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師任堂(サイムダン)、色の日記3話あらすじ&日本語訳~前編

   

イ・ヨンエ、ソン・スンホン主演SBSドラマ『師任堂(サイムダン)、色の日記』3話をセリフの訳を交えながらご紹介します。

3話冒頭に流れる”これまでのあらすじ”を、こちらでもあわせてご紹介しますね。

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~これまでのあらすじ~

韓国美術史専攻の非常勤講師、ソ・ジユンは指導教授であるミン・ジョンハクが信じている安堅の『金剛山図』の論文を任され、夢に見ていた教授任用へ一歩近づいた。

しかし、夫ミンソクの会社にトラブルが起き、ミンソクは行方をくらます。

ジユンは『金剛山図』偽作スキャンダルに巻き込まれ、危機に瀕する。
イタリアの学会に出席することになったジユンは、ミン教授の蛮行によりホテルを追い出される。

大学の講壇からも追われたジユンは、ボローニャで偶然手に入れた古書サイムダンの日記から、金剛山図の手がかりを発見し、解読し始めた。
古書の中には若き日のサイムダンとイ・ギョムの生き生きとした愛の話がつまっていた。

交通事故で気を失ったジユンは、夢を通して見た場面がサイムダンの日記そのままであったことに気づき、驚く。

一方、成人したサイムダンとイ・ギョムは20年ぶりに北坪村へ戻ってくる。

~~~~過去編~~~~

サイムダンはキョムと手を取り合い、山を登ってきた。
開けた場所へやってくると、眼下に広がる美しい眺めに、二人は感嘆の声を上げる。

サイムダン「いつも見ている山でも、毎回新しく感じます。気分によって、気候によって…」

サイムダンは隣のキョムを見上げた。「誰と一緒に来るかによって」
キョムは黙ってニッコリと微笑む。

サイムダン「ましてや、絹のように美しく、宝石みたいに綺麗だと噂の名所ならどうかしら。いっそのこと私、風だったら良かったのに」
キョム「風?」
サイムダン「どこへだって絶景を見に行けるではありませんか。北へ南へ、東へ西へ、どこへでも」
キョム「サイムダン… 君は僕の元をいつ去ってもいいというのか?」
サイムダン「え?何ですか、その変な理屈」
キョム「風とは!私は何と危険な女性と出会ったことか」
サイムダン「宜城君…」

※宜城君=キョムのことです。

「これでは駄目だ」キョムはいきなりサイムダンの両手を取った。「行こう!」

サイムダン「え?」
キョム「私と婚礼を挙げ、共に行こう」
サイムダン「!」
キョム「いや、他の誰とも行ってはいけない。ただ一人… 私だけだぞ」

キョムのまっすぐな言葉に、サイムダンは嬉しそうに彼を見上げた。

キョム「雪に覆われた雪嶽山を描き、南道では満開の椿を描き、御踏山のふもとに降り注ぐ星を描き… そうやって生きていこう。二人で」

サイムダンは何も言わず、下を向く。

キョム「なぜ何も言わぬのだ?」
サイムダン「金剛山… 金剛山だけは絶対に行きます」
キョム「…。」
サイムダン「死ぬまでに必ずや毘盧峰へ登って、あの風景をこの目におさめたいのです」
キョム「金剛山くらいで死ぬまで待つことはない。よし!そこから行こう!そのついでに関東八景まで全てまわるのだ」

「約束ですよ」顔を輝かせるサイムダンに、キョムが強く頷いた。「あぁ」

キョム「約束する。金剛山、必ずや一緒に行こう」

キョムは興奮した様子で金剛山の方向を指差す。「待っていろよ、金剛山!」

~~~~現代編~~~~

「ここに出て来るイ・ギョムって…ひょっとして、(母犬画の?)あのイ・ギョム?!」古書を読み進めたサンヒョンが、驚きの声を上げた。

ジユン「イ・ギョムとシン・サイムダン、二人の生没時期はほぼ重なっているわ。可能性は十分ある」
サンヒョン「つまり、この二人は互いに恋い慕う初恋だ… そういうことですか?」
ジユン「…。」
サンヒョン「4、500年は経ってる古書のようだけど」

