韓国ドラマから美しい言葉を学ぼう

韓国ドラマのあらすじや詳細日本語訳を紹介!セリフを題材にした文法解説も

夜警日誌あらすじ&日本語訳8話vol.1

      2014/08/31

チョン・イル、チョン・ユンホ(東方神起ユノ/ユンホ)出演、「夜警日誌」8話前半、ドラマのあらすじを掴みながら、台詞を丁寧に日本語に翻訳していきますね。 では、さっそく♪

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「春画集が何なのか知ってるんだから!」しつこく扉を叩くトハに腹を立て、部屋を飛び出してきたイルに、階下にいたサンホンとムソクの視線が集まった。

女将のオンメはそんな騒ぎはお構いなしだ。
「そうよ」彼女は自分に言い聞かせるように頷く。「ぶつかるしかないわ」

サンホンは階段の途中でリンを見上げていた。
「旦那さん」オンメが呼ぶと、サンホンは振り返る。「?」

オンメ「お話があるんです」
サンホン「…。」

「本、出しなさいよ」「嫌だね」「!」「扉を叩くんじゃないぞ」リンはバタンと音を立て、トハを締め出す。
サンホンは仕方なく、外へ出たオンメの後に続いた。

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緑豊かな小道に出ると、深刻な表情で咳払いをした。

サンホン「どうしたんですか?」

オンメ「そ、その…」

どうにもならず、オンメはサンホンに駆け寄ると、彼の胸に身を投じた。「旦那さん!」

オンメ「お待ちします。心の中にいる御方を忘れるまで…お待ちしています」
サンホン「!」

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サンホンが今度は自分からオンメを強く抱きしめる。
彼の腕の中で、オンメの目は恍惚となった。
一度体を離しては、何も言葉が出ず、彼はまたオンメをまた抱きしめる。

と、オンメは妄想から目が覚めた。

オンメ「そ、その…」
サンホン「…。」
オンメ「お待ちします」
サンホン「(キョトーン)」
オンメ「心の中にいる御方を忘れるまで…お待ちしています」
サンホン「(ドンヨリ)」
オンメ「…いいでしょう?」
サンホン「無駄な時を過ごしてはいけません」
オンメ「!」
サンホン「私のために貴重な歳月を無駄にしないでください」
オンメ「…。」

サンホンは冷たく背を向けた。

オンメ「私の勝手です!」
サンホン「…。」
オンメ「私、無駄な時を過ごして生きるつもりですから!」

「…。」サンホンは微かなため息をつき、彼女の前を去った。

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宿の部屋でムソクは左腕の傷の手当をしていた。
それを隣で覗き、腕組みをしているのはリンだ。

#ふたりして同じところを斬られるなんて仲良しだねー

リン「朝鮮一の剣豪だというのは嘘だったんだなぁ。剣で斬られるなんて」

ムソク「私がこうして斬られるほどなら、相手は…」
リン「?」

「私の口からは言いません」ムソクは面白くなさそうに、ぷいっと顔をそむけた。
リンは笑いを噛み殺す。

リン「私をどうするつもりだ?」
ムソク「なぜお逃げになったのです?」
リン「?」
ムソク「やましいところがなければ、残って無罪を明らかにすべきでしょう」
リン「”無罪だから待ってください”と言えば、”そうか、分かった” そう言って、千年でも万年でも待ってくれると思うか?」
ムソク「千年万年掛かっても明らかにするくらいなら、どこまでも無実なのでしょうね」

「揚げ足を取るなよ」リンが呆れて笑う。

「またやってる!」そこへトハがやって来た。「二人ともどうして顔を合わせれば口喧嘩ばかり?」

トハ「まるでうちのアウンとタウンみたい」
ムソク「…。」
リン「アウンとタウン?そりゃ誰だ?」
トハ「あ… まぁ」
リン「まさか…犬か?」
トハ「犬じゃなくて」
リン「それじゃ?」
トハ「…豚」
リン「!!!」
ムソク「…。」
トハ「あはっ、あんまり気を悪くしないで。めちゃくちゃ可愛い顔してるんだから」

リンとムソクは唖然としたまま顔を見合わせる。

ムソク「私たちが… 豚だと言うのか?」

「…。」トハは気まずそうに目を逸らすと、ムソクの腕を掴み、傷口を覗き込んだ。「どれどれ?」

リン「おい!女が男の腕をいきなり掴むとは!」
ムソク「…。」
トハ「怪我人は怪我人よ。男とか女とか関係ないわ」

リンは妙に納得したように頷いた。

「化膿しなきゃいいけど」そう言って、トハはムソクの傷に息を吹きかける。
「じ、自分でやりますから」ムソクがとうとう耐えられずに引っ込めた腕を、トハは有無を言わさず再び掴むと、持ってきた薬を塗る。

