韓国ドラマから美しい言葉を学ぼう

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ホテル・デルーナ2話あらすじ&日本語訳

   

IU(イ・ジウン)、ヨ・ジング主演のtvNドラマ『ホテル・デル・ルナ(ホテル・デルナ/ホテル・デルーナ)』2話のあらすじを、セリフの日本語訳もまじえて紹介していきます^^

危険な霊、危険でない霊?

マンウォルを短刀で刺したパク・ギュホは、逆にその短刀で灰と化した。
目を丸くするチャンソンの足に、くすぶる灰の中から手が伸びる。

チャンソン「わぁ!何ですかこれは!」
マンウォル「さっきの怨霊の燃えカスよ」
チャンソン「あいつ、幽霊だったんですか?」
マンウォル「一見、人間みたいなのもいるって言ったでしょ」
チャンソン「そういうのは危険じゃないって言ったじゃないですか」
マンウォル「強い恨みを持ってる奴にやられたら死ぬこともあるわ。しっかり見分けなさい」
チャンソン「見分けられないって言ったじゃないですか!」
マンウォル「だからよ~く見るのよ」
チャンソン「だって、よ~く見たら怖いんですってば」
マンウォル「私がそばにいるんだから怖くないでしょ」

マンウォルは先に立って歩き始めた。

チャンソン「ちょっと!」
マンウォル「?」

「あれを」チャンソンが指差したのは、怨霊の手に引っ張られ、脱げた靴だ。

チャンソン「近づいたら危ないじゃないですか。早く…」
マンウォル「(笑)じゃあ呼び方からちゃんとして。“社長”よ」
チャンソン「あなたは僕の社長じゃありません。そちらのホテルで働くつもりはないですから」
マンウォル「脅かし方が足りなかったわね」

マンウォルが再び歩き始めると、チャンソンはなんとか靴を拾い上げ、彼女を追いかけた。

チャンソン「(灰を指し)あのまま放っておいたら、通行人が危ない目に遭うんじゃ?」
マンウォル「処理担当者が来るわ」
チャンソン「誰です?」
マンウォル「死神」

背後で靴を履こうとしているチャンソンを、マンウォルが振り返った。「それ、また履くつもり?」

チャンソン「危険ですか?買ったばかりなのに。拭いたらまた履けませんか?」
マンウォル「捨てなさい。靴買いに行きましょ」

人生の店じまい

ショップに着くと、チャンソンはマンウォルが選んだ靴に首を横に振った。「そういうのは僕の趣味じゃありません」

マンウォル「さっきの糞色よりよっぽどマシよ。あんなの履くの、やめなさいよね。私、あの色嫌いなんだから」
チャンソン「あの… さっき靴を捨てろと言ったワケって」
マンウォル「ダサい糞色だから」
チャンソン「危険だからじゃなくて?」
マンウォル「私はそんなこと言った覚えないけど」

「そっちが嫌ならこれ」マンウォルは目に留まった靴をつまみ上げ、チャンソンに投げ渡した。
黒と白のツートーンだ。

チャンソン「嫌です!僕はさっきの高級な茶色いのとそっくりなものを選びますから」
マンウォル「黙って履きなさい!もうすぐ閉店よ」
チャンソン「構いませんよ」

ちょうどそのとき、閉店のアナウンスが流れ始める。

+-+-+-+

結局、チャンソンはマンウォルの選んだツートーンの靴を履き、デパートを出てきた。

マンウォル「文句タラタラのク・チャンソンのせいで、私の靴は見られなかったわ」
チャンソン「いくら時間があったって、僕は絶対にこんな靴買いません」
マンウォル「仕方ないでしょ。どんな店も時間になれば店じまいするんだから」
チャンソン「…。」
マンウォル「靴買ってあげたんだから、明日から出勤しなさい」
チャンソン「言葉は正確に。そちらは好き勝手に選んだだけで、買ったのは僕です」
マンウォル「…。」
チャンソン「それにおたくのホテルで働くつもりはありませんよ。僕を連れて行って何をさせるつもりなんですか?」

