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マンホール-不思議の国のピル8話あらすじ&日本語訳vol.1

   

ジェジュン(JYJ)、ユイ、チョン・ヘソン、バロ(B1A4)出演のKBSドラマ『マンホール 不思議の国のピル』8話のあらすじを、細かいセリフの翻訳を混じえて紹介します。

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若い女性が二人、フレッシュジュースを飲みながらトンネルをくぐってきた。「ここのジュース、ホント美味しいよね」

女性1「でも、ここのバイトの人、イケメンだけどちょっと変じゃなかった?」
女性2「だよね。暑さにやられたのかな。イカれちゃった感じだったわ」

2017年8月31日 昼の12時10分

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「ちょっと!売ってくれないんですか?」ウトウトしていたピルは、誰かに呼ばれてハッと顔を上げた。
ん?彼はキョロキョロと辺りを見回す。「あぁ、ここはチンスクのジューストラックだ」
あれ?エプロンにキャップまで着けているではないか。「何だ?これ」

客「ジュース売ってくれないんですか?売らないなら帰るけど」
ピル「い、いいえ、売りますよ。何を差し上げましょう」
客「苺に恋したバナナジュース3つ」

#両手でガッチリ帽子被るのカッコいいねー♪

ピルは無事客にジュースを手渡した。「俺、今ここでジュース売ってる場合じゃないと思うんだけど」

ピル「あぁ、参ったな。スジンにちゃんと告白できなかった」

彼は”ついさっき”の出来事に思いを馳せた。
なかなか好きだと口に出せないピルをリードするように、スジンは言ったのだ。
「私、あんたのことが好き」と。

ピル「スジンも俺のこと好きだってハッキリ言ってた。今回は状況が変わってるに違いないぞ」

「よし」立ち上がったピルは、次の瞬間トラックの中ですっ転んだ。
片足が錠で繋がれている?「何だこりゃ!」
びくともしない錠を彼は必死で引っ張った。「どうなってんだこれ!」
そこへ戻ってきたのがチンスクだ。「しっかりやってる?」

ピル「おい、ユン・ジンスク!これ何だよ?」
チンスク「何って、バイトがサボって逃げることばかり考えてるから、くくっといたのよ」
ピル「ミザリーかよ!お前、薬飲んで治療うけなきゃならないレベルだぞ」

チンスクは真顔でピルの顔を覗き込む。”それならどうして私を狂わせたの?あんたが私を狂わせたのよ”
「わぁマジかよ…」ピルは恐怖に震えた。

「ねぇ」チンスクは何事もなかったようにバナナの皮を剥き始めた。「正直、私みたいな社長いないわよ」

チンスク「定時ですぐ帰らせてくれる、給料も遅れずキッチリ入金してくれる」

チンスクは手元の包丁をピルに向けた。「給料受け取った分、働きなさいよね」

ピル(心の声)「こいつは何でどんどんキツくなるんだ?はぁ、簡単には抜け出せそうにないな」

「ああ!またシグナルが!」とりあえずお腹をおさえて唸ってみる。「生理現象を解決しなきゃ」
チンスクは乱暴に空のペットボトルを差し出した。「解決しな」

ピル「おい!大きい方だってば」
チンスク「また脱出したくて悪知恵働かせてるんでしょ!」
ピル「!」
チンスク「あ、そうだ。あんたのせいでまた忘れてた。果物取りに行ってこなきゃ。逃げないでしっかり見てなさいよ」

チンスクが出ていくと、彼は途方に暮れた。「参ったな、どうすりゃいいんだ?!」
周囲をよく見てみると、向こうの端にカギがぶら下がっているのが見える。「あれだ」
彼はちょうど前を通りかかった子どもを呼び止めた。「なぁ、そこのイケメン君たち」

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チンスクが車に戻ってくると、ピルの代わりに見知らぬ子どもが二人、ペコリと頭を下げた。「こんにちは」
彼らは外れた錠前を彼女に見せる。「これ…」

チンスク「ポン・ピルのヤツ!!!」

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8話『告白という難しい宿題』

通りを歩きながら、ピルは想像を膨らませていた。「マンホールで帰って来る前、スジンといい雰囲気だったから、きっと上手くいってるよな?」

スジンの家に差し掛かったところで、ちょうど彼女が家を出て来た。「スジン」
ピルに気づいた彼女は、氷のように冷たい目で彼を見る。「…。」
彼はオシャレをしている彼女に顔を輝かせた。「今日マジで綺麗だな!」

