ホテル・デルーナ13話あらすじ&日本語訳~前編
IU(イ・ジウン)、ヨ・ジング主演のtvNドラマ『ホテル・デルーナ(호텔 델루나 )』13話のあらすじを、セリフの日本語訳もまじえて紹介していきます。
200年の遺恨
一人の男性客がデルーナを訪れた。
彼を見た瞬間、ちょうどフロントに居合わせたソヒが顔色を変える。「!」
ソヒ「お客様、私が案内いたします」
エレベーターの中で、ソヒが前を見たまま口を開いた。「お客様」
ソヒ「ポムチョン市にお住まいの溟州ユン氏の長男、ユン・スンボム様でいらっしゃいますね。年齢は42」
ユン・スンボム「えぇ、そうです」
ソヒ「未婚でいらっしゃいますわね」
ユン・スンボム「はい。結婚はしていません」
「そうでしたか」そう言って、ソヒは口角をピクリと上げた。
ソヒ「長男が子を残さずに死んでしまうとは… 一族の皆様はさぞかし絶望なさっていることでしょう」
+-+-+-+
ソンビは廊下で真っ黒な喪服に身を包んだソヒに出くわした。「客室長?」
ソヒ「…。」
ソンビ「チャン社長かと思ったではないか。そのような格好で何を?」
ソヒ「キム儒生、私、じきに旅立つことになりそうです。200年の恨みをこれから晴らしに行きます」
ソンビ「ということは…?」
ソヒ「死んだのです。一族の最後の息子が死んで、お客様としてここへ。憎くてたまらないユン氏の途絶える日が、ついに来ました」
ソンビ「…。」
ソヒ「溟州ユン氏が血の涙を流すのを、この目で見届けてきますわ」
ソンビ「42年前のようなことは、なりませぬぞ」
ソヒ「あのときは怒りで、今回は嬉しくて行くのです」
ソンビ「…。」
あの世へと続く橋
マンウォルはチャンソンの家にいた。(※12話ラストシーンからの続き)
チャンソン「サンチェスはまだ店にいるそうです」
マンウォル「… サンチェスに“ごめん”の一言だけ言えばいいんでしょ」
チャンソンがうなずく。
マンウォル「あぁ、一杯飲めば上手く言えるのに」
チャンソンは持ってきた炭酸水の蓋を開け、マンウォルに差し出した。「炭酸水だから、シャンペンだと思って」
マンウォル「(一口飲み)なかなかキツい炭酸ね。焼酎ないの?これで割ってよ。結構イケそう」
チャンソン「イケそうなら、シャンペンは今後これに変えましょう」
マンウォル「私からシャンペンとキャビアを奪うのは、ピザからソースとピクルスを抜くのと同じよ」
チャンソン「…。」
「ピザの話をしたら、またサンチェスが心配になっちゃった」マンウォルはポツリと呟いた。
チャンソンがかすかに微笑む。「…。」
マンウォル「買い物に出ましょ。デパート閉まっちゃうわ」
チャンソン「なぜ脈略もなく買い物の話が?」
マンウォル「謝るんでしょ。手ぶらで行って“サンチェス、ごめん”ってやるのと、何かいいもの買って行って、“サンチェスぅ、ごめんね…”ってやるのとじゃ、全然違うわ」
チャンソン「あなたが買い物したいだけじゃないですか」
マンウォル「(ムスーッ)」
チャンソン「サンチェスには、ベロニカは無事旅立った、あの世へ続く橋までしっかり見送った、そう言ってやればいいんです」
マンウォル「あの世へ続く橋?チッ、私もまだ行ったことないのに、どうやって見送るのよ」
チャンソン「行ったことないんですか?」
マンウォル「行ったことあれば、今ここにいないわ。あの橋に足を踏み入れたら、絶対戻っては来られない」
チャンソン「!」
マンウォル「まぁ、今頃サンチェスの恋人も橋を渡ってるところだって、そう言ってあげればいいと思うわ」