彼らの背後で、デパートの灯りが消え、ゆっくりとシャッターが降り始める。

マンウォル「未練でいっぱいのまま“店じまい”した人々を癒やす仕事よ
チャンソン「店じまい?」
マンウォル「人間でいる時間を終えるってこと」

一斉に降りてきたシャッターが床に届き、そこで止まった。

マンウォル「“死”よ。人間の時間を終えると、大部分は三途の川の橋を渡って、別の世界に行くわ。だけど、ときどき道を見失う者がいるの。あんたも見たでしょ。この世での時間が終わっても、諦められずにそこに残って、彷徨う者たち」
チャンソン「デパートの営業時間が終わっても、諦められずに居座るあなたのように?」
マンウォル「いい喩えだわ。よくわかったようね。うちのホテルのお客様は、そうやって道を見失った亡者たちなの」
チャンソン「つまり、あなたのホテルのお客様は幽霊だってことですね。だから、僕にああいう恐ろしいものを見せたと」

マンウォルは微笑んだ。「デ・ルナへいらっしゃい。私のそばにいれば安全だから」

マンウォル「許可もなしに私から逃げようなんて、一番危険な真似よ。やめなさい」

そこへマンウォルの迎えの車が近づいてきた。

マンウォル「ク・チャンソン。明日は新しい靴を履いて地下鉄4号線。ちゃんといらっしゃいよ」
チャンソン「チャン・マンウォルさん」
マンウォル「呼び方を直しなさい。“社長”よ」
チャンソン「あなたは… どちらにいるんですか」
マンウォル「?」
チャンソン「店じまいの前ですか?それとも、店じまいをしてから、諦めきれずに彷徨っている方ですか」
マンウォル「…。」

爽やかな夜風とともに、沈黙が流れる。
彼女の後ろで、ノ支配人が後部座席のドアを静かに開けた。

チャンソン「僕のような平凡な人間じゃないことは、今日一日まともに食らってわかりました。強い怨念を持っていれば、人を殺すことも出来るって。あなたは僕を殺すと言った。つまり、あなたも怨霊ですか」
マンウォル「怨霊は… きっとあんたの横にいるその子よ」

「!!!」いつの間にか、さっきのサングラス霊がチャンソンの横に立っていた。
叫び声を上げかけて、チャンソンは自分の口を押さえる。
この霊は目が見えず、音を頼りにしているのを覚えていたからだ。

マンウォル「ちゃんと声を抑えたわね。やっぱり気に入ったわ」

+-+-+-+

ホテル・デル・ルナに戻ると、マンウォルは庭園に足を運び、木を見上げた。

マンウォル「生きているのか、死んでいるのか…。1000年以上も葉も出ないし花も咲かない。やっぱり死んでいるのかしら」

「あなたはどちら側にいるんですか」チャンソンの言葉が頭をよぎる。
「生きていますよ」隣でノ支配人が口を開いた。

ノ支配人「この木は社長だとおっしゃっていたじゃありませんか」
マンウォル「だからなの。私、生きていると言えるのかしら」
ノ支配人「良いシャンペンを準備しましたが、召し上がりますか」
マンウォル「いいわね。足りないと嫌だから2本持ってきて」

とうとうデル・ルナへ

翌日。チャンソンは招待状を手にホテル・デル・ルナを訪れた。
ここで働く気はない。
ただ、昨夜はサングラスの霊が家までついてきて、さんざん付きまとわれたのだ。
このまま無視するわけにもいかなかった。

昼間はどの霊も眠っているらしく、満室にもかかわらず、ホテル内はひっそりとしている。

チャンソンを社長の元へ案内したのはノ支配人だ。
彼はチャンソンと同じ、生身の人間だった。

+-+-+-+

マンウォルの部屋に通されると、チャンソンは壁に飾られた多くのフレームに目を奪われた。
さまざまな時代を経たマンウォルの姿がずらりと並んでいる。

「ここに長くお勤めですか?」チャンソンはノ支配人に尋ねた。

ノ支配人「40になった年からでしたので、30年を過ぎました」
チャンソン「30年?!」
ノ支配人「このホテルで歳を取るのは私だけです。これからはク・チャンソンさんが私の仕事を引き継ぐことになるでしょう」

30年という言葉にチャンソンは愕然とする。
自分もあんなに歳を取るまでここにいなければならないのか?