ピル「どこか行くのか?」
スジン「何か用?」
ピル「ああ、お前に話があるんだけど、どこかで話せないかな」
スジン「今日は忙しいんだけど。話があるんならここで手短に済ませて」
ピル「… 道端でする話じゃないんだけど」
スジン「…。」

「ところで」ピルは不安にかられ、恐る恐る切り出した。「俺たち、喧嘩したのか?」

スジン「…。」
ピル「この冷え冷えとした空気は気のせいかな」

そこへ車が角を曲がってきた。
「あっ」スジンが小さく声を上げる。

ピル「?」

停まった車から降りてきたのは、ジェヒョンだ。
「ジェヒョンさん」スジンがピルの前を通り過ぎ、ジェヒョンの腕を取った。
「こんにちは」ジェヒョンはピルに気づくと、爽やかに会釈をする。

ピル「…。」
ジェヒョン「(エプロン姿を見て)仕事の途中でいらしたみたいですね」
ピル「(スジンに)おい、お前まだこの人と付き合ってんのか?」

「ジェヒョンさん、行きましょ」スジンが呆れたように促した。

ジェヒョン「あぁ、(ピルに)ではまた」

スジンはさっとジェヒョンの車に乗り込む。
「おいスジン!何でお前この車に乗るんだよ!おい、カン・スジン!」ピルを残し、車は走り去った。

ピル「どうなってんだ?」

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今回はタルスのDVD店は安泰だ。
それでもどこかキュートで甘い雰囲気に変わっている。

テーブルに昼食を広げ、チョンエが一口タルスに差し出した。「あーん」

タルス「自分で食べるから」
チョンエ「チッ。ところでご両親は公務員なんだよね?」
タルス「うん」
チョンエ「家に帰らないで何もおっしゃらないの?」
タルス「長いあいだ帰ってないから、もう俺って息子がいたことも忘れてるかもな」
チョンエ「それでも、私たち結婚するならご挨拶しなきゃいけないと思うんだけど」
タルス「そうだな。俺が結婚ってものをすることになればの話だ」
チョンエ「…。」
タルス「来世じゃ出来るかな」

そこへクギルが入ってきた。「煎りゴマの匂いがするからどこかと思ったら、ここか」
クギルの目に入ったのは、ピンクのクッションにピンクのぬいぐるみ。「新婚か?」

タルス「勘違いするな。チョンエが行くところがないっていうから、一時的に受け入れたんだ」
チョンエ「タルスさん?」
タルス「あ、そうじゃなくて…」
クギル「何言ってんだよ?チョンエが行くところがないわけないだろ。両親も兄弟もみんないるのに。チョンエ、お前がここにいるってお母さんはご存知なのか?」
チョンエ「関係ないでしょ。お母さんに言ったら許さないから!」

「ご飯食べましょ」チョンエはタルスを座らせ、また一口差し出した。「あーん」

クギル「変なもの見たら腹が減った。タルス、俺にも飯くれよ」
チョンエ「何でクギルさんがここで食べるの?家に帰って食べなよ」
クギル「食い物で人を傷つけるなよな」
タルス「何で来たんだ?腹減ったのか?」

「そうさ!」クギルはタルスの椀と箸をひったくった。
そこへ入ってきたのがピルだ。「何だこの雰囲気は?」

チョンエ「こんな時間に何?仕事は?」
タルス「また脱走したんだな。プリズン・ブレイクよりピルがチンスクから脱走する話の方が面白い」
ピル「ひょっとして、スジンとあの薬剤師はもうすぐ結婚するのか?あと何日だ?1ヶ月?1週間?」
クギル「何でスジンが結婚?この頃オープン準備のために超忙しいんだぞ」
ピル「オープン?」
タルス「おい、別世界にでも行ってきたのか?今日はスジンのスタジオオープン式だろ。お前も行かないと」

「あぁ!」ピルは声を上げた。「そうだな。そうだった」

皆「???」

「みんな美味しく食べな」ピルは急いで店を出た。
そうか!それでスジンはあんなにオシャレしてたのか!
まだ薬剤師と結婚の話はないってことだな。

「よし」ピルは駆け出した。

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スジンが車から降りてきたのは、チンスクのジューストラックの前だ。「おーい、ユン社長!」

