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ホテル・デルーナ4話あらすじ&日本語訳~前編

   

IU(イ・ジウン)、ヨ・ジング主演のtvNドラマ『ホテル・デル・ルナ(ホテル・デルナ/ホテル・デルーナ)』4話のあらすじを、セリフの日本語訳もまじえて紹介していきます^^

僕がここへ来た意味

「あなたが晴らせずにいるのはどんな思いですか」チャンソンはマンウォルに問う。

チャンソン「その思いを晴らすために、僕はこうしてあなたのそばに来たんじゃないでしょうか」
マンウォル「…。」

チャンソンは改めて千年の木を見上げた。
手を伸ばし、その枝先をそっと指先でつまむ。

マンウォル「!」

枝の節々から、緑の鮮やかな葉が伸びてきたのだ。
止まっていたマンウォルの時間が、ふたたび流れ始めたのだろうか…。

チャンソン「木に変化が!」
マンウォル「そうね。もしかしたらあなた… 0位どころかもっと特別な人間なのかもしれないわ」
チャンソン「どうしてこうなったんです?」
マンウォル「どうしてって。あんたが原因よ」
チャンソン「僕が?」
マンウォル「干上がって捻れていた記憶が、あんたのおかげでまた這い出て来たの」
チャンソン「僕が何をしたって?ただあなたの出てくる夢について苦情を漏らしただけですよ」
マンウォル「…。」
チャンソン「僕の業務は幽霊の世話をするところまで。夢は業務の範囲外です。望まずして与えられたことに対して、いかなる不当な代価も払いたくありません」
マンウォル「不当な代価を払うことになるでしょうね」
チャンソン「?」
マンウォル「もう私を刺激してしまったから」
チャンソン「…。」
マンウォル「(木を見上げ)みっともなく青くなっちゃって」
チャンソン「心は捻くれていても、言葉は正しく言いましょうよ。(木を指し)美しく蘇ったと言うべきでしょう」
マンウォル「それが問題なのよ」
チャンソン「?」
マンウォル「あんたは蘇らせちゃいけないものを蘇らせた」
チャンソン「そんなに怒るってことは、僕が夢で見たのはあなたの過去に間違いないようですね。僕に過去を見られたのが恥ずかしいですか」
マンウォル「えぇ。全身真っ青になるほど恥ずかしいこの状況、ちゃんと確かめないと」

マンウォルは厳しい顔でチャンソンに詰め寄ると、彼のネクタイをむんずと掴み、引っ張り寄せた。

チャンソン「な、何するんですか」

#こんな荒っぽい真似をされても、マンウォルに触れまいと両手を後ろに逸らす紳士♪

本日の霊:孤独ではなかった孤独死

「このまま死ぬわけにはいかん!」老人が迎えに来た死神に訴えていた。

老人(霊)「わしが逝ったらスンドルはどうなるんだ!」
死神「どうにもならぬことだ」

「知るもんか!」老人は迎えを拒否し、自宅へ引きこもってしまった。
その様子を見ていたのが、花籠を抱えた麻姑神だ。

麻姑神「…。」

老人があの世へ行けない理由は、飼い犬だ。。
息を引き取った自らの体に寄り添ったまま、動こうとしないのだ。「吠えろ!じゃないと助からん!このままじゃ死ぬぞ」

死神「1週間、迎えを拒否しています」
麻姑神「心残りでどうしようもないんだろう。こういうときはね、こっそり道を開いてやっても構わないよ」

麻姑神は老人の自宅の玄関ドアを少し開けてやった。

老人(霊)「(開いたドアを指し)スンドル、外に出るんだ。早く!」
スンドル「…。」

老人の呼びかけにも反応することなく、愛犬のスンドルは主人の体に身を寄せた。

麻姑神「(死神に)そっとしておきなさい。そう長く彷徨いはしないさ。いざとなったらマンウォル堂を訪ねるだろう」
死神「マンウォル堂ではなく、デル・ルナです」
麻姑神「あぁ、そうだった。マンウォル堂、マンウォル館、デル・ルナ。名前はコロコロ変えるくせに、主の性根はさっぱり変わらん」
死神「千年余りあのままです。見込みはありません」
麻姑神「(ニヤリ)だから、ある人を送り込んだんだ」
死神「新しい主を入れるのですか?」
麻姑神「(首を横に振り)意地っ張りのマンウォルにもこっそり道を開いてやったのさ」