ノ支配人と入れ替わりに、マンウォルが姿を見せた。「遅かったじゃない」

マンウォル「昨日買った靴、履いてないわね」
チャンソン「僕の勤めるホテルに、昨日のような派手な靴は相応しくありません。ここに寄ってから、出勤しないといけないので」
マンウォル「ふふっ、サングラスのあの子には慣れたみたいね」
チャンソン「昨日のあれ… あなたの仕業ですか?!恨みもない人間にずっと付きまとえって?」
マンウォル「ううん、一度“気”が通じた人間のそばを廻るものなのよ。一度繋がれば、自動的に繋がったまま」
チャンソン「Wi-Fiじゃあるまいし!」
マンウォル「あはは、いい喩えね。聞き分けが良くて、ますます気に入ったわ」
チャンソン「あなたに気に入られたくはありません。妙なものが見えるのも嫌です」
マンウォル「見なきゃ駄目。慣れないと。あの幽霊たちは、今後あんたがこのホテルでもてなすお客様なんだから」
チャンソン「新興宗教か何かですか?幽霊をもてなす巫堂とか?」
マンウォル「ホテルよ!役所に正式に登録されてるわ」

壁には確かに登録証が掛かっている。

チャンソン「夜通しホテルのサイトを全部探しました。どんなに検索したって、デル・ルナなんてホテルが営業してる痕跡はありませんでしたよ」
マンウォル「ホテルのサイトなんかじゃ見つからなくて当然よ。人間を相手にするホテルじゃないって言ったでしょーが!」
チャンソン「あぁ、霊を癒やすってやつですか。じゃあ、このホテルのサービスは祈祷か何かで?」
マンウォル「祈祷じゃないわ。ヒーリングよ」
チャンソン「…。」

ホテル・デル・ルナのサービスは、この世の未練や遺恨を解いてあげることだ。
食べられなかった者には心ゆくまで食べさせ、凍死した者は芯まで温まるよう暖炉に薪をくべる。
勉強したい者には、望む本をすべて用意した。

マンウォル「デル・ルナは、人間だったときに出来なかったことを果たしつつ、安らう場所なの。最近の言い方でヒーリングってやつ。人間だけじゃない、霊が美しく逝くにも必要なのよ」
チャンソン「幽霊がお客様なら、幽霊同士で商売すればいい。人間の僕なんて必要ないでしょう」
マンウォル「人間しか出来ないことがあるからでしょーが。役所への営業登録、納税、衛生検査などなど。あんたにしてもらうことが、どれだけあるか」

「人間的に解決したいんです」チャンソンは懐から通帳を出した。

チャンソン「あなたに返そうと準備していたお金です。父にくださった分に利子までつけて返します。これで僕を解放してください」

マンウォルが通帳を受け取り、金額を確かめる。「なかなか貯めたわねぇ」

マンウォル「実に誠実かつ聡明だわ。老後の心配は無用ね。くれるって言うんだから、いただくわ」
チャンソン「それじゃあ帳消しですからね」

「では、これで」チャンソンはそそくさと立ち上がった。

マンウォル「えぇ。ちょうど一緒に出ようと思って待ってたの。行きましょ」
チャンソン「一緒に出るつもりはありませんが」
マンウォル「一人で出るって?」
チョンソン「えぇ」

「じゃあそうすれば?」マンウォルは笑顔で彼を送り出した。「どうぞ」

+-+-+-+

しばらくすると、チャンソンは大慌てでマンウォルの部屋へ駆け戻った。
エレベーターで幽霊に遭遇したのだ。

チャンソン「どうしてまだあんなのが見えるんですか!お金を返したんだから、もう見えちゃいけないでしょう!」
マンウォル「あんたが返したのは借金。私があげたのは誕生日プレゼント。(目を指し)大事にしてね」
チャンソン「話になりません。あんなのが見えるのに、正常な生活が出来るわけないでしょう!」
マンウォル「じゃあ仕方ないわね。ここで働きなさいよ」
チャンソン「目を元に戻してください!」

マンウォルが立ち上がった。「出かけるけど、どうする?一緒に出てあげようか?」

チャンソン「…。」
マンウォル「嫌ならここにいなさい」
チャンソン「とりあえずここから出て、それから話しましょう」

チャンソンは彼女の後にピッタリくっついて部屋を出た。

+-+-+-+

マンウォルの車のハンドルを握るのは、チャンソンだ。「高級車がたくさんあるんですね」

マンウォル「怨霊だと思ってたのに、スポーツカーに乗ってると人間っぽい?」
チャンソン「ホテルで祈祷… ヒーリングをして、かなり稼いでるんですね」
マンウォル「幽霊が見えるのは嫌だけど、こうやって高いものをみると、いいものでしょ。働きたいでしょ」
チャンソン「超自然的ヒーリングで物質的な富を築くってことのがピンとこないだけですよ」
マンウォル「ホテルのビジネスモデルに興味が湧いたってことね。先に車をプレゼントすればよかったわ」