チンスク「スタジオオープン式の準備で忙しいんだから、来ることないのに」
スジン「頼んでおいたドリンクのケータリングが準備できてるか気になるし。あんたの顔を見ようかなって」
チンスク「スタジオで会えるのに。ケータリングのことは心配しないで。あんたのために最上級のフルーツ用意したから」

「ありがとう」二人はパチンと手のひらを合わせた。

スジン「ねぇ、ピルは最近ちゃんとやってるの?」
チンスク「(溜息)知らないわ。あいつまた逃げたから、私一人で大変よ」
スジン「…。」
チンスク「ピルに会わなかった?」
スジン「え?会わなかった…けど」

#自分からピルの話題を振っておいて、会わなかったかとチンスクに訊かれたら嘘を答えたこの短い流れで、スジンの複雑な心中はかなりわかりますね^^

チンスク「はぁ、あいつどこ行ったんだか。捕まえたら今度は首を繋いでやるんだから!」
スジン「最近ピルとはどうなの?」
チンスク「どうもこうもないわ。息子一人育ててる気分よ。毎日やらかしてばかり。まともな人間にするにはまだまだね」

向こうに停まっている車から、ジェヒョンが降りてくるのが見えた。

チンスク「こんにちは。(スジンに)ジェヒョンさんと一緒だったのね」
スジン「うん、一緒にスタジオに行こうって」
チンスク「マメね~。どこかにジェヒョンさんみたいな人、いないかしら。ねぇ、しっかりやんなさいよ」
スジン「うん、じゃあ後でね」

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ピルの自宅に大きな荷物が届いていた。
配達員が箱から商品を出し、セッティングするのを、両親がワクワクして見守る。

ピル母「うちにマッサージチェアが来るなんて!前からすごく欲しかったのよ」
ピル父「いい息子を産んでくれたおかげで、僕まで贅沢できるとはね」
母「私一人じゃ息子は出来ないわよ。頑張ったのはあなたの方よ」

「設置できました。もうお使いになれますよ」配達員が説明書を差し出した。

母「あなたが座ってみて」
父「いや、君が先に」

母が大喜びでマッサージチェアに身を沈める。
一瞬背後に気配を感じで、父は振り返った。「今、何か通り過ぎて行ったような?」

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自室へ上がったピルは、クローゼットの服を全部引っ張り出した。「まともなスーツの一つもないのか」

ピル「スジンのスタジオオープン式に、だらしない格好じゃ行けないのに」

スッキリとスーツを着こなしたジェヒョンの姿が頭に浮かぶ。「あいつ、無駄に背が高くて着映えがいいんだよな。あいつに見劣りするわけにはいかないんだけど」

「あ、そうだ」ピルはハタと思いつき、引き出しを探った。「給料を払ってるってチンスクが言ってたけど。現金だったのかな?通帳かなにかあるはずだけど」
本をめくってみると、そこに通帳が挟まっていた。「よしきた」

中を開いてみると…

毎月30日にきちんとチンスクから150万ウォンずつ入金されている。

ピル「あぁポン・ピル!お前、今回は人生無駄に生きてなかったんだな。パワフルに生きてるじゃないか!頑張ってるぞ」

通帳の欄を下へ見ていくと… 「!!!」
最後に残高が急にゼロになっているではないか。「何だ?この残高?こんな大金が一気にどこ行っちまったんだ?」

「あはん♪」階下でマッサージ機に悶える母の声が聞こえてきた。

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「マッサージ屋さんに来たみたいだわ。日頃のストレスが一気に解消される感じ」喜ぶ妻の顔を、夫が笑顔で眺める。「君が喜んでいると僕も嬉しいよ」

ピル父「出来の悪い夫に出会って、これまで苦労を掛けたね。これからは贅沢をして暮らそう」
ピル母「出来の悪い夫だなんて。あなたみたいな夫ばかりなら、この世の女性はみんな幸せでしょうに。あなたに出会ったのは、一世一代の幸運だわ」
父「君♪」
母「うふふ♪」