気がはやり、ジユンは次の1枚をめくる。「次のページも読んでみて」

サンヒョン「(古書を読み)殿下に求婚状を頼んで断られた宜城君は、結局自ら求婚状を書き、父を訪ねて来た」

~~~~過去編~~~~

キョムが持参した求婚状を手に、サイムダンの父ミョンファは困惑した表情を浮かべた。

ミョンファ「本人が求婚状を持参するとは」
キョム「ご存知のとおり私には求婚状を描いてくれる父も祖父もおりません。そこで殿下(王)にお願いしたのですが、一国の主が些細な求婚状など書かぬと、お聞き入れになりませんでした。やむを得ず私が自ら書くことになったのです」
サイムダンの両親「…。」
キョム「まだ許婚してくださったわけではありませんが…」

そういって、キョムは持参した包みを差し出した。「殿下に賜った貴重な蜜柑をお持ちしました」

キョム「気持ちだとお思いになり、お納めくださいませ」

父ミョンファが妻をチラリと見る。

サイムダン母イ氏「最も大切なのは人の心ではあるものの、縁談には手続きと順序があるのです。帰ってお待ちいただけば、返事をいたします」
キョム「では、私は家に戻り、返事をお待ちします」

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「何て?」屋敷から出て来たキョムに、サイムダンは待ちきれずに訪ねた。
思わず顔を曇らせたものの、サイムダンに心配をさせぬよう、キョムはいつものように笑ってみせる。「待っているようにとおっしゃったよ」
彼が手を握ると、サイムダンはビクリとその手を引っ込める。

サイムダン「早くお帰りください」
キョム「なぜ?」
サイムダン「求婚状が来て驚かれたはずです。こういうときこそ小さな行いにも気をつけないと」
キョム「(頷き)わかった」

キョムは後ろ髪を引かれるように、彼女に背を向けた。

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川辺で洗濯をしていたソクスンは、橋の上を両班の一行が騒がしく通り過ぎるのを見かけた。
従者が乱暴に人々を退ける。
押しのけられてその場に倒れた賤民に、さっと駆け寄ったのはキョムだ。「大丈夫ですか?」

「何と不届きな人たちだ」親子を助け起こし、キョムは遠ざかる両班一行を睨む。
キョムが賤民の腕を優しく支え、一緒に橋を渡るのを、ソクスンはじっと目で追った。

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長い行列が草原を進んでいた。
「余を締めつける家臣たちから逃れ、キョムに会いにいくのがこれほど嬉しいとは」行列から分かれ、従者と二人だけで軽快に馬を走らせるのは、時の王だ。

王「北坪村と言ったな」
従者「はい」
王「駕籠は?」
従者「尚膳(※王の身の回りの世話をする内侍府の最高位)が取り計らっているでしょう」
王「ギョムのやつ、どんな娘に惚れたのか、早く行ってみよう」

王… 李氏朝鮮の第11代国王、中宗である。

#チャングムの王様ですね!マシックナ~♪

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江陵 鳥竹軒

中宗と従者の馬が、ある屋敷の前で止まった。

従者「ここです」
中宗「ふむ。聞くところによると、金剛山を観光する詩人や書画家は、みなここに立ち寄るそうだが。早く要請しなさい。通りすがりの旅人が一晩泊まりたいとな」

「出て参れ」従者が門に向かって声を上げた。

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中へ入ると、中宗は中門の向こうに見える人影に首を傾げる。「間違いなくどこかで見た顔だが…」

一人静かに庭を眺めていたのは、サイムダンの父親、シン・ミョンファだった。

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屋敷には他にも何人か客人の姿があった。
何気なく奥へ進んだ中宗は、別棟の小さな庭に可憐な娘を見かける。

絵を描いている娘の前には、たいそう立派な絵が掲げられていた。
あれは…?

中宗「あれは余が与えた絵ではないか。安堅の金剛山図だ」
従者「そのようです」
中宗「あのような貴重な絵を…」

中宗は不思議そうに娘を見て、ふふっと笑った。「キョムのやつ、愛に目がくらんで、みな横流しにしているようだぞ」

金剛山図を熱心に模写していたサイムダンは、ぷっと顔をしかめたかと思うと、描いていた絵を畳んだ。

中宗「よく描けているのにどうされたのです?」
サイムダン「…どちらさまですか?」
