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ホテル・デルーナ10話あらすじ&日本語訳~後編

   

IU(イ・ジウン)、ヨ・ジング主演のtvNドラマ『ホテル・デルーナ(호텔 델루나 )』10話、後半のあらすじを、セリフの日本語訳もまじえて紹介していきます。

奇妙につながった縁

麻姑神の末っ子はワクワクしていた。「薬を飲まなかったのなら、ク・チャンソンにはまた過去の因縁が見えるわね」

「鬼眼を持つ者の副作用よ」そう言って、2番めの姉がチッと舌を打つ。「あなた、また突拍子もない縁を結んだわね」

末っ子「前世の仇同士が繋がるのは面白いわ。ひと目でビビッと来たもの。面影があったから」
2号「…。」

+-+-+-+

パク警部がタクシーを降りると、ちょうどそこで待っていたミラが入れ替わりに乗り込んだ。
と、座席にハートのボールペンが落ちているのに気づき、ミラは窓からパク警部を呼び止めた。「これ、あなたの?」

「ありがとうございます」爽やかに笑みを浮かべ、ペンを受け取る。
「…。」2人の間に短い沈黙が流れた。

タクシーが走り出したかと思うと、すぐに停まり、ミラが降りてきた。

パク警部「?」

「どうしてくれるんですか!」ミラはスカートの裾を指差した。
真っ白なスカートに赤いペンの線が入っている。

ミラ「あなたのボールペンのせいですよ。おニューだったのに」
パク警部「すみません。困りましたね」
ミラ「弁償してください」

「あぁ、忙しいから電話番号教えて」ミラが携帯を取り出す。

パク警部「え?」

「でも…」パク警部はハートのボールペンで手のひらに線を書いてみせた。「これ、黒なんですけど」

ミラ「(彼の手のひらを覗き込み)そうですね。真っ黒ですねぇ」

#ミラどんどん好きになるわ(*′艸`)

ミラ「外側はピンクなのに」

「もういいです」ミラは恥ずかしくなって背を向け、唇を噛み締めた。

パク警部「あの」
ミラ「?」
パク警部「これ、すごく大事なペンなんです。拾ってくださったからお礼をさせてください」

「電話番号を」パク警部が携帯を取り出す。
道路の向こう側で2人を見ていた麻姑神の末っ子が満足気に頷いた。

図書館へ来たワケ

チャンソンはジウンと2人で図書館を訪れていた。

チャンソン「ここは会長の建てた図書館だったんですね」
ジウン「えぇ。お祖父様が夢に出てこられたのは、きっとこうなるのを期待なさっていたんだわ」

「はい」チャンソンは少し改まった様子で答えた。「お目にかかった瞬間から、僕もこうなることを願っていました」

ジウン「お祖父様が喜ばれますわ」

2人が連れ立って歩いていくのを、マンウォルは会長とともに見守っていた。

マンウォル「ご満足ですか?」
会長「お似合いだ」
マンウォル「では、約束通りお金は私が頂戴します」

「ごゆっくり」マンウォルは冷ややかに頭を下げ、背を向けた。

+-+-+-+

図書館の庭に出て、マンウォルはベンチに腰をおろした。
心がどうにもざわついている。

マンウォル「…。」

しばらくするとチャンソンが一人でやってきて、隣に腰を下ろす。「チャン・マンウォルさん」
マンウォルは拗ねたようにプイとそっぽを向いた。

チャンソン「どうしてここに?」
マンウォル「会長が孫娘を見たいって言うから。夢想通話料金、たんまりいただいたから特別サービスよ。あんたは気にしないで」
チャンソン「せっかく来たんだから、図書館を見て回ってはどうです?」
マンウォル「(憮然)」
チャンソン「良い本がたくさんあるし、良い絵だってたくさんありますよ」
マンウォル「結構よ」

「帰るわ」マンウォルは立ち上がった。
「そう言わないで見に行きましょう」チャンソンがさっと彼女の腕を掴む。「すごく良い絵があるんです」
彼はマンウォルの手を引き、無理やり歩き出した。