そこへピルが階段を下りてきた。

父「さっき通り過ぎていったのはお前だったのか?」
ピル「僕の通帳の残高がゼロだけど、お二人ともこの状況について何かご存知なことは?」
父「最近の親孝行はセルフサービスらしい」
ピル「それどういう意味です?」
父「…。」

ピルがマッサージチェアを見ると、母がパチパチとまばたきをした。

ピル「ひょっとして、僕の金でマッサージチェアを?!」
母「息子を産んだ甲斐があったってものよ。お母さん、すごく気に入ったわ。大事に使うわね」
ピル「そんなのひどいよ!僕の給料なのに、父さん母さんに何の資格が?!」
父「我々はお前を産み、育て、養ってやったんだ。それなのに資格がないって?」

「あぁ」ピルは絶望してその場に座り込んだ。「今日お金がいるのに!」

母「あなたにお金の使いみちなんてないでしょ。お酒に消えるだけよ」
ピル「今日はスジンのオープン式だから、スーツを来ていかなきゃ」
母「(うん)」
ピル「他のみんなはキチッとした身なりで来るのに、僕がこんな格好で行けるわけないでしょ!」
父「そんなことなら最初から言えよ」

「来なさい」父が奥へ手招きをした。

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出してきた三つ揃えのスーツを息子に着せ、両親はご満悦だ。「馬子にも衣装っていうが、見違えたな!」
鏡の中の自分を見つめ、ピルが顔を曇らせる。「…。」

母「ピルが殊更ハンサムに見えるわ」
ピル「…。」
母「ピル、まるであなたに合わせて作ったみたい。(夫に)30年経ったスーツでも、ちっとも古臭くないわね」
父「流行は巡るものだからな。鐘路で一番有名なパルボン洋服店であつらえたんだぞ」

ピルはすっかり沈んだ様子で服を脱ぐ。「自分の服を着て行くよ」

#このブルーっぷりが可愛い♪

母「どうして?よく似合ってるのに着ていきなさいよ。パッと注目浴びるわよ」
ピル「それがイヤなんだ」
母「(溜息)確かにね。スジンの隣には端正なボーイフレンドがいるのに、あなたがスーツまで揃える必要なんてないわ」
ピル「…。」
母「ピル、相手のいるスジンのことはもう諦めて、チンスクによくしてやりなさいよ。しっかりして愛想もいい、最近チンスクみたいな子はいないわよ」
父「チンスクがピルに金を稼がせ、まともな人間にしてくれたんだ」
母「しかもピルにどれだけ親切にしてくれるか。ピル、結婚はそういう子としなきゃ」
ピル「隅から隅まで知ってるヤツと何で結婚なんか!」

「行ってきます」ピルは意気消沈して部屋を出た。

母「(夫に)あの子、どうしてあんなに女を見る目がないのかしら」
父「女を見る目は遺伝しないのか。僕に似ていれば見る目があるはずだが」
母「まぁ♪」

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「うわっ!」ピッカピカのスタジオに入ってきたクギルが歓声を上げると、奥で準備をしていたスジンとジェヒョンが振り返った。

クギル「最新式だな!うちのビリヤード場とは違う」
チョンエ「スジン、代表就任ホントにおめでとう!」
スジン「ありがとう!」
ソクテ「おめでとう。ついこの間アシスタントになるって言ってたのに、もう代表だなんてさ」
スジン「私も夢みたい。人生こんな日が来るなんて」
チョンエ「やっぱり人は地道に頑張らなきゃね。あんたが写真やるって言ったとき、ここまで上手くいくとは思わなかったわ」
スジン「私も自分のスタジオを持てるとは思わなかったわ」

そこへ、結局普段着に着替えたピルが花を抱えて入ってきた。「…。」

チョンエ「運が良かったのかな。いい彼氏に出会うのも運よね。ジェヒョンさんのお陰だわ」

ピルの視線の先に、しっかり繋がれたスジンとジェヒョンの手が見える。「!」

タルス「ジェヒョンさんの先輩がもともとこのスタジオのオーナーなんですよね?」
ジェヒョン「えぇ。先輩が移民してスタジオが空いたのを、スジンに使わせてやるよう頼んだんです」
タルス「いやぁ、スジンは自分のスタジオを持ちたいってあれだけ言ってたけど、ついにボーイフレンドのお陰で夢を叶えたな。やっぱり運命ってのはあるみたいだ」

