抜けたところで、犯人はタイミングよくやって来た車に乗り込み、逃走したのだ。

055

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ジュンヒョクは暗い室内でパスワードの入力画面を睨んでいた。
「ヘッチテクニックですか?技術力だけは信じてもいい会社ですよ」電話の向こうで相手が答える。

男(電話)「来年上半期までは外部に公開せずに、開発に専念するとのことですが、諜報を恐れてか保安にエラく神経を遣っています」

話を聞きながら、ジュンヒョクはパスワード入力欄に無造作に文字を入れる。

男(電話)「キム・ウソク理事は開発面での核心となる人材で、暗号解読アルゴリズムにおいては国内でも指折りの専門家です」

Enterキーの上でしばらく躊躇った後、ジュンヒョクはBackspaceキーを長押しする。
パスワード入力欄が空になった。

ジュンヒョク「よく分かりました」

電話を切り、ノートPCをバタンと閉じる。「…。」
そのとき、携帯にメールが入った。

『ヘッチテクニック CTO キム・ウソク.vcf』

※ vcf=電子名刺に使われる拡張子。このファイルで連絡先のやり取りができる。

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会議室へ入ったところで、ウソクの電話が鳴った。
「こんにちは、キム・ウソク理事。企画財政部で働いているソン・ジュンヒョクと申します」妙に明るい調子でジュンヒョクが言う。

※企画財政部=ソヌの名刺に書いてある部署。

ウソク(電話)「えぇ、こんにちは。今ちょっと会議中でして…。待ってください、どなたですって?」
ジュンヒョク(電話)「キム・ソヌさんと一緒に働いているソン・ジュンヒョクです。すみません、会議中にお電話差し上げて申し訳ありません。会議の終わる頃に掛け直したいんですか、いかがでしょう?」
ウソク「あぁ、いいえ、会議が遅くなりそうなので…」

そう言って、ウソクは集まっていた職員を全員部屋から追い出した。

ウソク(電話)「ソヌからよく聞いています。ソヌが釜山帰りに怪我した時、ご世話になったとか」
ジュンヒョク(電話)「いえいえ、とんでもない。ソヌさんがいないと部署が回りませんので。あの、お父さん、他でもないんですがね、ソヌさんに聞きまして、ちょっと我々を助けていただきたいことがあってお電話差し上げたんです」
ウソク「えぇ、お力になれることがあれば、もちろんやらせていただきます。ところで、どういったことで…?」
ジュンヒョク「えぇ、たいしたことではないんですが、セキュリティ管理のことでいくつかお訊きしたいんですよ。公的にお会いするまでのことではないし…、個人的にお会いして、お話したいんですが。私もここで責任のある部分の多い人間でしてね。えぇ、事がうまく解決すれば、理事の会社にも損はないと思います」
ウソク「えぇ、えぇ、分かりました。私は構いません。スケジュールを確認して、改めてお電話差し上げます。えぇ、そのときにご挨拶させてください。ソヌをどうぞよろしくお願いいたします」

電話を切ると、ウソクは思わず拳を握りしめた。「!」
願ってもいない人物が、自分から転がり込んできたのだ。

#ジュンヒョクが「私もここで責任のある部分の多い人間でしてね」と言ったとき、カメラの焦点が彼から後ろの貼り紙に移っています。『院訓 自有と眞理に向かって無名の献身』と書かれていますね。

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ソヌは逃走する男の姿を捉えた防犯カメラの映像をじっと見つめていた。

056

ソヌ「…。」

あのとき…
中国で自分を襲った男。
「家に帰ってろ。またすぐ会うことになる」朧げな意識の中で聞いた男の言葉が、鮮烈に甦る。

車に乗り込もうとして、男が僅かに横を向いた瞬間を、ソヌは画面いっぱいに拡大した。

そこへノックの音がしてウナが入ってくる。
「それくらいにしなよ。まだ確定したわけでもないんだからさ」延々と映像を見ているソヌに、ウナは呆れ顔だ。

ウナ「注射器の成分を調べるのに、1、2日掛かるらしいよ」

そう言ってチラリと周囲を確かめると、ウナは声を潜めた。

ウナ「主任がよそと情報共有するなって言うから、余計時間が掛かるのよ」
ソヌ「…。」
ウナ「それにしても主任、この件珍しくやる気まんまんだわ。前はそうじゃなかったのに」

「こいつに間違いない」ソヌは立ち上がった。

ウナ「どうして分かるの?」
ソヌ「前に会ったことがある」

「ん?」ウナが呑気に画面を覗きこむ。

ソヌは拡大写真を数枚印刷した。

ソヌ「この車のナンバーを調べてくれ。俺は車の行方を調べるから」
ウナ「もうちょっとゆっくりやったらどうかな?私たちが急いだって解決することじゃないんだし」

「ありがとう」ソヌは彼女の持っていたコーヒーをさっと取る。「いただくよ」
「ちょっと!」ウナはあっという間に出掛けて行くソヌを見送った。「熱いからね!」

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ソヌのワイシャツの袖に残っていた血の痕は、ほとんどわからないくらいに消えていた。
すっかり乾いたシャツの袖を、ヘリムはそれでも気になってしきりに触ってみる。

