師任堂(サイムダン)、色の日記13話あらすじ&日本語訳~後編
ソン・スンホン、イ・ヨンエ主演『師任堂(サイムダン)、色の日記』13話、さらにワクワクの後半を見ていきましょう♪
注:韓国で放送されているものは、日本と編集が違います。私の翻訳は韓国版です。
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広大な狩場の本部に張られた天幕の下では、高らかな笑い声が響いていた。
中宗「認めましょう。(獲得した兎を前に)余の矢より領議政殿の矢の方が一足早かったですよ。これで宜しいかな?」
領議政「たかが小さな兎一匹ですよ」
皆「ははは」
領議政「次は殿下の矢が鹿や猪を仕留めるでしょう」
皆「ははは」
右議政「領相殿の獲物は”キジの代わりに鶏”ならぬ”キジの代わりに兎”というわけですな」
皆「ははは」
※キジの代わりに鶏=ふさわしいものがないときに、似たようなもので代用することの喩え。
そこへキョムが入ってくる。
中宗「鷹狩りに出かけようとそそのかしておいて、どこへ行っていたのだ?」
キョムは獲物の代わりに、持ってきた絵を掲げてみせた。
行方をくらましていた間に描いた、鷹の絵だ。
「おぉ!」大臣たちが思わず感嘆の声を漏らす。
中宗「鷹ではないか」
中宗は豪快に笑い声を上げた。「カラスは洗っても黒いというが、宜城君は間違いなく絵描きだな」
右議政「(絵を見て)実に精巧な筆遣いですなぁ。潤沢とした羽根に鋭い爪、くいつかれそうなクチバシまで!」
左議政「今にも羽を広げて飛んでいきそうですよ」
皆「ははは」
キョム「殿下に対する私の真心です。お受取りいただけるといいのですが」
中宗「天下の一級品を余が拒むわけがあるまい」
キョム「昔から鷹には厄払いの意味があります。宋時代には(武昌?)のチャン氏の嫁が狐に憑かれた時、徽宗皇帝の鷹図を見た途端、体内の狐がびっくり仰天して死に、消えてしまったそうです」
大臣たち「ほう!」
キョム「それ以降、厄除けの絵には鷹が使われたそうで、この絵を殿下のそばに置いていただけば、周囲に潜んでいる獣が正体を現すかもしれません」
「!」チヒョンの目が険しくなる。
中宗「ははは、そうだな。そうかもしれぬ」
「ところで」中宗が再び絵を振り返る。「なぜ目がないのだ?」
確かに、黒いはずの目は白く空いたままだ。
左議政「”画竜”が”点睛”を欠いていますぞ」
キョム「殿下のために空けておいたのです」
中宗「余のために?」
キョム「はい。殿下が完成させてください」
領議政「あぁ、鷹の目で民をよく見るようにと、そういう意味ですかな?」
キョムが微笑んでみせる。
領議政「殿下、早く鷹の目をお描き入れください。画竜点睛を成すのです」
中宗「そうしますかな?」
場が再び笑いに包まれた。
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一方、中部学堂では、サイムダンとその子どもの在学資格を問う多数決が取られていた。
投票用紙が一つずつ開票される。
予想に反し、在学を許可する『許』の票数が伸びていた。
記録係「まぁ!7対7、同点ですわ!」
ソ氏「一体誰なの?!やり直しましょう。再投票しなければ」
フィウム堂「ひとまずは、お茶でも一杯ずつどうぞ」
「お茶?」皆が顔を見合わせる。
フィウム堂「皆さん喉が渇くでしょうから。ちょうど明国から取り寄せた貴重なお茶があるのです。煩わしい投票などもう必要ありませんわ。一休みしたら挙手にしましょう」
皆「挙手?!」
ソ氏「挙手、いいですわね!」
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挙手で決めることになり、母親たちは一旦休憩に入った。
フィウム堂の取り巻きが、一人の母親をつつく。
先の開票時、『許』票が読み上げられ喜んでいた母親だ。
フィウム派「あなたもしかして、許可に投票したんじゃないでしょうね」
母親「そんなぁ。違いますよ」
フィウム派「フィウム様に睨まれたら何の得もないわよ。ヒョンリョンが入ってくるまではチギュンがずっと一等だったのに…さっき見たでしょ。ヒョンリョンは並の子じゃないわよ」
母親「フィウム様に口答えして、平手打ちされたんでしょう?それも片方に2発ずつ。一度ぶったところをまたぶったって」
「!」サイムダンはハッとしてフィウム堂を見た。平手打ちですって…?!