「興味ありません」そういって、チャンソンは笑いを噛み殺した。

マンウォル「何で笑うの?」
チャンソン「幽霊がシートベルトをしてるのが可笑しくて」
マンウォル「…。」
チャンソン「目的地まで運転しますから、目を治してください」
マンウォル「ふふん」
チャンソン「なぜ笑うんです?」
マンウォル「私が目を治してくれるって信じてるのが可笑しくて」
チャンソン「合意したじゃないですか!このままじゃ仕事に行けませんよ!」
マンウォル「そうよ、行けないわ。あんた今、別のところへ行こうとしてるんだもの」
チャンソン「どこへ行くんです?」
マンウォル「虎を捕まえに」

本日の霊:白頭山虎

前夜。
ホテルの外に気配を感じたマンウォルは、興味津々で迎えに出た。
そこにいたのは、虎だ。

虎は彼女を一瞥し、優雅に前を通り過ぎたのだ。

彼女がチャンソンを連れてきたのは、ギャラリーだ。
中央にトラが鎮座している。

マンウォル「ここに… いたのね」
チャンソン「虎もあなたのホテルのお客様に?」
マンウォル「霊獣だから」

チャンソンが虎の置物に添えられたパネルに視線を移す。「韓半島で捕獲された最後の白頭山虎だそうです」

チャンソン「以前、北から虎を贈られたとニュースで見たことがあります。こっちで群れに馴染めず、伴侶も出来ず、最後まで一人寂しく暮らしたと」

「死んだのに… 生きているかのように、こうしてるのね」じっと虎を見つめるマンウォルに、チャンソンはゾクリとした。
“私は死んだんじゃない。ただ居るの”彼女の言葉が重なる。

+-+-+-+

二人はギャラリーを後にし、小豆粥の専門店へやってきた。
じっと黙って考え込んでいるマンウォルを前に、チャンソンはしきりに時計を気にする。

チャンソン「北から虎を連れてきたのは、うちのホテルの会長だそうです。以前訪問されたとき、親善の意味で贈られたんです」
マンウォル「そう」
チャンソン「虎を捕まえるのに、なぜ粥屋に?何か関係があるんですか」
マンウォル「虎の大好物なのよ。虎のことを考えていたら、小豆粥を思い浮かべるのは当然じゃない?」
チャンソン「何が当然なのかわかりませんけど」
マンウォル「…。」
チャンソン「小豆粥が食べたかっただけでしょう?」

この店もTVで紹介された店だったのだ。

チャンソン「出勤しなきゃいけないって言ったじゃないですか!のんびり小豆粥を食べてる場合じゃないんですよ」
マンウォル「小豆粥はのんびり食べなきゃ駄目よ。慌てて食べたら火傷するわ」
チャンソン「お金返したじゃないですか。受け取ったんだから治してくださいよ」

マンウォルが楽しそうに頬杖をついた。「昔、どうして餅屋が虎に食われたかわかる?」

チャンソン「?」
マンウォル「虎がどうしようか考えてるうちに、さっさと餅を出しちゃったからよ。先に交渉しなきゃいけなかったの」

チャンソンが愕然と肩を落とす。「それじゃあ僕は一生サングラスの女性と暮らさなきゃいけないんですか」

マンウォル「ううん。うちのホテルへ連れていらっしゃい。何日か泊まらせて、送り出せばいいわ。生前の行いが良ければリムジンに乗って行ける」

何を言っても軽くはぐらかされる。
チャンソンは困り果てて顔を歪めた。

残された僅かな時間

凍死した男性はすっかり“回復”し、あの世への送迎車に乗り、旅立った。
見送りをしたノ支配人に、死神が尋ねる。「新しい支配人が来ると聞いたが」

ノ支配人「はい。私はじき引退します。思う存分釣りでもしようと」
死神「君に思う存分使える時間は残っていない」
ノ支配人「!… 私を連れて行く切符がもうじき来るのですか」