+-+-+-+

チャンソンがマンウォルを連れてきたのは、あの白頭山の絵の前だ。「売ったんですよ」

チャンソン「あなたは会長の記念館が出来上がるのを待っていられないと思って」
マンウォル「…。」
チャンソン「お孫さんと話し合って、ここに展示することにしました」

驚いて絵を見上げていたマンウォルの表情が、次第にほぐれていく。

チャンソン「僕はこの絵を売りに来たんです。あなたは何を売りに?」
マンウォル「…。」
チャンソン「一体僕をだしに会長とどんな取引をしたんですか?夢想通話って?」
マンウォル「気にすることないわ」

「良い絵がたくさんあるんですって?」マンウォルはすっかり機嫌を直したようだ。「せっかくだから見に行きましょ」

チャンソン「会長からなにか巻き上げたんじゃ?」
マンウォル「ちょっとだけよ」
チャンソン「(白頭山の絵を指し)正直あれだって会長の絵なのに、何となく詐欺みたいで気まずいです」
マンウォル「あんたもともと欲深いハーバード詐欺師でしょーが」
チャンソン「詐欺師って!それよく言いますけど取り消してください」

+-+-+-+

チャンソンと別れた後、ジウンは図書館に残り、館長と談笑していた。

館長「ク・チャンソンって人、素敵だったわ。お付き合いしてるの?」
ジウン「そうなればいいなと思ってたけど、好きな人がいるんですって」

2人の話を遠巻きに聞き、亡き会長はそっと背を向けた。「…。」

#このときの残念がるでもない、悲しむでもない会長の表情、いいよね。長く生きて、いろいろな人の人生に触れてきたからこそだと思う。

+-+-+-+

「ここの図書館の食堂、美味しいわね!」マンウォルが椀の汁を飲み干し、唸った。

チャンソン「そうでしょ。小さい頃、父とよく来たんだけど、そのときも美味しかったんですよ」
マンウォル「この辺で育ったの?」
チャンソン「父はこの近くの小学校に僕を入れたがっていたんです。結局は家賃が高くて家が見つからなかったんですが、ここへはよく来ました。安くて美味しいから」
マンウォル「最初からずっとお父さんと2人だったの?」
チャンソン「えぇ。どうして僕がチャンソンっていう名前かというと、僕が生まれるのに賛成(チャンソン)した人が父しかいなかったそうで。それが申し訳なくて僕の名前を賛成(チャンソン)とつけたんです」
マンウォル「…。」
チャンソン「でも、父は漢字がよくわからなくて、“賛成”じゃなく、“燦星”に」

笑顔で話すチャンソンを、マンウォルは複雑な表情で見つめた。

マンウォル「お父さんがあんたを“売った”のは、自分が助かるためじゃない。あんたのためよ。自分がいなくなれば、あんたが一人ぼっちになるからって」
チャンソン「… もちろん僕もわかってます。たった一人の家族ですから」
マンウォル「…。」
チャンソン「食べ終わったら本を見に行きましょうよ」
マンウォル「本?この状況じゃちょっと困るんだけど」
チャンソン「なぜ?」

「だって服が…」マンウォルは自分の服に手をやった。「本に似合わないもの」
カットソーにミニのデニムスカート。少々カジュアルな服装で来てしまったのだ。

チャンソン「どんな服だろうが関係ないでしょう」
マンウォル「関係あるわよ。だってさ、図書館で本を読むならSNSに上げる写真を撮らなきゃ。でもこの服じゃちょっと… あれでしょ」
チャンソン「(苦笑)」

「ささっと着替えてくるわ」マンウォルが立ち上がろうとしたのを、チャンソンは引き止めた。「大丈夫ですよ」

チャンソン「本じゃなくて、本に憑いている霊を見に行きたいんです」

+-+-+-+

この図書館には霊がいると噂が広がっていた。
先日も霊を動画に撮ろうとした女性が失神するという事件が起きたばかりだ。
本当にいるのならホテルに連れて帰ろうと、チャンソンはマンウォルと共に閲覧スペースへ戻った。