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白く空いていた鷹の目に、中宗の手によって無事黒い目が入った。
領議政「殿下、このような素晴らしい絵には詩がありませんと。殿下が詩をお書き添えくださいませ」
中宗はさっそく鷹の絵の空いている部分に詩を書きはじめた。
少し書いてはなぜか首を傾げる。「?」
すぐに線が細くなり、掠れる部分まで出るのだ。
「…。」中宗の頭の上で、キョムとミン・チヒョンは静かに視線をぶつけあった。
中宗「こうも掠れるのを見ると、今日は狩りで無理をしすぎたようですな」
キョム「この絵を描いた時、色がなかなか乗らず、膠を混ぜて苦労しました」
チヒョン「!」
キョム「以前なら一筆で引くことのできた線が、細かく重ねないと引けません」
中宗「…。」
キョム「技術というのは日ごと進歩するものですが、紙だけはそうでないようですね」
チヒョン「!!!」
中宗「それが事実なら大変だ」
「それはそれとして」中宗は気分を切り替えた。「まだ陽が高いから、もう一度狩りに出よう」
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母親たちの元へ茶が運ばれてくると、ソ氏がそっと給仕係に耳打ちした。「白よ。白い服にこぼしなさい」
給仕係「白い服に?」
ソ氏「(サイムダンを示し)白い服にこぼしなさいって」
「!」そばにいたコン氏がそれを聞きつけ、ぎょっとして振り返る。あの女!
給仕係が茶の膳を持って後ろを通り過ぎようとしたそのとき、コン氏はすっと足を出し、給仕係を引っ掛けた!
ひっくり返ったお茶は、サイムダンの手前に座っていた若い母親のチマを直撃したのだ。
若い母親「きゃあ!」
「どうすればいいの?」茶をひっかぶった若い母親は、チマを握りしめ泣き出した。「お隣の奥様にお借りしたのに」
ソ氏「何よ?借りた服で来たの?」
母親「持ってる振りしてたくせに、全部ウソだったの?退学はあの人ね」
「…。」サイムダンの視線が、再びゆっくりとフィウム堂へ向かった。
若い母親「どうすればいいの?私もうおしまいです!」
サイムダンはそばで困っている給仕係を呼び止めた。「筆と墨を持ってきてくださいな」
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林の中へと馬を進めたキョムは鳥の姿を見つけ、馬を下りた。
その後ろをついてきたミン・チヒョンは、懐からそっと小瓶を取り出す。
鳥の後ろに回ると、キョムは慎重に弓を構え、矢を放った。
が、惜しくも矢は外れ、鳥は飛び去ってしまう。
溜息をつき、振り返ったそのとき…
キョム「!!!」
いつの間にそこに?
ミン・チヒョンがキョムに向け、弓を構えているではないか。
放たれた矢は危ういところでキョムの顔の横を掠める。「!!!」
矢の飛んだ先で… 大きな猪がバタリと倒れた。
チヒョン「狩場では絶えず後ろに気をつけなければ」
キョム「…。」
チヒョン「大変なことになるところでしたよ、宜城君」
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筆にたっぷりと墨汁を含ませると、サイムダンは茶で濡れたチマの上で構えた。
ポタポタと墨汁が落ち、チマに黒い点が出来ていく。
「何をするつもりかしら」皆が不思議そうに見守った。
フィウム堂(心の声)「サイムダンが…筆を持ったわ。どうなっているの?どうするつもり?」
筆をおろさぬまま、サイムダンはじっと筆先を見つめた。
出来るわ…。えぇ、出来る!
次の瞬間、サイムダンが一気に腕を下ろすと、筆がまるで生きているかのようにチマの上を踊りだしたのだ!