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羨ましそうに眺めていたリンは、思わず自分の腕を出した。

リン「私は?」
トハ「?」
リン「私だってここに傷が」
トハ「…それで?」

「私にも」そう言って、リンはトハの顔にふぅっと息を吹きかけ、にっこり笑った。

トハ「薬をあげたら木っ端微塵にしたくせに」

「それはこの…」リンは思わずムソクを指さし、口をつぐむ。

ムソク「?」
リン「… いい。もういいから」

「それじゃ」トハはリンとムソクの手を掴むと、自分の前で無理握らせた。

トハ「仲良くしてくださいよ。ね?」
リン「…。」
ムソク「…。」

手を握り合った男二人を残し、トハは薬の盆を持って部屋を出て行く。

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扉が閉まると、二人は手を離し、気まずく顔をそむけた

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大妃はひどく頭を悩ませていた。
そこへ、悩みの種であるキサン君がやってくる。

彼女の前に腰を下ろすと、キサン君は居心地が悪そうに指をいじった。
しばらく躊躇うと、彼はようやく口を開く。

キサン君「御祖母媽媽… 昨夜は飲み過ぎました」
大妃「…。」
キサン君「御祖母媽媽に失礼な真似をしたのではないかと…」
大妃「…。」
キサン君「…き、記憶がないのです」

自分をまっすぐ見つめる大妃の視線が怖くて、キサン君はひたすら目を伏せた。

キサン君「御祖母媽媽」
大妃「何事も… ありませんでした」
キサン君「!」
大妃「御身体を大切になさらなければ」

「お酒はお控えください」大妃は穏やかに微笑んでみせる。

キサン君「は、はい。そう… します」

「…。」落ち着きのないキサン君の様子が気に掛かり、大妃は身を乗り出すと、小刻みに震えているキサン君の手を包み込むように握った。

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大妃「主上」
キサン君「!」
大妃「ずいぶんお辛いでしょう」

思わず引っ込めようとしたキサン君の手を、大妃はそれでも強く握る。

大妃「領相の圧力を私が知らぬわけがありません」
キサン君「!」
大妃「身に被せる布団さえどれほど重く感じられるか、私もよく存じております、主上」

「…。」大妃の優しい言動にしばらく考え込んでいたキサン君は、厳しい目で彼女を睨み返した。

キサン君「何がお望みです?」
大妃「?」

キサン君は勢い良く手を引っ込める。「私に優しく接する理由は何ですか!」

大妃「理由ですって?祖母が主上を…」
キサン君「おやめください!私を馬鹿だとお思いですか?何の理由もなく優しくなさるはずがないでしょう」
大妃「主上!」
キサン君「手の一つも握ってもらえば、私が感謝するとでも?たかが手を握るくらい、そんなにすごいことだとお思いなのですか!」
大妃「!」
キサン君「私に望まないでください。御祖母媽媽の望み、決して聞き入れるつもりはありません」

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キサン君が部屋を出て行くと、大妃は愕然と肩を落とした。

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大妃殿を出て来たキサン君は、そこで領相と出くわす。

領相「ここでお会いするとは」
キサン君「領相は何の用です?」
領相「月光大君のことで大妃媽媽がお悩みのようでしたので…」

「大逆罪人なんです!」キサン君が声を荒らげた。

領相「!」
キサン君「余の前で大逆罪人の名を口にするとは!」
領相「…。」
キサン君「今後は注意なさるように」

立ち去ろうとしたキサン君の背中に、領相が続ける。

領相「度を過すと、毒になります」
キサン君「…。」
領相「酒も、左道(※道教)も」

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「…。」じっと見つめるキサン君に、領相は静かに頭を下げた。

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大妃は訪ねて来た領相に今日も茶を振る舞った。

領相「主上殿下はあまり気分が優れないようにお見受けしました」
大妃「…。」
領相「ひょっとして何かあったのですか?」

「何もございません」大妃は乾いた笑みを見せる。
彼女が平静を装い、ゆっくりと茶器を置くのを、領相はじっと観察した。

領相「…。」

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部屋へ戻ってきたキサン君はさらに落ち着きを失っていた。
右往左往しているうち、彼の後ろに現れたのは… 彼の幻だ。