中宗「あぁ、このお宅にお世話になっている客だが。(サイムダンの絵を指差し)これはもしかして金剛山図ではないかね?」
サイムダン「そうですが…」
中宗「たいそう人並み外れた模写の腕前だが、なぜ描くなり伏せてしまったのです?」
サイムダン「見たこともない金剛山をただ真似て描いた絵です」

中宗は楽しそうに従者と顔を見合わせる。

サイムダン「私の描いた絵には魂がありません。偽物なのです。同じ木の葉でも春の薄緑、夏の濃緑、秋の紅葉、みな違います。日差しによって、風によって一刻一刻違った色を含むのです。みなこの目で見て、私だけの感性で描き上げたいのです」
中宗「それは困ったな。女の身では金剛山へ登ることはできぬ」
サイムダン「なぜ女人には、してはならないことがこれほど多いのですか」

中宗はサイムダンの隣に腰を下ろす。「国の定め事なのだから仕方ない」

サイムダン「…。」
中宗「それほど不満なら、王に上疏してみればどうかね?」
サイムダン「できるものなら百回はしています!」
中宗「…。」
サイムダン「なぜ女人は上疏さえできないのですか」

「ははは」中宗は声を上げて笑った。「絵の腕前だけでなく、ずばぬけて口も立つ」
中宗の言葉に、サイムダンもようやく微笑んだ。

中宗「いつの日かそなたの望みが叶うよう願おう」

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中宗が庭を後にすると、垣根の向こうから覗き見ていた青年が、中宗に話しかけた。「何を言ってたんです?」

青年「望みがどうとか言ってたけど」

はははと笑って濁し、中宗は青年の前を通り過ぎた。

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中宗は庭の縁台で食事を待ちながら従者と談笑していた。

中宗「キョムは変わったやつだから、どんな伴侶に出会うのかたいそう気になっていたが、ぴたりと合う相手を見つけたものだ。絵画や音楽にも精通しているなら尚更ではないか」
従者「運命の伴侶に出会ったようです」
中宗「そなたもそう思うか!」
従者「はい」

中宗が高らかに笑い声を上げたところへ、下女が食事を運んでくる。

下女「足りないものがございましたらお申し付けくださいませ」
中宗「ありがたい」

そのとき、後ろの客人が下女を呼んだ。
昼間、サイムダンを覗き見ていた青年、イ・ウォンスだ。「私の膳にナムルがないが」

下女「…。」
中宗「あちらにナムルがないと言っているではないか?」
下女「…はい。(そばにいた娘?に)ナムルをもう一皿出しなさい」

下がろうとした下女をウォンスが呼び止める。「お嬢様は近頃も熱心に絵をお描きですか?」
「お構いなく」冷ややかに言い放ち、その場を後にした。

中宗「(従者に)なぜあんな様子なのだ?」
従者「ひと月をとうに過ぎても、ぐずぐずしている書生だそうです。山に入り科挙の準備に精進すると出立したものの、すっかり居座っているようで」
中宗「(食事をしながら)ははは、この美味さなら致し方あるまい」
従者「サイムダン嬢の美貌に惚れたせいでもあるようです」

「?」中宗は後ろの若者を振り返り、愉しげに笑い声を上げた。「キョムのやつ、競争相手ができたな!」

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気持ちのいい月夜だ。

中宗はキョムを伴い、川のほとりへやって来た。

キョム「殿下、私に会いたくていらしたのではないですよね?」
中宗「(笑う)静養に出掛けたついでに立ち寄ったのだ。来てはまずかったか?」
キョム「いいえ」
中宗「婚礼の準備は順調なのか?」
キョム「はい」

ニッコリと微笑むキョムを、中宗は覗き込んだ。「ところで…」

中宗「あの娘を恋い慕っている者が、そなたの他にまだいるようだが?」
キョム「えぇ?!」
中宗「今まで知らなかったのか?」
キョム「…。」

中宗は用意していた小さな包みを差し出した。「これで点数を稼ぎなさい」

キョム「…。」
中宗「龍媒墨だ」
キョム「!」
中宗「聞くにその娘は詩と絵に目が利くそうだな。(龍媒墨を指し)役に立ちそうではないか?」

嬉しそうなキョムを見て、中宗は満足げに笑う。「キョム…」

中宗「所帯を持ったら、漢陽で暮らすのだぞ。よいな?」
キョム「?」
中宗「私には腹を割って話せる友がおらぬ、ははは」

「それはそうと」中宗は扇子と手でトンと打つ。

中宗「そなたの義父となる人も立派なお人柄のようだ。旅の詩人や書画家に寝床を差し出しているのだから。名前は何と?」
キョム「シン・ミョンファとおっしゃいます」
中宗「(頷き)シン・ミョンファ…」

「シン・ミョンファと…?」中宗がハッと表情を変えた。