記憶の蘇る痛み

マンウォルはチャンソンを自分の寝室へ連れ込むと、ベッドに押し倒した。

チャンソン「こんなの駄目です!」
マンウォル「じっとしてなさい」
チャンソン「やめましょうよ」
マンウォル「ク・チャンソン、寝ましょ」
チャンソン「チャン・マンウォルさん!」

マンウォル「寝ないと夢が見られないでしょ。あんたが本当に夢で私を見たのか、それとも聞きかじった話で私を騙してるのか、この目で確かめないと」
チャンソン「…。」
マンウォル「ク・チャンソン。寝なさい」
チャンソン「こんな状況で寝られるわけないじゃないですか。それに、無理に寝たとしても、毎回夢を見るわけじゃありませんよ」
マンウォル「いいわ。それなら夢を見るまで毎回私の隣で寝なさい」

チャンソンは彼女を押し戻し、ベッドの上に起き上がった。「あなたと寝たくはありません」

マンウォル「優しく言ってるうちにおとなしく寝るのよ!」

「…。」チャンソンはもう一度ベッドに横たわり、固く腕を組んだ。「いいでしょう。寝ますよ」

チャンソン「隣で一緒に寝るなり、見物するなり、好きにしてください」
マンウォル「嘘だとわかったらぶっ殺すから」
チャンソン「嘘であってほしいんでしょう。僕があなたの夢を見るのが嫌だから」
マンウォル「!」
チャンソン「そんなに嫌なら、夢で何を見てももう話しません。生かすも殺すも好きにすればいい」

「…。」マンウォルの負けだ。
「やめましょ。あんたとは寝ないわ」マンウォルは白けたように立ち上がった。

+-+-+-+

隣の執務室へ移ると、マンウォルは瓶ごと酒を流し込んだ。

チャンソン「僕が蘇らせた記憶… そんなに辛いものだったんですか」
マンウォル「…。」
チャンソン「その男性を思い出して…?」
マンウォル「あの木みたいに真っ青になりたくなければ黙ってなさい」
チャンソン「彼は誰なんです?」
マンウォル「どうして?自分かもしれないって?」
チャンソン「もしかしたら… そうかもしれないと思ったのは確かです。僕が見たのは、自分でも記憶のない前世かもしれないと」

マンウォルは冷たく鼻でふっと笑う。「絶対にあの人なわけないわ」

チャンソン「なぜです?夢で見てから、ずっとあなたのことが気に掛かっているんです。もしかしたら特別な縁なのかもしれないと推測したんですが」

マンウォルはまっすぐ彼に近づくと、確かめるように左胸に手のひらを当てた。

チャンソン「?」

しばらくじっとしていたかと思うと、マンウォルはトンと軽く突き放す。「あんたじゃない」

マンウォル「な~んともない。あんたがあの人なら、絶対こんなはずないもの」
チャンソン「実に幸いですね。もしかしてあなたの好きだった人が僕だったらどうしようって、すごく気まずかったから」

「…。」マンウォルが憮然と酒を流し込む。

チャンソン「好きだったんじゃないんですか?そう見えたけど。ものすご~く」
マンウォル「無駄口を叩けば叩くほど、不当な代価を払うことになるわよ」
チャンソン「不当な代価って?給料くれないつもりですか?契約書も書きましたけど?!」
マンウォル「ク・チャンソン!今日から霊の受付をやりなさい」
チャンソン「!」

+-+-+-+

さっそくチャンソンがフロントで迎え入れたのは、かなり腐敗が進み、ハエのたかった霊だ。
凍りついているチャンソンに見かね、フロントマンのヒョンジュンが代わりに客を案内した。

フロントマン「(客に)長く彷徨われたようですね。チェックインのお手伝いをいたします。最初に美容サービスを受けられるよう、準備いたしましょう。エレベーターへどうぞ」