マンウォル「本に霊が憑いてるって?」
チャンソン「えぇ。その本を寄贈した人だと噂になっているそうで。最近亡くなった小学校の校長先生なんですが、家族が寄贈したそうです。よっぽど大切にしていた本なんでしょう」
マンウォル「そうかしら。大抵の人は大切なものを簡単に捨てるけど、隠したいものは命がけで守るわ」
チャンソン「…。」
マンウォル「噂のせいでやたらと皆が本を見に来るから、その霊も気が気じゃないわね」
チャンソン「本に隠しごとなんてありますか?せいぜい高価だってことくらいでしょう」

「!」マンウォルが急に足を早める。

チャンソン「やれやれ。金の話が出た途端こうなんだから」

+-+-+-+

2人は霊が憑いているという本の棚を前にしていた。

マンウォル「人間のあんたが取って。そうすればきっと現れるわ」

背表紙に『存在と時間』と題名が刻まれている。

マンウォル「どう見たって誰も手に取りそうにない本ね」
チャンソン「僕は読みました」
マンウォル「えぇ、えぇ、そうでしょうよ。優秀なク・チャンソン先生ですから」
チャンソン「カッコつけて読んでみたけど、難しかったです」
マンウォル「1000年以上“存在”して、“時間”を潰してきたのが私よ。そんな私だって“存在”が何なのか、“時間”が何なのかわからないのに、30年にもならないあんたにわかるわけないわ」
チャンソン「まずは、この本にどんな“時間”が“存在”しているのか、見てみましょう」

「私がいると出てこないかもしれないから、棚の裏側にいるわ」マンウォルは彼を残し、書架の後ろへ回る。
さっそくチャンソンが問題の本を棚から引き抜こうとすると、横からすっと手が伸びてきて、本を押さえた。

チャンソン「…。」

髪の長い、女性の霊だ。
チャンソンと目が合うと、霊は驚いたように目を見開いた。「私が見えるのね」
霊にまっすぐ向き直り、チャンソンは頷く。「はい、見えます」

#とても細かい演技なんだけど、ちゃんとこうやって正面に向き直ってから返事をするところ、チャンソンの人柄が出ていて、いいなぁと思う。いつ、どの瞬間を切り取っても、100%ク・チャンソン。

チャンソン「ここで何をなさっているんです?」
霊「この本を見られたくなくて…」
チャンソン「本の中に大切なものがあるんですか?」
霊「…。」
チャンソン「それとも隠したいものが?」
霊「本の中のものを処分できますか?」
チャンソン「ご協力します。そのためには本を取り出さなければ」

霊は頷き、ゆっくりと手を引っ込めた。
チャンソンが本を手に取り、パラパラとページをめくる。
すぐに何かが挟まれているページが現れた。

古い写真だ。
若い頃の女性と赤ちゃん。
そして赤ちゃんが成長した数年後。

チャンソン「!!!」

その写真に、チャンソンは凍りついた。

霊「…隠していた過去です」
チャンソン「…。」
霊「家族に知られるわけにはいきません。…処分してください」

+-+-+-+

「今の人… きっと母です」霊が消えると、チャンソンは独り言のようにマンウォルに言った。

マンウォル「!」
チャンソン「ずっと会えなかったから、亡くなったことも知りませんでした」
マンウォル「…。」

「父さんがこんな写真を送っていたとは」そう言いながら写真を裏返してみる。
隅に小さく「チャンソンとアメリカへ行きます」と、短いメッセージが住所と共に記されていた。

チャンソン「確かに… 大切なものじゃなくて隠したいものでしたね」
マンウォル「…。」
チャンソン「本当に“賛成(チャンソン)”されなかったんだな」

「…。」悲しむチャンソンに触れようとし、触れることが出来ずにマンウォルはその手をぎゅっと握りしめる。

マンウォル「余計なことまで全部見るって言ったわよね。その結果よ。知ったって傷つくだけでどうしようもないこと」
チャンソン「!」
マンウォル「何よ?違う?家族の顔が見られて嬉しいとでも?ホテルにお連れして最後に親孝行する?」
チャンソン「そんなわけないでしょう」
マンウォル「そりゃ良かった」