「…。」ピルは黙って手に抱えた鉢を見つめた。

チョンエ「ジェヒョンはスジンのどこが気に入ったんですか?」
スジン「ちょっと!」

「綺麗じゃないですか」ジェヒョンが即座に答える。

チョンエ「わっ!キュンとしちゃう」

「おい」ようやくピルが声を発した。「お前ら何してんだ?」

ソクテ「あ、ピル。お前、一人で来たのか?チンスクは?」
ピル「あぁ、そのうち来るだろ」
ソクテ「ドリンクのケータリング頼んでるんだろ?チンスク一人であんな重たいもの、どうやって持ってくるんだよ?」
ピル「…。」
ソクテ「ひどいな、全く!」

「ソクテ、私が行くわ」ピルを責めるソクテを止め、スジンがスタジオを出て行った。

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外へ出たスジンを、ピルが追いかけた。「なぁ、カン・スジン!」

ピル「お前、ホントに残酷だな。俺の目の前であいつとイチャつく必要があるのか?」
スジン「私がジェヒョンさんとどうしようと、あんたに関係ないでしょ。何であんたの機嫌を伺わなきゃいけないの?」
ピル「お前、俺のこと好きだって言ったよな。そのくせに何であいつと付き合えるんだ?」
スジン「ちょっと、それいつの話よ?呆れるわ」
ピル「俺たちあのとき、お互いに気持ちを確かめたんじゃなかったのか?お前だって俺の気持ちがわかったはずだ」
スジン「あんたの気持ちなんかわかるわけないわ。あんたの告白、一度だってまともに聞いたことないのに。今さらだけど、決定的な瞬間で逃げ出したのはいつもあんたよ」
ピル「いや、あの時は…」
スジン「やめよう、ピル」
ピル「!」
スジン「チンスクが来たら、ドリンクを持って一緒に上がってきて。あんたの仕事はそれでしょ」

スタジオへ戻ろうとしたスジンの腕を、ピルは咄嗟に掴んだ。「スジン」
彼女のキツイ態度に、ピルは遣る瀬ないため息をつく。「どうしてそんなに冷たいんだ?」

スジン「どこが?」
ピル「今の俺への振る舞い、言いぐさ、何もかも初めてだし変だ。俺、お前に何か悪いことしたか?」

スジンは困ったように視線を逸し、溜息をついた。
「ううん、あんたは何も悪くない」そう言ってスジンはクルリと背を向ける。

ピル「スジン!」

ちょうどそこへ角を曲がってきたチンスクは、二人を見て立ち止まった。「!」

#重たいケータリングって言ってたけど、両手にぶら下げてる小さいのがそれ?

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スジンが疲れた様子でスタジオに戻ってきた。
その途端…
パチッ
スタジオの電気が消え、真っ暗になると同時に、壁に映像が映し出される。「?」
映像の中でこちらを向いているのは、ジェヒョンだ。

ジェヒョン(映像)「スジン、驚いたろ」

「プロポーズよ!」チョンエが周囲に囁く。

ジェヒョン(映像)「今日新しくスタートを切る君の隣にいられて、本当に感謝してるよ」

追いかけて戻ってきたピルもまた、入り口で足を止める。「!」

ジェヒョン(動画)「今になって昔のことが思い浮かぶよ。君に一目惚れして追い回してた頃、君が心を開いてくれなくてすごくヤキモキした」

「…。」ピルの視線は、映像のジェヒョンから、それを見つめているスジンの横顔へと向かう。

ジェヒョン(動画)「覚えてるよね。あの時、君はとても辛そうだった。もしあの頃のことを悪いと思ってるなら、挽回するチャンスをあげるよ」

そうして、映像の中のジェヒョンは立ち上がり、フレームから消えた。

スジン「?」

部屋の電気がつき、実物のジェヒョンがスジンの前に現れると、手に抱えた花束を差し出した。
スジンがそれを受け取ると、彼は跪き、胸のポケットから指輪を出す。

スジン「ジェ、ジェヒョンさん…」
ジェヒョン「たくさんの人と付き合ってみたわけじゃないけれど、この人じゃないとダメだって確信を持ったのは君が初めてだ。名品にはなれなくても、真品(本物)の夫になれるよう努力するよ。そういう意味で、この指輪を受け取ってもらえるかな?」