「君」ダイニングでウソクが口を開いた

ウソク「思ったより事がずっと楽に進みそうだよ。ソン主任って人をどうしようかと悩んでいたんだがね、向こうから先に連絡してきたんだから、疑われることもない」
ヘリム「どんな用事で連絡して来たの?何か勘づいた様子じゃありませんでした?」
ウソク「いやいや。セキュリティー関連で訊きたいことがあるらしい。訊かれたことに答えてやればいいんだ。どこで会えばいいだろうな。会社に呼ぼうか?」
ヘリム「あなた一人でどうにかなるかしら?向こうは間違いなく部下を連れて来るだろうし、携帯を置いてうろつくはずもないわ」
ウソク「ふむ、それならどこがいいだろうな。料理屋みたいなところで会うのは危険だろう?」

「…。」ヘリムはじっと考えを巡らせる。

そこへソヌが仕事から帰ってきた。
「ソヌ」ウソクが声を掛ける。

ウソク「お前、なぜソン・ジュンヒョク主任のことを言わなかったんだ?」
ソヌ「あ、電話がありました?父さんに訊きたいことがあるって言ってたけど、どんなことなのか言わなかったんです」
ウソク「詳しいことは話してないんだ。とりあえず会って、そこで話そうってな」

ソヌはリビングのテーブルに鞄を起き、父のいるダイニングへ向かった。
ヘリムの目がチラリとソヌの鞄に向かう。

ソヌ「それで?お会いになるんですか?」
ウソク「勿論だ。お前の顔もあるしな」

ヘリムが乾いたソヌの洗濯物を畳み終え、彼の鞄と一緒に持って立ち上がった。

ソヌ「主任本人から電話が会ったんですか?会社に?」
ウソク「いや、携帯にな。お前が教えたんじゃないのか?」

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ソヌの部屋へ入ったヘリムは、鞄を机の上に置き、洗濯物を奥のクローゼットへ片付けた。
部屋の入口で鞄をそっと振り返ると、彼女は一旦廊下に出る。
ソヌがまだ夫と話しているのを確かめると、再びソヌの部屋へ戻り、急いでソヌの鞄のジッパーを開けた。

最初に目についた紙を取り出すと、彼女はハッと目を見張る。
チョ・スヨン襲撃犯を捉えた防犯カメラのキャプチャーだ。「!!!」

そのとき、当然間近で声がした。「母さん?」
「!!!」彼女は慌てて紙を鞄に戻し、振り返る。
すぐ後ろにソヌが立っていた。

ソヌ「何してるの?」
ヘリム「あ、あぁ、ゴミを片付けてたんだけど、鞄の中にもゴミがあるかもしれないと思って。鞄に古い領収書だ何だと突っ込んだままにしてたら福が逃げるでしょ?」

「母さん」ソヌは少し困った顔で上着をベッドに放り投げ、ヘリムの背後にある鞄に近づく。

ソヌ「公務員の鞄を覗くもんじゃないよ。入札書類だって入ってるんだから」

「ごめん」鞄の中を確かめるソヌの後ろで、ヘリムは努めて自然に謝った。

ソヌ「謝ることはないけど、次からはやめてね」
ヘリム「ソヌ、訊きたいことがあるんだけど」

「何?」ソヌが言ったとき、ベッドの上のコートから電話の音が鳴った。
「母さん、電話取って」ソヌが鞄を覗いたまま手を伸ばす。
ベッドの近くにいたヘリムは、コートのポケットから携帯を取り出し、ソヌに差し出した。

画面には「ユンジン」と表示されている。
それを見た瞬間、彼女は一度出した手をさっと引っ込めた。

ソヌ「何?誰?」
ユンジン「待って」
ソヌ「…。」

そうしているうちに電話が切れる。
ソヌは母の手から携帯を取り上げ、頑なな母に小さく微笑んだ。
「ユンジンじゃないか」彼は恨めしそうに母を見る。

ソヌ「電話するよ」

かけ直そうとしたソヌの手から、ヘリムは無理やり電話を奪い取る。

ソヌ「何するんだよ?」
ヘリム「暫くの間、ユンジンと連絡を取らないでくれないかしら」
ソヌ「…?」
ヘリム「分かるわ。お母さん変なこと言ってると思うでしょう?どうしても気に掛かることがあるのよ」
ソヌ「どうしてユンジンが… ユンジンの何がそんなに気に掛かるの?」
ヘリム「出生や両親のこと、疑わしいのは一つや二つじゃないわ」
ソヌ「何がそんなに疑わしいんだよ?!身分証明でも貰ってくるように言おうか?」
ヘリム「そうね。それでもいいなら」