「渡しなさい」マンウォルは手を出した。「元に戻すから」

マンウォル「あの霊、どこにも行けずにずっとあそこで苦しめばいいわ」
チャンソン「そんなこと、余計望んでいません」
マンウォル「それならどうしたいわけ?!私のせいで霊が見えてこんな悲惨な目に遭ってるのに、何もしてあげないわけにいかないでしょ!」
チャンソン「僕はただ!初めて母さんに会ったのに喜べないこの状況が… 悲しいんです」

悲しい… チャンソンの悲しみに圧倒され、マンウォルは言葉を失った。

「一人で悲しませてください」背を向けたチャンソンの袖を、マンウォルはとっさに掴む。

チャンソン「?」
マンウォル「…。」

それでも何も言えず、マンウォルは諦めて手を放した。「何でもないわ」

再会

チャンソンはサンチェスのピザショップに来ていた。
他に客は誰もいない。
「何かあったのか?」サンチェスがやって来て、向かいの席に腰を下ろした。「冴えない顔して」

チャンソン「あぁ… ちょっと悲しくて」
サンチェス「(ため息)よく来た。こういうときは俺が慰めてやらないとな。行こう、酒でも奢るから」

立ち上がったサンチェスはふとチャンソンの上着の袖口に目を留めた。「ボタンが取れてる。どこで取れたんだ?」

「…。」どれだけ強く掴んだんだろう。
図書館でマンウォルがとっさに掴んだ場所だった。

チャンソン「… 慰めようとしたのかな」

そこへ入ってきたのはミラだ。
「連れがいるの」遅れて男性が入ってくる。

パク警部だ。

彼の顔を見て、チャンソンは目を見張った。「!!!」
ミラの隣に立っていたのは、1000年の昔、マンウォルの隣で優しく笑っていたあの男。
彼女を一番愛したあの男ではないか。

彼がなぜミラと?
チャンソンは混乱の底へ突き落とされる。「…どうなってるんだ?」

ミラ「チャンソン、紹介するわ。パク・ヨンスさんよ」

チャンソンの様子に、パク警部は少々怪訝そうに会釈する。

ミラ「私が大事な物を拾ってあげたから、ご馳走してもらうの」

「その人… お前のせいで死んだのに」混乱の中、チャンソンは思わずそう呟いた。

ミラ「え?あぁ~、そうでしょ。死ぬほど素敵でしょ。イケてるでしょ」
パク警部「ミラさんてば」
ミラ「あはは!この方、刑事さんなの」

チャンソンはようやくいくらか落ち着きを取り戻し、小さく頭を下げた。

ミラ「サンチェスと出かけるんでしょ。また今度ね」

2人が奥のテーブルへ向かうのを、チャンソンは呆然と見送った。

サンチェス「どうした?知ってる人か?」
チャンソン「俺じゃなくてチャン・マンウォルさんの知ってる人だ」
サンチェス「それならあの人もマンウォルのこと知ってるのか?」
チャンソン「あの人はきっと知らない」

「ごめん、今日は一緒に飲めそうにない」チャンソンは一人で店を出た。

+-+-+-+

ホテルへふらりと戻ってきたチャンソンと共に、マンウォルは屋上へ上がった。「しばらく悲しむだろうと思ったけど… 早々に断ち切ったのね」

チャンソン「まだ悲しいけど… あなたに会いに来ました」
マンウォル「私?」
チャンソン「僕… またあなたの“存在と時間”を暴き出してしまったようです」
マンウォル「…?」
チャンソン「あなたが一番胸を痛めている人に会いました」
マンウォル「!」

+-+-+-+

チャンソンがマンウォルを連れてきたのは警察署の前だ。
道路をはさみ、彼女は遠巻きに正面玄関を見つめていた。
彼女の視線の先にいたのは、同僚と楽しそうに談笑するパク・ヨンス警部だった。