チャンソン「まだ渡っている途中?そんなに長い橋なんですか?」
マンウォル「こことは時間の流れが全く違うの。橋を渡り終えて、あの世へたどり着くまでの短い時間が、この世の時間で言えば49日よ。橋を渡る間に、この世の記憶が一つ一つ消えるんですって。帰路を断たれて戻れないんじゃない。記憶が全部消えるから、戻ってこないの」
チャンソン「…。」
マンウォル「サンチェスの恋人も、今頃橋を渡りながら、サンチェスの記憶を一つずつ失っているはずよ」
チャンソン「…残された人にとっては寂しいことですね」
「…。」マンウォルは改めてまっすぐにチャンソンを見上げる。「ク・チャンソン」
マンウォル「私、一つだけ約束するわ」
チャンソン「?」
マンウォル「もし私がその橋を渡ることになって、いろんなものが消えてしまったとしても、最後まであんたを守る」
チャンソン「…。」
マンウォル「まぁ、あの世に行ってしまったら保証はできないけど、あんたのことは最後の1歩まで忘れないから」
「…。」2人の視線がお互いを捉えたまま、ゆっくりと混じり合う。
チャンソンが頷いた。「えぇ」
チャンソン「あなたは1300年も徳を積んできたんだから、きっと出来ますよ。信じます」
マンウォルもホッとしたように頷いた。
チャンソン「ところで、どうやって覚えておくんです?」
マンウォル「そうねぇ、ク・チャンソンは私が“人でなし”にならないように、やってくれたことがたくさんあるわ。車もみんな売っちゃったし、ヨットも買わせてくれなかったし、カードも没収されたし、シャンペンを炭酸水に変えようなんて妙なことも言うし」
チャンソン「…。」
「あはは」マンウォルが乾いた笑い声を上げる。「くだらないことばかり」
チャンソン「あなたのために僕がしたことには違いないですね」
マンウォル「特にそうやってカッコつけるところは絶対忘れないから」
チャンソン「!」
マンウォル「もしかしたら“ク・チャンソン”よりも“ハーバード”の方を最後まで覚えてるかも」
チャンソン「(憮然)」
「あれ?」マンウォルはふと机の上に置いてある小物に目を留めた。「これ、私のだわ」
満月の印が刻まれている。
チャンソン「えぇ。あなたの好きなお香だから、もう一度注文しようと思ったんですが、販売元がなくなっていて。探そうと思って持って来たんです」
マンウォル「ホテルの備品をネコババしたのかと思ったわ」
チャンソン「そうかもしれませんね」
マンウォル「?」
チャンソン「(部屋をぐるっと指し)念の為によく見てください。他にあなたのものがないか」
「ホントに私のものをネコババしたの?」マンウォルがキョロキョロとあたりを見回した。
チャンソンはこっそり手のひらに何か記すと、マンウォルの前で手のひらを広げてみせる。
彼の手のひらに、満月の印が大きく描かれていた。
#自分にリボンつけて「はい、プレゼント」ってやる女と同じ( ゚д゚)
マンウォル「?」
チャンソン「ここにあるじゃないですか。チャン・マンウォルさんのもの」
マンウォルが吹き出したのを見て、チャンソンもいたずらっぽく笑う。
チャンソン「刻印効果です。“くだらない支配人”でも“カッコつけてるハーバード”でもいいですけど、今こうして笑顔で見つめている男のことも覚えていてください」
マンウォルが彼の手に自分の手のひらを合わせ、指を絡ませる。「そうね」
チャンソン「こういう瞬間を覚えておくんですよ」
そう言って明るく笑う彼に、マンウォルも静かに微笑みを返した。
42年前に何が?