母親たちの戸惑いの声は、すぐに感嘆のそれに変わる。「葡萄だわ」「チマにこんな絵を描くなんて!」
ちょうど部屋へ入ってきたペク教授官も、見事な筆さばきに立ち尽くした。「!」
コン氏「さすが!天才少女画家は死んじゃいなかったのよ!」
ソ氏「あらま、知り合いだったの?」
コン氏「いえ、そんな噂を聞いた気もするし、聞いていない気もするし」
母親「まるで知り合いみたいに」
コン氏「これ、売ればお金になりますよ」
若い母親「本当ですか?」
コン氏「うちにはたくさん絵があるから、見る目はあるんですよ。これはお金になります!確実に!」
若い母親「(嬉)どうしましょう~」
コン氏「(若い母親に)良かったわね、チマ婦人」
若い母親「ありがとうございます」
母親たちのお喋りがまるで耳に入っていないかのように、サイムダンは一心に筆を動かす。
「フィウム様より上手いと思わない?」「ちょっと!そんなこと言っちゃ大変よ!」ヒソヒソと話す声まで聞こえてきた。
一息で描き切り、サイムダンはそっと筆を置いた。
サイムダン「美醜の間に境界はないと思っています。このチマを持っていらっしゃれば、苦境は免れるのではないでしょうか」
若い母親「まぁ!ありがとうございます!」
「少し皆様にお話があります」サイムダンが続ける。
サイムダン「今日でヒョンリョンは…自主退学させます」
母親たち「えぇっ?!」
教授官「ヒョンリョンのお母様、自主退学だなんて」
サイムダン「母親同士で作ったという規約のせいではありません。子どもより父親の権勢や財産を重視し、国の根幹である民すら蔑ろにして、ひたすら科挙の勉強ばかり強要する学堂で、これ以上学ぶべきことはないと思ったのです」
教授官「…。」
母親たち「…。」
サイムダン「これまで大変失礼いたしました」
サイムダンは母親たちに背を向け、今度は教授官に頭を下げる。「これまでありがとうございました」
気まずい空気が包む中、サイムダンは早々に部屋を後にした。
母親「本当に出ていっちゃうの?」
母親「そうみたい」
母親「最後までカッコつけちゃって」
母親「自主退学なんて初めてじゃない?」
教授官「…。」
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「待って」庭で呼び止められ、サイムダンは足を止めた。
フィウム堂「あんたが辞めるんじゃない。私が追い出したのよ。はっきりさせておくわ」
サイムダン「昔、雲平寺で私の命を救ってくれましたね。お礼を言いたいと思っていました。遅くなったけれど、本当にありがとうございました」
静かにそう述べると、サイムダンは頭を下げる。
サイムダン「どうやって両班の正室の座までのぼり詰めたのかはわからないけれど、その心だけは昔に及ばないようですね」
フィウム堂「何ですって?!」
サイムダン「見かけは華麗な蝶かもしれなけれど、中身はいまだ幼虫だということでしょう」
フィウム堂「!!!」
サイムダン「中部学堂の母親会代表の座に、他の人を踏みつけ、傷つけてまで守るべき価値があるのなら、あなたはこれからもそうなさいませ」
「!」絶句するフィウム堂を残し、サイムダンはきっぱりと背を向けた、。
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狩場の本部前に、今日一番大きな獲物が掲げられた。
猪だ。
中宗「宜城君がミン殿の世話になりましたな」
キョム「大きな猪が弓矢一本で絶命とは…。毒でも使ったのですか。ヒメカブトの花でも?」
チヒョン「…。」
「…。」中宗もチヒョンに注目する。
チヒョン「急所を射抜いたのでしょう」
キョム「殺したかったのはあの猪ですか?それとも…私ですか?」
大臣たち「!!!」
「…。」チヒョンは眉一つ動かさず、キョムを睨んだ。「命の恩人を相手にお言葉が過ぎますね」
そこへ、馬に乗った一団がやって来た。
急ぎの様子で駆けつけたのは、知った顔だ。
鷹を介し、キョムから明で便りを受け取った使臣ではないか。「殿下、お変わりありませんか」
中宗「ソ・セヤンではないか。明国にいるはずのそなたがどうした?」
