師任堂(サイムダン)、色の日記20話あらすじ&日本語訳~前編
イ・ヨンエ、ソン・スンホン主演SBSドラマ『師任堂(サイムダン)、色の日記』20話をセリフの翻訳を交えながら詳しくご紹介していきますね。
~~~~現代編~~~~
ジユンの実家に身を寄せ、ウンスはホッとしてぐっすり眠っていた。
父「ウンスはどうだ?」
ジユン「少し良くなったみたい。昨日まで一言も喋らなかったから」
父「…。」
ジユン「ウンスのために来たのは確かだけど、本当は… 私が逃げ出したの、お父さん」
父「ジユン…」
ジユン「乗り越えるのは 最初から無理だったんだわ。それもわからずに意地を張って、飛びかかってしまったの。ただで負けるのが嫌で」
父「それでもお前は少なくとも正義のために戦ったんだ」
ジユン「正義のために戦ったんじゃないわ。自分のために戦っただけ。プライドと欲のために」
父「…。」
ジユン「お父さんの前でこんなこと言うなんて、本当にいけないことだけど… 私、生き方を間違えたみたい。何かに酔って、夢でも見ていた気分だわ。あの人があんなことになって、ハッと我に返ってみたら… すごく怖いの、お父さん。自信もないし、今度はどんな目に遭うのか…たたただ怖くて」
「私、どうしたらいいのかしら」ジユンの目に涙が滲む。「一生続いたらどうしよう…」
じっと黙って見つめていた父が、ジユンの手を握った。「ようやくうちの娘は強くなったんだな」
父「恐れも知らずに飛びかかるのは勇気じゃない。血気だ。怖さを知りながら飛びかかるのが真の勇気なんだ」
+-+-+-+
美術品を管理する暗室で、ミン教授は一枚の絵を前にしていた。
額に収められているのは… ”本物の金剛山図”だ。
どれが本物かなど、どうでもいい。本物が他にあるなら消してしまえ、そうすればあいつらも諦める…そう会長は言った。
極秘に贋作師に依頼し、ミン教授は本物の金剛山図を複製させたのだ。
焼けた風合いまで巧妙に。
#ジユンが館長室に駆け込んだのって、奪われた当日だよね?贋作師にこんな作業させる時間なんてどこにあったのか…。
~~贋作師のアトリエにて~~
ミン教授「(複製作業を覗き)安堅は短線點皴なんだが…」
贋作師「私は安堅じゃありませんから」
※短線點皴=山水画の画法。筆先を尖らせて点を打つように山や岩を表現する描き方で、その代表が安堅だそうです。
贋作師「遠目にチラリと見て似ていればいいって言ったじゃないですか」
~~~~
サンヒョンはミン教授の二人の助手に会いに来ていた。
証言を頼もうとしたのだ。
助手2「おい、ハン・サンヒョン。お前だけ正義面(ヅラ)すんのかよ!俺たちを舐めてんのか?後をつけ回してばかりいるから?」
サンヒョン「あぁ全く… 寂しいこと言うんだな。舐めてたら説得しにここまで来ないって」
助手2「お前らのことはお前らで何とかしろよ。無関係な人間を引っ張り込むな」
サンヒョン「黙って聞いていれば!ミン教授は本物の金剛山図を燃やしちまった人間だぞ」
助手1「…。」
サンヒョン「あの日、あそこにいたじゃないか。何で知らんぷりするんだよ!ミン教授がそんなに怖いか?」
助手2「あぁ、怖いさ。怖くてたまらないんだ!だからこうしてるんじゃないか!」
助手1「落ち着け。(サンヒョンに)それで、何を証言してやればいいんだ?」
助手2「先輩!」
助手1「黙ってろ。(サンヒョンに)俺たちは何も知らないんだ。あの日、館長室で何があったのか、本物の金剛山図があったのか、それを燃やしたのか、俺たちは見てないからわからない」
サンヒョン「外で全部聞いてたろ。ミン教授が金剛山図を燃やして、中で大騒ぎになってたのを。目で見てなくても、聞いたことだけで十分証言の効力がある」