駄目だ!
めまいがして、チャンソンはフロントデスクにもたれかかる。
マンウォルはどうしてそこまで怒ったのだろうか。
ヒョンジュンに訊いてみても、マンウォルに待ち人がいるという話は聞いたことがないと、首を傾げるばかりだ。

チャンソン「あの男性を待ってるんじゃないのか…?」

+-+-+-+

フロントでお客を迎える業務から逃げ出し、チャンソンがやってきたのはバーだ。
ホテルを訪れたときは損傷の激しい客もいるが、バーへ顔を見せる頃には綺麗になっているから、とバーテンダーのソンビが励ます。
慣れるにはまだ段階を踏む必要があった。

チャンソン「ここでお客様が飲み食いするものは、どう賄っているんですか。配達が来るわけじゃないでしょうし」
ソンビ「あの世から来るんです。このホテルでお客様をもてなして、無事あの世へお送りすれば、その代価として支払われるのです」
チャンソン「霊がお金を払って行くんですか?」
ソンビ「良い気運を残して行くんです。その気運がデル・ルナの庭園に花を咲かせます。遺恨なく旅立てるよう、玲瓏たる花を。庭園が花で溢れれば、麻姑神がそれを摘んで行きます。その代価として、我々に必要な物品を送ってくれるのです」

「なるほど」チャンソンがうなずく。「ということは…」

チャンソン「チャン・マンウォル社長が霊で金儲けをするのは?」
ソンビ「贅沢をするためです」

わかりやすい答えに、チャンソンは呆れた顔を隠しもしない。

ソンビ「ひたすらチャン・マンウォル社長が一人で楽しむシャンペンに高価な服、宝石、車につぎ込まれるんです。あれが罰を受ける者の態度でしょうか」

約束する…そう彼は言った

マンウォルたち盗賊団が軍に追われ、小さな集落に逃げ込んでいた。
足に怪我を負い、倉庫の奥に身を潜めていたマンウォルは、捜索に入ってきた武官に飛びかかる。

…チョンミョンだった。

マンウォル「!!!」

「…。」言葉を交わしている暇はない。
外に他の兵たちが集まってきたのだ。
マンウォルが身を隠すと、チョンミョンが表から外へ出た。「ここにはいない。外を探せ」

+-+-+-+

倉庫に戻ったチョンミョンは、足に怪我を負ったマンウォルの手当をしてやる。

チョンミョン「高句麗出身の奴隷が取引される市場が襲われたと知らせが入った。お前たち一団のような気がして、来てみたんだが」

顔を上げ、いたずらっぽくマンウォルを見る。「反射神経がいいから良かったものの、君の刀で死ぬところだった」

マンウォル「私の反射神経がいいから、あんたが助かったのよ」

「はっ」チョンミョンが笑う。「ありがたいことだ」
「これ、どうしてくれる?」彼は頬にできた小さな刺し傷を指した。
さっき、彼女に飛びかかられたときに刀先がかすったのだ。

チョンミョン「俺の顔代は高いんだ。どうやって払ってくれる?」
マンウォル「それは困ったわ。ヨンジュ城のお姫様も愛でる顔なのに。もう顔でたぶらかすのは無理ね」
チョンミョン「ふむ。姫君のお好きなのは俺の顔だけだと思うか?」

マンウォルが恨めしそうに見上げると、チョンミョンはニッコリと微笑み、包帯をギュッと結んだ。
そこへ、外が騒がしくなる。「離せ!」

マンウォル「?」

兵士たちに連行されているのは… 仲間のヨヌではないか!
「ヨヌ!」思わず飛び出そうとしたマンウォルを、チョンミョンが捕まえる。

マンウォル「離して!ヨヌが!!!」
チョンミョン「今行けばお前まで捕まる」
マンウォル「!!!」
チョンミョン「約束する。必ずや助け出して、お前の元へ連れて行くから」

その後… 一人で待っているマンウォルの元へ、チョンミョンは本当にヨヌを連れて来たのだった。

+-+-+-+

「この長い長い時間…、あなたはここでその人を待っていたんでしょう?」

どんなに時が経とうと、あの人の記憶は鮮やかだ。
マンウォルは一人、葉をいっぱいに広げた木を見上げた。

マンウォル「本当に… みっともなく青くなって。笑っちゃうわ」

動揺が彼女の胸でどんどん膨らむ。
どうしようもなくなり、手元のグラスを投げつけた。
と、バリアのように木を包んでいた気が、グラスをパンと跳ね返した。

道を開けたのは誰?