セヤン「明の使臣がじき到着します。急いでお戻りいただきませんと」
中宗「明の使臣?予定もないのに、どういうことだ?」
セヤン「皇帝の勅書を持参する勅使たちです」
「何!」中宗が驚いて立ち上がった。「勅使とな?!」
驚く大臣たちに混じり、一人平静を保っている人物がいることに、誰も気づくことはなかった。
キョム「…。」
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サイムダンは重い足取りで家に帰り着いた。
庭に入ると、ヒョンリョンが制服のまましょんぼり座っている背中が見える。
「…ヒョンリョン」しばらく我が子の背中を見つめ、サイムダンは静かに声を掛けた。
ヒョンリョン「お母様!どう…なりましたか?このまま通えるんですよね?」
「…。」答える代わりに、サイムダンは我が子の頬をそっと撫でた。
ヒョンリョン「…。」
サイムダン「入りましょう」
#うぅ、このシーンすんごく辛いねㅠㅠ
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「自主退学だなんて!」ヒョンリョンが思わず声を上げた。「僕に一言も相談せずに決めるなんて!」
サイムダン「叩かれたこと、なぜお母さんに言わなかったの?」
「…。」ヒョンリョンは悲しそうに目を伏せる。「お母様はただでさえ大変なのに、もっと辛い思いをされるんじゃないかと思って」
サイムダン「あなたが叩かれたと聞いて、お母さんの胸も深く傷ついたわ」
ヒョンリョンの目から大粒の流れ落ちる。「僕はもう大丈夫です。チギュンとももう喧嘩しません」
ヒョンリョン「お願いですから、自主退学だけは取り下げてください」
サイムダン「それだけが理由ではないの」
ヒョンリョン「?」
サイムダン「今日、あなたの授業態度を見たわ。先生にいくつも質問を浴びせていたわね」
ヒョンリョン「…。」
サイムダン「本当に知りたくて質問したの?それとも、自分の知識を誇示するため?」
ヒョンリョン「…。」
サイムダン「もちろん、一番問題なのは中部学堂の雰囲気よ。けれど、あなたの心掛けも正しくないわ」
ヒョンリョン「…。」
サイムダン「ヒョンリョン、あなたは生まれつき並外れた能力を持っているわ。けれど、ほとんどの人はそうではない」
「…。」じっと俯いていたヒョンリョンが顔を上げる。
サイムダン「能力を正しく使えず、人を見下すために使ったなら、それは能力がないよりも劣ることよ。才能よりも人格を備えねばならないということ」
ヒョンリョン「はい。これからは忘れません。だから…」
サイムダン「明日から私と一緒に仕事に出て、紙を造りなさい」
ヒョンリョン「紙を造るって?!」
サイムダン「お母さんがあなたを教えます」
ヒョンリョン「お母様!」
最後まで厳しい表情を崩すことなく、サイムダンは息子を残して部屋を後にした。
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正殿にはすでに大臣たちが勢揃いしている。
「この間来たばかりなのに、また使臣が来るとは」中宗がソ・セヤンを伴い、姿を現した。
中宗「一体何事なのだ?」
セヤン「私の聞いたところによりますと、高麗紙の問題のようです」
「!!!」チヒョンが目を丸くする。
中宗「高麗紙がどうした?」
セヤン「これまで朝鮮から明へ納品されていた高麗紙に問題が起きたようです」
中宗「高麗紙に問題が起きたと?」
セヤン「朝鮮の高麗紙で作った本が20年も経たぬうちに色褪せたと、明の皇帝が随分お怒りのようで」
「…。」中宗にも覚えがあった。
鷹の絵に詩を添えようとしたところ、紙に墨が乗らず、掠れてしまったのだ。
中宗「直ちに造紙署長を呼ぶのだ!」
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造紙署長は大慌てで駆けつけた。
中宗「そんな言い訳が通ると思うか!」
「殿下、誤解があるようです」隣で口を開いたのはチヒョンだ。
チヒョン「主席紙物店から納品する紙は、朝鮮で最も質が良く、明国で問題になるような物では決してありません」