結局、助手は二人ともいい返事はできなかった。
彼らがサンヒョンの元を去っていくのを、ミン教授は遠巻きに見届けた。
ミン教授「…。」
+-+-+-+
さっそくミン教授は助手たちを呼び、ワインと食事を振る舞った。「いろいろ苦労を掛けたな」
ミン教授「これからもよろしく頼む。このまま行けばお前たちの将来は私が責任を持とう」
「…はい」助手は二人とも煮え切らない表情で頭を下げた。
ミン教授「その反応はどうした?」
助手たち「!」
ミン教授「このミン・ジョンハクが直系の弟子にそのくらいの責任も持てないと?」
助手たち「いいえ、教授」
ミン教授「お前たち、ハン・サンヒョンに会ったんだってな」
助手たち「…えっ!」
ミン教授「ハン・サンヒョンが言ってたか?私が本物の金剛山図を焼いたって?」
助手たち「…。」
ミン教授「学者としての良心なんて欠片もない。 恥を恥とも思わないって?」
助手1「いいえ、そんな話はしていません」
助手2「そんなことありません!」
ミン教授「ひょっとしてあの日、このミン・ジョンハクが本物の金剛山図を焼いたと思ってるのか?」
助手たち「…。」
テーブルの下で、密かに盗聴器が動いている。
ミン教授「…まずは食べよう」
「…。」助手たちは当惑して顔を見合わせた。
そんな彼らの様子を見て、ミン教授が唐突に言う。「行こう」
+-+-+-+
ガラスケースの中に鎮座する”本物の金剛山図”を前に、二人の助手は口をぽかんと開けた。
助手1「つまりこれが…」
ミン教授「安堅の金剛山図だ。安堅の研究においてはこのミン・ジョンハクが最高権威者だ。私がこの絵を消してしまったと思っていたのか?」
助手たち「…。」
ミン教授「そうならお前たちにはガッカリだ」
助手1「違います」
助手2「そんなこと1度も考えたことありません」
ミン教授「ソンジングループはうちの大学の母体だ。ゴリアテだな。お前たちが考えるような単純な問題じゃない。ダビデとゴリアテの戦いだ」
#サンヒョンも自分たちとミン教授の戦いを”ダビデとゴリアテの戦い”と言ってて、今度はミン教授がソンジングループとの戦いを”ダビデとゴリアテの戦い”と言ってる…。どんだけお気に入りやねん。
ミン教授「いつか学者の名誉をかけてこの金剛山図を世に出すつもりだ。そのためにはダビデの手に握る石が要る。ぜひとも総長にならなければ。私が何を言っているか分かるか?」
助手たち「はい… わかります」
ミン教授は余裕の笑みを浮かべ、二人の肩に手を置いた。「お前たちは私を信じてついてくればいい」
ミン教授「しっかり警備するんだぞ」
助手たち「…はい」
+-+-+-+
ソウルに残ったサンヒョンとヘジョンは、今日も金剛山図のために落ち合っていた。
ヘジョン「RADEから返事はないの?」
サンヒョン「えぇ」
サンヒョンはRADEのブログに目新しい内容がないかチェック中だ。
ヘジョン「信用できる人なの?わかってることは何ひとつないのに」
サンヒョン「少なくとも敵じゃなさそうです。今までやってきたことを見る限り」
ヘジョン「大事なのは私たちの味方につけることよ。全部持っていかれてRADE一人ヒーローになっても困るわ」
サンヒョン「とにかく様子を見ましょう。希望を捨てずに」
ブログをスクロールする手が止まった。
ヘジョン「何これ!新しくアップロードされてるわ。どれどれ?これ、金剛山図じゃないの?!」
THE HIDDEN CATCH(間違い探し)というタイトルのもと、2枚の金剛山図が並んでいる。
サンヒョン「間違い探しというよりジョークで投稿されたみたいに見えるけど。もしかしたら僕たちのメッセージを見たのかもしれませんよ。これはそれに対する回答かも」