「わぁ」周囲のファミリーたちから溜息が漏れた。

ソクテ「男から見てもカッコイイよ。俺が女だったら100%落ちるね」
チョンエ「何してるの、スジン、早く指輪ゲットしなよ」
クギル「そうだよ、早く」

「僕と結婚してくれ、スジン」ジェヒョンがまっすぐに彼女を見上げる。
「…えぇ」スジンは小さな声でそう答えた。

指輪がスジンの指に嵌まるのを、ピルはどうすることも出来ずに見つめる。「…。」
そこへやってきたチンスクもまた、ピルの背後で立ち止まった。「?!」

+-+-+-+

スジンのスタジオを出て、皆はアイスクリーム屋でお茶を濁していた。
美味しそうにアイスを頬張る皆の中で、ピルは茫然と宙を見つめ、チンスクもその隣で深刻な表情だ。

チョンエ「甘いプロポーズを見た後だからか、余計に甘いわ」
タルス「プロポーズが甘いのはどうしてだと思う?」
ソクテ「何で?」
タルス「甘さで包まないと、苦い人生の墓場に入っていけないからさ」
チョンエ「超哲学的。超カッコイイわ」
クギル「チョンエはタルスが乞食になったってカッコイイっていうぞ」

「ねぇ」チンスクがピルをつつく。「ぼんやりしてないで、あんたも食べなよ」

ピル「俺はいい」
ソクテ「ピルは今アイスなんか喉を通るわけない。放っとけよ」
ピル「あいつ、やり手だな。おとなしそうな顔してスジンを惑わすなんて」
ソクテ「惑わせたんじゃない、感動させたんだ」
タルス「ピル、諦めの早いほうが苦しみも軽い。プロポーズまで受けた人の気持ちを、お前がどうやって振り返らせるんだよ?」
ピル「俺、スジンに何か悪いことしたかな。何で俺にあんなに冷たいんだ?」
クギル「敢えて言うなら、ジェヒョンさんに勝てるところがないってことかな。ウシシ♪」

「俺、冗談で言ってるんじゃないんだ。深刻なんだから」ピルが絞り出すように言う。

タルス「ピルがジェヒョンさんを越えられないのは、ルックスでもスペックでも人柄でもない。運命なんだ」
ピル「どういうことだよ?」
タルス「スジンが失くしたカメラをジェヒョンさんが見つけたらしい。そんなの並の運命じゃないだろ」
ピル「!」
タルス「つまりそのカメラが二人のキューピットだったってことだ」

「!」密かに隣でチンスクが目を丸くしていた。

ピル「待って。カメラ?俺が入隊する前にスジンが失くしたあのカメラか?」
タルス「あぁ、それをジェヒョンさんが見つけたんだ」
ピル&チンスク「…。」
タルス「覆しようのない運命だよ。女はそういう運命的な出会いに弱いからね」

何だよ…
ピルは首を傾げた。
それならカメラに残した映像、スジンは見たはずなのに…

そこへ電話を受けたチョンエが立ち上がる。「タルスさん、行きましょ。常連さんがツケを払いに来てるって」

タルス「運命論の結論を出してからだ」
チョンエ「早く」

チンスクも硬い表情のまま立ち上がった。「私は運命論信じないから帰るわ」

チンスク「(ピルに)あんた、いい加減にしてトラックに戻りな」
ピル「…。」

+-+-+-+

タルスとチョンエは並んで歩いていた。

チョンエ「スジンがプロポーズされてるのを見てたら、やっぱりすごく羨ましかったわ。私はいつごろそんなプロポーズをしてもらえるかな~」

「あぁ、今日はいい天気だ!」タルスは空を見上げ、パンと手を叩く。

チョンエ「タルスさん、真面目に話してよ」
タルス「俺はいつだって真面目だよ」
チョンエ「ふざけないで」
タルス「…。」
チョンエ「どうするつもりなの?私と結婚するつもりはあるよね?」
タルス「チョンエ、俺たち上手くいってるじゃないか。結婚だけが正解じゃない。まだ若いんだし、気楽に自由に暮らしたほうがいいだろ」
チョンエ「タルスさんはどうして結婚にそう否定的なの?結婚したって幸せな人は幸せよ」
タルス「…。」