「…。」何も言わず、自分を見つめる死神に、ノ支配人は穏やかに頷いた。「良い行いをせねばなりませんね」

+-+-+-+

デル・ルナ内のバーで、従業員たちがノ支配人との別れを惜しんでいた。
バーデンターのキム・ソンビ、客室長のチェ・ソヒ、フロントマンのチ・ヒョンジュンだ。
死者である彼らを見送らず、先に辞めることが、ノ支配人には心残りだった。

そこへ、不機嫌を撒き散らしながら戻ってきたのがマンウォルだ。「みんなどこよ?!」
彼女はチャンソンと『幽霊に驚かずにコーヒーを席までこぼさず運んできたら、デル・ルナでの雇用は諦める』という賭けをして、負けて一人で帰ってきたのだ。

ノ支配人「辞める前に挨拶をしておりました」
マンウォル「キム・ソンビ!科挙で首席合格したんでしょ」
ソンビ「いかにも。私につきましては…」
マンウォル「もういいわ。今でいうとハーバードのMBAより上なんじゃないの?」
ソンビ「比較にもなりませんな」
マンウォル「チェ夫人。99間の家に住んでたのよね?」
ソヒ「さようです。数百の召使いを抱えておりました」
マンウォル「チビ、あんたは?!」
ヒョンジュン「あ、僕は… 都イチの富豪に生まれて名門の学堂に通っておりました」

「そうよね!」マンウォルが目を丸くする。「生きてるときはみんなク・チャンソンより上だったのに、チッ!」

皆「…。」
マンウォル「ちやほやされたからって偉そうにしちゃって」

3人の従業人はソロソロとマンウォルの前から退却した。

ノ支配人「社長。私、先日のように何日か入院しなければなりません」
マンウォル「具合、良くないの?」
ノ支配人「ク・チャンソン君はいつ頃来るでしょうか」
マンウォル「耐えてみせるっていうからやってみろと言ったの。いくらももたないわ。軟弱な奴だから」
ノ支配人「…。」
マンウォル「ノ支配人の代わりも見つかったし、もう解放してあげるわ。残った時間、人間の暮らしを楽しみなさい」

「行って」冷たく背を向けたマンウォルに、ノ支配人は丁寧に頭を下げた。

ソンビ「(仲間に)何十年も仕えて、具合が悪いというのに、“大丈夫か”“ご苦労様”の一言もないな」

+-+-+-+

マンウォルとの勝負に勝ち、スカウトされたホテルに予定通り出勤していたチャンソンは、ホテルに現れる霊に苦労していた。

プールサイドでV.I.Pを連れた社長に遭遇し、挨拶をしようとした瞬間、現れたのは『サングラスの霊』だ。
この霊は目が見えず、黙っていれば彼に気づかない。しかし、挨拶をするために声を出せば、見つかってしまうのだ。
彼女がサングラスを外し、恐ろしい目が露見すれば、平静でいられる自信はない。

どうすれば…?

彼はとっさの判断で、いきなりプールに飛び込んだ。

+-+-+-+

濡れた体をプールサイドで拭きながら意気消沈しているところへ、現れたのはマンウォルだ。「霊は無視するんじゃなかったの?」

チャンソン「…。」
マンウォル「次はどうするの?屋上から飛び降りる?あはは」
チャンソン「そうすればあなたのホテルに客になれそうですね。それまでは行きません。何が見えようと全部無視しますから」

マンウォルは脇に置かれたチャンソンの上着に視線を移した。
胸ポケットからパンフレットが覗いている。白頭山虎の展示をPRするものだ。

マンウォル「これ何?この子は無視できなかったようね。気になるんでしょ、最後に残された虎がどうなったのか」

チャンソンは小さくため息をついた。「どうなったんです?」

マンウォル「確かめに行きましょ」

+-+-+-+

チャンソンは仕方なく、マンウォルと共に会長宅の前までやってきた。

マンウォル「ベル押しなさいよ」
チャンソン「あり得ません!うちのグループの会長なですよ。面識もない職員が挨拶に来るなんて、話になりません」
マンウォル「何がいけないのよ。あちこちから声かけられたのを、あんたが選んであげたんでしょ。堂々となさい」
チャンソン「それなら、まず秘書に連絡して訪問の許可を取って…」