マンウォル「…。」

爽やかなその笑顔が、胸の奥に封じ込めていたヨヌの顔と重なる。
マンウォルの目に涙が滲んだ。

マンウォル「盗賊だった子が警察になるなんて」

マンウォル「あんたはちゃんと生き返ったのね。良かった…。本当に良かったわ」
チャンソン「近くへ行って、話をしてみますか?」
マンウォル「いいの。私なんか」
チャンソン「あなたにとっては家族も同然なのに、このままでいいんですか?」
マンウォル「よくはないわ。ちょっと悲しいわね…」
チャンソン「あなたに… またこんな縁を繋いでしまいました」
マンウォル「…ありがとう、ク・チャンソン」

ふと人の気配を感じ、パク警部は覗いていた携帯電話から顔を上げた「?」
道の向こうにいる女性に、なぜか彼は視線を吸い寄せられる。

パク警部「…。」

初めて見る女性なのに、なぜかその目は愛に満ちていて、彼の心に優しく染み入るように感じられる。
彼の視線に、彼女は潤んだ目で微笑むと、次の瞬間、クルリと背を向けた。

#道を隔ててただ見つめ合うだけの再会。表情だけでセリフもなにもない。最高です。
マンウォルだけでなく、パク警部もひと目で何かを感じ取っていることで、見ている方も納得して心が満たされる。

「連続殺人事件のことだけど」パク警部は同僚の声にハッと我に返った。

同僚「シャベルについていた泥、もう分析結果出たんだよな?」
パク警部「えぇ、死体の見つかった山の土と同じだそうです」
同僚「だろ!それなのにどうして容疑者はいまだに否認してるんだ?参ったぜ、全く」
パク警部「でも… 妻殺し以外は動機がないんですよ」
同僚「典型的なサイコパスだ。殺人狂」

典型的なサイコパス

その頃、ソル・ジウォンはひっそりとした橋桁の下にいた。
ドラム缶に火を焚き、被害者たちの遺留品を次々に投げ入れる。
「おしまい!」最後のキーホルダーを投げ入れ、車に戻ると、忘れずにドライブレコーダーを外す。
これも処分しなければ。

「…。」ふと思い出した。
何日か前、後ろをついて来る車が気になっていたのだ。

すぐさまドライブレコーダーのデータを取り出し、後ろにいた車を確かめる。
車体に記されている運送会社にさっそく電話を掛けた。

ジウォン(電話)「あの日、トラックに積んであった荷物に問題が起きたんですよ」
運送会社(電話)「問題なく無事到着していますけど」
ジウォン「予約者名をもう一度確かめてくださいよ」
運送会社「当日そのトラックを予約なさったのはク・チャンソンさんです」
ジウォン「!!!誰だって?」

運送会社「ク・チャンソンさんご本人では?」

ジウォンはそのまま電話を切った。「ク・チャンソン?まさか…」

ジウォン「なんでここでお前の名前が出てくるんだ?」

再びデルーナへ

チャンソンはまた部屋にこもっていた。
母の件で気持ちに区切りがつかない限り、ホテルに戻って働く気にはなれない。

動いたのはマンウォルだ。
夜の図書館に入り、『存在と時間』の本を開いてみる。

マンウォル「この難しい本を最後まで読み通せば答えが出るのかしら。自らの存在と、共にした時間すべてを否定された子を、どうやって慰めればいいか」

パタンと音を立てて本を閉じると、隣に現れた女性の霊をじろりと見据えた。「隠していた過去を暴かれるのが怖い?」

霊「…。」
マンウォル「心配しないで。あなたの子はそんなこと望んでないから」
霊「!」
マンウォル「悲しんでるあの子を、私は慰めたいの」
霊「…。」
マンウォル「あなたが必要よ。私のホテルにご招待するわ」