ヒョンジュンからの連絡で、マンウォルとチャンソンはデルーナへ戻っていた。
ヒョンジュン「男性のお客様がいらしてから客室長の様子がおかしかったんですが、そのお客様は客室長の仇一族、最後の息子だそうです」
マンウォル「…。」
チャンソン「その方の葬儀場へ向かったんですか?」
ヒョンジュン「はい。ソンビさんも心配していらっしゃって。社長、42年前のような事件はもう起こしませんよね?」
「…。」マンウォルは腕を組み、考え込んだままだ。
チャンソン「42年前、何があったんです?」
マンウォル「客室長チェ・ソヒが、危うく悪霊になって消滅するところだったの」
チャンソン「あの物静かな客室長が?」
マンウォル「死んだ娘の墓に、一族の人間たちが手を出したの」
~~~~~~~~
42年前。
当時、一族最後の息子ユン・スンボムは母親のお腹の中にいた。
逆子だ。
ソヒの娘の墓がユン氏を祟っているので、墓を壊さない限り無事出産できないと、占い師が言い出したのだ。(
代々この墓には手を出すなと言われていたものの、大事な跡取りのためなら仕方ない。
墓を堀り始めたそのとき…
怒りを爆発させたソヒが妨害したのだ。
『やめるのだ!我が子の墓に手を出すな!お前たち一族、みな死ぬがよい!根絶やしにしてやろう!!!』
危うく一族を皆殺しにするところだったのを、死神が阻止した。
~~~~~~~~
ヒョンジュン「あの日、死神より先に麻姑神が来ていたら、客室長は消滅なさっていたでしょうね。死神と社長が交渉して、客室長はあの世へ連れて行かれることなく、ここでまた働けることになったんです」
チャンソン「(うなずく)」
ヒョンジュン「あのとき、庭園の花を10ヶ月無料で提供したんですよね」
「12ヶ月よ」マンウォルが憮然として言った。
ヒョンジュン「そうだった。あのときは庭園の花もすっかり枯れ上がったし、当時の支配人は社長のお金を全部食いつぶすし、最悪の貧乏状態だったんです。社長が鎌片手に葛根を掘りに行く姿、懐かしいなぁ」
マンウォル「思い出すんじゃないわよ!」
チャンソン「42年前に生まれた息子が子どもを残さずに死んだんですね」
ヒョンジュン「葬儀で一族の人に会っても、何事もないですよね?」
マンウォル「200年の願いが叶う場よ。何事もないわ」
ヒョンジュン「そうなれば、客室長もじき旅立たれるでしょうね」
マンウォル「…。」
+-+-+-+
葬儀が執り行われているのを、ソヒはそっと確かめた。
200年待ち望んだ瞬間にしては、実に静かだ。
戻ろうとしたそのとき、お腹の大きな女性が現れる。
ソヒ「?」
ユン・スンボムは未婚ではあるものの、彼の子をお腹に宿した女性がいたのだ。
ソヒ「お腹の子が男の子なら… 溟州ユン氏の代は続くことになるわ」
+-+-+-+
ソンビがユン・スンボムから聞き出したところによると、両親に結婚を反対されて別れた後、恋人の妊娠がわかったのだという。
ソンビ「だから、まだあの世へ行けないそうな」
マンウォル「客室長、失望してるでしょうね」
ソンビ「あのお客様も不憫だが、我が子を失った無念で200年も旅立てない客室長とは比べ物になりますまい」
マンウォル「…。」
「花が散っているそうですな」ソンビが話の続きのように切り出した。
「…。」マンウォルは何も言わず、グラスに手を伸ばす。
ソンビ「止められぬのですか」
マンウォル「…。」
ソンビ「誰より客室長がもどかしそうで」
+-+-+-+
ロビーのソファで悲しみに沈むソヒに、誰かが温かい紅茶を差し出した。
「ずいぶん心配しました」頭上でチャンソンの声がする。
ソヒ「人を殺めるのではないかと?」
チャンソン「客室長が傷つきはしないかと」
「ク支配人が気になさることではありません」そう言って、おもむろに振り返ったソヒは、ギョッとしてのけぞった。
ガオーーッ
そこに立っていたのは、虎だ。
#あぁ、チャンソンも脚本も最高。ここで使うのか!