~~~~~~

1519年のことだ。チョ・ガンジョを中心とする士林派が密かに集まっていた。

男「殿下はなぜこんな仕打ちを!」

※クーデターで中宗を王座につけた勲旧派がそれまで実権を握っていましたが、中心人物パク・ウォンリョンの死をきっかけに、中宗は士林派のチョ・ガンジョを要職につけました。彼らは人材登用制度など急進的に改革を進めようとしましたが、勢力拡大を恐れた勲旧派の上疏により1519年粛清されました。

男「我々が改革に踏み切ったのは、貢献大臣たちの権力を奪い、殿下が民のための政治を行えるようにするためではありませんか!なぜ追いやられるのですか!」

彼らの中に、サイムダンの父、シン・ミョンファの姿もあった。

男「やはり殿下は御心をお決めになったようです。じき我々士林に血の嵐が吹きますぞ!このままじっとしてはおられません。何か対策を!」

そのとき、ドンと卓を叩いたのはシン・ミョンファだ。

ミョンファ「お言葉が過ぎますぞ。犯上でも仕出かそうというのですか!」

※犯上=臣下が王に対して、してはならない行いを起こすこと

男「犯上ですと?今、我々士林の命運は一刻を争う状況なのです。何か対策をしようと言っているのではありませんか」

「…。」ミョンファはさらに厳しい表情で立ち上がった。「このような論議にこれ以上加わることはできぬ」
部屋を出るミョンファに、数人の仲間が続いた。

ミョンファたちが外へ出て来たところを、中宗は従者と共に見かけたのだ。

~~~~~~

部屋へ戻り、中宗は当時のことを静かに思い返していた。

中宗「チョ・ガンジョと新進官僚たちが凄まじい剣幕で反逆を謀っている場だった。そのような雰囲気の中でも揺らぐことなく余を庇護したのだ。国の根幹が揺らいではならぬと」
従者「…。」
中宗「ああいった男をそばに置ければ、どんなに良かったろう」
従者「…。」
中宗「そうだな…。せっかく来たのだから詩でも一首授けよう。生真面目な田舎学者は塵のように小さな真心にも感涙するもの。宥めて余の味方にしておくのだ」

「筆と墨を用意しなさい」中宗は従者に告げた。

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夜明けとともに空が白く色づきはじめていた。
「旦那様」詩を詠唱していたミョンファの元に、下女がやってくる。

下女「昨夜お泊りになった御方がお礼に差し上げるようにと置いて行かれました」

そう言って彼女が差し出したのは、一通の書状だ。
一旦受け取って、ミョンファは詠唱に戻る。

下女「(娘に)はぁ、いる間はまぁまぁだったけど、発つ時はやけに紙の無駄遣いをするもんだから。高麗紙は貴重なのに」
娘「誰のこと?毎晩ご飯を食い潰してたあの人、出て行ったんですか?!」
下女「違うわよ。昨日お泊りになった品のいい方々」
娘「はぁ、一体あの人、いつ出ていくのよ!」
下女「全くだよ…」

「?」二人の話に、ミョンファがふと顔を上げた。
上品な客人が詩を残していったと…?
ミョンファは気になって受け取った詩を広げてみる。「ふむ」

哀此下民喪天彝
己卯逐客心斷絶

ミョンファの顔色が変わった。「己卯逐客…!」

國無人莫我知兮
予濁壹鬱其誰語

最後に記してあった詠み人の名に、ミョンファは震えた。「!!!」

李懌(イ・ヨク)…まさに王の名前ではないか。

『哀れな我が民よ 天の道理まで全て失ってしまうとは
己卯年に追われた者たちに 我が心は切ないばかりだ
国に人はおらず 誰も我をわかってくれぬゆえ
我一人 沈鬱な心を誰に話せばよいのだろう』

ミョンファ「殿下!!!」

「殿下!!!」ミョンファは無我夢中で駆け出した。

+-+-+-+

発ったばかりの中宗は、後ろから追いかけてくるミョンファの声に気づき、敢えて馬を走らせた。
「殿下!!!」どこまでも全力で走ってくるミョンファの様子に、中宗はようやく馬を止める。

「殿下!聖恩の慶びにございます!」道の向こう側で、ミョンファが大きくひれ伏した。

ミョンファ「海のように広いその御心に気づきもせず…!」

「聖恩の慶びにございます!殿下!」ミョンファは叫び声を上げ、何度もその場にひれ伏した。

中宗「(従者に)あの夜、席を立った面々は何人だ?」
従者「シン・ミョンファの他に3人いました」

中宗は少し考えを巡らせる。「彼らのところに立ち寄って行こう。せっかく詩を作ったのだから」

+-+-+-+

サイムダンは彫刻刀を握り、熱心に彫り物をしていた。
力の加減がうまく行かず、勢い余った彫刻刀の刃先は指をかすめ、血が滲み出す。