チャンソンの言葉を無視し、マンウォルは会長宅のベルを押した。

+-+-+-+

「職員が私を見舞いに来たのは初めてだ」当の会長は彼らの訪問を素直に喜んだ。

チャンソン「お体の具合が良くないと聞きまして。日頃の尊敬を込めて参りましたが、突然の訪問になり申し訳ありません」
会長「構わんよ。隣はご夫人か?」
チャンソン「あはは、はい!一緒にご挨拶したいと言うもので」

マンウォルは素知らぬ顔で立ち上がり、壁に飾られた絵を眺める。

会長「仲がいいなぁ。近頃具合が悪くてね、出掛けられないんだ。話し相手もいないから、楽しいよ」

部屋の中を好き勝手に歩き回り、マンウォルは寝室へと続く扉を開けた。

チャンソン「(言い訳)お手洗いに行こうとしているのかと」

「これ、超高そうね」マンウォルが、一枚の大きな絵の前で足を止める。「本物なの?」

会長「?!」
チャンソン「ふははっ、あの人は海外生活が長かったので… 敬語を知らないんです」
会長「あぁ、そうなのか?」

「ハニー、こっちへ来て座れよ」チャンソンはたまらず、マンウォルの元へ向かった。「Sit down, please」

会長「絵がわかるようだね」
チャンソン「?」
会長「北の有名な画伯が残した絵だ。私が訪問したとき、白頭山虎と一緒に受け取った」
チャンソン「はい。虎が展示されているのを見ました。ひょっとしてその虎は…」
会長「連れては来たものの… こっちで伴侶も作らず、一人ぼっちで死んでしまった」

そのとき、チャンソンはハッと向こうの壁に目をやった。
虎の影が壁をすーっと横切るのが見える。「!!!」

マンウォル「意味のないものをここに残しても仕方ないから」
会長「?」
マンウォル「この子にとって大事なものはすべて、もう戻れない“そこ”にあるから」
会長「実に嫌な感じがするんだ。夢にもしきりにその虎が出てきてね」
マンウォル「連れてきた人が送り返さなきゃ」
会長「剥製になった虎は、すでに“交流の象徴”となっている。私の好きに処分することも、送り返すこともできん」

その時だ。
虎の唸り声と共に、すさまじい風圧で一斉に窓ガラスが割れた。

マンウォル「…。」

+-+-+-+

会長宅を後にして、マンウォルとチャンソンは食事に出ていた。

チャンソン「会長のそばに虎がいたんです。どうして捕まえずに逃したんですか?」
マンウォル「嫌がってるのをどうやって連れて来るのよ。見たところ、会長が死ぬのを待ってるみたいね」
チャンソン「会長の具合が悪いのは、その虎のせいなんですか?それなら危険じゃないですか。のんびりフェ(※魚の刺身)を食べてる場合じゃないでしょう!」
マンウォル「白頭山を見たらフェが食べたくなったのよ」
チャンソン「山なのになぜフェなんです?」
マンウォル「…“東海の水と白頭山”はセットでしょ。白頭山を見たら、海を思い浮かべるのは当然じゃない?」

※東海の水と白頭山=韓国の愛国歌の冒頭の歌詞

チャンソン「フェが食べたかっただけじゃないですか」
マンウォル「…。」
チャンソン「虎だろうとなんだろうと、幽霊が人を苦しめてるんだから、もう一度行かないと」
マンウォル「そうね。行ってちょうだい」
チャンソン「…。」
マンウォル「会長の家に行って、虎を帰してやるって言いなさい。そうして、代価を受け取ってくるのよ」
チャンソン「代価?」
マンウォル「さっきの高い絵。あれを貰ってきて」
チャンソン「え?」
マンウォル「虎で苦しんでるなら、くれるはずよ。とんでもない金持ちだから」

「ホテルのビジネスモデルがようやくわかりましたよ」チャンソンの顔がこわばる。

チャンソン「霊に苦しんでいる人から金を巻き上げる。人間の僕にやらせる仕事はそういうことですか」

「そう」マンウォルの返事は屈託ない。「今後あんたがやる仕事よ」

チャンソン「僕はそんな詐欺行為はやりません」
マンウォル「…。」
チャンソン「父のこともそうやって騙したんですか」
マンウォル「(冷笑)命を救ってやったのよ。その代価にあんたを貰ったの。だから、あんたのこともこうして守ってる。私がそばにいないと、あんた死ぬわ」
チャンソン「怨霊にやられるって?そうでなくても、あなたに十分やられてますが」
マンウォル「…。」
チャンソン「あなたとの約束は終わりました。僕は戻って“人間の時間”を生きます」