ソヒ「何ですか?その風変わりな服は」
チャンソン「虎です」
ソヒ「そ、そんな服を一体どこで?」
チャンソン「プレゼントされたのを、今日着てみました。いかがです?」
ソヒは視線を逸し、小声で言った。「可笑しいですわ」
ソヒ「どうしたんです?さっさと着替えてくださいな」
チャンソン「これでもブランド品らしいんですけど」
「ブランド品だからって」ソヒは立ち上がった。
チャンソン「そんなに変ですか?これじゃ出歩けませんね」
ソヒ「当然です。お客様に笑われるわ」
チャンソン「お客様を見送る時、この服を着ましょうか。笑って旅立てるように」(←このセリフで確信犯だとわかるね
「!」ソヒは思わずチャンソンの胸をドンと叩く。「ホテルの品格を落とさないで!」
ソヒ「そうだわ。403号室のお客様はもうお発ちに?お見送りするつもりだったんですが」
チャンソン「客室長に会ってからお発ちになりたいと。今から乗車場へどうぞ」
「本当にその格好で見送りに行かないでくださいな」ソヒはもう一度念を押し、いつものように悠々と歩き出した。
+-+-+-+
並んで歩いていくソヒたちを、マンウォルとソンビは遠巻きに見守った。
ソンビ「ク支配人が自ら道化となって、客室長を和ませたようだ」
「絶対に着るもんかって言ってたのに… こんなところで使うなんて」マンウォルの顔に笑みが滲む。
ソンビ「会長の孫娘との仲立ちが失敗した理由を問うてみたら、他に想い人がいるそうです」
マンウォル「…。」
ソンビ「いやはや… 彼の想い人は幸せ者だ」
マンウォル「そうね。幸せよ」
「チャン社長がなぜ幸せなんだ」笑ったソンビは、次の瞬間ヒィと声を上げた。「!」
マンウォル「わかったら二度と野暮な真似しないで」
ソンビ「野暮な質問ですが… チャン社長も?」
マンウォル「花が散るのを止められないのかって質問だけど… 無理ね」
「幸せすぎるからかな」マンウォルは独り言のように言った。「止まらないの」
+-+-+-+
「ク・チャンソン!」マンウォルが彼の執務室へやって来たときには、チャンソンはすでに虎の武装を脱ぎ捨てていた。
マンウォル「何よ、もう着替えちゃうなんて。記念写真撮ろうと思ったのに」
チャンソン「着てはみましたけど、記念写真は撮りたくないですね」
マンウォル「なんで?私はすごく気に入ったのに。今度はゼブラ柄のを選んであげる」
チャンソン「お好きにどうぞ。虎だろうがシマウマだろうが」
「カッコよかったわ」マンウォルの言葉はとても率直だ。
マンウォル「客室長の前にいた虎、白頭山の虎よりカッコよかった」
チャンソンが黙って微笑む。
マンウォル「やっぱりク・チャンソンは一流のホテルマンだわ」
チャンソン「忘れていたんです。客室長もここで傷を癒やして旅立っていただくべき、お客様の一人だって」
マンウォル「古いお客様よ。遺恨の深い…」
チャンソン「一族が途絶えるまで見届けたいという深い遺恨。それが呪いになることもあるんですか?」
マンウォル「?」
チャンソン「望み通り、あの一族に良くないことが起きたんですから」
マンウォル「全てのことには報いがある。災いを招いたのは、それだけ深い遺恨を抱かせた報いね」
チャンソン「200年も経ったのに?」
マンウォル「死人に時間なんて無意味よ」
チャンソン「…。」
マンウォル「遺恨を抱いたまま200年、500年経つこともあるわ」
「1000年経つことも…」マンウォルはポツリと付け加えた。
マンウォル「いつ遂げられるかもわからない思いに縛られて、ずっと待ち続けることも… 一種の呪いかもしれないわね」
#このマンウォルの言葉の前に、ソヒたち3人がそれぞれの持ち場で淡々と過ごす様子が挟んである。
気が遠くなるほど長い時間を、こうして待っていたんでしょう。こういう描写がとてもいいです、このドラマ。
チャンソン「今でも… あの人が来るのを待っているんですか?」