+-+-+-+
ミン教授の元にも封書が届いていた。
2枚の金剛山図の”間違い探し”だ。
+-+-+-+
平昌は爽やかに晴れていた。
外の空気を吸いに出てきたところで、ジユンの電話が鳴る。「…はい」
#素敵な家だね~♪
「まだ目が覚めていないんだな」電話の向こうから聞こえてきたのは、ミン教授の声だ。
ミン教授(電話)「こんな幼稚なイタズラをするとは」
ジユン「何のことです?」
ミン教授「少々面白かったから今回は見逃してやろう」
ジユン「一体何をおっしゃってるんですか」
ミン教授「あぁ、旦那のことは聞いた。葬儀をしてくれれば供花でも贈ったのに、残念だな」
ジユン「その話はやめてください」
ミン教授「何をそう突っかかるんだ?弔意を表しただけだぞ」
ジユン「…。」
ミン教授「旦那から学ぶことだな。分不相応なものを追いかければ、いつだって結果は明らかじゃないか。今まで運が良かったんだ、ソ・ジユン。だが、これからは些細なイタズラもするな。もしやれば、お前の運が尽きたことを思い知らせてやる」
電話を切ると、ミン教授は苛立った様子で”間違い探し”を封筒ごと引きちぎった。
~~~~過去編~~~~
居酒屋で一人酒をすすりながら、キョムは実に憂鬱だった。
大伯母が縁談を持ってくるのは今に始まったことではないが、今回はいつになく押しが強く、キョムも撥ねつけることができなかったのだ。
朝鮮じゅうを探してでもキョムの伴侶を見つけると、大伯母は宣言した。
キョム「…。」
+-+-+-+
比翼堂へ戻ったキョムは、ただ黙々と筆を動かし続けた。
「おぉ、いいなぁ」彼の隣で、従弟のフが延々とそれに付き合う。
「生きているようだな」出来上がった蓮花図を見て、フが唸った。
そうしておいて、沈んだ様子のキョムを心配そうに窺う。「眠れないのですか?」
「…。」返事の代わりにキョムは湿ったため息をつく。
従弟「最近ずいぶんお静かですね。どこか別人のようにも思えるし」
キョム「…。」
「気まずいです」そう言って、フはせっせと墨をする。
キョム「…。」
従弟「会いたいですか?シン氏婦人に」
「…。」キョムはもう一度筆を取ると、絵に詩を添えた。
『香遠益清』
キョム「香りは遠く離れるほど澄みわたると…」
従弟「あぁ…そんな深い意味が」
「…。」キョムは遠く、月明かりを見上げた。
+-+-+-+
比翼堂は今日も大変な賑わいだ。
「退渓先生がお見えですよ!」ヒョンリョンが皆に知らせて回ると、待ちかねていた聴講者たちが席につく。
ヒョンリョン「(末っ子に)お前はここで友だちと遊んでいろよ。僕は授業を聞いてくるから」
ウ「うん、お兄様」
退渓イ・ファンの授業が始まった。
イ・ファン「全ての事物には理知があり、その理知を知るのが君子の道です。昨日学んだ理知の上に、今日学んだ理知を積み上げ、大きな悟りの塔を築くことが、真の学者の姿勢なのです」
※理気二元論=理と気を区別し、学問と実践も分離するべきだという考え方
一番前の中央に陣取るヒョンリョンが手を挙げた。「私は違う考えです」
ヒョンリョン「昨日学んだ理知の上に、今日学んだ理知を積み上げて塔を築くとおっしゃいましたが、その塔は自己満足に過ぎず、正しい君子の姿ではありません」
イ・ファンは微笑みを浮かべ、頷いた。「ならば君の考える正しい君子の姿勢とは何だ?」
ヒョンリョン「昨日学んだ理知を、今日周囲に施すことです」
※理気一元論=理と気を分けることが出来ぬように、学問と実践も分離してはならぬという考え方
ヒョンリョン「理知も財物と同様に独り占めするものではなく、その場その場で悟りを実践するべきでしょう」