帰宅する地下鉄の中で、チャンソンは目を開けた。「ヨヌだ」

チャンソン「一人は名前がヨヌ。チャン・マンウォルの仲間だ」

顔を上げると、そこに老婆が立っていた。
麻姑神だ。
目の前で自分を見つめている老婆に戸惑ってキョロキョロするうちに、彼は老婆が手にぶらさげている花籠に気づいた。

チャンソン「花を売っていらっしゃるんですか?いくらですか?一つください」
麻姑神「いや、いいんだよ。あんたの分はもうあげたからね」
チャンソン「?」

麻姑神は愉しげに彼の隣に腰を下ろした。

麻姑神「お父さん、花を摘んで死にかけたろう?」
チャンソン「!」
麻姑神「そのおかげで盗みも働かず、真面目に生きたんだよ。息子もこうして立派に育てたしねぇ」

「!」そうだ。
チャンソンは思い出した。
父が死にかけたあの誕生日の夜。
不思議な花売りの老婆に会ったのだった。「あのときの!」

麻姑神「どうだい?ホテルには満足かい?」
チャンソン「あなたが仕向けたことだったんですか?」
麻姑神「うーん、私はただこっそり道を開いてやっただけだよ」
チャンソン「成り行きじゃなかったということですか?」
麻姑神「木を一本植えたんだけどねぇ」
チャンソン「!」
麻姑神「そいつがまぁツンツンと性根がひん曲がっていてね。あんたが面倒みてやっておくれよ」
チャンソン「…。」
麻姑神「辛くなったら、私を訪ねていらっしゃい」

そう言って、麻姑神は名刺を差し出した。

+-+-+-+

ふいに消えてしまった麻姑神を追って、チャンソンは地下鉄を出て、街の中を走った。
そこへ…
花を一輪手に、老人がベンチに座っているのが見える。

チャンソン「?」

麻姑神の花だ。
『あの世行き』の標識が立っているその場所に、一台の車が滑り込んでくる。
老人が乗り込むと、後ろで犬の鳴き声がした。「ワンワン」

チャンソン「!」

そうか!
「待ってください」チャンソンは黒い車に呼びかけると、後ろの扉を開いた。
老人が顔を覗かせると…

老人「スンドルじゃないか!なんでこんなところに来たんだ?!お前の来るところじゃないぞ」

主人を失ったスンドルは、麻姑神が玄関ドアを開けてやったにもかかわらず、そばを離れなかったのだ。
その結果、主人に寄り添ったまま、スンドルも息を引き取ることになった。

老人「可愛そうに」

老人はスンドルを抱き上げ、一緒に車に乗り込んだ。「一緒に行こう」
見送るチャンソンの前で、走り出した車はじきに消えていった。

「麻姑神は花を摘み、あの世へ行く人々にわけてやるそうだ。麻姑婆に見送られた霊は、“良いところ”へ行くらしい」

チャンソン「さっきの人が… 麻姑神なのか?」

本日の霊その2:手の感触は忘れない

「すげぇパン買ってきたぞ!」チャンソンは騒々しいサンチェスの声で起こされた。
馴染みのパン屋に幽霊が出たらしく、霊がこねたというパンを買ってきたのだ。

チャンソン「やめろよ。家に帰ってまでそんな話聞きたくないんだ」
サンチェス「幽霊が作ったパンなら、パンにくっついて来てるかもな」

と、チャンソンは飲みかけたドリンクを吹き出した。
あのサングラスの霊が、目の前に立っていたのだ。

チャンソン「なんで来たんだ?何でまたここに?!」
サングラス「…。」
チャンソン「サンチェス兄について来たんですか?」
サングラス「(首を横に)」
チャンソン「じゃあパンについて来たんですか?」
サングラス「(うん)」