マンウォル「ク・チャンソン、もしあの男が来たら、さっき客室長にしてやったみたいに、虎になってくれる?」
「…。」チャンソンは腰を一気にかがめ、マンウォルの顔を覗き込む。「信じてって言ったでしょう?」
#この半分吐息の優しい했잖아요がもうたまらん!!!(語尾フェチ
チャンソン「何だって叶えます」
チャンソンはまだ満月の印が残っている手のひらを広げてみせた。「あなたのものだから」
「そうね」マンウォルはニッコリ笑い、パンッと手のひらを合わせる。「さぁて!」
マンウォル「ってことで、あれを着て虎が好きなカルビタンを食べに行きましょ」
チャンソン「虎が好きなのは小豆粥でしょう?」
マンウォル「誰がそんなこと?」
チャンソン「あなたですよ。虎は小豆粥だって」
マンウォル「そんなわけないでしょ、ベジタリアンじゃあるまいし。虎なら牛くらい捕まえなきゃ」
「さぁ行きましょ!」マンウォルは部屋の隅に掛けてある虎スーツを手にとった。「ほら、これ」
チャンソン「嫌です!」
マンウォル「着ないつもりなら、今着てるもの全部剥ぎ取っちゃうわよ」
チャンソンが密かにニヤリとする。「お好きにどうぞ」
チャンソン「脱がせてどうするんです?」
マンウォル「!!!」
チャンソン「あなたの手に負えないと思うけど」
心臓が大きく鳴り響いて、マンウォルは思わず手に持った虎のスーツをギュッと抱きしめた。「…。」
チャンソン「カルビタンは明日にしましょう。サンチェスの顔を見に行かないと」
マンウォル「…。(スーツをギューッ)」
チャンソン「何やってるんです?」
「関係ないでしょ!」恥ずかしくて、マンウォルはクルリと背を向けた。
#このシーンのマンウォルはもう最高にキュートだし、“どこまでわざと言ってるのかな”的なチャンソンの狙いに翻弄されるのも最高に楽しい。
+-+-+-+
ソンビとヒョンジュンは並んで月齢樹を見上げていた。
花が咲くまでに1000年以上かかったのに、それほど早く散ってしまうはずがない… そう信じたかった。
そこへ、小さな光がジジジっと音を立てる。
ヒョンジュン「蛍だ!」
ソンビ「木に変化が起きてから、ときどき見かけるようになった」
ヒョンジュン「花が咲いたから蛍が来たんですね。ここに入って来られるなんて」
ソンビ「はて。ホテルの中だから、生きているわけではあるまい」
ヒョンジュン「ク支配人が言ってたのは、あれのことかな」
ソンビ「ん?」
ヒョンジュン「訊かれたんです。蛍のような霊もいるのかって。それにしても、どうして1匹しかいないんだろう。寂しいな」
蛍は最近になって現れたわけではない。
目につかなかっただけだ。
誰にも気づかれぬまま、この長い年月ずっとマンウォル見守っていたのだった。
麻姑神の不思議な教え
翌日。
カルビタンでお腹がはち切れそうになったマンウォルは、薬局で胃薬を探していた。
でも、本当の目的は別のところにある。
チャンソンがカウンターにいる女性に視線を移した。「お腹の中にいるのが、その一族の子なんですね?」
マンウォル「そうよ。絶えたばかりと思っていたら、しぶとく生き残って、客室長をガッカリさせたの。お腹の子さえいなくなれば、客室長の遺恨も晴れるのに」
「…。」チャンソンがゆっくりマンウォルに向き直る。「本当にそうでしょうか」
マンウォル「?」
チャンソン「お腹の子がいなくなれば、全て解決するんでしょうか」
マンウォル「…それなら、今ここで死産にさせてみる?」
チャンソン「…。」
マンウォル「見たところ、あまり容態も良くないようだけど」
確かにそうだ。
お腹が痛むようで、苦しそうな表情を浮かべている。
「…。」チャンソンは迷わずそばに近寄り、陳列の手伝いを申し出た。
マンウォル「客室長の仇なのに…聞き分けないんだから」
+-+-+-+
駐車場へ出てきたところで、2人はある人物に出くわした。