「ほぅ!」周囲の大人たちが感嘆の声をあげる。
ヒョンリョン「自分が持っている悟りを三人にわければ、四人になるのです」
イ・ファン「面白い。どこで教わったのだ?」
ヒョンリョン「母からです。母は悟りと施しを同時になさいます」
イ・ファン「立派なお母様だな。ところで君、もし昨日学んだ理知が間違っていることに今日気づいたらどうする?昨日施した悟りが嘘だとわかったなら…?」
「…。」ヒョンリョンは答えに窮し、パチパチとまばたきをした。
イ・ファン「理知を積み上げるというのは、訓練も含んでいる。訓練を通してさらに積み上げることも出来るし、減ってしまうこともある。迂闊に人に分け与えて問題が起きたら、それも過ちではないか?」
ヒョンリョン「皆で一緒に直せばいいのです。共に苦しみを受け入れればいいのです」
「ははは」イ・ファンが楽しそうに笑い声を上げる。「共にすればよいとな?」
イ・ファン「君、名を何というのだ?」
ヒョンリョン「イ・ヒョンリョンです」
イ・ファン「(頷き)修養なくむやみに考えを分け合うのは、君子がもっとも気をつけねばならぬことだ」
ヒョンリョン「先生、今後知りたいことがあれば手紙をお送りしてもよろしいですか?」
イ・ファン「よかろう。そうしなさい」
退渓イ・ファンと、栗谷イ・イ(ヒョンリョン)は、学問についてさかんに交流したと言われている。
+-+-+-+
楊柳紙所の厨房で小さな悲鳴が起きていた。
走り回っていたネズミを、マンドクがつまみ上げる。
ちょうどそこへサイムダンが通りかかった。
サイムダン「逃してやってください」
マンドク「え?ネズミなのに…」
サイムダン「そのまま逃してやってください」
男性「皆のご飯を食っちまうのに」
「はい」マンドクは素直に頷き、ネズミを手のひらに包んで駆けていった。
「お母様」入れ替わりにやって来たのは長男のソンだ。
「これを」両手に大事に持った物を、ソンは照れくさそうに差し出した。
「何かしら」サイムダンが嬉しそうに受け取る。
ソン「写生にお出掛けになるとき、これを挿しておけば紙が飛ばないと思って作ってみました」
「まぁ」サイムダンがふと見ると、向こうで大将がニッコリ笑っているのが見える。
#もぉー大将大好き!♪
サイムダン「独創的で素敵ね。ありがとう。使わせてもらうわ」
「お母様」ソンは少し言いづらそうに話を切り出す。「生員試験… 受けないといけませんか?」
息子の目をじっと見ると、サイムダンは彼を椅子に座らせた。「さぁ、ここに」
サイムダン「勉強よりもっと楽しいことが見つかったの?」
ソン「鍛冶の仕事の方が好きなんです」
サイムダン「…。」
ソン「ヒョンリョンは天才少年として名高いし、メチャンはお母様に似て絵が上手いし。幼いウでさえ一度で音を聴き分ける神童だっていうのに、僕はこれといったものがありません。僕が鍛冶職人になったら、お母様は恥ずかしいですか…?」
サイムダン「どうしてそう思うの?鍛冶の仕事がどんなに大切だか」
ソン「…。」
サイムダン「鍛冶職人がいなければ農業に必要な鍬や鎌は誰が作ってくれるの?この世の中に必要なのは学者だけではないわ。農夫も漁夫も鍛冶職人も、みな必要よ。彼らが揃ってこそ世の中が回っていくの」
「そうなのですね」ソンはホッとしたように微笑んだ。
サイムダン「完璧な人などいないわ。だから、あなたは進む道を自分で選んで、逞しく歩いていけばいいの。自分自身を信じて。わかるわね?」
ソン「お母様…」
#この子、本当に顔つきが変わりましたね^^
サイムダンは息子を優しく抱き寄せた。
後ろで料理の仕込みをしながら聞いているコン氏たちも、嬉しそうに顔を見合わせる。