サイムダン「!」

彼女は彫刻刀の刃先をじっと見つめた。

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父の部屋を覗くと、父は詩文を広げ、模筆に熱中していた。「?」
「哀此下民喪天彝 己卯逐客…」娘の声に気づき、ミョンファは慌てて詩文を隠す。

ミョンファ「いつからいたのだ?」
サイムダン「誰の詩ですか?」
ミョンファ「何でもない」
サイムダン「己卯逐客というと… 己卯年に」
ミョンファ「!」
サイムダン「…没落した良民たちのことですか?」

「はは」ミョンファはニッコリ笑顔を作り、娘を振り返る。「何か用かね?」

ミョンファ「彫刻刀を貸してください。私のは刃が鈍くて曲線が上手く彫れないんです」

「よろしい」ミョンファが立ち上がると、サイムダンは父が隠した詩文をじっと見つめた。

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キョムの手を開き、サイムダンは自ら彫った印をその手に握らせた。
「もう目を開けていいかい?」「はい」手を開けると、キョムはパッと笑みを浮かべた。

と、彼の視線は、すぐさま彼女の指に移る。「怪我したのか?」

キョム「どうして怪我をしたのだ?」
サイムダン「ちょっと掠めただけです。贈り物はお気に召しましたか?」

「気に入らぬ」キョムがぽいとそっぽをむく。

サイムダン「… お気に召しませんでしたか?」
キョム「恋人が手を怪我したのに嬉しいものか」

サイムダンが嬉しそうに小さな笑みを浮かべる。

キョム「(印の模様を見つめ)それに、なぜ羽根が1枚しかない鳥なのだ?」
サイムダン「比翼鳥、目と翼を一つずつ持って生まれる伝説の鳥です。若様の”キョム”という字は山を意味するけれど、比翼鳥の”キョム”と音が同じではありませんか」

キョムは納得したように印を見つめた。

サイムダン「もう片方の比翼鳥は、若様が自ら彫ってください。婚礼の日に」
キョム「…。」
サイムダン「二人がひとつになり、ひらひら飛んでいけるように」
キョム「(頷き)わかった。かならずや彫ろう」

キョムもまた、用意していた包みを差し出す。

サイムダン「何ですか?」
キョム「殿下から賜った貴重な墨だ。君にあげたくてどんなにやきもきしたか」

箱を開いた途端、サイムダンの目がらんらんと輝いた。「噂でしか聞けなかった龍媒墨ですか?!」

キョム「そうとも。朝鮮では欲しくても手に入らない」

「それから」キョムはもう一つ、鮮やかな花が描かれた髪飾り(テンギ)を差し出した。「”画竜点睛”だ。これを見ればきっと…」

※画竜点睛=事を完成するために最後に加える大切な仕上げ。

と、墨に夢中のサイムダンは、キョムが髪飾りを出したことにさえ気づかないではないか。

サイムダン「見てください!なんて奥深い艶なのかしら!」
キョム「(ガクッ)」
サイムダン「美しい黒でありながら、青く光を放つなんて!これで線を引いたら、一体どんな色が出るのかしら」
キョム「…いや、今大事なのはそんなことじゃなくて」
サイムダン「想像しただけでも胸が震えます!明日すぐに、ううん、今すぐ描いてみたいわ」

「画材を持ってきましょうか」立ち上がったサイムダンを、キョムは慌てて引き止めた。「いやいや」
用意したテンギにもう一度目をやって、深い溜め息をつく。「これを見てごらん」

キョム「この芍薬の花はただの芍薬じゃない。夜通し君を思いながら一筆一筆、自ら描いたテンギなのだ。この世にたった一つしかないんだから!」

「…。」チラリとテンギを見たかと思えば、サイムダンは再び墨を握りしめた両手に力を込める。「こんな墨、生まれて初めて見ました!」

キョム「!」
サイムダン「ぜひ一度使ってみたかったんです!」
キョム「(脱力)」
サイムダン「こんな貴重な物を私に…」

と、サイムダンは突然キョムの首に両手を回し、思い切り口づけた。

#ええ~~~

+-+-+-+

キョム(声)「私たちを巡り合わせてくれた安堅の金剛山図に、私たちの思いを込めた詩を残したらどうだろう」

借問江潮興海水
何似若情興妾心

河の水 海の水に尋ねよう
なにゆえ君と私の心はこれほど同じなのか

サイムダン(声)「比翼鳥の印を、私たちの思いの証とします」

+-+-+-+

ここで区切ります~^^

 - サイムダン(師任堂)色の日記

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