「母さん!!!」ソヌがたまらず声を荒らげる。

ヘリム「…。」
ソヌ「他の人ならともかく、母さんがユンジンにそんなことしちゃダメだろ」
ヘリム「ユンジンのことなら何でも知ってると思う?」

「何言ってんだ…」ソヌは途方に暮れて溜息をついた。

ソヌ「あぁ、他のことはわからないけど、母さんとそっくりだってことだけは分かるよ」

「似てないわよ!!!」今度はヘリムが苛立って声を荒らげた。
「…。」ソヌは悲しい目でヘリムの手から携帯をそっと引き抜いた。

057

ソヌ「…そうだね。僕が母さんのこと誤解してるのかもしれない。けど、母さんは僕のことどれだけ知ってるの?」
ヘリム「…。」
ソヌ「僕がどんなことを考えてて、何が好きなのか… 全部知ってると思う?」
ヘリム「…ソヌ、今回だけは母さんの言うことを聞いてよ」
ソヌ「今回だけ今回だけって!!!」
ヘリム「…。」
ソヌ「いつまでそんな言葉で僕に無理強いするつもり?今回は、母さんこそ僕を信じてくれよ」

「ソヌ…」ヘリムは切実に息子に訴える。

ソヌ「僕は子どもじゃない。何をしようと、どんな人と付き合おうと、僕の勝手だ」
ヘリム「…。」

ソヌはドアを開き、通り道を開けた。「これ以上ガッカリさせないで」

ソヌ「お願いだから」

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「ただいま」ヨンソが帰って来る。
頷くウソクの前を、酷く暗い表情のヘリムが横切っていった。

ヨンソ「何?お母さんまた喧嘩したの?」
ウソク「ん?」
ヨンソ「何をそんなにお兄ちゃんと喧嘩することがあるんだか」

ウソクがニッコリとほほ笑み、「シーッ」と人差し指を出す。
「更年期よ、更年期」ヨンソは呆れたように自室へ向かった。

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寝室のドアにじっともたれかかり、ヘリムはユンジンの部屋で見つけた携帯電話のことを思い返していた。
引き出しに忍ばせてあった携帯電話に、たった一件登録されている、いないはずの『お母さん』。

彼女は携帯を手に取り、番号をプッシュする。
「86137012…」電話番号を覚えていたのだ。
呼出音が鳴り出した瞬間、部屋に夫が入ってきて、彼女は咄嗟に電話を切った。

ウソクは優しい目で彼女の顔を覗きこむ。「急にどうしてあんな声を出したりしたんだい?」

ウソク「ソヌの気持ちはよく分かってるじゃないか」
ヘリム「あなたは私が間違ってると思うの?何も知らないでユンジンは別だって言うの?」
ウソク「君はもともと家族しか信用しないじゃないか。それに、最近は自分たちにも問題が起きてるんだから、過敏反応ってこともあると言ってるんだよ」
ヘリム「ユンジン、あの子どこか変よ。やたらと気に掛かるの」
ウソク「どうした?あの家から盗聴器が出たのかい?」

「出なかったわ」ヘリムが目をそらす。

ウソク「それなら、何が問題なんだい?」
ヘリム「…。」

黙りこむヘリムに、ウソクは余裕の笑みを浮かべた。

ウソク「君は最近の出来事でナーバスになってるんだ」
ヘリム「…。」
ウソク「若い子たちのことは、好きにさせておくのが一番だよ」

歯がゆくて、ヘリムはぎゅっと目を閉じた。

ウソク「僕たちにはソン・ジュンヒョクっていうもっと差し迫った件があるじゃないか」

「家に呼びましょう」ヘリムが深く息をついた。

ウソク「ユンジンを?また呼んでどうするんだ?ソヌがあんなに怒ってるのに、そんなことしたら…」
ヘリム「ソン・ジュンヒョクよ。家へ招待するの。家なら私たち二人でどうにか出来るはずだわ」

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家へ帰ってきたユンジンは、どこか思い詰めたような表情でソファに腰を下ろした。
ふと腕時計を確かめ、彼女はテレビ台の引き出しを開ける。
奥から黒い携帯電話を手に取ると、再びソファに身を沈め、目を閉じた。

ユンジン「…。」

携帯電話を開いた彼女は、ハッとして起き上がる。画面には午後8時2分と表示されていた。
彼女がもう一度腕時計を見た瞬間、その電話が鳴る。「もしもし」

男(電話)「今日、電話で話すのは難しそうだ」
ユンジン(電話)「どうしてですか?家に何かあったんですか?」
男「そういうわけじゃなくて、監察員がいるから。明日のこの時間にまた連絡する」
ユンジン「…。」
男「それから、絶対にそっちから掛けてくるなと言ったはずだ」
ユンジン「…?」
男「約束の時間は8時だ。二度と掛けてくるんじゃないぞ」

電話が切れる。「…。」

自分の知らないうちに、誰かがこの電話を使っている。
疑念が確信に変わり、ユンジンの目が鋭くなった。

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ここで一旦区切ります。

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