コン氏「やれやれ、うちのテリョンには何をさせようかしらねぇ」
+-+-+-+
夜が更けていた。
今夜も眠れず、一人伽耶琴を爪弾いていたキョムは、小さな足音に顔を上げた。
そこにいたのは… 世子イ・ホ(※中宗の長男、後の仁宗)だ。
世子「どれだけ会いたいと便りを送っても宜城叔父上がいらっしゃらないので、仕方なくこちらから来ました」
キョム「殿下に代わって目の回るほど国事にお忙しいと聞きました。迷惑にならぬようわざと入宮しなかったのです。お許し下さい」
世子「いいのですよ」
キョム「殿下の御身体が心配です」
世子「今はまだしっかりしておいでです」
キョム「…。」
世子「私は操り人形に過ぎません。全てを決定なさるのは殿下で、私はただ殿下のお考えを代わりに伝えているだけなのです」
キョム「邸下ご自身のお考えを繰り広げる日がそのうち来るでしょう」
世子「そうでしょうか」
キョムは盃を口に運び、一息ついた。
世子「時が来たら、”患部”をえぐり取らねばなりません」
キョム「!」
世子「殿下は勲旧の功臣たちに借りがありますが、私は違います。殿下とは違う道をゆくつもりです」
キョム「邸下…」
世子「本心で言っているのです、宜城叔父上」
「…。」キョムは小さく頷く。
世子「広い世の中を見ていらっしゃったそうですね。若い君主に何か助言してくださることがあれば、手加減せずおっしゃってください」
+-+-+-+
今日も正殿では王と大臣たちが顔を揃え、国事を論じていた。
以前と違っているのは、中宗の隣に世子が同席していることだ。
釜山港の倭館一つでは貿易量を賄えないから、もう一つ増やすよう要請が来ている、そう話したのは領議政だ。
中宗「ふむ…。世子はどう考える?どんな答えを下すのだ?」
「…。」世子は立ち上がり、大臣たちの方へ進み出た。
世子「もともとあった倭館を閉鎖したのは、何度も倭寇が乱を起こしたからであり、我々から閉鎖したのではありません」
領議政「!」
世子「許可しない、そう返答します」
中宗が世子を見上げ、ニヤリとした。
次は左議政の番だ。女真族が村を襲って略奪をしているという噂に不安が広がっており、咸鏡道から軍隊を増員して欲しいと要請が入っているという。
中宗がチラリと世子を見た。
世子「噂は噂に過ぎません。しかし、民が動揺しているなら心配です。だからといって、別の場所の軍隊を減らすわけにはいかないから、ひとまず女真族を防御している六箇所を大々的に補い、戦争に備えていることを広めて、民心を引き締めよと答えましょう」
+-+-+-+
「どう?」貞順翁主は自作の水墨画を前に得意げだ。
彼女の正面で困った顔をしているのは、サイムダンだった。
貞順翁主「画法はカン・ヒアン(姜希顔)を参考にしたわ。生きているような岩に、流れるような余白、似ているかしら?」
サイムダン「あ… はい」
貞順翁主「朝鮮で一番有名な女流画家だと聞いたわ」
サイムダン「身に余るお言葉です」
貞順翁主「自慢じゃないけれど、図画院の画員たちが私に天賦の才能があると言うのよね。あなたの目から見てどう?」
「…。」答えに窮し、サイムダンは貞順翁主を見つめた。
貞順翁主「ふふん、やっぱり~。私の絵を見たら、皆言葉を失うのよね」
サイムダン「…。」
貞順翁主「だけど、ここで満足するわけにはいかないわ。芸術というのは一定水準まで上ってから、その次の段階に跳躍するのがとても難しいんだから」
サイムダン「…そうですね」
貞順翁主「誰かがポンと押してくれれば、途端に伸びるものよ」
サイムダン「…。」
貞順翁主「そこで、あなたに特別な機会をあげようと思うんだけれど」