初めて会うのに、どこか見覚えのある顔だ。
チャンソン「あの方も麻姑神では?」
彼女を見るなり、マンウォルは大喜びで身をよじらせた。「オンニ~♪」
マンウォル「ムンスクがいたときはよく来てたのに、最近ちっとも来ないんだから。おかげで全然儲からないわ。ちょこちょこ来てくれないとぉ」
リッチな麻姑神「この子ったら。最近忙しくてね。今も開業セレモニーに出掛けるところなの」
マンウォル「まぁ、どこだか知らないけど、きっとそこは上手くいくわね」
リッチな麻姑神「若い人たちがそこの事務所で“コンピューター事業”を始めてね」
マンウォル「コンピューター事業?」
リッチな麻姑神「えぇ、コンピューター事業。頑張ってるから応援してるのよ」
リッチな麻姑神の視線が、後ろでおとなしくしているチャンソンに移った。「そちらは?」
リッチな麻姑神「新しい支配人?」
チャンソンが端正に頭を下げる。
「はじめまして」セレブ麻姑神が手を差し出した。
マンウォル「(ヒソヒソ)さっさと握手しなさい。お金が入ってくるから」
「!」チャンソンが秒速で手を握る。「ク・チャンソンです!」
リッチな麻姑神「お客様にしっかり対応なさい。特に“一人目のお客様”」
チャンソン「一人目のお客様ですか?」
リッチな麻姑神「とても重要よ」
「では」リッチな麻姑神は背を向けた。「マンウォル、あなた最近キレイになったわ」
どこか不思議な人だ。
去っていく麻姑神の後ろ姿を、チャンソンはじっと見つめた。
マンウォル「あんた、お金持ちになるわよ。財の神が握手に教訓までくれるなんて」
チャンソン「財の神だったら、“麻姑婆”じゃなくて、“オンニ~”なんですか」
マンウォル「そりゃそうよ。イケメンなら“オッパ~”、金持ちなら“オンニ~”」
チャンソン「それなら、これから僕のことオッパって呼んでもらわないと」
マンウォル「(笑)そうね。あんた金持ちになるから、オンニ~って呼んであげる。行きましょ、ク オンニ~」
※オンニ=女性が年上の女性に親しみを込めて呼ぶ言葉。オッパ=女性が年上の男性に親しみを込めて呼ぶ言葉。
怨霊は闇から闇へ
死神は懸命に怨霊を捜索している最中だ。
ソンビ「ホテル内に社長や職員の把握していない霊がいるのか」
死神「存在を露わにしない存在も存在する意味があり、もともと存在するあり方で存在できるようにするのが、私という存在の出した答えだ」
ソンビ「素直にわからないと言えばいいものを。その殺人鬼の霊がどこにいるか、おわかりで?」
死神「怨霊を捕らえるのは容易ではない」
ソンビ「それもわからないんだな。うちのお客様が7人、ヤツを捕まえるまでは旅立てぬと待っておられるのだ」
バーのテーブル席で霊が7人。カウンターを恨めしそうに見つめている。
死神「時間が掛かればバスをリムジンに変えてやろう」
ソンビ「先手を打つおつもりか」
死神「怨霊は闇から闇へと身を潜める」
「…。」ソンビが眉をひそめた。
+-+-+-+
ユナが楽しくショッピングしている店内。
一番奥の暗がりに… 誰かの目が。
『光の作った影ではないところに暗闇があれば、そこに奴らはいる』
勤務中、病院の廊下でミラが恋人に電話をしている。「映画に遅れちゃ駄目よ。また遅れるなら来なくていいから!」
背後で僅かに開いた扉の向こうに… 誰かの目が。
『深く暗い隙間から視線を感じたら、そこだ』
サンチェスがピザ屋のホールで携帯を見つめている。
恋しいベロニカの写真だ。
薄暗い厨房で、なぜかコンロのスイッチが入った。
コンロの上には、なみなみと水の注がれた大きな寸胴鍋が乗っている。
外した指輪を取りに厨房に入ったサンチェスは、突然耳元でささやき声が聞こえ、驚いて手に取った指輪を落としてしまった。
「Helllo、サンチェス」
「?!」
指輪を拾おうとコンロの下にかがみ込むと、同時にコンロの水が沸騰し、グラグラと鍋が揺れ始める。
危ない!