中宗「まともな紙ならば、明国の使臣がなぜ急に遠路はるばるやって来るのだ?」
チヒョン「誤解でないとすれば、何らかの謀略があったに違いありません。以前より、造紙署への納品権と市場での販売権を欲しがる者は少なくありませんでした」
中宗「それは明国の使臣が到着すればはっきりすること!もし事実なら絶対にただでは済まさぬぞ」
「…。」チヒョンの厳しい目が、ソ・セヤンへと向かった。
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「別の目論見があるに違いない!」中宗は執務室で身悶えしていた。「そうでなければいきなり紙の問題を持ち出して押しかけてくるはずがなかろう」
内禁衛将「殿下、気をお鎮めください。目論見などと…。差使(※臨時派遣した官員)によると、間違いなく紙の問題とのことです」
「あぁ!」中宗は思わず立ち上がる。「こうしてはおられぬ」
中宗「今すぐ全国に公示せよ。高麗紙を造ることの出来る職人なら、誰であろうと連れてきて、何としても高麗紙を造るのだ!一刻も早く造って送らねば!」
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「仰せの品を馬に積んでおきました」執事が帰宅したミン・チヒョンに告げた。「前回よりも10倍用意いたしました」
造紙署長を連れて外へ出てみると、そこには荷車にぎっしりと貢物が積まれている。
チヒョン「もともと向こうの奴らは駄々もこねるし金も食う」
※떼놈들은 떼도 잘 쓰고と言っていますね。떼놈들(群れの奴ら)は人口の多い中国の人たちを指すようです。떼 쓰다は駄々をこねる。同音異義語の떼が続く言葉遊びみたいになってます。
チヒョン「金が嫌いだという者でもいれば、吐き出せないほど突っ込んでやればいいのです」
「汚い奴らめ…」チヒョンは馬にまたがった。「いくぞ」
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キョムは友人ソ・セヤンを比翼堂に招いていた。
セヤン「やっかいな相手に手を出したな」
「ははは」茶を淹れながら、キョムは軽く笑う。「そうですね」
セヤン「気をつけた方がいい。下手をすれば痛い目に遭う」
キョム「覚悟はできています」
セヤン「きっと今頃、馬を引き連れて泰平館(※使臣の宿舎)へ向かっているはずだ。それでも今回、明の差使たちはむざむざと引っかかるまい」
キョム「詐欺と暴力、不正行為で生きてきた人間です。駄目ならまた別の手を打ってくるでしょう」
セヤン「無理をするな。こういった場合は勝者も敗者もなく、共倒れするのがほとんどだ」
キョム「構いはしません。あやつが20年間不正にため込んだ富と権力全て、見過ごすつもりはありません」
そこへ従弟のフが慌てた様子で駆けて来た。「シン氏婦人がどえらい葡萄画を描いたって聞いたけど、画家だったんですか?!」
キョム「?… 紙を造ってるシン氏のことを言っているのか?」
従弟「そうですってば!みんな葡萄画を見ようって勢揃いで出掛けていきましたよ」
キョム「間違いなく…あのサイムダン、紙を造っているシン氏なのか?!」
従弟「間違いなく!」
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居ても立ってもいられず、キョムはサイムダンの絵を見に出掛けた。
従弟「チマにどえらい葡萄画を描いたそうなんですがね、ご婦人方の間で噂が広がって、今じゃ漢陽で知らない人はいないほどの大騒ぎだそうですよ。反物屋に犬の群れみたいに押しかけてるって」
キョムが反物屋へ駆けつけると、先に来ていた比翼堂の連中が迎え入れる。「素晴らしい葡萄画があるそうですよ」
「駄目ですよ!」大勢の見物客を前に、店主が声を張り上げる。「もう買い主が現れたんですから」
キョム「勿体ぶらずに見せてくれ!」
店主「…。」
キョム「比翼堂から来たのです!」
店主「ならば、少しだけですよ」
店主が一旦店の奥へ引っ込むと、すぐに黄緑色のチマを抱えて戻ってきて、皆の前で一気に広げる。
キョム「!!!」