「私と結婚したくないんでしょ」チョンエはとうとう歩くのをやめた。

タルス「いや、そうじゃなくて…」
チョンエ「私、タルスさんの考えがさっぱりわからないわ。タルスさんにとって私はどういう存在なの?ただご飯作って洗濯してくれる女?」
タルス「何でそんなこと言うんだよ?」
チョンエ「そんな気にさせるからよ!実際、私に好きだっ言ってくれたことある?」
タルス「…。」
チョンエ「たったの一度だって言ってくれたことないわ。私、もう疲れた、ホントに」
タルス「…。」

一人ツカツカと歩いて行くチョンエの背中を見つめ、タルスは溜息をついた。

+-+-+-+

チンスクは一人でジューストラックに戻っていた。
作業をしながら思い巡らせているのは、スジンのカメラに収まっていた、あの動画を観てしまったときのことだ。

嫉妬に震えて動画を削除しようとして、迷った末に彼女はボタンを押せなかったのだ。”ムリだわ…”
そのままベンチにカメラを残し、その場を去ったのだった。

チンスク「あのとき私、間違いなくピルの動画を削除しなかった。ジェヒョンさんからカメラを受け取ったなら絶対観たはずなのに、どうしてスジンは観てないのかな」

そこへソクテがやって来てトラックを覗いた。「チンスク、何を考え込んでるんだ?」

チンスク「(苦笑)勉強しに行くの?」
ソクテ「うん♪通りすがりに寄ったんだ。何で一人なんだよ?ピル、またサボって逃げたんだろ!」
チンスク「ううん、用事があるって言うから早く帰らせたの」

「そうか?」ソクテが口をへの字に結び、次の瞬間パッと笑顔になる。「それじゃ、俺が手伝おうか?」

チンスク「いいよ。どうせお客さんも来ない時間だし。あんたは勉強頑張って来な」
ソクテ「チッ」

チンスクがミキサーのスイッチを押すと、ブルンと一瞬空回りをして止まった。「あれ?」
「俺が見るよ」張り切ってソクテが中へ入ってくる。

チンスク「あんた、見たからってわかるの?」

「わかるよ」ソクテがミキサーを覗き込む。

ソクテ「これ、電源がイカれてる。中が壊れてるみたいだから、工具がないと直せないな」
チンスク「これ、使えなきゃ困るのに」
ソクテ「それなら、急いで直して持って来てやろうか。俺、こういうの得意だろ」
チンスク「いいのよ、修理に出すから」
ソクテ「俺がいるのに、無駄に金使うことないだろ。急いで直して持ってくるから、いいな?」

「いいから、俺を信じろよ」渋るチンスクを押しのけ、ソクテはミキサーを抱えた。「ちょっと待ってろよ」

+-+-+-+

静かになったスタジオで、スジンは後片付けをしていた。
そこに現れたのはピルだ。

スジン「今度は何の用?」
ピル「訊きたいことがあるんだ」
スジン「言い掛かりなら帰って」
ピル「軍隊に行く前の日にお前が失くしたカメラ、あの薬剤師が見つけたんだって?」
スジン「それが何?」
ピル「カメラが見つかったなら、そこに俺が残した動画… 見たはずだろ?」
スジン「私、そんな動画見たこともないわ」
ピル「どういうことだよ?メモリーが消えたのか?」
スジン「それなら写真も全部消えてるはず。でも、写真はそのままだった」

スジンがゴミ袋を掴んで外へ出たのを、ピルは追いかける。「なぁ!」

ピル「写真はそのままなのに動画だけないって、そんなのあるかよ?」
スジン「そうよね。あのときあんたが動画を残したって言ってたから探したけど、なかったわ。どうだかね、最初からなかったのかも」

冷たく背を向けたスジンを、ピルが引き止める。「何だよ、その言い方!」

ピル「告白動画も残さないで、俺が嘘ついたって言うのか?」
スジン「そんなこと言ってないわ。ピル、私疲れてるの。帰ってくれる?」
ピル「薬剤師がわざと削除したって思わなかったのか?」
スジン「ちょっと…。あんた何言ってるの?ジェヒョンさんはそんな人じゃないわ。あの人のことよく知りもせずに適当なこと言わないで」
ピル「お前に一目惚れしたんだって?それならカメラを拾ったときに消した可能性だってあるじゃないか」