次の瞬間、反対側の調理台に置いた携帯が鳴り出した。
発信者は…
『ベロニカ』
立ち上がってサンチェスが電話を掴むと、コンロの鍋が倒れ、熱湯があたり一帯に溢れる。
サンチェス「!!!」
間一髪だった。
一瞬でも遅れていれば、サンチェスの頭上から熱湯が降り注いだのだ。
暗がりで見守っていた黒い存在が、闇に消えていった。
+-+-+-+
「惜しいところで取り逃がした」バーに現れたマンウォルに、死神が状況を告げる。
死神「そなたがそばにいるからク・チャンソンには近づけずに、周辺の人々を狙っているようだ」
マンウォル「…。」
死神「近いうちに捕まえるが、念の為、注意するよう伝えてくれ」
マンウォル「キム儒生、ユナはずっとヒョンジュンと一緒にいるのよね?」
ソンビ「今も一緒です」
+-+-+-+
マンウォルが最初に向かったのは、一人でいるサンチェスの元だ。
彼は帰宅して家にいた。
「火傷したんですって?」マンウォルが薬の袋を差し出す。
サンチェス「…ありがとう。火傷したこと、どうして知ってるんだ?チャンソンにも知らせてないのに」
マンウォル「情報提供者がいたの」
サンチェス「誰?」
マンウォル「死神」
サンチェス「あぁ、君はそういう方面とも交流があるんだな。僕はとんでもない人と相互フォローしてたんだ…」
「これを焚いて」マンウォルはお香の袋を差し出す。「当分は暗いところに行っちゃ駄目」
サンチェス「僕が火傷したのって、運が悪かったからじゃないよな?」
マンウォルは小さく頷く。
サンチェス「君のホテルにも行ったんだから、何だって信じるよ。言うとおりにする」
マンウォル「…。」
サンチェス「ありがとう」
その言葉に、マンウォルは少しビクリとしたようにサンチェスを見た。
マンウォル「…ごめんね」
サンチェス「…。」
マンウォル「あのとき、優しく言えずに捻くれてしまって」
サンチェス「僕だって本当にベロニカに届けてもらえるとは思ってなかった。無理にでもそう信じたかったんだ」
サンチェスの机の上に写真立てが置いてある。
チャンソンと2人で撮った写真だ。「サンチェスはク・チャンソンの一番の親友よね」
マンウォル「そのうち… ク・チャンソンにサンチェスのような悲しいことが起きたら、サンチェスが慰めてあげて」
「…。」サンチェスは何も言わず、頷いた。「お香は全部の部屋で焚いてね」
サンチェス「全部の部屋?ミラさんの部屋でも焚くように言わないとな」
「あの女もいたわね…」マンウォルが呟いた。
マンウォル「死んだソル・ジウォンってイ・ミラとも知り合いなの?」
サンチェス「あぁ、アメリカでね」
マンウォル「今どこに?」
サンチェス「恋人がいるんだ。一緒に観るって映画館に行ったよ」
マンウォル「映画館… 真っ暗な場所だわ」
サンチェス「サンチェスとはただの友だちだ。ミラさんの恋人、すごくイイ男なんだから。写真見る?」
写真を取りに行って戻ってくると、もうそこにマンウォルはいなかった。
サンチェス「もういないのか。歩いて行き来してるわけじゃないんだな。それにしても、ミラさんに恋人がいなかったら、マンウォルに酷い目に遭わされただろうな」
+-+-+-+
ここで一旦区切ります。
信じられないような不思議なことを、素直なサンチェスがそれなりに理解していく様子が、とてもいじらしいです。
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