「変なこと言って、すまなかった」サンチェスが真顔になって声をかける。「パン食おうぜ」

チャンソン「いいよ、兄貴が食べなよ。俺はまた出勤しないと」
サンチェス「チャンソン!お前がそんなこと言ったら… 食えないだろ」

+-+-+-+

チャンソンはサングラス女をデル・ルナへ連れ帰った。

ソンビ「3位が出掛けたお客を捕まえて来たか」
ヒョンジュン「パン屋でパンを作ってたそうですよ。そういうことやっちゃいけないのにな」
ソヒ「今日あの世行きのリムジンに予約していたお客様よね」
ヒョンジュン「はい。予約変更のために、支配人が社長のサインを貰いに行きましたよ。この世を発つ前にパンを召し上がりたかったのかなぁ」
ソンビ「この世のパンは食べられない。ルームサービスを呼ぶべきだったのに、なぜパン屋に?」
ソヒ「ヒョンジュンあなた、お客様の出入りをまともにチェックも出来ないの?あなたもあの世行きのバスに乗りたい?!」
ヒョンジュン「昨日は団体のお客様が多くて、忙しかったんですよぉ」

「しっかりなさい!」厳しく叱りつけ、ソヒは立ち去った。

ヒョンジュン「ひどいよ。バスに乗れだなんて」
ソンビ「そうだな。あれは言いすぎだ。なんであんなにキツイんだ?あぁ、もうじき25の日だな」
ヒョンジュン「もうあの日ですか。今年も無事に過ぎますよね?」
ソンビ「そうでないと。42年前のようなことが起きたら、チェ氏夫人は今度こそあの世へ連れて行かれるだろうな」

+-+-+-+

「霊に好き勝手やらせちゃ駄目よ」チャンソンから話を聞き、マンウォルはソファに寝そべったまま眉をひそめた。
同時にチャンソンが顔をしかめたのは、とんでもない酒の匂いのせいだ。

マンウォル「大したことじゃないから、予約通り今日バスに乗せなさい」
チャンソン「予約変更のサインをお願いします」
マンウォル「…。」
チャンソン「どうしても会いたい人がいるそうです」
マンウォル「会いたい人のいない霊なんていないわよ!」

マンウォルが渡されたペンを投げると、チャンソンは涼しい顔で別のペンを差し出した。「生前一度も会えなかったから、会ってから行きたいそうです」

マンウォル「?」
チャンソン「生前は目が見えませんでしたから」
マンウォル「会ったこともないのに、会いたいわけないでしょーが!名前もわからないんでしょ。知らない人をなんで探すのよ?」
チャンソン「…。」
マンウォル「もうおしまいにしてあんたも帰りな」

「鬱陶しい」マンウォルは一度外したアイマスクを戻す。

チャンソン「手が覚えているそうです。手を握れば感触でわかると」
マンウォル「ふふふ、幽霊の戯言よ」

「出てって」追い払おうとしたマンウォルの手を、チャンソンがふいに掴んだ。

チャンソン「それなら、あなたの言ったことも戯言ですか」
マンウォル「?」
チャンソン「言いましたよね、感触でわかると。僕は決してあの人じゃないって」
マンウォル「…。」
チャンソン「それなら、あなたにもわからないんですね」
マンウォル「あんたは… 絶対に違うわ」
チャンソン「それならサインしてください」

チャンソンはマンウォルの手を取ったままペンを握らせ、書類に彼女の名前を記した。
あたたかな手の感触が… あのときの記憶に重なる。

マンウォル「…。」

何でもないように名前を書き終えると、チャンソンはペンを胸ポケットにしまった。「会いたい人を探してやって、あの世へ送ります」

チャンソン「ともかく僕の初めてのお客様なんですから、しっかり送り出してあげたいんです」

マンウォルはようやくアイマスクを外し、恨めしそうに彼を見つめた。

 