ほどなくチャンソンにメールが届いた。「復職。デルーナに来なさい。4号線に乗って。あんたが見送らなきゃいけないお客様がお待ちよ」

※4号線=デルーナが元の場所に戻ったことを示していますね。

+-+-+-+

デルーナに復帰したチャンソンを、職員たちは静かに迎え入れた。

ソンビ「財閥の婿になるものと思っていたが、幽霊ホテルに舞い戻るとはなぁ。野心のない男だ」
ソヒ「社長にはク支配人が必要です。野心家の男は不人気ですよ。時代遅れね」

+-+-+-+

チャンソンは復帰早々に死者をあの世へ送り出すバス乗り場に来ていた。「お待たせして申し訳ありません」
待っていたのはようやく会えた母親だ。
「来てくれて… ありがとう」母親はそう言って声を少し震わせる。

チャンソン「本に挟んであった写真、僕が持っていてもよろしいでしょうか」

母親の表情に控えめな喜びが滲んだ。「そうしてもらえますか?」

母親「本当に… ごめんなさい」

息子に見送られ、母親は静かに旅立った。

+-+-+-+

マンウォルは庭園で月齢樹を見上げていた。
母を見送り、チャンソンが姿を見せる。「しっかりお見送りした?」

チャンソン「はい」
マンウォル「ごめん。勝手にお連れして」
チャンソン「ありがとうございます。勝手に連れてきてくれて」

「それから…」チャンソンは続けた。「戻って来いと言ってくれたことも」

マンウォル「社長としては少々格好がつかないけど、ハッキリさせましょ。私に来いと言われて来たんじゃなく… 来てくれたの」

「!」月齢樹を見つめたまま淡々と語るマンウォルを、チャンソンは驚いて見た。

マンウォル「無理やり薬を飲ませて、二度と来られなくすることだって出来た。でも、私はそうしなかったわ」

「逃げるチャンスをあげるたびに…」マンウォルは彼に向き直る。

マンウォル「あんたが自分の勝手で戻ってきたと思っていたけど、本当は私が… また来てくれるのを願っていたんだわ」

「僕の独りよがりじゃないとハッキリして、気分がいいですね」チャンソンはわざと少し突っ張ってみせる。
そうせずにはいられないほど、マンウォルはいつになく素直だった。

マンウォル「ク・チャンソン、私はあんたのことを利用する」
チャンソン「?」
マンウォル「あの女もヨヌも… あんたが私の前に連れてきた。それならあの男だって…きっと連れてくるわね」

チャンソンは頷いた。「そうなるでしょうね」

マンウォル「間違いなくそうなるわ。そして… 絶対に無事じゃ済まさない」
チャンソン「そのために僕を利用すると?」
マンウォル「えぇ。私は悪辣で狡猾よ。そんな私に利用されるだけ利用されて、ボロボロになるかもしれない」
チャンソン「僕を逃がそうとそんな脅迫を…」

「違うわ」見開いたマンウォルの目は潤んでいた。「逃げないで」

チャンソン「!」
マンウォル「もう決心したでしょう?足手まといで危険な目に遭うって」
チャンソン「…。」
マンウォル「危険な目に遭って死んでもおかしくない。そう思いながら… 私のそばにいて」
チャンソン「…。」
マンウォル「私が暴走して、消え去る日が来たとしても… あんたがそばにいてちょうだい」

「いいえ」チャンソンはそう言って、彼女に近づいた。

マンウォル「?」
チャンソン「あなたを消滅させたりはしません」

手を伸ばし、そっと彼女の頬に触れる。「僕を信じて」
そして、両手を背中に回し、彼女の細い体を包み込んだ。

マンウォル「!」

彼の広い胸の中で、マンウォルは静かに心を委ねる。
頭上で彼らを見守るように、月齢樹の青い蕾が次々と開いた。

+-+-+-+

ここでエンディングです。

近年稀に見る素敵なハグシーンじゃなかったですか?!
十分です。十分すぎます!
2人の表情で、チャンソンの決意や、凍っていたマンウォルの心が溶けていく感じが手にとるようにわかる。

ヨヌとのセリフのない再会シーンもそう。
こういう抑制の効いたドラマはホント好きです。

 - ホテルデルーナ 〜月明かりの恋人〜

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