サイムダン「機会とおっしゃいますと?」
貞順翁主「私の絵の先生になってちょうだいな」
サイムダン「えぇっ?」
貞順翁主「唐津に写生旅行に行く予定なの。一緒に行きましょ。明日すぐにね」
サイムダン「お言葉は有り難いのですが、すぐには難しそうです」
貞順翁主「何で?」
サイムダン「紙所を営んでいるのですが、とても忙しい時期で、長く空けるわけにはいかないのです」
貞順翁主「あなたが仕事をするわけ?どうせ働き手にやらせるんじゃない!」
サイムダン「…。」
貞順翁主「父上に私から頼んであげようか?官婢たちを送ってくれって。容易いものよ。私はこの国の翁主なんだから。ねっ」
※翁主=既婚の王女
サイムダン「それが… 実録編纂の用紙を急いで納品しなければならず、私が工程を全てみなければならないのです。申し訳ありません、翁主様」
貞順翁主「何が言いたいかよくわかったわ」
サイムダン「翁主様…」
「シン氏夫人のお帰りだそうよ」貞順翁主はお付きの女性につっけんどんに告げた。「案内して差し上げて」
+-+-+-+
キョムは居心地が悪そうにしきりにモジモジと体を動かした。
「もしかして… 気まずく感じていらっしゃるのですか?」正面の席で若い娘が言う。
キョム「そんなことはありません」
娘「お会いしたいとお願いしたのはご無礼だったかもしれません」
キョム「父親の名前を聞いただけで、一度も会わずに生涯を共にする相手を決めるわけにいかないではありませんか」
娘「はい、私もそう思ったのです。私と同じ考えをお持ちで嬉しいです」
キョム「(困惑)あ…。お茶が冷めます。どうぞ」
そこへ… いつものように従弟フが駆けてくる。
「おお!えらく若いお嬢さんですね!」娘を見て一言キョムをからかうと、彼はさっそく本題に入った。「今からお出かけになりませんと」
キョム「どこに?」
従弟「連絡が入ったんです」
キョム「…誰から?」
従弟「あ、えぇ(娘を意識して)世子邸下から。ふふふ♪」
+-+-+-+
「世子は学問に精を出しているのか?」中宗が尙膳に訪ねた。「こうも姿が見えないと…」
尙膳「大変精進しておいでのようです」
+-+-+-+
連絡を受けたとおり町へ出たキョムは、買い物客で賑わう通りをキョロキョロと見回した。
ふいに横道から出て来た町人がキョムに端正に頭を下げた。
キョム「!」
世子お付きの若者だ。
家の向こうから、町人に扮した世子が手招きをした。「宜城叔父上!」
キョム「邸下!どうなさったのですか?その服装は…」
世子「お忍びです。どうですか?似合ってます?」
キョム「あぁ、まぁそうですが…。今日は侍講院で講学のある日では?」
「予めしっかり手を打っておきました」世子は爽やかに微笑む。
キョム「?!」
世子「来る日も来る日も侍講院で講義を受けて経典を覚えたところで何の役に立つのですか。叔父上おっしゃいましたよね。民の暮らす姿を知るためには、彼らの中に深く入ってみるべきだって。その言葉が胸を打ったのでこうして実践しようとしているのです」
キョムはハハハと笑い、頷いた。「そうなさいませ」
急にその辺の土を手に取ると、世子の服になすりつけ、わざと汚す。「変装するなら徹底的にやらないと」
「こっちにも」世子は背中を向け、ニッコリと微笑んだ。
+-+-+-+
ここで区切ります。
うざい人と楽しい人が一人ずつ増えましたねぇ。
前回、中宗が「世子は29歳」と言っていたので、おのずとこのときの年代が1544年あたりかな?とわかります。
サイムダンの年齢も。もうかなりの人生を歩いてきていますね…。
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