チャンソン「金を巻き上げようなんて考えないでくださいよ!お金持ちじゃないですから」
マンウォル「お金にもならないこと、何でやるのよ。あんた、霊に利用されてるのよ。やれやれ、弱っちいもんだから、いいカモにされちゃって」
チャンソン「そうですね。気丈に耐え凌げばここに来ることもなかったのに。あなたに気に入られるほど軟弱な人間で、実に遺憾です」
マンウォル「皮肉?」
チャンソン「巡り合わせの話ですよ」
マンウォル「あんたの運命を狂わせて引っ張り込んだこと、私は別に遺憾でもないわ」
チャンソン「あなたのやったことでしょうか」
マンウォル「?」
チャンソン「自分の運命を狂わせるのは自分だって言うでしょう。あなたが引っ張り込んだんじゃなくて、僕が気になる方へ引き寄せられたのかもしれません」

そう話しながらグラスに水を注ぎ、マンウォルに差し出す。「どうぞ」

 

チャンソン「酒を飲んだら、同じだけ水を飲まないと胸やけしますよ」

マンウォルは憮然とした表情のまま、素直にグラスを受け取った。

チャンソン「帰りにパンを買ってきます。有名なパン屋だそうですから。あぁ、あなたの好きなキム・ジュニョンも常連だそうです」

※キム・ジュニョン=序盤で訪れたマンドゥ屋や小豆粥屋で、ポスターが貼ってあった有名人。大食い番組の人気者で、一口で食べきる『一口ゲーム』が流行しているらしい。

チャンソン「一口ゲームをやるといい」
マンウォル「何よ、妙に優しいのね。不安になるでしょ」
チャンソン「あなたの面倒をみようと思って。水をあげて、パンもあげて。枯れ上がった枝に芽が出たんだから、花だって咲くかもしれませんよ」

マンウォルが慌ててグラスを置く。「やめてよ」

マンウォル「水をやればグングン芽の出る新芽じゃないわ!」
チャンソン「…。」
マンウォル「私は千年以上も枯れ上がっていた老木よ」
チャンソン「芽が出たじゃないですか。水をやった甲斐はあったみたいです」
マンウォル「こそばゆいこと言わないで!」
チャンソン「僕が気に障るんですね」
マンウォル「!」
チャンソン「なんともないって言っておきながら、そうでもないみたいだなっ」

#こういうところ!過去に出てくるチョンミョンに似ていますね♥

部屋を出て行ったチャンソンを、マンウォルはムキになって追いかけた。「ちょっと!」

マンウォル「やめなさい。もうここに来ないで」
チャンソン「なぜです?僕はやることがあるんですが」
マンウォル「来なくてもいいってば!」
チャンソン「?」
マンウォル「解放してあげる」
チャンソン「もう行くあてもないんです。あなたのせいでホテルを辞めて、評判ガタ落ちなんですから。戻れませんよ。それに、ここは僕以外に来る人もいないでしょ?」
マンウォル「あんた3番目だったのよ!1位や2位、もっと優秀なヤツはたくさんいるわ」
チャンソン「あぁ、あいつら。頑固でキツすぎて使えませんよ。僕みたいに適度に霊のカモになってやれるほうが、怨念も晴れるってもんです」
マンウォル「(唖然)」
チャンソン「ここじゃ僕が0位なんです」
マンウォル「ク・チャンソン、本当に気に入らないわ」
チャンソン「気に障らなくて気に入った、気に触るから気に入らない。後者のほうがいいですね」

チャンソンは余裕たっぷりで笑みを見せる。「では、お客様と一緒に出掛けてきます」
廊下を去っていくチャンソンを、マンウォルはもはや睨みつけることしか出来なかった。

マンウォル「やたらと私を刺激するわね。ちょっと芽が出たからって、私を甘くみるんじゃないわよ」

+-+-+-+

ここで一旦区切ります。
完全にマンウォルを言い負かすチャンソンが痛快で、とても楽しいです。

以前の回では訳しませんでしたが、チャンソンが初めてデル・ルナに来た時、ノ支配人が彼を見て「社長を全く恐れていない」と目を細めたのが思い出されます。
ストレートなのは彼の性格ゆえですが、マンウォルにズバズバ切り込み、容赦なくその武装を剥いでいく彼は、本当に来るべくして来た人なんじゃないでしょうか^^

 - ホテルデルーナ 〜月明かりの恋人〜

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