偽キサン君「大妃に刀を向けたのをあいつらが知ったら、お前のことどうするかな?」
キサン君「違う!違う!御祖母媽媽に刀を向けたんじゃない!」
偽「誰に刀を向けたか、そんなことは重要じゃない。お前が大妃殿で刀を抜いたこと自体が大事件だ。それだけでお前を追い払える」
キサン君「!」
偽「忠孝烈(※忠誠心・孝行・貞女)を最高とするこの朝鮮で、王が不孝… それどころか、人の道に背くとは…。あいつらどんなに喜ぶだろうな」
キサン君「黙れ!!!違う!違うと言っておろう!」
偽「そうだな。お前には何も非もない。左道に惑わされて、ちょっと理性を失っただけだ」
キサン君「…。」
偽「左道?そうだ!あの道吏に罪を被せればいい。あいつの術に掛かって、理性を失ったんだってな」

「…。」そむけていたキサン君の目が、ゆっくりと幻影へと向けられた。

偽キサン君「そうしろよ」

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ちょうどそのとき、扉の向こうでサダムの声がする。「殿下、入ります」

偽キサン君「そうしろよな」

緊張を高めるキサン君を、幻影はニヤリと笑って見つめた。

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入ってきたサダムは、いつものように静かに頭を下げた。

サダム「殿下、天の気運が尋常ではありません」
キサン君「詳しく話せ」
サダム「殿下の気運は朝鮮全体に影響を及ぼします。殿下の火気が昇天すれば、都の地は火に包まれますので、火気を抑えねばなりません」
キサン君「それで、どうせよと言うのだ?」
サダム「都を満たしている陽気を追い出すのです。そのためには、閉ざしている粛清門を…」
キサン君「黙れ!」

※漢陽の城門は陰陽五行説と深く関連があります。
粛清門は宮廷の北側にあり、いつもは閉ざされていました。日照りが続くような時には、南の祟礼門を閉めて陽の気(太陽、火)を防ぎ、北の粛清門を開けて陰の気(雨、水)を呼び入れたとされています。

サダム「!」
キサン君「見えもしないものを利用して、これ以上余を陵蔑するな!」
サダム「殿下?」
キサン君「臣僚たちは余が左道に堕ちて国の根幹を揺るがしていると噂しているのだ。宮廷じゅう巻き込んで大きな見世物でも繰り広げるつもりか?」
サダム「大きな火気が殿下を飲み込もうとしているのです!」

キサン君はそう言って詰め寄るサダムの頬を打った。

サダム「!」

打たれて顔をそむけたサダムの顔が、怒りで俄に変質する。

キサン君「そんな言葉で余を惑わすな!」
サダム「…。」

顔が不意に元に戻ると、サダムはキサン君に向き直り、鋭い目を向けた。

サダム「…。」
キサン君「お前の饒舌にいつまでも乗せられると思ったか?私がそう簡単に惑わされるとでも?!」

辛うじて怒りを抑えると、サダムはその場にひれ伏した。

サダム「殿下、どうか私の忠誠心をお察しくださいませ」
キサン君「これまでお前をそばに置いていた。それなのに、病は良くならない。これからお前の去就を考えるから、出て行け」

キサン君が背を向けると、サダムはゆっくり立ち上がり、部屋を後にする。

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憤ったサダムがやって来たのは、梅蘭房のヨンウォルのもとだ。
落ち着きのないサダムを、ヨンウォルはチラリと窺った。

サダム「屈辱を受けるのは、実に性に合いません」
ヨンウォル「…。」
サダム「人間ごときを相手に、いつまで跪かなければならないのか」
ヨンウォル「まさか… 私に慰めて貰いにいらしたのですか?」
サダム「…。」
ヨンウォル「それなら無駄足でしたね」
サダム「…。」
ヨンウォル「私たちは取引をしたのです。道吏様に魯山で出会い、私が命をお救いしました。道吏様は私の望むものを手に入れさせると…そう約束なさいましたよね?」
サダム「えぇ、そうです」
ヨンウォル「それなのに、道吏様は本当に私の力になるのかどうか」
サダム「…。」
ヨンウォル「私の力になるおつもりはあるのですか?」

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「望みは何です?」開き直ったようにサダムが言う。

ヨンウォル「この都の薬剤専売権を」
サダム「…。欲しい物は手に入れなければ。全てね」
ヨンウォル「…。」

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梅蘭房を出てきたサダムを、手下のホジョが迎えた。

サダム「ホジョ」
ホジョ「はい」
サダム「火鬼を呼ぶのだ」
ホジョ「 はい!」

#「私が斬られるほどだから相手は…」とムソクが言いよどんだホジョは、ピンピンしてますなー

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枕元の蝋燭が不意に消える。
リンは悪夢に呻き声を上げた。