チャンソンはマンウォルを残し、店を後にした。

+-+-+-+

チャンソンが下宿先へ戻ってくると、門の前に人が待っていた。
ノ支配人だ。

ノ支配人「いつ来るかと待っていたのですよ」
チャンソン「30年とおっしゃいましたよね。彼女が30年もの間、あなたを縛っていたのですか」
ノ支配人「いいえ。私自ら選択してあそこにいたんです」
チャンソン「あんなところに生涯?!」
ノ支配人「デル・ルナはそれだけの価値がある場所でしたから」
チャンソン「僕にはあんなホテルの価値がわかりません。言われたとおり会長を訪ねて数十億巻き上げるつもりもないし、自信もないんです」
ノ支配人「デル・ルナは人間世界の論理で説明のつく場所ではありません。お金や権力の価値も違うんです」
チャンソン「!」
ノ支配人「だから、人間の物差しで社長の行いを評価することはできません」
チャンソン「…。」
ノ支配人「今は嫌だろうし、まともに見ていられないでしょう。避けたいでしょうね。ですが、勇気を出して向き合ってみれば、ひょっとするとあなたも私のように、あそこの価値がわかるかもしれません」
チャンソン「…。」

「チャンソン!」そこへ同居するサンチェスがやってきて声をかけた。

チャンソン「?」
サンチェス「一人で何してるんだ?」
チャンソン「(向かいを指し)話してるところじゃないか」
サンチェス「一人で?」

「?」恐る恐る振り返ると… ノ支配人のいたはずの席はからっぽだった。
ティーカップだけがポツンと残り、湯気があがっている。「!!!」

驚くチャンソンの前に、ノ支配人の姿がぼんやりと浮かび上がった。
「他の人々は決して知らない、秘密めいた世界を知ることができるんです。面白そうだと思いませんか?」

デル・ルナで歳を重ねるということ

デル・ルナを去ってすぐに、ノ支配人は再びそこへ戻ってきた。
客として。

千年を見守ってきた樹木の前に佇んでいると、知らせを受けたマンウォルがやってくる。

ノ支配人「毎日いた場所なのに、客としてくると妙なものですね」
マンウォル「死んだの?」
ノ支配人「申し訳ありません。外へ出ている間に命綱を手放してしまいました」
マンウォル「やっと解放されたのに、人間らしく生きる暇もなかったわね」
ノ支配人「ここでお客様をもてなして、それなりに意味のある人生を送りました」
マンウォル「…。」
ノ支配人「昔、私が自ら命を絶とうとしたとき、社長に出会わなければ、私はみすぼらしいまま、若くしてその生を終えたでしょう。デル・ルナにいられて良かったと、私は思っています」
マンウォル「良かっただなんて。酒の一杯も供えてくれる家族も作れなかったのに」
ノ支配人「私一人年齢を重ねる間に、あなたは姉となり、娘となり、孫娘となったのです」
マンウォル「…。」
ノ支配人「後を任せられる男ができたので、安心して行くことができます」

「…。」マンウォルはぎこちなく手を伸ばし、ノ支配人の袖を指先で掴んだ。「私は…」

マンウォル「死なないから… “また会える”なんて、そんなことは言えません」

ノ支配人は彼女の手を取り、もう片方の手を優しく重ねる。「いつか…」

ノ支配人「あなたの時間がふたたび流れますように」
マンウォル「…。」

ノ支配人はデル・ルナで羽根を伸ばすこともなく、そのままあの世へ旅立っていった。

虎の帰るその場所

マンウォルの提案通り、会長は絵を手放した。
帰れない場所へ連れてきておいて、死んで尚、亡骸まで縛りつけているようで、辛かったのだ。

訪れた会長宅で、空になった壁を見つめ、チャンソンは気づいた。
除霊する代価に高価な絵を手に入れようとしたわけじゃない。
虎の故郷は白頭山。だから、虎を帰すのに絵が必要だったのだと。