スジンは呆れて笑った。「今度はとうとう人を陥れるつもり?」

スジン「ハッキリ言ってあげようか。ジェヒョンさんが動画を消したっていうより、あんたが最初から動画を残してないっていうほうが信じられるわ」
ピル「知り合って28年になる俺より、あいつのほうが長いみたいだな」
スジン「そうだね。28年になるあんたより、どうしてジェヒョンさんの方が長く感じるんだろ」

「これが私たちの友情の限界なんだわ」スジンの吐き捨てるような言葉が、ピルに刺さる。

ピル「そうだな。こんな年になってバイトしてる俺より、お前を支えられて安定した職を持ってるあいつと付き合いたいだろう。はぁ、女はみんな同じだな。お前は違うと思ってたのに。ガッカリだ、カン・スジン」
スジン「言いたいことはそれだけ?終わったら帰って」

ピルを残し、スジンは足早にエントランスを入った。
苛立ちが募り、ピルは叫び声を上げる、「あぁっ!」

+-+-+-+

逃げるようにスタジオへ戻ってきたスジンもまた、どうしようもなく苛立っていた。
”あのカメラ”を手に取り、もう一度中を確かめる。「まさかね…」

もう何度も何度も確かめたのだ。
彼女は脱力してそれを机に戻した。「あいつ、急にどうしたのよ?!」
クシャクシャと頭をかきむしり、彼女は椅子の背もたれに身を沈める。「私、急にどうしちゃったの…?」
どうしようもなくざわつく胸を押さえ、深く息をついた。

+-+-+-+

やり切れない思いでピルは通りを歩いた。
向こうからジェヒョンがゆっくり歩いてくる。
数歩、すれ違ったところで、ピルは足を止めた。「すみませんが」

ジェヒョン「僕に話でも?」
ピル「スジンと出会ったのは、あなたがカメラを拾ったのがきっかけだそうですね」
ジェヒョン「えぇ、そうですよ。それが何か?」
ピル「カメラを見つけたとき、そこにあった動画、見ませんでしたか?」
ジェヒョン「さぁ。内容を細かくは見ていないから、よく覚えていませんね」
ピル「覚えてない…?あんたが消したんじゃないか」

ジェヒョンが俯いてふっと笑う。

ピル「最初からスジンに近づくつもりで消したんじゃないのか?」
ジェヒョン「どんな動画かわかりませんが、僕はカメラを見つけてそのままスジンに返したんです。もし動画がなかったのなら、別の人が消したんでしょう」
ピル「…。」
ジェヒョン「用件が済んだなら、これで」

歩き出したジェヒョンの胸を、ピルがドンと押し戻す。
「…。」ジェヒョンは歪んだネクタイを黙って直した。

ピル「その穏やかな顔で他の人は騙せても、俺は騙されない。お前は間違いなく俺の動画を消したんだ」
ジェヒョン「…。」
ピル「お前以外に消す人間なんていない」
ジェヒョン「そう信じたいならお好きにどうぞ。僕が何を言おうと、ピルさんは自分の信じたいように信じるでしょうから」
ピル「…。」
ジェヒョン「ピルさんがずっと昔からスジンのすばにいて、スジンのことが好きなのも知っています。それで今僕のことを憎んでいるのも十分理解できます」
ピル「…。」
ジェヒョン「誰かを好きな気持ちにすぐケリをつけることは出来ないだろうけど、スジンのために、思い出は思い出として心にしまってほしいものですね」
ピル「…。」
ジェヒョン「スジンはスタジオをオープンして、何もかも新しくスタートしようとしているんですから」
ピル「スタジオのオープンをちょっと手伝ったからって、俺の前で恩に着せるのか?」
ジェヒョン「あぁ、すみません。あなたを責めるつもりで言ったのではなくて。とにかく、僕はこれからも力の届く限りスジンをサポートするつもりです。ピルさんも古くからの友だちとして、スジンの新しい出発を助けてやっていただければ」
ピル「…。」
ジェヒョン「スジンもそれを望んでいるはずです」

最後までスマートに受け流し、ジェヒョンはピルの前を去っていく。
ピルは愕然とその場に立ち尽くした。「…。」

+-+-+-+

ここで区切ります。

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