そこへ音も立てずに人影が入ってくると、リンの首に向かって刀を振り下ろす…。

リン「!!!」

リンは驚いて飛び起きた。
夢だったのだ。
リンは息も絶え絶えに首元を押さえる。
どこまでも不吉な予感で一杯だった。

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今日も食事客で賑わう宿の一階で、チャン氏は人相書を眺めていた。

チャン氏「この男が罪人の逃走を手伝ったって?最近の都は何でこう荒れてるんだ?懸賞金がかかってるヤツも多いし。とにかく不吉だ」

そこへ、酒の膳を持ったサゴンがやってくると、邪魔なチャン氏にボヤいた。「退いてくれよ」

チャン氏「何だ?オンメの代わりにやってるのか?」
サゴン「それじゃ、お客がこんなに多いのに、皆追い返すのかい?」

そこへ、チョヒが困った様子でやってくると、チャン氏を呼んだ。

チョヒ「お姉さんを止めてくださいよ!呑んだくれてるんです」

扉の向こうから、「酒を持って来なさい!」と騒ぐオンメの声が聴こえると、チャン氏は呆れてため息をついた。

チョヒ「これじゃ商売上がったりだわ」

チャン氏は人相書を卓上に置くと、店の奥へ向かった。
ちょうどそこへ外から帰って来たムソクは、ふと人相書に目を留めると、何気なく手に取った。

ムソク「!」

彼は何も言わず人相書を畳むと、懐にしまった。

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人気のない場所へやってくると、ムソクはそっと人相書を広げる。
それは、他でもないムソク自身の手配書だったのだ。

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「余を攻撃せよと言える相手は、朝鮮じゅうにお前しかいない」
「お前は豫讓(忠臣)だと月光に思わせよ。それが余の命令だ」

手配書は王の密命とどう関連があるのだろうか…。
ムソクは王の意図を推し量ろうとした。

そこへ、背後からそっとリンが現れると、何やら深刻そうなムソクの顔を覗き込む。
ムソクは慌てて人相書を丸めた。

ムソク「いきなり現れないでください」

人相書を袖口に入れ、ムソクは足早に立ち去るものの、慌てて突っ込んだ人相書は、その場にハラリと落ちた。

リン「やれやれ、何をそんなに驚いてるんだ?」

ふっと笑うと、リンは目の前に落ちている紙に気づく。
落としたぞ、とムソクに知らせようとするものの、すでにムソクの姿はなく… 彼は仕方なくそれを拾い上げた。
広げてみると、途端にリンの顔色が変わる。

リン「!」

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サンホンもまた人相書を手に考え込んでいた。
虚しくそれを畳み、胸元にしまったところへ、トハがやってくる。

「今までありがとうございました」トハはペコリと頭を下げた。

サンホン「…。」
トハ「旦那さんがいらっしゃらなかったら、漢陽でもっと苦労したはずです」
サンホン「もう発つつもりか?」

トハは笑顔で頷く。「えぇ」
「それがいい」サンホンは手元の作業から顔を上げることなく、そう呟いた。

サンホン「白頭山に帰ったら、もう戻ってくるな」
トハ「白頭山に帰るんじゃないんです」
サンホン「?」
トハ「まだやらなきゃいけないことが残ってて。あ、ところで、訊きたいことがあるんです」
サンホン「あぁ、言ってみろ」

ずっと下を向いているサンホンの顔を覗き込むように、トハはその場にしゃがみ込む。

トハ「ひょっとして… 夜警師って、ご存知ですか?」

サンホンの手が止まった。

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サンホン「…。」
トハ「私の神母が仰ったんです。夜警師を探しなさいって。その人たちなら、うちの姉について知ってるだろうって」

※神母=養女に後を継がせる巫女のこと。白頭山にいたタンゴルのことですね。

サンホン「…。」
トハ「だけど、どうやって探せばいいのか分からなくて。どこでも口に出して回っちゃいけない気もするし」

サンホンはゆっくりとトハへ視線を移す。

サンホン「マゴの里から来たと言ったな」
トハ「はい」
サンホン「お姉さんの名前は何だ?」
トハ「ヨナです」
サンホン「!!!」
トハ「マゴ族の巫女、ヨナ。名前のとおり、顔も心もすごく綺麗だったんですよ」

「…。」サンホンは言葉を失った。
「必ず大君様を救う薬をお作りします」12年前、控えめにそう言った美しい巫女の顔が蘇る。

サンホン「一つだけ忠告しておこう」
トハ「?」
サンホン「隠されたものは、そのままにしておいた方がいいときもある。探し出し、明らかにするばかりが能ではないということだ」
トハ「どうして… そんなことを仰るんですか?」
サンホン「世間を生きてきて… 学んだことだ」