それはキョムの目に、まるで自ら光を放つように神々しく輝いて見えた。「…。」
キョム「彼女がまた筆を持った…」
従弟「従兄、何がそんなに嬉しいのです?」」
キョム「彼女の画才が蘇ったのだ…!」
共に絵筆を持ち、幸せな時間を過ごした思い出が、次々と蘇る。
葡萄画の力強い筆遣いは、キョムの胸の中にうずまっていたその記憶に、生き生きと命を吹き込んだ。
と、店主はあっという間にチマを畳み、見物たちを手で払った。「さぁ、もうお帰りを」
キョム「もう少し見せてくれ!」
店主「売れたと言ったではないですか」
キョム「誰に売れたのだ?私が2倍出そう」
一瞬躊躇して、店主は首を振る。「だ、駄目です!」
キョム「3倍」
店主「…。」
「頼むよ!」従弟のフも加勢する。「交渉してくれればいいじゃないか」
店主「出来れば私もそうしたいのですが、交渉など到底できない御方に売れたのです」
キョム「…。」
店主「残念ですが、ここまでに」
キョム「待ってくれ!」
表の騒ぎが、薄暗い店の奥にも漏れてくる。
上衣にすっぽり身を包み、女が一人、思い詰めた表情で身を固めていた。
フィウム堂だ。
店主が戻ってきて、葡萄画のチマを箱に収めた。
フィウム堂「…。」
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夜が更けていた。
サイムダンは枕を抱え、子どもたちの寝室の扉を開ける。
皆が眠っているそばで、ヒョンリョンだけが一人しょんぼりと座っていた。
「今日は私もこの部屋で眠るわ」そう言って、サイムダンはヒョンリョンの隣に枕を置き、布団に入る。「何をしてるの?早く横になりなさい」
「…。」ヒョンリョンは沈んだ表情のまま、言われたとおり横になった。「お母様…」
ヒョンリョン「さっきはごめんなさい」
サイムダン「お母さんも申し訳ないわ。ヒョンリョンを辞めさせてしまって…本当に済まないと思っているの」
ヒョンリョン「…。」
サイムダン「ヒョンリョン、お母さんはヒョンリョンにソン、メチャン、ウ… 誰欠けることなく愛しているけれど、ヒョンリョンにはいつも申し訳ないと思っているわ」
「…。」ヒョンリョンの目から涙がこぼれ落ちる。
サイムダン「知識もやりたいこともたくさんある子に、私のしてやれることがあまりに少なくて…申し訳ないわ」
ヒョンリョン「…。」
サイムダン「だから、お母さんはもっと一生懸命働くつもりよ。ヒョンリョンに翼をつけてあげるために、出来る範囲よりももっと… 最善を尽くすわ」
ヒョンリョン「…。」
サイムダン「お母さんの気持ち… 受け入れてくれるかしら?」
母をまっすぐに見つめ、ヒョンリョンはしっかり頷いた。
その目からとめどなく流れる涙を、サイムダンはそっと拭ってやる。「今日は疲れたでしょう。眠りなさい」
ヒョンリョン「お母様…僕、将来お母様に贅沢をさせてあげたいです」
「…。」サイムダンの瞳に愛おしさが滲む。
ヒョンリョン「お母様が誇れる息子になります」
「嬉しいわ」サイムダンの手がもう一度息子の頬を撫でた。「早く寝ましょう」
その夜、ヒョンリョンは母の温かい懐に抱かれて眠った。
+-+-+-+
葡萄画のチマを握るフィウム堂の手は、屈辱にぶるぶると震えていた。
サイムダンはその大胆な絵で皆の羨望を一瞬で手にし、表情一つ変えることなく自分に”幼虫”と言い放った。
浅はかだと言い捨てたキョムの冷たい視線も、頭から離れることはない。
「燃えてしまえ」フィウム堂は葡萄画のチマを火に投じ、棒で押し込める。「燃えてしまいなさい!」
フィウム堂「全部燃やしてやるわ!!!」
燃え盛る炎の前で、フィウム堂は崩れ落ちた。
サイムダン… 宜城君、偉そうな両班の奴ら!全部殺してやるわ!!!
+-+-+-+
ここでエンディングです。
良かったですね~^^
キョムが他の見物人に混じって葡萄画を見ているのはちょっと勿体なかった気もしますが(笑)
訳し終わらないと次の回が見られないので、早く先が見たく焦れったい思いと戦いながら訳しました。
早く最新話まで行きたい~!
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