+-+-+-+

「こんなところにいないで、出ていらっしゃい。私が“送って”あげる」マンウォルの呼びかけに、虎の霊は姿をあらわした。

マンウォル「(虎の霊に)お前の行きたい場所は、もう現実世界には存在しない。お前を連れて来た人が、お前の居場所を用意してくれた。そこで安らかに眠りなさい」

彼女の言葉を聞き分けたように、虎は白頭山の絵を眺めると、そのまま懐かしい緑の草原へと消えていった。

+-+-+-+

下宿先へと続く階段の脇に、サングラスの霊がしょんぼりと腰を下ろしていた。
通りかかったチャンソンは、彼女を恐れることなく、まっすぐに声をかける。「あなたの行くべき場所、知っています」

サングラス「?」
チャンソン「連れて行ってあげましょう」

彼はサングラスの霊を連れ、タクシーに乗った。

チャンソン「あなたにつきまとわれるのが嫌で、避けてばかりいたけど、どうしてつきまとうのか訊きもしませんでしたね」
サングラス「…。」

前でハンドルを握る運転手が、一人で喋っている客に首をかしげる。「?」

チャンソン「考えてみたんです。生前は見えなかったとしても、今なら見えるのでは?」
サングラス「?」
チャンソン「見えないという考えを捨てて、見てみてはどうです?」

霊がゆっくりとサングラスを外すのを、チャンソンは目を背けずに見守る。
そして、優しく微笑んだ。「ほら」

チャンソン「目があるじゃないか」

+-+-+-+

デル・ルナのフロントに到着し、女性はサングラスを外した。
澄んだ美しい目でフロントマンのヒョンジュンを見上げると、彼女はにっこりと笑った。

+-+-+-+

翌日。
チャンソンはスカウト先のホテルに出勤していた。

やはり気に掛かったのでマンウォルにもメッセージを送る。
「虎は無事帰りましたか?誤解してすみませんでした」
これでいい。礼は尽くした。

ところが…。

彼はさらに厄介な霊に苛まれることとなった。
ホテルに飾られていた鎧の騎士像が、剣を振りかざし、彼を追いかけてきたのだ!
「強い恨みを持った奴にやられれば、死ぬこともある」マンウォルの言葉が蘇り、チャンソンは必死で逃げた。

いよいよ追い詰められたチャンソンに鎧の騎士が飛びかかる。
絶体絶命の瞬間、何者かが騎士の腕を掴み、胸をドンと突き飛ばした。

マンウォルだ。
柱へ騎士を追い詰め、後ろ手でかんざしを外す。
黒く長い髪がハラハラと落ちた。
かんざしの先を騎士の喉元に突き刺すと、青白い騎士の目が光を失い、灰となって消え去った。

チャンソン「…。」

マンウォルは涼しい顔でチャンソンを振り返る。「虎は無事白頭山へ帰ったわ」

マンウォル「あんたを許しに来たの」

「…ありがとうございます」辛うじてそう言うと、チャンソンはそのまま気を失った。

夢の中で彼女は笑っていた

「木が羨ましいわ。あちこちさすらうこともなく、のんびり地面にへばりついていられるから」
「え?この木で家を作ってくれるの?結構よ、あんたと暮らすつもりはないわ」

そういって彼女は明るく微笑んだ。

+-+-+-+

チャンソンはソファの上でゆっくりと目を開けた。
デル・ルナの一室のようだ。いつの間にここに?

扉が開き、フロントマンのヒョンジュンが顔を覗かせる。「お目覚めですか?」

ヒョンジュン「社長がお待ちかねですよ。支配人」
チャンソン「僕はここの支配人じゃありま…」

そう否定しかけて、チャンソンは諦めたようにため息をつく。

ヒョンジュン「あ、夜のデル・ルナは初めてですよね?」

ヒョンジュンの案内で館内へ出ると、そこは綺羅びやかな調度品や灯りに囲まれ、実に華やかな空間に様変わりしていた。

ヒョンジュン「これがデル・ルナの真の姿なんです」

それは、今まで決して知りえなかった『別世界』だったのだ。

+-+-+-+

2話はここまでです。

マンウォルの日頃の高飛車なキャラがあるからこそ、ノ支配人との別れのシーンのようなピュアな彼女や、霊と向き合うときのようなシリアスな彼女がグン!と引き立ちますね。
メリハリがあって、本当に素敵なキャラだと思います。

また、チャンソンは元来とても優しく善良な人で、霊に対してもマンウォルに対しても、あまり悪く考えようとしません。
そのおかげで、ドラマを気持ちよく見ていられる気がします。
ストレスがない^^

ではでは、また~♪

 - ホテルデルーナ 〜月明かりの恋人〜

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