静かに呟くサンホンの声は、実に悲しげに聞こえた。

立ち上がった彼の後ろ姿に、トハが食い下がる。

トハ「姉がいなくなってから、里の子たちが私に言うんです。私が不吉だから、みんな私のそばからいなくなるんだって」

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リンは庭で一人考えを巡らせていた。

離宮で自分を襲った刺客のことを慎重に思い返す。
その刺客から珍しい香りがしたのを思い出したのだ。
それは、どこかでリンが嗅いだことのある香りだった。

リンの記憶は薬剤庫へ飛んだ。
薬剤庫をスリョンが案内してくれたことがあったのだ。

「補薬を作るのに必要なので、軍器寺でも欠かせない薬です」スリョンは生薬についてリンに問題を出す。

リン「よく分からないな」

スリョンはそばにあった薬剤を匙ですくった。「これです。焔焇」

リンは鼻を近づけ、顔をしかめた。「ひどい香りだな」

リン「軍器寺!!!」

歩き出したリンの耳に、不意にどこからかトハの声が聞こえてきた。

リン「?」

木の柵の向こうにある、鍛冶場からだ。

トハ(声)「父や母が亡くなったのも、姉がいなくなったのも、みんな私のせいだって。私が不吉だからだって」

不吉… それは幼いリン自身が町人から浴びせられた言葉だ。「…。」

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#うーん。梅蘭房で笑い者になったトハを見てリンがこの記憶を思い出したときも思ったけど、今、柵越しにトハの一言を聞いてリンが瞬時にまた同じ辛い記憶を思い出すのも、ちょっと無理やりな気がするなー。

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トハは涙を拭う。

トハ「だけど私、その子たちに何も言い返せませんでした。本当に私のせいだって気がしたから」

トハ「姉が連れて行かれた時、あともう少し大声を出したなら… あともう少し早く戻って知らせていたら… この12年、ずっと後悔して生きていきました」

「お前、馬鹿か?」たまらず鍛冶場へ乗り込んだリンは、トハに苛立ちをぶつけた。

トハ「?」
リン「何でそれがお前のせいなんだ?お前のどこが不吉なんだよ?」

背中越しいリンの声を聞いたサンホンは、そのままそっと席を外す。

リン「その人たちが助からなかったのが、なぜお前のせいなんだ?お前に何が出来た?何の力があった?」
トハ「…。」
リン「12年前なら10歳にもなっていない。10歳にもならないお前に何が出来る?」
トハ「…。」
リン「自分のせいじゃないって、今からでも戦わなきゃ駄目だろ!何で今さら弱味を見せるんだ?!」

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トハが言い返そうとしたとき、誰かの声が飛んだ。「おやめください」
入ってきたのはムソクだ。

ムソク「大君、いつまで人の傷ばかり攻撃なさるのですか?」
リン「…。」
ムソク「だから、大君のそばには誰もいないのです」
リン「!」

リンは鋭い表情で振り返る。

リン「君がそれほどの忠誠心で殿下に仕えた報いが、これか?」

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リンはムソクが落とした人相書を突きつける。
「!」ムソクはそれを奪い取り、リンを睨みつけた。

リン「…。」
ムソク「…。」

そこへ不意に人々が叫ぶ声が聞こえた。「火だ!」「火事だ!!!」

慌てて外へ出た3人の目に、向こうの方で赤い炎が上がっているのが見えた。

トハ「火鬼!火鬼だ!」

※火鬼=火の霊

リン「火鬼?」

火を見つめるリンの目が鋭くなる。

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鍛冶場へ戻ろうとしたサンホンもまた、遠くに上がっている火に目を見張った。

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サンホン「火鬼!どうして火鬼が?」

その瞬間、胸の傷に激痛が走り、彼はその場にうずくまった。

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火鬼は荒れ狂っていた。
手当たり次第に建物に侵入し、屋根をかすめて回る。
火鬼が触れたところは、たちまち火に包まれた。
到底人の手に追える火事ではない。

燃え盛る集落へ駆けつけたリンたちは、その惨状に立ち尽くした。
ふとサダムの手下ホジョを見かけたトハは、火の中、ホジョを追いかけて駆け出す。
リンとムソクもまた、思わずトハの後を追った。

ホジョは手に持った小さな瓢箪に火鬼を吸い込むと、そっと蓋をし、その場を去る。

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トハはすぐに彼を見失った。

リン「何だ?どうしたんだ?」
トハ「火鬼を… 火鬼を呼び入れたんだわ!火鬼を利用してるのよ!」

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ここで一旦区切ります。

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